"生の魅力"とテクノロジーは昇華しあえるか? 演出家・上田誠に聞く、コメディ演劇と リアルタイムCG技術の融合

2015.03.11 13:24

伝統的で、一見テクノロジーが似合わない分野にこそ、実はイノベーションが隠れているのかもしれない。演劇やコメディも、伝統的であるからこそレトロで懐かしい匂いのするものだ。そんなコメディ演劇に新しいテクノロジーを取り入れた演出家がいる。ヨーロッパ企画の上田誠氏だ。"コメディ演劇"と"テクノロジー"は本当に調和するのか?演出家の"本質を捨てない気遣い"が見えた。



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リアルタイムCG生成システム「DL-EDGE®」を試す、畑下アナ





■ 演劇的に香ばしい舞台



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©SEGA   ©GICHI OHTSUKA/ DXL CREATION
TOKYOHEADポスター。左から 新宿ジャッキー役の菅原永二氏、柏ジェフリー役の吉沢 亮氏、トーコ役の村川絵梨氏、ブンブン丸役の尾上寛之氏、池袋サラ役の石田 明氏(出典:TOKYOHEADオフィシャルウェブサイト)

今回の演劇の舞台となるのは、90年代のゲームセンター。1993年に登場した、世界初の3DCG対戦格闘ゲーム「バーチャファイター」がブームになってから、全国のゲームセンターに誕生した「鉄人」と呼ばれる伝説のプレイヤー達の物語を描いたノンフィクション小説を舞台化したものだ。演出を務めた上田誠氏はこの原作に魅了され、自ら演劇化の交渉に乗り出したという。


上田:原作の小説にすごい魅了されまして。ゲームセンターって、アジールというか、逃れの場所というか、都市の中にある吹き溜まりのようで、演劇的に香ばしい場所だなって思うんですよ。音がすごいうるさい空間で特殊なコミュニケーションを強いられる。学校の空間にいることが出来ない子達が「バーチャファイター」というコミュニケーションツールを通して集まってくるストーリーや、空間の特殊性が面白いなって。だから珍しいんですけど、僕の方からライブエンターテインメント会社のDXL(ディー・バイ・エル)さんの方に「バーチャファイター」やゲーム機器を使った舞台をやらせてくれないか、という風にお願いをして実現しました。


いかにもレトロな作風の劇であるが、上田氏は演出を拡張するために、ある技術を取り入れた。それが、「DL-EDGE®」である。




■ アニメーションに、新たな命を吹き込む「DL-EDGE®」



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「DL-EDGE®」の説明を受ける、畑下アナ

「DL-EDGE®」は、モーションキャプチャーにより、人の動きに合わせて、リアルタイムにフルCGのキャラクターを動かすことができるシステム。


従来のモーションキャプチャーは光学式で、屋外では使用できないなど、場所の制約があったが、「DL-EDGE®」慣性式ジャイロセンサーが搭載され、どこでも持ち運んで使用することが可能になった。通信はBluetoothで行い、1秒間に120回、位置情報を送ることで滑らかな動きを実現したという。

上田:もともとは、ボディスーツを着ている側は表にでない使い方を想定して作られていたんですけど、人の動きと同期してキャラクターが動くのが面白いなと思ったので、着ている側も表に出すことにしました。


開発を手がけたのは、5年前に大手ゲーム会社 セガから独立し、ライブエンターテインメントの会社・DXL CREATION(ディー・バイ・エル・クリエイション)。「DL-EDGE®」を利用して、声優とアニメをリアルタイムで連動した「生アニメ」ならぬ"アニメの生放送"も手がけた。(現在は放送終了)




■ 役者の演技を「拡張」する、テクノロジーと身体の"関係性"



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取材に答える演出家・上田誠氏



- そもそも、どうして「DL-EDGE®」を演劇に取り入れようと思ったのですか?


上田:うまく役者の演技を「拡張」してくれる技術だと思ったからです。演劇はやっぱり、役者さんの生の演技を見て欲しいというのが大きいので、それを邪魔するものだったり、テクノロジーが独立して先走ってしまうのは良くないんです。例えば、音響も一つのテクノロジーだと思うのですが、楽曲だけで成り立っているものを使うと、役者がいなくてもその場が成立してしまう。だから、照明や音響についてはいかに役者さんと相乗効果を生み出せるか、というところが長年研究されてきている。でも、映像やCGに関してはまだまだ未開拓の領域。ただ映像を流してしまうと、役者とどっちを見ればいいのか分からなくなってしまいますからね。


上田:そういう点で「DL-EDGE®」は、役者と良い関係性を結ぶ、ちゃんと"触れる映像"をつくってくれる。テクノロジーは、役者の身体といかに関係性を結ぶかが重要なんです。それが、「布団」みたいに絡められるものが理想ですね。




■ "複数のコミュニティを同時に跨ぐ現代人"を表現


実は、上田氏が「DL-EDGE®」を使うのは初めてではなく、2年前に「前田建設ファンタジー営業部」という作品でも活用した。しかし、今回はまた違った使い方をするという。


上田:テクノロジーの進歩に合わせて、人間が進化することがあると思っています。例えば今で言うと、リアルとバーチャルなど、色んなレイヤーで個人が同時に存在することが可能になっている。テクノロジーは、今までに見たことのない人間のポテンシャルを引き出してくれるところが面白いですよね。


上田:だから今回はそれを表現しました。前回は、今いる肉体が画面の中に同じように出ることを表現しただけでした。ただ今回は、リアルな空間にいる役者が、実際の身体を通して、バーチャルの中のキャラクターと戦います。




■ "驚き"と"笑い"のせめぎ合い。コメディとテクノロジーの関係性とは


- 演劇やコメディに、テクノロジーは必要なのでしょうか?


上田:より良いコラボレーションが出来れば必要です。しかし全体として、演劇側はかなり抵抗を示しているように思います。


上田:テクノロジーは伝えたいものを拡張してくれる代わりに、その"体験のプロセス"を変えてしまうんです。例えば、音楽は生音からアンプを通した音になり、またCDになって、さらにイヤホンを通して僕たちの耳に届く。ライブでも、生の音は届かず、実際にはマイクで拡張されたものが聞こえる。とはいえ、テクノロジーが熱狂を増幅させることは間違いない。だから、より良い共存の仕方を丁寧に見ていかないと、演劇の生の魅力がすぐになくなってしまう。


上田:また、"コメディ"と"テクノロジー"の調和は、特に最新のテクノロジーを扱うものは難しい。"驚き"にはなっても、"笑い"にはならないですから。"笑える"ようにするためには、そのモノを対象化して、しっかり使いこなせるようにならなければいけない。「バーチャファイター」も登場当時は"驚き"しかなかったけど、今ではある程度"対象化"することで、面白がることができる。だから「DL-EDGE®」についても、「これ、すごいでしょ?」というアプローチではなく、しっかり使いこなしてコミカルにできるよう意識しました。



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舞台稽古中の写真。周りで休憩中の役者さんも爆笑をしながら見ていたのがとても印象的だった



■ テクノロジーが血肉と化すまで



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演出家・上田誠氏

- 上田さんにとってテクノロジーとはなんですか?


上田:パワードスーツのような存在ですね。身に纏うと人間の力が何倍にも拡張されるし便利だけど、時には使いこなせなくてパワードスーツに引っ張られてしまったり、使い方を間違えれば大変なことになる。


上田:最近ではロボットを演劇に登場させたりと、演劇のことをちゃんと考えている劇団ほど、「これだ!」と思ったテクノロジーをしっかり血肉にして上手く活かそうとする"貪欲さ"がある。だから、僕も今後テクノロジーとの上手い付き合い方をもっと模索していきたいです。




この変革の歩幅の大きい時代にこそ、真新しい世界にワクワクするだけでなく、友人と馬鹿話をしたり、家族でほほえんだり、自然な"笑い"も人には欠かせない。それを加味した上で上田氏は、テクノロジーと演劇を上手く料理する。

テクノロジーはコメディ演劇といかに融合し、どのような新しいエンターテインメントを創造してくれるのか。我々の想像を凌駕するものが現れるのだろうか。公演当日に期待が高まる。


TOKYOHEAD~トウキョウヘッド~について





(SENSORS編集部 取材・文:小林智久)


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