109もTSUTAYAもない、1964年の渋谷へ。ーVRでかつての東京にタイムスリップできる「1964 TOKYO VR」

2018.08.31 20:00

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左から、齋藤精一氏、萩本欽一氏、長谷部誠氏、土屋敏男氏

馴染みのある街で何十年も前に撮影された写真を目にしたとき、見慣れた街の知らない景色に驚くことはないだろうか?

毎日のように通る駅前の広場も、定番の待ち合わせ場所も、数十年前には別の景色が広がっていた。時空を超えてしまったかのような不思議な感覚と共に、こんなことを思う人もいるかもしれない。

「もしもタイムマシンがあったなら、当時の街を歩いてみたい」

そんな願いを叶えようとしているのが「1964 TOKYO VR」だ。

同プロジェクトは、前回の東京オリンピックが開催された「1964年の東京」の姿を、テクノロジーの力で再現するために発足した。

2018年8月21日(火)、彼らの第1弾プロジェクトである「1964 SHIBUYA VR プロジェクト」の進捗報告会が行われた。登壇したのは、同プロジェクトを推進する、一般社団法人1964 TOKYO VRの代表を務める土屋敏男(日本テレビ シニアクリエーター)氏と齋藤精一(ライゾマティクス 代表取締役)氏。さらにスペシャルゲストとして、渋谷区長の長谷部健氏と、1964 TOKYO VR 第1号特別賛助会員の萩本欽一氏も登場した。

本記事では、当日語られたプロジェクトの歩みと今後の展望、そして筆者も実際に体験した「タイムマシン体験会」の様子をリポートする。

目指すのは、"押入れのIoT"。記憶を集めて"あの頃"を再現する

「1964 TOKYO VR」は、個人や企業から集めた当時の写真をもとに、「1964年の東京の街並み」を3Dデータで生成し、それをVR空間で体験できるプロジェクトだ。

第一弾として渋谷の街を選んだ理由を、プロジェクトの発起人である齋藤氏が次のように説明した。

斎藤氏(以下、斎藤):渋谷は若者文化の発祥の地でもあり、いつの時代もエネルギーが集まる場所でした。現在は大規模な再開発も進んでおり、世界的にも注目が集まる観光都市となっています。東京の経済発展を支えてきた渋谷は、まさに「東京の中心」であり、「1964年の東京」を再現する上でのスタート地点にふさわしいと思ったんです。

「1964 TOKYO VR」のテクノロジー面を支えるのが、フォトグラメトリという手法。3次元の物体を複数の観測点から撮影した写真をもとに、その物体の大きさや形を求めることができる測量技術である。さらに専用アプリケーションを使うことで、地形や建築物などを3Dデータに再合成することができる。主に建築業界などで使われてきた技術だが、最近はエンターテインメント分野での活用も進んでいる。

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プロジェクト開始当初、東京電鉄や渋谷区、地元のシニアなどから当時の写真が提供された。これらの写真をフォトグラメトリー手法を通すことで、当時の街並みの3Dデータ化に成功した。このとき斎藤氏と土屋氏は、同プロジェクトの成功を確信したという。そしてさらに精度の高い3Dデータ化を実現するため、航空写真の活用も行った。

斎藤:航空測量事業を推進している株式会社パスコさんから、航空写真をお借りしました。そのときに、ある事実がわかったんです。航空写真は同じ場所を撮影する際に、少しずつ位置をずらして何枚も撮影しているんですよね。実はその"ずれ"によって撮影対象の高さがわかるんです。今回は約4,000枚の航空写真を使って、渋谷駅を中心にした800m×500mエリアの3Dモデルを生成しました。

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PASCO撮影の航空写真をもとに3Dモデルを生成。(白い部分は、外観写真が不足している箇所)

「1964 TOKYO VR」が目指しているのは「みんなでつくるタイムマシーン」。当時その場所で暮らし、働いていた人びとの思い出の写真を集めることで、「記憶の中の街並み」を再現することを目的としている。

航空写真をもとに生成された3Dモデルは、建物の形状は再現されているものの、ただの真っ白な箱である。「1964年の渋谷」をリアルに再現するためには、この箱に建物の外観を投影しなくてはいけない。そのために必要なのが、当時の日常風景だ。今回「1964年の渋谷」を再現するために、渋谷区民の方へ積極的に協力を呼びかけてきたと、土屋氏は語る。

土屋氏(以下、土屋):2017年11月には区民まつり「渋谷フェスティバル」でブースを設置し、写真提供を募りました。今年2月からは、渋谷区の全出張所10ヶ所で持ち込み写真のスキャンも実施しています。私が出演する「渋谷のラジオ」の特番でも何度か呼びかけたところ、高齢者の方を中心に、色々な方が写真を持ってきてくださいました。

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同プロジェクトが掲げるキーワードは「押入れのIoT化」。押入れのなかに眠る古い写真は、何もしなければ忘れ去られ、いつかは捨てられてしまう。しかし、それらをデジタルデータに変換することで、「記憶の街並み」が再現される。その街並みを、VR空間で歩くこともできるのだ。何もしなければ風化してしまう"モノ"をネットワークに接続することで、価値を再定義する。

斎藤:我々の目的は、テクノロジーの力で過去を蘇らせることです。昔の写真を3Dデータで再現し、VR空間で体験可能にする。老若男女が参加できるコンテンツプラットフォームをつくりたいと思っています。

"見たくても見られない景色"が楽しめる、1964年の渋谷で街歩き

3Dデータ化された街並みは、VR空間に反映され、実際に歩いて体感できる。8月18日、19日に渋谷区民向けに行われた「タイムマシン体験会」には、1964年当時の渋谷を知る高齢者の方も多く訪れたという。彼らは懐かしい渋谷の街並みに感激するとともに、「なぜこんなことができるのか!」と驚きの声をあげていたそうだ。

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今回の進捗報告会では、渋谷区長の長谷部氏、同プロジェクトの賛助会員第1号である"欽ちゃん"こと、萩本氏が実際にVRゴーグルをはめて「1964年の渋谷の街」を散策した。

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タイムマシンを体験する萩本氏

コント55号時代、渋谷周辺に住んでいたという萩本氏。はじめは慣れないVR空間を不思議そうに散策していたが、今はなき東急文化会館(現・ヒカリエ)の壁に飾られた映画のポスターや、当時宮益坂下の交差点にあった協和銀行など、懐かしい景色を見つけて興奮した様子を見せた。さらに「見ようと思っても見られないものが見られた」と感嘆の声をあげた。

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タイムマシンを体験する長谷部氏

渋谷区生まれ、渋谷区育ちの長谷部氏も、1964年の渋谷を堪能した。同氏は1964年以降に生まれたため、当時の街並みは知らないものの、「渋谷区民の方にお聞きした話とリンクするところがあって面白い」と感心した。さらに「高齢者の方が楽しんでくださったと聞いて、嬉しく思います。懐かしい街並みから"あの頃"を思い出していただけるこの体験は、シニア活性化にもつながると思います」と同プロジェクトへの期待の声も。

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進捗発表会終了後、会場に集まった記者向けに「タイムマシン」の体験会が行われた。HTCのVRヘッドセット「Vive Pro」を装着し、バックパックPCを背負って実際に歩くことができるものと、「PlayStation VR」を使って座ったまま楽しめるものの2種類。どちらも、1964年の渋谷の街歩きを体験できるものだ。

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VRで再現された1964年当時のスクランブル交差点の様子。TSUTAYAが入居するQFLONTも、109もない。

筆者も当日、この「タイムマシン」に搭乗した。駅の改札からは切符を切る音が聞こえ、ガード下を通れば電車の音が響き、まさに当時の渋谷にタイムスリップしたかのような感覚を得られた。ハチ公像がスクランブル交差点を向いていること、渋谷のシンボルである109やQFRONTがある場所に見知らぬ建物があることに驚きながら、見慣れた「天津甘栗」の看板を見つけて思わず嬉しくなった。今と過去が時空を超えてつながっていることを実感したからだ。さらに、今はなき東急東横線ホームのかまぼこ屋根を眺め、懐かしい気持ちに胸が熱くなった。

未来を志向してきたテクノロジーは、過去を紡ぐ"語り部"に

1964年は今の東京の「出発点」でもある。首都高速道路や東海道新幹線が開通し、東京オリンピック開催を契機に、"世界都市・東京"へと発展した。

今後「1964 TOKYO VR」は、渋谷駅を基点に表参道、神宮前、青山一丁目、国立競技場、丸の内、銀座と再現範囲を広げていく。これは1964年の東京オリンピックで聖火が通ったルートをたどるものだ。同プロジェクトは引き続き、1964年前後10年を含む、20年間の東京を撮影した写真を募集している。

交通インフラの整備や都市開発によって、東京の街は進化を続けてきた。そして現在は、次の東京オリンピックが開催される2020年、さらにその先の未来に向けて、日々変貌を続けている。街並みが変容していくなかで、記憶の中の懐かしい景色はいつしか忘れ去られてしまうだろう。これまであらゆる未来を志向してきたテクノロジーは、過去を蘇らせて伝承していく、"語り部"にもなり得るのかもしれない。

構成:井下田梓

ライター・編集者。アパレル販売、WEBマーケターを経て、現職。関心領域はファッションテック、映画、文化人類学。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512

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