オルゴールが奏でる950光年先の宇宙の音「ALMA MUSIC BOX」

2015.11.13 22:00

石川県・金沢21世紀美術館にて展示されているインスタレーション作品『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』(〜11/15まで展示)。宇宙の謎を解明する巨大プロジェクトによって誕生した、アルマ望遠鏡(ALMA)。今回その望遠鏡が捉える星が音となり、またオルゴールとして金沢に舞い降りた。仕掛人は、PARTY NY・川村真司氏と国立天文台・平松正顕氏。音楽やアートと科学という、全く異なるジャンルで活躍する2人が生み出す『宇宙を聴く』体験とは。

『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』は国立天文台が発起役となったプロジェクトで、世界的な大プロジェクトとなった望遠鏡をより多くの人に広めることを試みたものだ。望遠鏡が観測する何光年も先の星のデータを、オルゴールディスクに変換し、あたかも"星の音"を聴いているかのような体験が出来るという作品だ。

ALMA MUSIC BOX / 死にゆく星の旋律(YouTubeより)

今回のインスタレーションの題材となった『アルマ望遠鏡』とは、チリに新しくできた望遠鏡のことだ。一番の特徴は、目で見える光ではなく、宇宙から来る目で見えない電波をキャッチすることで、普通の望遠鏡では見られない宇宙の姿を見ることができる点。この観測によって、今まで知られてこなかった星や惑星の誕生を明らかにするという。

チリにあるアルマ望遠鏡

--川村さんはアルマ望遠鏡の存在は知っていましたか?

川村:
当初は、凄い望遠鏡ができたっていう噂しか知らなかったです。きっかけは、今回のプロジェクトのプロデュースをして頂いた林口さんからのお話でした。「宇宙の誕生の瞬間を見つける」というテーマに惹かれました。ただ当時僕を含め、一般の人にはアルマの凄さは分からないし、そもそもアルマって何?という状態でした。美しい星空が観られるものではなく、観測しているものは数字やグラフのようなデータの形としてしか現れないので。そこで、そういったデータをアートの形にすることで広くアルマを知ってもらおうと考えました。

【左から】川村真司氏(PARTY NY)、平松正顕氏(国立天文台)

--日本ではまだそれほど知られてないという中で、アルマ望遠鏡が話題となったトピックスとしてはどういったものがありますか?

平松:
一番大きくニュースになったのは、2011年にアルマ望遠鏡がまさに観測を始めたという時です。テレビのニュースや新聞などにも出ましたね。また実測結果では、昨年11月に惑星のできる場所をこれまでで一番解像度の良い画像でとることが出来たんですね。地球がどうできたのかという謎に迫るような観測結果でした。
川村:
僕も見ました。ちょうどアルマの展示が始まっていた時期で、感動しましたね。世の中に「凄い望遠鏡なんだ。」ということが科学サイドから始まって、アートに形を変えて再び科学界で名前が出てくるという流れを作ることが出来て、チームみんなで喜んでましたね。

■最先端の望遠鏡×伝統的音楽が生み出したイノベーション

望遠鏡が観測するのはデータやグラフといった実に抽象度と専門度の高いもの。そこに、PARTY・川村氏はなぜオルゴールを組み合わせ、誰もが五感で楽しめる体験に変換したのか。

インスタレーション作品『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』

--プロジェクト誕生のきっかけについてお話を伺っていきたいのですが、当初平松さんからは川村さんにどういったリクエストをされたのですか?

平松:
アルマ望遠鏡はその観測データは多く発表していて、科学好きの人にはそれで充分楽しんで頂けています。ただ、普段科学に関心のない方にも面白さを知ってもらいたいと思って。なので、普通の方法ではなくてアートや音楽など、別分野のものとコラボレーションした形で伝えたいと。それで川村さんにお話を持って行ってもらいました。
川村:
ポップでメジャーな表現ながら、望遠鏡でとれたデータを実直に扱ったアイデアを考えようとなり、いくつか提案させていただきました。望遠鏡の記録するデータやグラフを見てみると、グラフが円形で美しい星を見つけて。その円形を活かしてレコードとかオルゴールの円盤にデータを転写したら、どんな音が聴こえるかという発想に辿り着きました。最先端の望遠鏡のデータを使いながら、伝統的な機器で音楽を再生するという、時間を超えたコラボレーションは面白いということで、決定しました。

--実際プランを初めて聞いた時どう感じましたか?

平松:
当初は少し不安もありましたが、実際試作版を聞くと先ほど川村さんが言われたように人間が作曲したように非常に心地よい音になっていて驚きました。これなら多くの人に楽しんでもらえるのではないかと。

■「生死」というコンセプトが、宇宙やデータをぐっと身近なモノにする

今回のインスタレーションの名前となっている「死にゆく星の旋律」。アルマ望遠鏡が捉える宇宙では日々、人間が知り得ないほど星が誕生し、また最期を向かえているという。その数ある星の中でも、今回『ちょうこくしつ座R星』を選び、その星を音楽にした理由とは。

【上から】アルマ望遠鏡、インスタレーション作品『ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律』

--作成するにあたって川村さんなりのこだわりはありましたか?

川村:
レイアウトやデザインを考えていく中で、それを知らずに入ってきた人も分かるように、ディスクをかけると実際にアルマから届いたデータがオルゴールの背景にプロジェクションされて、オルゴールの音色に合わせて回転していくようにしました。またオルゴールにかけるディスクに関しては、数ある星のデータの中でも、今回は『ちょうこくしつ座R星』という星を選んで、その星の200種類程のデータの中から、最終的に七十枚のディスクに絞りました。

星のデータのプロジェクション

星のデータが転写されたディスク

--ちょうこくしつ座を選んだ理由は何かあったのですか?

川村:
円形ですごくグラフィカルな形が特徴的で、そこから、丸い円盤が着想されたのが一番の理由です。また、この星がちょうど寿命を迎えようとしている星だったのです。タイトルにも『死にゆく星の旋律』とありますが、レクイエムのようなどこか物淋しさを感じさせるオルゴールの音色とあわせて、死にゆく星が悲しい音を奏でるアイデアは美しいなと考えました。
平松:
私達からこれを使ってくださいという指定はなく、生まれたばかりの星や銀河などいくつかのデータをお渡ししました。その中でも、今回の死にゆく星・『ちょうこくしつ座R星』を取り上げて頂いたことは、人間にも身近な「生死」というコンセプトを、アルマ望遠鏡が観測する宇宙にもある星の「生死」にあてはめるという点で、結果的にアルマ望遠鏡がやろうとしている研究のテーマにも合致すると感じました。

■クリエイターと科学が交差する先に、イノベーションが生まれる時代

科学がアートのアイデアの種を作り、アートが科学の発信力となった本プロジェクト。科学×アートには、今後どのような未来が待ち受けているのだろうか。

【左から】平松氏(国立天文台)、川村氏(PARTY NY)

--初コラボということで、お互い刺激を受けたところがあると思うのですが、例えば川村さんは平松さんのどういうところをリスペクトされていますか?

川村:
インテリジェントな方で、打ち合わせでお会いする度にいろいろ質問することに対して、全部整然と話して頂けることです。インスタレーションや映像制作をしていて、テクノロジー・科学を利用なしにはなかなか表現を作りづらい時代になっている気がします。逆に、科学サイドでもデータなどに音楽や映像に付与されることで、波及したり、新しい発見に繋がることもある気がしています。今回平松さんとお仕事出来て、科学者とクリエイター両者の歩み寄りがされている感じがしました。

--平松さんはいかがですか?

平松:
本当に多くの角度からアルマ望遠鏡のことを考えて頂いています。研究者は頭が固いと思わせてしまうほどいろんなアイデアを出して頂いたのが、本当に一緒にやっていて楽しかったですね。こういう考え方もあるのか、こういう宇宙の捉え方もあるのかというような印象を強く受けました。

--今後はどんな作品でコラボしていこうと思いますか?

川村:
また全然想像つかないものをやりたいですね。そう来たか、みたいな意外なものに挑戦したいです。
平松:
アルマ望遠鏡からも研究者すらも予想してないような成果がどんどん出てくると思うんですよね。それをぜひ、面白い形で世の中に出していきたいです。

独立していたら届かなかったデータに、音楽のエンタメ性が付与されることで生まれた今回のインスタレーション。決してアートを強調することなく、科学性を丁寧に扱いそれぞれを調和させることで、見事に科学×アートの世界を実現している。今後も科学×アートの力が、私達をまだ見ぬ世界に手招いてくれるに違いない。

文:長谷川輝波

フリーライター、慶應義塾大学法学部4年在籍。高校時代はファッションデザイナーを志し、大学入学後はサロンモデルやファッションライターとしての活動を経験。現在は多数の企業・協会でのライター・マーケティングに携わる。大学ではWebサービスプランニングを専攻。@tkinakoo_mochii

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