「都会でも明るく輝く」"人工流れ星"は、どのように生み出される? 宇宙・天文×エンターテインメントの可能性

2016.06.30 12:00

中学生の頃NASAを訪れたことをきっかけに宇宙の魅力に惹かれ、"宇宙のことを学ぶためには不可欠"な物理を学ぶべく、大学では理学部物理学科に進学。大学在学時から現在まで、"宇宙の魅力を発信する"という立場から活動。宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩による連載。宇宙をとりまくエンターテインメント・テクノロジーを中心に、様々な角度から宇宙の魅力を伝えていく。
今回は、流れ星を「人工流れ星」として実現すべく研究・開発を行う株式会社ALE代表取締役 岡島礼奈さんにお話を伺った。

【前回記事】
#1:宇宙飛行士を目指すタレント・黒田有彩--私が宇宙に惹かれる理由
#2:全世界同時開催!宇宙×ハッカソン「NASA Space Apps Challenge 2016」に潜入
#3:"宇宙飛行士の世界"をリアルに感じられる漫画『宇宙兄弟』の魅力に迫る--ロケットへのペイント企画にも挑戦

黒田有彩です。私が大学のとき専攻していた物理は、ありとあらゆる現象をひとつに統一することを目指す学問。例えば、りんごが地面に落ちてくることと地球が太陽のまわりを周ることは、同じ式で説明できます。
私も、一見別のように見えるものを、何かひとつにして、自分の中により大きな人生観・世界観・宇宙観を持ちたい。よく、大学で物理を学んで、どうして芸能界で活動しているのかと聞かれます。理由は「やりたいから」に他ならないのですが、自分のその好奇心の先の共通項とは何なのか、果たして解はあるのかないのか。それを、人生をもって解決してみたいのです。
そんなとき、私と同じく、けれどまた別の形で「宇宙」と「エンターテインメント」を組み合わせることを目的としている女性がいらっしゃることを知りました。その方は、現在「人工流れ星」の実現に向けて活動をされている岡島礼奈さん(株式会社ALE代表取締役)。人工流れ星はどのようなメカニズムなのか。そして、東京大学理学部天文学科を卒業後、現在に至るまでの経緯、その道を歩んでこられたお人柄を知りたくて、お話を伺いました。

■都会の空でも明るく輝くレベルを確保することに成功--実験の方法とは

--まず、人工流れ星というのはどういうものなんでしょうか。

岡島:
流れ星が光るのは、宇宙空間に漂っている塵が、地球の大気圏に向けて高速で突入することにより、その部分の大気が断熱圧縮され、エネルギーが急激に高くなりプラズマ発光するからです。
これと同じように、まず人工衛星に流れ星の素となる粒々を入れてロケットに載せて打ち上げます。高度500kmの軌道に乗せて、そこから流れ星を光らせたい地域上空で流れ星の素を宇宙空間へ放出。その粒が大気圏へと突入し発光し流れ星となる。このようにして、天然の流れ星を人工的に再現することを目指しています。
ale_1.jpg

展開イメージ(資料提供:ALE)

--建物の中などでなく、本当に流れ星の原理を使って作ってしまうんですね。なんて壮大な計画...。

岡島:
人工流れ星は上空60km~80kmで発光する計画なので、地上で見える範囲は最大で直径200kmとなります。関東圏で当てはめると、実に3,000万人の人たちが同時に流れ星を楽しむことができるんです。

--それは大変なお祭り騒ぎになりそうですね!色はどんなふうに見えるんですか?

岡島:
現在、青・緑・オレンジの3色は地上での実験に成功しています。この3色以外にも選べる色を増やせるように研究をしています。物質によって色が変わるので、炎色反応のような感じですね。でも、じつは、普通の金属単体の炎色反応とは異なる色が出ることもあるんですよ。この実験自体が、もはや科学的探究しがいのあるものですよね。ちなみに、流れ星の粒には人体に影響のない化合物を使用しています。
ale_2.png

実験の様子(画像提供:ALE)

--安全面もしっかりと配慮されているんですね。地上での研究は、どのように行っているんですか?

岡島:
JAXA宇宙科学研究所にあるアーク風洞という、物体が大気圏に突入する模様をシミュレーションできる装置をお借りして実験しています。真空にした装置の中で、流れ星を発生させる粒子を模したサンプルに高圧・高エネルギーのジェットを噴射させて大気圏突入と同じ状況を再現します。現在ではマイナス0.86等星の明るさに相当する発光を確認していて、都会の空でも明るく輝くレベルを確保することに成功しています。
実は、このアーク風洞の装置は、小惑星探査機はやぶさのカプセルを開発するために作られたものなんです。小惑星のサンプルを採取したはやぶさが地球へ帰還するとき、サンプルを入れているカプセルが大気圏に突入しても燃えつきないように、素材や形状を研究したんですね。その装置で、私たちは明るく光らせることを追求しているという(笑)。
他にも、人工流れ星の粒を入れた人工衛星をロケットに搭載するとき、そのロケットの振動で人工衛星や粒に影響が出ないかなどの研究も行っています。ロケットによって振動の仕方に違いがあるので、色々な振動を試しているんですよ。
ale_3.png ale_4.png

アーク風洞。上が加熱された高速な空気の吹き出し口、下がその空気を加熱する部分を外から撮影したもの(画像提供:ALE)

--衛星の軌道も決まっているんですか?

岡島:
太陽同期軌道を考えています。北極の上空と南極の上空を結ぶ軌道ですね。約90分で地球を一周します。地球は自転するので、その軌道上であれば世界中どの地域でも人工流れ星のサービスを実施することができます。

--人工流れ星と、どのようなサービスを組み合わせようと考えられていますか?

岡島:
例えばアーティストのライブやフェスなど、地上と夜空が連動したライブパフォーマンスなんていうのもできるでしょうね。また、その日は見られる地域の人たちがざわつくことになるでしょうから、通信会社などとコラボして大きなムーブメントにできるかもしれません。でも、それだけが目的ではありません。流れ星をエンターテインメントとして楽しむだけでなく、科学的成果を得たり、様々な人々の関心を得て科学と社会をつないだりすることで科学の発展に貢献することが、私にとっての大きな目的なのです。人工流れ星が、採算性の高いエンターテインメントビジネスとして機能し、そこからもたらされた科学的成果と活動の成果がさらに基礎科学の研究を発展させていく。そのような動きを人工流れ星が実現してくれるのではとワクワクしています。

■天文学を学んだことで生まれた思い

岡島さんは東京大学理学部天文学科を卒業後、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号を取得。在学中にサイエンスとエンターテインメントの会社を設立し、ゲームや産学連携のサービスなどを立ち上げ。卒業後は、ゴールドマン・サックス証券戦略投資部にて債券投資事業、PE業務などに従事。その後新興国ビジネスコンサルティング会社を経て2011年9月に株式会社ALEを設立。今に至ります。その異色ともいえるキャリアを通して、どのようなことを考え、感じられて来られたのかについても、お話を伺いました。

ale_5.jpg

ALEのオフィスにて岡島礼奈さん(右)と

--現在の「科学と社会をつなぎたい」という考えは、今までの岡島さんのどういう経験や思いがそうさせたんでしょうか。

岡島:
星空の美しい鳥取県に生まれ育ち、小学生のとき買ってもらった相対性理論の漫画に影響を受け物理学科に進みました。文化や価値観などは時代や地域で異なりますが、物理現象をはじめ基礎科学は古今東西同じである、その普遍性が面白いと感じていました。大学4年から天文学を専攻しましたが、物理学や天文学をはじめとする基礎科学が、公的資金に支えられていることを実感し、公的資金以外による自律的な科学の発展が行えないか、という問題意識を持ちました。自分は寝食を忘れ研究に没頭できるような研究者には向いていないと感じていたけれど、エンターテインメントやサービスと宇宙・天文学を結び付け、人々に楽しんでいただきながら科学の面白さを知っていただき、そこから得た収益でさらに基礎科学を発展させることはできるかもしれない、と思ったのです。
天文学部の学生だったとき、友人と流れ星を見ながらふと思いついた人工流れ星。そのときは軽く「人工的に流れ星、できるんじゃない?」程度に思っていたのですが、その後社会人になって「これは自分が実現するんだろうな」と自然と思うようになっていました。それはゴールドマン・サックス証券でのサラリーマン時代などの経験・出会いがあるからです。人から見れば繋がっていない道に見えるかもしれませんが、私の中では紛れもなく繋がっているんですよね。

--恐れ多いのですが、私も岡島さんと似たような「宇宙とエンターテインメントを繋げたい」と思いタレントとしてのお仕事をさせていただいています。岡島さんは、他の人から見たら羨ましいほどの学歴・経歴、それを「向いてなかったんですよね」と清々しく笑い飛ばせる明るさ、執着の無さをお持ちなのがすごく印象的です。その強さはどこからくるのでしょうか。

岡島:
天文学を学んだことが多いかもしれません。やはり宇宙は大きい。それと比べて自分は塵のようなちっぽけな存在。自分の悩みや大変さはそんなに大したことではないとどこかで客観視できるのが、その根本かもしれません。また、今までの経験から来る出会いがあるからこそ今がありますから。
ALEの会社ロゴは、「スイングバイ」をイメージしています。天体の万有引力を利用しながら探査機の運動の方向を変更する技術をスイングバイと言うのですが、まさにたくさんの方に支えていただき、引っ張っていただきながら私たちはプロジェクトを進めることができているんです。無駄なことや回り道は、決してない。そう言い切れることもその要因ではないでしょうか。
ALE_logo_b.png

ALEのロゴ(画像提供:ALE)

--最後に、流れ星に願いをかけるなら...

岡島:
一度、太陽系の外に行ってみたいですね。太陽系の外が、どのようになっているか見てみたいです。

明るく、聡明な岡島さんが結ぶ科学と社会、宇宙とエンターテインメント。夜空がキャンバスとなってたくさんの流れ星で彩られるその夜を、楽しみにしています。

文:黒田有彩

タレント。1987年生・お茶の水女子大学理学部物理学科卒。
中学時代のNASA訪問をきっかけに宇宙に魅せられ、宇宙飛行士になることを目標とする"宇宙女子"。数々の宇宙に関連する番組への出演や、NHK教育「高校講座 物理基礎」MC、読売テレビ「ハッカテン」(ハッカソン番組)ゲストなど、研究や教育に関するメディアへの出演も。「宇宙女子」(2015年・集英社インターナショナル)共著。
Twitter:@KUROARI_RTTS
Instagram:@arisakuroda

最新記事