電脳世界から生まれた18歳女性アーティスト「DAOKO」【後編】- 見えない顔を見た人たち

2015.04.22 12:00

高校生ながらネット動画でその才能を見出され、m-floとのコラボや、2014年公開映画「渇き。」への楽曲提供、また庵野秀明監督が率いる短編映像シリーズ「日本アニメ(ーター)見本市」の第3弾作品「ME!ME!ME!」の音楽をTeddyLoid と担当するなど、今や世界各国から注目を集め、先日メジャーデビューも果たしたDAOKO氏。彼女が辿った軌跡、またその素顔とは? インディーズアルバムのプロデュースに携わったLOW HIGH WHO? PRODUCTIONの鈴木 充氏や、先月発売したメジャーデビューアルバムのプロデュースに携わった片寄 明人氏にインタビューをしてきた。

レコーディング中のDAOKO氏

■ 一瞬でファンになった

LOW HIGH WHO? PRODUCTION・鈴木氏

DAOKO氏は、この度のメジャーデビュー前に4つのアルバムをインディーズとして世に出している。まだ名もない時代に才能を見出し、これらアルバムのプロデュース・リリースを手がけたのが、LHW(LOW HIGH WHO? PRODUCTION)の主宰者でもあり、自身もヒップホップ歌手「Paranel」として活動する鈴木 充氏だ。デビュー前のDAOKO氏とは?

-- 鈴木さんがDAOKOさんと出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木:
「ニコラップ」といって、ニコニコ動画にラップを投稿して反応を見る文化があって、そこに投稿していたDAOKOちゃんの曲をJinmenusagi(LHW所属ラッパー)が聞いて、「面白い子がいるから、一緒に曲つくらないか。」って僕に紹介してくれたのがきっかけです。

-- 最初に聞いた印象はどうでしたか?

鈴木:
電車の中で音楽を聴いたりするプレイリストに入れたいくらいカッコよくて、女性ってピッチ(音程)を気にしたり、歌唱力が目立つものなんですが、彼女の場合はミックスや声の厚みが完ぺきで、この子LHWに入らないかなって思いました。年齢は後から聞かされたんですが、もうそれ抜きで、一回聴いただけでファンになりました。

-- 年齢を聞いてどうでした?

鈴木:
もうショックですよね。自分が15歳の時とか何もできてなかったので。あと、歳が離れすぎていて、初めて会った時は何喋ったらいいかわかりませんでした(笑)「じゅっ、ジュース飲む??」みたいな(笑)。ずっと慣れなくて、嫌われるんじゃないかって、怖かったです(笑)。でも、初めてのアルバムを作ってからは、一気に距離が近くなって、彼女の考えてることや思ってることが徐々にわかるようになりました。

■ 自然体から生まれた、新しいラップ

-- それで、知り合ってすぐにアルバムを作り始めたんですか?

鈴木:
いや、始めは「プロデュースしてやろう!」という感じではなかったんです。とにかくファンで、とりあえず一緒にいたい、いろんなものを作っていきたいと思っていて。でも、そうして過ごしていくうちにアルバムをちゃんと作ってみたいというのが僕の中で出てきて。でもその時彼女は15歳だったので、音楽の道だけにはさせたくなかった。だから、「学校の思い出作りにアルバムを作らないか?」とラフな感じで声をかけました。

-- DAOKOさんは、ウイスパーボイスと歌詞が特徴的ですよね。あのスタイルは始めからそうだったんですか?

鈴木:
いや、まだ初めてのアルバムを出した時は作家としてのスタイルみたいなものが見えてなくて。もっと昔はラップラップしてたかもしれないし、ポエトリーな部分も、僕のレーベル自体がボエトリー系の人が多いので、もしかしたら彼女がそれを見て合わせてくれたのかもしれないです。

-- 曲の作り方や歌詞の書き方を見ていて、何か特徴はありましたか?

鈴木:
普通は誰か特定の人に影響を受けて作り始める人が多いんですけど、彼女は結構ゼロに近い状態なんです。「こういう曲いいよ」って聞かせても、本当に影響を受けないんですよ。自分の好きなものもはっきりしてるし、それがすごく狭くて、絵も見ないんですよね。こういう展覧会あるから行こうよって言っても、「疲れるから行かない」とか(笑)それよりは、みんなと一緒に過ごしたり、旅行に行ったり、そういうところで見た景色とか思い出が作品の中にとても反映されていて。彼女にとって日常生活ってすごく大事なんですよね。

-- じゃあ、DAOKOさんは勉強して新しいラップになったというよりは、自然体で歌っている?

鈴木:
そうですね、勉強はしてないと思います。ラップをやっていくと、アメリカの文化に触れなきゃいけないだとか、韻を踏まなきゃいけないだとか、縛りがあるじゃないですか。でも日本語って、語感も違うし、アメリカの真似をするのはもともと難しいんですよね。だから、日本の語感を大切にするなら、少しリズムのあるポエトリーリーディングの方が綺麗で、音楽的になる。それはマイナーな世界だったんですけど、DAOKOを皮切りに変わってきているというか、認められてきていると思いますね。

■ 「初音ミク」と「生身」の中間のミステリアス

LOW HIGH WHO? PRODUCTION・鈴木氏

-- 彼女がネットで受け入れられた理由はなんだったのでしょうか?

鈴木:
彼女って、「初音ミク」と「生身」の存在の中間くらいなんですよ。「この子本当に存在しているのかな? でも存在しているよね。」のような。いろんな理由で顔出しがNGで、ミステリアスな存在になっていって。それが、すごく新しかったんじゃないかなって思います。

-- 今後彼女に期待してることはありますか?

鈴木:
自分が手がけた子なので、日常生活の中でメディアで出会えることを楽しみにしています。先日もコンビニの雑誌を立ち読みしたらインタビューが載っていて「ああ、もう世に出てるのか。」って思って、嬉しかったです。今後が楽しみです。

■ メンヘラ?「憂ある声」が見せる悲しさの魅力

GREAT 3・片寄氏


ネット上で着々と話題を集め、メジャーデビューまで登りつめたDAOKO氏。鈴木氏が語るDAOKO氏は15歳のあどけなさの残る少女だが、メジャーデビューとなった今、他の人からはどう見えているのか。「フジファブリック」や「GO!GO!7188」などのアーティストのプロデュースも手掛け、DAOKOのメジャー1stアルバム「DAOKO」のサウンドプロデュースも担当するGREAT3の片寄 明人氏がその魅力を語ってくれた。

-- プロデュースのきっかけは何だったのでしょうか?

片寄:
17歳の女子高生のラッパーがいるからと。実はその時点ですでに2枚のアルバムを出していたんですけども、不勉強ながらその時初めて聞きました。

-- 最初に聞いた時の印象はどうでしたか?

片寄:
声の魅力が一番印象深かったです。少し前だと相対性理論の「やくしまるえつこ」さんが系統の近い声を持っていたんですけど、それとはまた違う、とても「憂のある声」。ぜひこの声をきちんと録ってみたいという気持ちが強くなりましたね。

-- やっぱり粗削りな感じはしたのでしょうか?

片寄:
そうですね。そこがまた魅力的ではあったのですが、良くも悪くも不安定なボーカルトラックで、実際にインディーズのものを聞いた時に彼女がどこまで歌えるのかが未知数な感じでした。それで、実際に本人に聞いてみたら、ちゃんとしたスタジオで録ったわけではなく自分の部屋で自分で録っていたというのを聞いて、「ああ、なるほどな。」って思いましたね。

-- 実際に制作する時は、また印象が変わったりしましたか?

片寄:
変わりました。歌入れをして、その中で一番いい曲を選んでいく作業ってとても神経を使うハードな仕事なんですが、彼女の声はずっと聴いていられるんですよね。こんなことは初めてでした。朝までやっても苦じゃないくらい。次の日にはヘトヘトになってるから、たぶん体は疲れてたと思うんだけど、精神的には喜びになるくらいの声でした。
片寄:
また、レコーディングを重ねて行く上で開花していったのが、「いくつもの声」を持ち合わせているということ。今回のアルバムでいうと「流星都市」。いくつか違う風に歌ったものを繋いだみたいに、声色が万華鏡のように一つのAメロの中で変わっていったりするのがあって、こんな声を出せる人がいるんだって思って、鳥肌がたちました。自分にはできない芸当です。。
片寄:
彼女の声は、どんなに明るい曲を歌っても憂があるというか、どこか裏に悲しい感じがあって、それがとても魅力的なんですよね。数多あるウイスパー系の声の中でもそれが備わっている稀有な例だと思います。ウイスパー系やアニメ系の声好きな人がグッとくる声でありながら、僕みたいな、そういうのにあまり興味のない人まで惹きこんでしまうのは、そのせいだと思うんです。

インディーズ時代をともに過ごした鈴木氏も、彼女の声は「メンヘラ系」だと語る。普段生きていく上で「表に出したくても出せない悲しみ」に共鳴してくる感覚に、多くの人々が中毒になっているのだろう。

■ 不思議な二面性の魅力

GREAT 3・片寄氏

片寄:
DAOKOに関しては未だつかめないというか、不思議な子ですよね。もちろんレコーディングでかなりの時間を一緒に過ごしてきてはいるんですけど。歌っている姿を見られたくないってのがあるので、モニターも切って、カーテンも閉めた中でやっている。だから、どうやって歌っているのか僕もわからないんです。また、マイクの前で歌っている彼女と、歌い終わって出てくる17歳の女の子の間につながりが見えない時がある。「本当にこの子が歌っているのかな?」っていうのが制作の中で数限りなくありました。
片寄:
一人の人間の中にはあるはずのない、相反する別々の人間の要素が押し込められているんですよね。ものすごく病んでいるはずの子なんだけど、純粋で素直な要素が同居してたり。ウイスパーでアニメ声で可愛らしいい声の中に、悲しい感じが同居してたり。言葉の中にも、17歳らしいことも言えば、僕が40何年かけてようやく書けるような哲学的な題材を簡単に書いてきたりだとか。
片寄:
でもそれがとても魅力的なんです。そこからでてくる表現はとにかく面白いし、いろんなレイヤーから解釈できる。だから、聞く人によって接する人によって彼女の印象は変わると思う。カメレオンのような。彼女自身に色があるかっていうと、ないような気もするし、見る人によっては、赤に見えたり青に見えたりする。

-- 内に秘めたものが溢れ出しそうな子なんですかね?

片寄:
いや、そういうのでもないんだよね。そういう表現欲求が強い女性シンガーってたくさんいるんだけど、そういう人に感じる「エゴ」みたいなものが希薄な感じがする。いろんな才能ある人たちが彼女の元に集まってきているのは、そういうところに惹かれてきてるのかもしれない。Daokoに対して何かぶつけたくなる魅力なんですよね。

レコーディングに取り掛かる片寄氏

■ 「死」を意識した者にできる、魂の燃焼

-- DAOKOさんは歌詞がとても特徴的だと思うのですが、それについてなにか思うことはありますか?

片寄:
そうですね、今回のアルバムで、滲み出てくる「死を意識して生きる」感覚を彼女から感じましたね。人間は「いつか死ぬ」ってことを意識できるようになると変わると思っていて。いつか死ぬ、だからこそいまこの一瞬を、どれだけ魂を燃やして生きるのか。僕はそれに気がつけた時に自分の作品が変わっていった時期がありました。でもそれが、今回のアルバムで、17歳の女の子がすでに気がついているような気がしてならない言葉があちこちにあって。それは、僕にとっては正直ショッキングなことでした。「天才」ってのがいるのかなって思ったし、自分が今後歌詞を書いていく上で、これより良いものが書けるのかというのを考えさせられました。
片寄:
あと、言葉があがってくるのがとても早いです。ちょうど大晦日に、良いメロディが思いついたから彼女に投げたら、その30分後くらいにバーってリリック(歌詞)が送られてきて。しかも、何も話していないのに僕が言いたいことを見抜いて言葉の中に入れ込んでいて。そういうのを敏感に感じ取る感性がありますね。本当は年末年始ゆっくり休むつもりだったんですが、彼女の勢いに追われて1日からトラックをさらに詰める作業に追われました。

■ フラットに情報を得る若い世代

-- 今の若い世代に感じることって何かありますか?

片寄:
DAOKOにしても、聞いている音楽が時代を飛び越えているというか、古いものから新しいものまで聞いているし、その感覚っていうのはインターネット世代の特徴だと思います。たとえば僕の世代だったら、幅広い音楽を聴こうと思ったら相当な努力が必要で、レコード買ったりとか、色々本を読んだりしなきゃいけなかったけども、いまはYouTubeで色んな世代の、色んな国の音楽に、一瞬で接することができる。だからこそできる感性というのが、印象的だし、羨ましいとも思いますね。

-- DAOKOさんと話してても感じますか?

片寄:
感じますね。休み時間に「何聞いてるの?」ってiPhoneを見せてもらうと、もちろん最近の「星野源」くんとかも入ってたりする中で、「シュガーベイブ」という山下達郎さんがやっていたバンドとか、「フリッパーズギター」であったりとか、「みなみよしたか」とか。それこそ僕ですら追って聞いていたような70年代の音楽を聞いている。
片寄:
若い人たちは、総じてレッテルとかジャンルに囚われないというのかな。感性的に、良いものは良い、新しいと感じたらたとえ古いものであっても関心を持てる。それは、DAOKOの曲が僕みたいな親でもおかしくない世代でも心にグッときてしまう理由の一つなんだと思います。

-- フラットな中で情報を選ぶということですか?

片寄:
そうですね。僕らの時は「権威者が言ってることは良い」みたいな風潮がありましたが、そういったものが通用しない時代だと思います。だからこそしっかりと良いものに光が当たるような、そんな時代になってきている実感がしました。自分の感性に忠実でいて、かつ面白くユニークなものを作る。DAOKOもその一人。
片寄:
だから、僕ら90年代に青春を過ごしてきた世代なんだけども、そういった10代20代の子達と不思議と話が合うんですよ。居心地がいい感覚がとてもあって。まあ90年代は音楽ってものがものすごく重要で、いろんなファッションだったり思想とかと結びついていて、それを掘り下げていくことが一つのまたカルチャーてというか、そこから仲間が広がっていく文化があった。それと似た様なことがネット上でも行われているのかもしれない。僕の世代だと、上と下で断絶があったりしたんだけど、ここにきて若い世代とは感性の近いものを感じる。一緒に素直に音楽を作れる感覚があります。

■ お金や人脈じゃない、フェアな時代

-- ネットによって、アーティストの注目のされ方など変わってきていると思いますが、それについてどう思われますか?

片寄:
素晴らしいと思います。僕の時代はまず音をつくることも大変でしたし、機材も高かった。また、たくさんの人に見てもらおうと思ったら、レコード会社に認めてもらったりしなければいけなかった。でも、今はPC一台で済んだりするし、ボタン一つで世界に届けることができる。それはとても羨ましいですね。羨ましい反面、情報が多いから、その取捨選択が難しいような気もするけど。
片寄:
だから、フェアになったのかな。本当にセンスが問われる時代になったと思います。お金があったり人脈があるから本当にいいものが作れるという時代ではなくなったと思います。

-- ネットだと、荒削りなものと上質なものがフラットに混在していると思うのですが、どう思われますか?

片寄:
音楽に正解はないから、どっちが良い悪いでもないし、僕はどっちもあればいいと思います。どっちかが支配してしまったら本当につまらないなって思いますね。DAOKOに関しても、家で録ってた不安定な声の方が良いって人ももちろんたくさんいると思うし、でも、それでは表現できない次元のものもあるんです。そういった、不完全なモノもネットにあると同時に、上質なモノを届ける力がある人は届けていかなきゃいけないって強く思っています。だから、今回のDAOKOのアルバムも上質なものに仕上げている。50年代60年代の音楽を聴いていた人たちにとってもこの音楽はきっと納得してくれるだろうと思っています。

■ 新しくもあり、普遍的でもある存在に

DAOKO メジャーデビューライブ

-- これからDAOKOさんは、どういう存在になっていくと思いますか?

片寄:
ラッパーという彼女のいまの一つの肩書きもすでに超えてしまっているし、とにかく新しいタイプのミュージシャンだと思うから、どういった存在になるかは僕自身も楽しみ。相反する要素って意味では、とても新しい存在でありながら、音楽の歴史をちゃんと体現してくれる存在になるんじゃないかな。流行り物で終わらないような普遍的な存在になってくれると思います。

様々な年代の人間の心を揺さぶるDAOKO氏の音楽。メジャーデビューライブでも、10代の子はむしろ少なく、20~30代の観客が多かったのはとても印象的だった。新しい時代の国民的シンガーの予感に、今後も注目したい。

文:小林智久

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