小室哲哉がつぶやく「音楽とテクノロジー」の新時代(前編)

2015.02.28 07:52

レコード、CD、音楽配信、更にはハイレゾ音源へ。
テクノロジーが日常に浸潤し、音楽の受け取り方も、発信の仕方も劇的に変化を遂げている日本の音楽シーン。
音楽とテクノロジーの融合で新たなエンターテインメントを創り続ける小室哲哉氏に、その未来を語ってもらった。


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■レコード、CD、音楽配信、更にはハイレゾ音源。変貌を遂げる音楽コンテンツ


コウガミ:音楽の聴き方、楽しみ方は、アナログからCD、iTunesやダウンロード、そして今ハイレゾや音楽ストリーミングなど常に進化しています。小室さんから見て、今後どのように変化すると予測されているのでしょうか?


小室:アップルを含めて全ての人が配信で「全ての音楽」を聴くようになると思ったはず。思ったはずだったけれど、CDのビジネスは「雇用」を生む。物流の運転手だったり、CDのジャケットを入れる人だったり、倉庫屋さんが必要だったり。音楽なんだけれど、たくさん働く人を作るハードウェアだった気がするんです。その上アナログよりは便利だし、家電としても使い勝手が良い。だからCDが音楽の王様だったということは、なんとなく理解ができるんです。


それが配信やダウンロードになると、今までの物流が無くなってきてしまい、みんな困ってしまった。。その代わりに音楽ファイルがスマホのようなデバイスに「飛んでくる」、そのため所有する感覚もスマホでは実感しにくくなってきた。だから以前よりライブや音楽フェスティバルに足を運ぶようになってきたと思う。その方が音をより「体感」できるから。


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それを追いかけるように音楽ストリーミングが現れた。それは例えて言うなら、スマホに欲しい曲を書いているようなもの。書いた音がクラウドからデバイスに降ってくる。でも実際にはデバイスの中には音楽は入っていない感がするんです。だから音楽の存在感がより薄くなっていくんじゃないかなと思ってる。


その中で出てきたのが、「ハイレゾ」ですよね。僕はもともとiPodの発想はソニーのウォークマンから来たと思っているが、これが存在しなかったら、iPodも存在しなかったと思うんだよね。


去年このハイレゾ・ウォークマンの音を聴いて「いいなあ」と思ったけれど、実はもう少し小さいウォークマンがあって、それにはSDカードで音楽ファイルが入れられる。MDのサイズをSDカードはさらに下回るわけじゃない。僕はこのSDカードのサイズ、悪くないなと思ってる。MDをさらに小さくしたという発想だし、しかも配信にも対応できるし。そこで僕がソニーさんに提案したのは、「SDカードを可愛く作りませんか?」というアイデア。女性でもバッグなどに合わせて持ち運べるように可愛らしく作る。そうすれば、ネット接続するよりも「存在感」があるかなと思う。
これだとコンビニにザーッと並んで売っているCDショップみたいになるしね。「音楽を聴く」には、コンビニのような場所も活用して、手軽に入手できて存在感があるやり方もOKだと思ってる。
音楽を受け取る側には、とうとうSDカードのサイズまで音楽再生デバイスが進化したという流れが起き始めている。


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しかもこのやり方で音質は向上しているってことが大事。MDは「圧縮技術」を売りにしていたけれど、音質は悪くなっていった。MP3ももっと悪くなっていった。
「コンビニエント」で「クオリティ」が高い。これが今後の傾向なんじゃないかなと予想しています。


コウガミ:お話に出たハイレゾのウォークマンなど増えましたが、結構高額ですよね。


小室:安くならないね(笑)。


■進化する4K、LED、AR。音と映像のシンクロを紡ぐ人の力


小室:最近はMTV時代とは全く違った意味で、音と映像があたりまえの時代になってきている。自分の中で、生の音と映像をシンクロさせることがすごく楽しくてね。2014年はTM Networkが活動30周年だったので、世界中各地を4Kビデオカメラを持って周って撮影してきたんですよ。最初はHDカメラだったけれど、結局最後は4Kカメラになって、三脚持っていろいろな場所で撮影してきましたよ。


コウガミ:ライブの映像も小室さんご自身が撮影されて?


小室:そうだね。そこそこのプロの方も「良い絵、撮ってきたね」と言われたり(笑)。だけど、映像だけじゃダメで、そこに音が同期しないと意味が無い。


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今の若い子達は、小さな頃からゲームなどで「音のクリック」の感覚を肌感覚で理解しているでしょ。音がずれてると気持ちが悪いと感じている。だけど、今回自分で映像も音もシンクロさせてみて思ったのは、何フレームか単位を動かすだけで、ウルッと感じたり鳥肌が立ったりするんだなということを改めて思いました。
「あとちょっと早く映像が、音が出てきたら」それだけで全ての感じ方が変わる、視覚と聴覚のコラボレーションだよね。映画やアニメのように最初から完成しているものではなくて、その場でのセッションみたないなことに、今凄く興味があります。


コウガミ:プロジェクション・マッピングはどう思いますか?


小室:マッピングはね、僕はちょっとスキップしてきたんですよね。というのも、投影されたものがピッタリ同期するのは良いけど、光量がそんなにもたない。建物に投影して1回目はいいけれど、2回目3回目になると、建物や周りが分かってきてしまう(笑)。
Deadmau5がロンドンで一度やったよね。ノキアのプロモーションとして。あれは衝撃的だった。ただあのレベルから今後どう広がるかに関しては、僕はちょっとスキップしているところですね。


それよりも、僕らもライブで活用しているけれど、日本人がノーベル賞を受賞したぐらい、LED技術ははるかに凄いと思うよね。どんどんドットの幅が狭まってきていて、先日さいたまスーパーアリーナのTM Networkのライブで使ったLEDディスプレイはなんと9mmでした。そこまで繊細になると、ステージに立っている人とLEDに映っている人が、どっちがリアルか判別できない演出も実現できる。その上、リアル人物が映像の中に入る演出も出来るようになる。そういう意味ではやっぱりLED技術は凄いなと思っています。

あと頑張っているのはAugmented Reality(拡張現実、AR)技術。音と映像のシンクロに加味して、もう少しARが進化してくれば、例えば風圧のような肌で感じられる感覚を作れるようになるかもしれない。
ただ、この3つがシステマチックにシンクロするのに必要なのは人のチカラ。上手くタイミングを揃えていく演出が出来れば、その場所に足を運ぶだけの価値があると思っています。最後はやっぱり、生身の人間がテクノロジーを駆使してやるのがいいんじゃないかなと感じます。


コウガミ:今後、ARがミュージシャンのパフォーマンスにどのように関わってくると予想されますか?


小室:例えばだけど、昔はボーカリストに扇風機を正面から当てて風を起こしてたじゃない。ああいった演出がARで違う見せ方に出来たりするかもしれないし、嵐の中をバンドが演奏している演出だって、それから音が出た時にその「圧力」を感じられるような演出が出来ると思う。そうすれば、ライブハウスでも凄く大きなホールの感覚を演出できたり、その逆もできたり、拡張と縮小の両方が出来ると思う。そのためにもARには早く進化してほしいなあと思っています。


知人に漫画家の浦沢直樹君がいるんだけれど、彼が「デバイスでも漫画をめくれるようにしてくれ」といつも言っているのね。漫画はめくってページを開いた瞬間に「ドカーン」って絵が出るじゃない。それをスマホでは指でフリックしたりスクロールするだけだと、そのキタ―ッという感覚が感じられないって言ってる。でも、もしかしたらARでめくる感覚は作れるかもしれない。本の世界でも、スリリングな内容のシーンにはそこに適した音が出てシンクロしたりね。今の時点だと、ARの進化はすこし高尚なのかな。


そういう意味で考えると、今回TM Networkのライブでは、LEDの可能性って感じてもらえたと思ってる。「LEDの形自体を変化」させながら、その中の映像も変化させ続けると、屋外なのか屋内なのか、もう分からないくらいの演出を実現できる。さすが日本人がノーベル賞を取っただけあると(笑)。LED技術が、今は一歩リードしているのかなあと僕は思いますね。


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前編では、変貌を遂げた音楽コンテンツの遍歴や現在注目するテクノロジーを語ってもらった。
後編ではどんな未来を聞かしてもらえるのだろう。


小室哲哉がつぶやく「東京オリンピック」以降の世界(後編)


ジェイ・コウガミ

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