AIで最適化されるプロダクトの可能性--三宅陽一郎×舛田淳 AIビジネス最前線

2017.12.08 15:00

「AIで最適化される未来」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは株式会社スクウェア・エニックスのゲームAI開発者、三宅陽一郎氏と、LINE株式会社取締役CSMO(Chief Strategy and Marketing Officer)の舛田淳氏だ。

4回にわたってお届けする第1弾記事では、ゲスト二人が開発に携わるAIを活用したプロダクトについて話を伺った。AIがゲームやコミュニケーションをユーザーによって個別最適する話から、MCの齋藤精一は「人間がAIと恋に落ちる未来も考えられるのではないか」と語る。

人間が生み出す「知能」は、今後私たちの生活をどのように変えていくのだろうか?
AIの可能性に魅せられたゲスト二人とMCが、数年先の世界を紐解いていく。

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(左より)舛田淳氏、三宅陽一郎氏(右より)落合陽一、齋藤精一

まず『SENSORS』MCの二人は、今回のテーマ「AIで最適化される未来」をどのように捉えているのだろうか。

齋藤精一
(以下、齋藤):
最近のAIの盛り上がりは「第三次AIブーム」といわれていて、ようやく一般の人たちにもAIが身近な存在になり始めていると感じます。自動運転の実現がささやかれるようになり、もしAIが自動で運転してくれたら、その間に自分は何をやっているのかと考えると面白い。
落合陽一
(以下、落合):
そもそもAIを簡単に表現すると「数理統計的にその値が適切なのかを計算する方法」。
たとえば「おはよう」に対する返答として、「こんばんは」が正しいのか、「おはよう」が正しいのかを計算によって導き出す仕組みを俗に「AI」と呼んでいます。

ただ、それは単なる統計だとする見解もあり、ターミネーターや鉄腕アトムのような世の中を抜本的に変える可能性を秘めた人工知能はまだ実現できていません。
しかしながら、それらを実現するためのアプローチの手がかりが見えてきていることは間違いありません。
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齋藤:
一口に「AI」と言っても、いろいろあるんですね。2017年は「AI元年」と言われていますし、人間にできてAIにできないことを考える機会にもなりそうです。
落合:
現在のAIは、15年ほど前でいうWebサービスと同じ位置づけにあります。Webサービスがオフラインで行われていたことをオンライン化してコスト削減したように、AIに置き換えられることを探せばビジネスチャンスが無限にあるわけです。楽天やアマゾンは店舗をオンライン化することでビジネスに成功しました。
AIでもこの10年で同じようなパラダイムシフトが起こります。将来、「どうしてあのときにAIに投資をしなかったのか」と後悔する日が来るでしょう。

MCの齋藤、落合はともにAIが秘める可能性に期待を寄せている。
世界経済を牽引するAGFA(Apple、Google、Facebook、Amazon)などの大企業がこぞって人工知能の未来に投資を行うなか、国内ではどのような事例が動き出しているのだろうか?

ここから、今回のゲストである三宅陽一郎氏と舛田淳氏を交えて議論が行われた。ゲームとスマートスピーカー、異なる領域で最先端の人工知能を扱う両ゲストの自己紹介から話は始まる。

■ 3次元に身体性を持ったキャラクターを生み出す"デジタルゲームAI"とは?

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--それぞれの事業ドメインで、どのようにAIを応用した事業を展開しているのか教えてください。

三宅陽一郎
(以下、三宅):
ゲーム制作事業を展開するスクウェア・エニックスで、人工知能を用いた研究を行っています。一口にAIと言っても、AIを利用してソーシャルゲームのユーザー解析を行なったり、ゲームをプレイするユーザーの心理状況を分析したりと、様々な利用方法があります。
そのなかでも私が手がけるのは、ゲームに登場するキャラクターに身体性を持たせる"デジタルゲームAI"です。

主人公はユーザーが思考して操作をしますが、"デジタルゲームAI"によって、登場するモンスターや仲間も周りの状況を認識し、自律的に判断して身体を動かせるようになります。
3次元のキャラクターに聴覚や触覚を与え、まるで現実世界を生きているかのような動きができるようトレーニングしているからです。
落合:
ディープラーニング(機械がデータを抽出し、自動で学習する技術)を用いたトレーニングでしょうか?
三宅:
"デジタルゲームAI"の中身は多階層になっていて、大きな戦略を考えるAIや、より細かな動きを再現するAIなどさまざまな種類があります。目的によって応用する技術は異なり、複数の技術を組み合わせることでキャラクターに知能を付与しているのです。
結果、人間と同じように緻密な思考と身体性を持つことができるようになっています。
齋藤:
だからこそ、ユーザーは退屈せずにゲームに没頭できるんですね?
三宅:
そうです。
映画を想像していただくと分かりやすいのですが、全体の状況を俯瞰する"映画監督的なAI"と、映画監督の指示通りに動く"役者的なAI"が存在します。
たとえばユーザーがピンチに陥った際に、オンラインでプレイする他のユーザーが気づいていなくても、AIが状況を認識して助けに行くことがある。誰も気づいてくれなければその時点でリタイアになってしまいますが、キャラクターそれぞれに知能があるため、仮にユーザーが一人になっても楽しめる設計になっています。
齋藤:
オンラインゲームは複数人でプレイすることが一般的だと思いますが、AIが発達すると、一人でもリッチなゲーム体験ができるようになりますね。
三宅:
人間ほど賢いAIを作ることは難しいですが、逆に3次元の場合、人間が操作するよりも強いキャラクターを作ることができます。
ただ、それではユーザーが退屈してしまいますよね。そうしたユーザーエクスペリエンスを追求しながらAIを作っています。

■ コミュニケーションを最適化するスマートスピーカー「Clova WAVE」

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--続いて、舛田さんお願いします。

舛田淳
(以下、舛田):
メッセージアプリ「LINE」を展開するLINE株式会社でスマートスピーカー「Clova WAVE」を開発しています。
弊社はもともと人工知能を用いたサービスを展開していました。LINEスタンプを使用する際に入力したテキストに応じてスタンプをリコメンデーションしたり、カメラで女の子の服装を撮影したら服の型番を認識したりする技術がそれに該当します。

これまでは異なる領域で人工知能を応用していましたが、それらを集約する形で生まれたサービスが「Clova WAVE」です。ハードウェア自体はBluetoothスピーカーですが、クラウド上のAI「Clova」とつながっており、過去の使用履歴からユーザーの特徴を自動で学習していきます。

スマートフォンや家電などあらゆるデバイスと連携することができるので、ユーザーの行動を先読みしてデバイスを動作させることができるのです。

--スピーカーにこだわられた理由はありますか?

舛田:
冒頭で齋藤さんもお話しされていましたが、AIを自然な形で生活の一部に溶け込ませることを意識していたからです。スマートスピーカーを展開する企業は少なくありませんが、それぞれベースとなる事業が異なります。
私たちの目的は、スピーカー1台がさまざまデバイスとつながることで、日常のコミュニケーションを最適化することです。

メッセージアプリ「LINE」がそうであるように、私たちの事業のコアにあるのはコミュニケーション。

コミュニケーションが生まれる自宅のリビングに置くことを前提とした上で、音声アシスタント機能を用いたデバイスを開発するのであれば、音声を発するスピーカーが最善の選択肢ではないかと考えました。

■ 「人間がAIに恋する日も近い」 個別最適によって私たちの生活はどう変わる?

--お二人のお話を踏まえ、MCの二人はどのようなことをお考えになりましたか?

齋藤:
冒頭で三宅さんがおっしゃっていた「映画」の例え話は非常に可能性を感じました。
個別最適する技術をゲーム以外にも応用すれば、さまざまなビジネスチャンスが生まれるのではないかと思います。
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三宅:
まさにおっしゃる通りですね。
将来的にはSNSのタイムラインを追ってユーザーの心境を推測し、「今日はこんなゲーム展開にしてあげよう」とそれぞれのユーザーにカスタマイズしたストーリーを作ることも可能なります。
ユーザーがリアルタイムで考えていることを察知し、それに応じたサービスを提供できれば、ゲーム以外の領域にもビジネスが派生していくでしょう。
齋藤:
人間がAIに恋をしてしまう、映画『her』の世界を想像してしまいました。気持ちを察知し、必要な手立てをすべて提供してくれるパートナーとして「Clova」に恋してしまう可能性は考えられますよね。
舛田:
AIに自我があるかどうかはさておき、知性があるように思わせたり、恋愛感情を持っているかのように感じさせることは可能です。

実は「Clova」にはキャラクターを設定しています。会話のトーンなどをコントロールできるんです。普段の独り言が感情を通わせた会話になれば、愛着を持ってもらえると思いますし、きっとそれが重要なことなんだと思います。

続く「日本は"キャラクター信仰"でAIビジネスを席巻する--三宅陽一郎×舛田淳 AIビジネス最前線」では日本独自の"キャラクター信仰"にフォーカスを当て、東洋と西洋におけるAIビジネスの違いを掘り下げる。「日本人は生命のないものに生命を見出す」と語る三宅氏、「キャラクター信仰のルーツは大化の改新にある」と独自の理論を展開するMC落合の発言にも注目だ。

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
編集者・ライター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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