人工知能がCMを作る 広告代理店が挑戦するテクノロジーとの共創「AI-CD β」

2016.07.30 12:00

4月1日、大手外資広告会社、株式会社マッキャン・ワールドグループ ホールディングスの合同入社式に、人工知能のクリエイティブディレクターが入社したことが話題になった。一時はエイプリルフールの話題づくりか、とも思われたこの事件だったが、SENSORSでは実際に人工知能が他の新入社員と同じように研修を受けているという情報をキャッチ。今回のプロジェクトを主導したマッキャンエリクソンの若手社員グループにその真意についてお話を伺った。
(5/6記事公開・7/30追記):7/31(日)1:25~放送にて、「人工知能クリエイティブディレクターが作るSENSORS CM」公開!

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◼︎クリエイティブディレクター不足を人工知能で補う

今回の人工知能クリエイティブディレクター『AI-CD β』はマッキャンエリクソンの若手社員グループ「McCANN MILLENNIALS」が興すプロジェクトの第一弾として始まった。海外に本社を持つため、海外の人工知能に関する盛り上がりをいち早く察知。2015年の初めから、広告会社という立場から人工知能がどう活用できるのかということについて模索していたという。

McCANN MILLENNIALS AI-CD βチームのメンバー
左から松坂氏、吉富氏、折茂氏、岩崎氏

松坂:
2015年のSXSWの人工知能に関する幾つかのセッションを聞く中で、ビデオストリーミングサービス・Netflixが配信している動画一つひとつにタグ付けをしてユーザーに最適化された動画を推薦するシステムを導入しているということを知って、これは僕達が普段作っているCMでもできるんじゃないか、と閃いたことがきっかけでした。
日本におけるテレビCMは15秒か30秒という限られた時間で、発信するメッセージも一回見てすぐに納得できるものである必要がある。それはつまり「こんなメッセージであれば、こんなCM」という図式に分解することが比較的簡単にできてしまうんじゃないかと思いました。
ちょうど僕らのMcCANN MILLENNIALSにはクリエイティブディレクターもいなかったし、この機会に人工知能を使って自分たちの手で作ってしまおうと思ったんです。

このプロジェクトの発案者である松坂氏

松坂:
より具体的には、通常のCM制作においてはクライアントの商品を彼らのメッセージとともに発信したい、という依頼が主になるのですが、まずはクリエイティブディレクターが全体のおおまかな方向性を決め、我々現場が細かな企画、演出を担当する、というのが基本的な流れです。この「AI-CD β」はそのなかで一番最初の大きな指針を示してくれる存在として作られています。
ACCという広告のアワードで、過去10年間に入賞した作品を構造解析し、独自にタグ付けして入力することで、AI-CD βがアクセスできるデータベースを作りました。クライアントの要望を幾つかの項目に分けて入力していくと、そのデータベースを参照して、新たなディレクションを実際に筆で書いて渡してくれます。

◼︎人工知能をパートナーに据えることで、人間のクリエイティブは拡張される

--「AI-CD β」がとても重要な役割を担っているということがわかりました。AI-CD βがCMのディレクションをすることで、どんな効果が得られるのでしょうか

AI-CD β 外観は脳みそをイメージしたという。

吉富:
見た目が強面なんですけど、アームを動かして筆で文字を書いたり、名刺交換をすることもできるんです。それをみた人がAI-CD βに対して人間に感じる以上の愛着を覚えるということがある。クリエイティブディレクターという人種は、人によっては会議の場にいるだけでその場にいる全員をヘコヘコさせてしまうような威厳を持つ人が多かったりします。その代わりとしてこのAI-CD βがいると、「強面だけど、なんか可愛い」というギャップで場を和ませたりすることもある。また、人工知能がディレクションを出す、という字面だけではなんとなく想像しがたいシーンが、AI-CD βによって実現することで、データの裏付けがあるということ以上にその場にいる人を納得させてしまう力を持っています。

実際にsensors.jp編集長・西村と名刺交換をしている様子

折茂:
もちろんどんなCMを作るかということについて最終的な判断をするのは人間なので、AI-CD βはあくまで道具として存在しているのですが、一番の妙としてはやはりCMのクリエイションにまつわるデータの分析ができるという点だと思います。ある種類の商品のCMにはこんな紋切り型があるよね、という暗黙の了解のようなものが、データを解析することで確実なものとして見えてくることもある。それを受けて、あえてその逆を攻めてみたり、少しずらした表現を試してみようということになったり、その判断がより客観的にできるというのはこれまでにない感覚で刺激的です。
どんなにクリエイティブな人間でも、時間を経るにつれて本人が気づかないバイアスがかかってしまうことがあると思います。でも隣に常に最適解を出してくれる人工知能がいると、そのバイアスに気づいて修正したり、自分の限界を意図的に飛び越えることができるようになると考えています。それは結果としてクリエイティブの領域を少しずつ広げていくことにつながるのではないでしょうか。

「AI-CD β」の発表当初、日本国内よりも海外からのリアクションが殺到したという。人間のクリエイションに関わる重大な事件として受け取った人が多くいたようだ。
日本国内でもブームを経て人工知能についての詳細な知識が広く一般にも普及し、あらゆるフィールドでその有効な活用方法を模索しようと動き出している印象を受ける。広告会社というクリエイティブの最前線に置かれる人工知能と人間との共創は、閉じていきがちなクリエイティブに関わる領域を文字通りオープンにし、CMクリエイティブを新たなステージに押し上げていくことになるのかもしれない。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

聞き手:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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