落合陽一に聞く、2016年総括と2017年展望「幽体の向こうへ」

2016.12.22 08:30

SENSORSメンバーおよび今年SENSORSが取材したトップランナーに聞く『2016年総括、2017年展望』。 最終回は筑波大学助教/メディアアーティスト落合陽一氏にインタビュー。

テクノロジー&エンターテインメント業界のトップランナー達が時代をどのようにとらえ、未来に向かうのか?『2016年総括、2017年展望』シリーズ最終回は筑波大学助教/メディアアーティスト落合陽一氏に伺う。 当シリーズでは有識者10名に固定質問+1で答えていただくメールベースの取材を行ったが、落合氏からは「魔術化とデジタルネイチャー」、「幽体の向こうへ」という二部構成で2016総括、2017展望について述べてもらった。

SENSORS『2016年総括、2017年展望』シリーズ
【第一弾】チームラボ猪子寿之「体験型アートの可能性」
【第二弾】NewsPicks佐々木紀彦「日本3.0」「境界線を超えられる人の価値」
【第三弾】ライゾマ真鍋大度「リオ五輪」「人工知能×クリエイティブ」
【第四弾】PARTY中村洋基「スタートアップ×クリエイティブ」
【第五弾】ジェイ・コウガミ「21世紀のデジタル音楽ビジネス」
【第六弾】LINE谷口マサト「バズるコンテンツの方程式」
【第七弾】Mistletoe孫泰蔵「コミュニティ型スタートアップ」「防災テック」
【第八弾】バスキュール朴正義「データ×エンターテインメント」
【第九弾】コルク佐渡島庸平「"言語の壁"を超える熱狂」
【第十弾】落合陽一「幽体の向こうへ」

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落合陽一氏に2016年について、来年の展望を伺った。写真は本人提供。 

■2016年総括:「魔術化とデジタルネイチャー」

落合:
「魔法」という言葉は改めて深い言葉だと思いました。それはキラキラしてピカピカしている夢とメルヘンのファンタジーだけではない意味まで含めての魔法です。 というのも2016年を占う上で、2015年末に上梓した『魔法の世紀』という本は大きく影響しています。「魔法の世紀」という言葉は、マスメディア型の情報伝達系が世界を支配した20世紀を「映像の世紀」と呼び、 その対比として、コンピュータによってあらゆるものが「ブラックボックス化」=「魔術化」した今世紀の姿を、 アメリカの社会批評家モリスバーマンの『デカルトからベイトソンへ−世界の再魔術化』という本になぞらえて「魔法の世紀」と呼んだものです。

今世紀やがて、「人はものの仕組み」に無頓着になっていく。
機械学習に関するニュースがメディアを賑わす1年でしたが、ディープラーニングがなぜ正しい答えを出せるのか、ということを原理の面で証明することは未だ難しく、 IoT機器、例えばスマートフォンやVRゴーグルの回路やプログラムの仕組みを全て理解して使用している人間はこの地球上にほとんどいないのではないでしょうか。

魔術化は、人が動かす社会システムにも大きな影響をもたらします。 例えば近年のSNSに関するBuzzFeedの調査結果によれば大統領選の最中、真実よりもデマの方を好んでシェアする傾向にあるということが報告されるなど、 SNS上のコミュニティの中で一人一人が自分が好んだ世界を好んだように生きているともいえる事実が存在します。このような感覚を『魔法の世紀』では、"貧者のVR"と呼びました。 一人一人はそれが現実だと思って生きてはいるものの、タイムラインやコミュニティが見せる現実は、「事実とはやや異なった、そしてやや偏った現実」なんです。

■貧者のVR、魔法の世紀

落合:
貧者のVRとも言える、「一人一人が自分の好む現実でコミュニティを生きていく姿勢」は大きい影響を社会にもたらします。 2016年は、Brexitやトランプ旋風など識者が容易に予想できない現象が垣間見られ、 オックスフォード出版局は今年の言葉として「Post-Truth(ポスト真実)」を選びました。 このポスト真実という言葉は、客観的な事実や真実が政治的な選択において重要視されないという意味の言葉です。 ここに僕は21世紀の人間性、そして現実に対しての対峙の仕方を垣間見た感覚を覚えました。

これぞ「魔法の世紀」だと思います。

今のポスト真実、虚構礼賛の時代では、人はSNSを通じて、貧者のVR=「必ずしも正しい必要のない、そしてあってほしいそれっぽい現実」を生きています。
僕のタイムラインでは、ローマ法王がドナルドトランプの支持を表明したり、 ビヨンセが募金して救った女の子が夢を追いかけて成長し、ヒラリークリントンへと成長していたストーリーが展開されていました。 後者はなんとなく嘘だとわかりますが、前者は嘘か見分けがつきにくいですよね。
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落合陽一氏に2016総括、2017年展望を伺う。写真は「VRによるファッションブランディングの幕開け 落合陽一×Psychic VR Lab×chloma懇談」より。

■魔法の世紀の世界観、自然観=デジタルネイチャー

落合:
そういった魔法の世紀の世界観や自然観を「デジタルネイチャー」と我々の筑波大学研究室では呼んでいます。 我々が想像する未来像、デジタルネイチャーとは、ユビキタスの末に実質(バーチャル)と物質(マテリアル)、人(ヒューマン)と機械(ボット)の区別がつかなくなり、 ごちゃ混ぜになった世界です。 そういった世界を実現し体現していくために、我々はアート表現やデザインを含め、 学際的にまたがる工学的な研究を行っていくことをモチベーションとしています。

デジタルネイチャーは近い。
我々は今、何がバーチャルで「実質的な存在」なのか、それともマテリアルで「物質的な存在」なのかの区別がつかない世界に到達しようとしているし、 Botやプログラムとの会話なのか生身の人との会話なのかの区別もつかない状態も迎えつつある。

簡単にいうと 「山登りしてて鳥の鳴き声がする。空をカッコウが飛んでいる。それを見ている」、そういうときに、鳴き声が遠くからの超音波再生で、見た目が空中結像「かもしれない」世界です。

よくメディア取材で、「Digital Natureってデジタルと自然っていう相反さを混ぜていて面白いですよね!」って言われるのですが、そういうことじゃなくて「街中にあるあらゆるものがホログラムかもしれず、電話口の向こうがロボットかもしれない。あなたの同僚は本当に人間でそこに存在してますか?」という世界で自然となるような自然のことです。

そう言った、言うなれば毎日がチューリングテストのような世界で、人は新しい自然観を持つようになる。それをAR、VR、MRといったような"なんとかリアリテイ"じゃなくて"デジタルネイチャーだろ、もう諦めて自然観をアップデートしようぜ!" っていう意味で使っています。

それは今のスマホ社会が徐々に体現しつつある「ユビキタス」という言葉よりももっと劇的な変化であり、人間中心主義から、機械と人間のハイブリッド主義への変化を迎え入れようとしているともいえます。

そういった議論を展開する中で今年はいくつもの実例を発表してきました。今年はデジタルネイチャー研究室を発足して2年目の年で、いくつものプロジェクトが日の目を見ました。 ACM SIGGRAPHやSIGGRAPH Asia、CHI、UISTなどのトップカンファレンスで研究発表や展示を行い、メディアアートの祭典Ars ElectronicaではPrix Ars Electronicaに入賞した他、Artist Lab Yoichi Ochiaiとして、研究室を挙げての十数作品の展示を行いました。 現在はマレーシアで落合陽一の個展「Image and Matter by Yoichi Ochiai: Cyber Arts towards Digital Nature」が開催されており、その最終セクションにはデジタルネイチャーの学生たちと取り組んできた作品が展示してあります。
総括を含めていくつか抜粋して紹介します。
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マレーシアで開催されている落合陽一氏の個展「Image and Matter by Yoichi Ochiai: Cyber Arts towards Digital Nature」会場内。写真は本人提供。

■Leaked Light Field
漏れるライトフィールド。表面材質に穴加工を施していくことで透明材でない素材についてテクスチャの手触りを残したままディスプレイマテリアルにしていくプロジェクト。材質によって異なるパラメーターを調整していくことでソフトウェア的に素材を扱っていくことができます。また、光がどういう経路で穴を通っていくかを計算することができるので、立体的な光線の打ち分けを行うことが可能。「物質的に実質性を追加するディスプレイ」を作るための加工技術です。嬉しいことに、Laval Virtual Awardを受賞するなど、評価が高く、アイシン精機さんとやっている産学連携プロジェクトでもあります。

Leaked Light Field at LAVAL Virtual Award

■Transformed Human Presence for Puppet Play
SIGGRAPH E-techのデモも好評を博した、人間の身体性を他の形に変換していくプロジェクトです。3Dプリンターを用いて骨格を印刷し、人間の身体動作に合わせてモーションを計算していくことで様々な形に変換させることを目標にプロジェクトとして、今でも進行中です。VRゴーグルで没入させ、テレプレゼンスとして用いています。新たな身体はプリンターで創り、ボットとしての振る舞いと人としての振る舞いの差を研究するなど、人間が演じるロボットやロボットが演じるロボットとの関わりなど、さまざまなプロジェクトを並列して行っています。

Transformed Human Presence for Puppetry - ACE Creative Showcase 2016

■Optical Marionette
HMDを用いた光学刺激を用いて人を操るプロジェクト。これもSIGGRAPHのE-techでは500人以上の人を制御しました。UISTでは論文発表も行いました。この研究によって、現実世界でもVR世界と同じような人のマニピュレーションが行えるようになっていきます。デジタルネイチャーの世界観の中で人間の「身体自体」をオーディオビジュアル制御で操っていくものは重要な位置付けです。ちょうど前世紀映像で世論をコントロールしていったように、直接的な身体をコントロールしていくことの重要性を感じています。

Optical Marionette: Graphical Manipulation of Human's Walking Direction

■Cross-Field Haptics & Cross Field Aerial Haptics
多重場による触覚表現のためのプロジェクト。デジタルネイチャー研では触覚提示の方法として多重場による合成によるヒューマンファクターを調べることでより多彩な触覚を表現することを目標にしています。実質的なデータの触覚性をどこまで変化させることができるか、それを接触触覚と空中触覚を用いて行なっています。そのヒントは今までに培われてきた知見を元にさらに高解像度&マルチ解像度を求めることだと考えています。これらの研究も業界の評価は高くCHIのペーパーやSIGGRAPH AsiaでのE-tech、経済産業省のイノベーティブテクノロジーズ賞などもいただきました。

Cross-Field Haptics - SIGGRAPH Asia 2016 Emerging Technologies
Cross-Field Aerial Haptics: Rendering Haptic Feedback in Air with Light and Acoustic Fields

■Holographic Whisper
去年のFairy Lights projectによるビジュアルの三次元化に引き続き、オーディオの三次元化を目指したプロジェクト。Pixie Dust Technologiesとして初の製品。空中点音源スピーカーの動的生成によって音源の自由配置を可能にしました。研究開発と実用化という面でもかなり面白いプロジェクトになりました。これも経済産業省のイノベーティブテクノロジーズ賞などもいただいたり、トップカンファレンスに論文が受理されるなどの評価を受けつつあります。 このプロジェクトを通じてアイデアとして生まれたのは、音声だけで存在する人間への示唆や、その幽体への知覚です。このテーマを含めて後半の展望を描きたいと考えています。

Holographic Whisper

■2017年に向けて:「幽体の向こうへ」

落合:
2016年も多くの作品を作ってきましたが、その中で自分の作風についても常に考える日々でした。自分は作品の中で「物質のようにも実質のようにも見えるもの」を常に追い求めていることに改めて気が付きました。自分が今まで作ってきた作品で言うと、物質的な蝶のように見えるコロイド膜、瞬間的に現れては消えていくプラズマの妖精の姿、音響場で形作られた瞬間的で壊れやすい構造、そのようなものが見せる儚さのある世界に常に興味の矛先が向かっています。
2016年に展示したプロジェクトの中で、気に入っているものを二つ紹介したいと思います。

■県北芸術祭︰『幽体の囁き(新作)』
廃校の中にある空気感に作品をなじませていきました。『幽体の囁き』は2016年の新作です。超指向性スピーカーで廃校に教室の環境音を再生成するプロジェクトで、建築家の妹島和世さんとのコラボで別バージョン『空気のせせらぎ』も作りました。これは妹島さんの作った足湯に存在しない川のせせらぎを作るプロジェクトでした。これらのプロジェクトは物質的には存在しない気配を、実際の空間や環境に音響再現で作り出しています。

Yoichi Ochiai, Archive of Kenpoku Art Festival / 落合陽一県北芸術祭アーカイブ

■Looking Glass Time
2016年に参照することが多かったプロジェクトです。映像と物質と人、の三者三様を古典的な装置で描く立体インスタレーションです。原点的なところに戻りたいときに振り返ると、映像と時間そして物質と人間の関係性を光と陰で感じることができます。

Looking Glass Time at Tsukuba Museum, Yoichi Ochiai 2016
落合:
2017年は、より一層「データの幽体的存在」感を意識した作品を作っていくかもしれない、と考えています。 現在、映像というバーチャルなものと身体やロボティクスというマテリアルでできたものがこの世界のコンピューティングや表現の中心になっていますが、それを超えてどうやってマテリアルでもバーチャルでもないものを生み出し、その幽体を知覚していくのか。これから僕達がデジタルヒューマンに変換され、時間や空間の障壁を超えて世界中に存在できるようになったとき、 その存在はどういうアナロジーで語られるべきか。

僕はそれを幽体だと思っています。

2016年11月に行われた慶応大学でのKMD『2020僕らの開会式』イベントにて、様々なクリエイターが2020年のデジタル演出の方法を発表する中、僕は2020年には東京の人口を20億人にしたいという考えを発表しました。 それは物質的な人類だけでなく、実質的なデータ人類があちこちに飛んでいる社会を創るという意味で、です。
実質的なデータ人類が幽体のように振る舞う街。彼らの存在にオーディオビジュアルの三次元化を用いてどうやって存在感を与えていくべきか、それを考えていかないといけないのです。

来年は今までの「身体・映像・重力」のキーワードに「幽体」を加えてものづくりを行なっていきたい。 今やっているクアラルンプールの個展も東京に持ってかえってきたいですし、やりたいことは目白押しです。

--最後に現在の取り組みを教えてください。

落合:
12/22から池袋サンシャインでカナヘイ展があります。コラボ作品や落合の制作作品もあるので是非ご来場ください。新作のゾートログラフは映像と物質を考える上でキーとなる作品だと思います。
http://kanahei-exhibition.com

12/22から担当している授業科目の学部「デジタルコンテンツ表現演習」と大学院「コンテンツ制作論」の作品発表展があります。 県北芸術祭で展示した『幽体の囁き』のアーカイブなどを出展します。小規模なものですが,お近くの方は是非お立ち寄りくださいませ。
https://yofukashi-ten.github.io/dcx16/

--ありがとうございました。

"幽体"とは生きながらにして幽霊のような状態になることを指すが、脱人間中心主義の先には落合氏の語るデジタルネイチャーが存在していることを改めて感じる。 "2017年は、もっと人間性を捧げて、自分自身ももっとデジタルネイチャー化していきたい。"と落合氏は最後に語ったが、我々一人ひとりが"デジタルネイチャー"を意識し生活することにより、自分自身をアップデートしていくことができそうである。 落合氏、デジタルネイチャーグループの作品に触れることにより、デジタルネイチャー時代が近づいてくる。

SENSORS『2016年総括、2017年展望』シリーズ
【第一弾】チームラボ猪子寿之「体験型アートの可能性」
【第二弾】NewsPicks佐々木紀彦「日本3.0」「境界線を超えられる人の価値」
【第三弾】ライゾマ真鍋大度「リオ五輪」「人工知能×クリエイティブ」
【第四弾】PARTY中村洋基「スタートアップ×クリエイティブ」
【第五弾】ジェイ・コウガミ「21世紀のデジタル音楽ビジネス」
【第六弾】LINE谷口マサト「バズるコンテンツの方程式」
【第七弾】Mistletoe孫泰蔵「コミュニティ型スタートアップ」「防災テック」
【第八弾】バスキュール朴正義「データ×エンターテインメント」
【第九弾】コルク佐渡島庸平「"言語の壁"を超える熱狂」
【第十弾】落合陽一「幽体の向こうへ」


※当記事にてSENSORS『2016年総括、2017年展望』シリーズは終了である。多忙な中、協力いただいた10名のSENSORSメンバー、トップランナー各位と読者各位に改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。「ありがとうございました。」

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長 国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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