1000年後に想いを込める一夜・六本木アートナイト

2015.05.13 10:00

街がアートの舞台となる一夜限りの祭典『六本木アートナイト』。2009年の初回開催から、今回で6回目を迎えた。アーティスティックディレクターの日比野克彦氏に加え、今年はライゾマティクスの齋藤精一氏がメディアアートディレクターとして参画した同イベントは、いかにアップデートされどのような未来を描くのか。そこには、1000年先への想いが込められていた。

コアタイムキックオフセレモニーでレッドカーペットを歩いたアーティスト達

■ ハルはアケボノ、ひかルつながルさんかすル

先日25日~26日にかけて開催された、『六本木アートナイト2015』。今年のテーマは『ハルはアケボノ、ひかルつながルさんかすル』。美術館などの建物だけでなく、六本木の街全体がアートの舞台・展示場となり、100以上のアート作品が街を埋め尽くした。

ロボットが自動で描く『SENSELESS DRAWING BOT』

ダンストラックプロジェクト

山田太郎プロジェクト

チームラボによる『願いのクリスタル花火』。スマホから噴水にメッセージ花火を投影できる。

24台のiPod Touchを使った装置で画像を撮影し、その場で動画に編集する『Photo Circut』。撮影後にYouTubeで見ることもできる。

アートナイト当日は、様々な案内ツアーが行われていた

作品は鑑賞アートのみならず観客参加型も見受けられ、アートと遊ぶことにより、その距離を一気に縮めるのがアートナイトの一つの魅力と言える。そして最近は、その代表的なものの一つとして、センサー技術などのテクノロジーを用いた"メディアアート作品"のイメージが強くなってきている。その流れを受け、今年から新たに"メディアアートディレクター"という役職が設けられ就任したのが、ライゾマティクスの齋藤精一氏であった。変化の年となった今年の開催背景、また今後の展望について、日比野氏と齋藤氏に話を伺った。

■ 1000年後を見据えて

アーティスティックディレクター 日比野克彦氏

-- そもそも六本木アートナイトはどういった経緯で始まったのでしょうか?

日比野:
アートナイトの発祥はフランス・パリ。日が長くなる季節の夜、街に出てアート作品と触れ合おうと始まったプログラムが『Nuit Blanche(ヌイ・ブランシュ)』。日本でも美術館など建物の中に作品を展示するだけじゃなく、屋外の場の持っている魅力を生かしたアート作品が注目され始め、観客は街を楽しみながら、アートと出会うスタイルの芸術祭が各地で展開されるようになってきた。そのため、東京にも夜の街に人作品を展示する、地域を生かした芸術祭を作ろう、ということになった。

-- でも、その中でなぜ六本木に?

日比野:
もちろん夜のカルチャーシーンがあったというのもあるけど、ひとつ大きなきっかけになったのが、森美術館や国立新美術館、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHTなど、この10年のあいだに六本木にそれまでなかった美術館ができたこと。今の若者たちにとっては、『六本木 = 美術館の街』というイメージに変わってきていると思うけど、20年前は美術という概念はなかった。ただ六本木は夜が賑やかだっていうのは昔からある。そこで、昔からある"夜の文化"と、新しくできた"アートの文化"がくっついて出来たのが六本木アートナイトなんです。

-- 今年のテーマである、『ハルはアケボノ、ひかルつながルさんかすル』というのにはどのような思いがこめられているのですか?

日比野:
『ハルはアケボノ』というのは、1000年前に清少納言によって書かれた「人と自然との対話」の随筆「枕草子」の一節。『ひかルつながルさんかすル』は、メディアアートを意識したフレーズ。日進月歩変わっていくテクノロジーと、1000年前から変わらない人間の感性というこの両方を入れることで、変わっていくものと変えちゃいけないものをしっかり理解していこう。そしてまた1000年後の世に火を灯していくという想いを込めてます。

■ 日本国民全員が参加できるように

メディアアートディレクター・ライゾマティクス 齋藤精一氏

-- メディアアートディレクターという役職は今年から置かれたということですが、どういった意図、また役割があったのでしょうか?

斎藤:
テクノロジーやメディアアートは、より人が繋がれたり、アートを身近に感じることができる可能性を秘めているというのが大きな理由だと思います。もちろん今までも存在していたのですが、2020年に向けてより多くメディアアートや、参加性の強い作品を取り入れて、少しでも参加することへの敷居を下げたいというのがありました。

-- 2020年というと?

斎藤:
東京オリンピック・パラリンピック、またその後のことも含めてですね。2020年のオリンピックは、東京という街でできるだけコンパクトにやろうというコンセプトがありますが、日本国民全員が参加できる祭典としてもあるべきだと思っています。でも、良くも悪くも日本人って参加するのがあんまり得意じゃないんです。だから、今のうちから参加したり繋がったりすることを体験してもらって、少しでも参加することの敷居が下がればいいなと。そして、もっとアートを介して街を遊んだり、自分の街を知ったりというキッカケが作れればいいなと思っています。

アートトラックプロジェクト『アケボノ号』

アートトラックプロジェクト『アケボノ号』を用いたライブ

齋藤氏はディレクターとしてだけでなく、自身も作品をアートナイトに参加させている。そのうちの一つが、アートトラックプロジェクト『ハル号』と『アケボノ号』である。
『アケボノ号』は実際に街中を走る。直径2メートルのミラーボールの中は風船で出来ており、どこでも持ち運べて膨らませることができる。また、ミラーは1つに9000個、合計27000個ついており、全て手作業で付けたという執念の作品だ。LEDの光は、ライブを行うアーティストや、来場者によって演出の操作ができる。

斎藤:
アートナイトは、六本木ヒルズ、国立新美術館、東京ミッドタウンの3拠点があって、その3拠点を結ぶ方法は何かないかと考えていました。そこで、日比野さんや南條さん含めてブレストして、トラックみたいな移動できるものを作品化しようということになりました。加えて、今後2020年のオリンピックに向けてどんどん工事現場も増えていくと思うのですが、そうなった時に増えるトラックが走る光景自体も、人に気づきを与えたりだとか楽しくさせるものになっていけばいいなという想いも込めてます。

アートトラックプロジェクト『ハル号』

『ハル号』の提灯

特設サイトから見れる『ROPPONGI DATA OF MIND』

もう一台は提灯によって装飾されている「ハル号」。特設サイト上から参加できる『ROPPONGI DATA OF MIND』によって、常に東京・六本木に関するデータを収集し、搭載した提灯に収集したデータをビジュアライズするとともに、展示内容に対する感情も表現する。また来場者も、特設サイトからメッセージを提灯に投稿することもできる。仕組みはWebSocketを用いてサーバーを通し、トラック近くのPCを通り指令を出しており、以前増上寺で行った『きゃりーぱみゅぱみゅ』のイベントも同じ方式だという。

斎藤:
六本木に口があったら何を喋るのか、心はいまどんな思いなのか、ずっと関心があったのでそれをリサーチしてみたかった。また、オープンデータとかクラウドとかいろんな話があるけど、まだデータを集めるための器しか出来ていないような気がしていて、器に集まったデータをどう繋ぎ合わせてアウトプットしていくのかは考えられていないと思う。だから今回集めたデータをちゃんとマイニングしてあげて、最終的に色や言葉にしてあげるアルゴリズムを組み、アーティストや学者さんもそういったことを考えていける、一つの入り口になればいいなと思ったんです。

奥には壮大なコンセプトを置きながらも、あくまで老若男女わかりやすく簡単に楽しめることを意識したと語る、斎藤氏。メディアアートが、アートと人の距離を縮めているのは間違いないのだろう。だからこそ、メディアアートの『街』単位でのパッケージ化は、老若男女の文化にうまく溶け込み、『花火大会』に次ぐ日本の風物詩になり得る可能性を秘めているのではないだろうか。
ただ今回、スマホなどのデジタルデバイスを介した参加型の作品がいくつか見受けられたが、何も知らない傍観者側からは何をしているか少し分かりづらいようにも思えた。そのため、日本人の"参加性"をあげるためには、"傍観者をワクワクさせる"ことが必要であると強く感じた。今後のアートナイト、また、新たな文化の幕開けに、期待が膨らむ。

取材・文:小林智久

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