"一発屋"が通用しない時代に。勝ち残ってきたサービスには確固たる「教義」があった--メルカリ・小泉氏、dely・堀江氏、テンセント・シン氏、フラー・渋谷氏

2018.04.26 18:00

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2018年2月7日、アプリ分析ツール「AppApe」を提供する株式会社フラーは、1年間で著しい成長を遂げたスマホアプリを表彰する「AppApeAward2017」を開催。今回は同イベント内の「アプリマーケットセミナー」で行われたトークセッション「Go Global 2020年に向けたアプリビジネスの展望とは」をレポート形式でお送りする。

2017年の1年間で、世界全体のアプリダウンロード数は1,750億件を超える。かつて、アプリビジネスは「安く始めて一発儲ける」といった"夢"が存在していた。しかし、コンテンツが激増した近年において、アプリビジネスには世の中を見る目としたたかな戦略が必要だ。

今回のトークセッションは、そんな"アプリ戦国時代"を生き抜き、今もなお最前線で戦いを続ける経営者の面々が集まった。競争を生き抜くために必要なのは精緻なデータなのか、膨大な資金力なのか、それともスピード感なのか。各人の「アプリビジネス論」が邂逅し、白熱したトークセッションとなった。

<セッション登壇者>
・谷本有香(フォーブス ジャパン 副編集長)※モデレーター
・シン・ジュノ(Director of Platform Business Development Tencent Games)
・小泉文明(株式会社メルカリ 取締役社長兼COO)
・堀江裕介(dely株式会社 代表取締役 CEO)
・渋谷修太(フラー株式会社 代表取締役CEO)

■世界の五指に入るテンセント。後塵を拝すまいと追いかける日本の経営者たち

セッションの始めにそれぞれの企業のサービスと事業、これまでの業績の紹介がおこなわれた。

最初に紹介をおこなったのはテンセントのシン・ジュノ氏。シン氏の口から語られたのは、世界で一番勢いに乗っている企業といっても過言ではないテンセントの華々しい業績の数々だった。

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Director of Platform Business Development Tencent Games シン・ジュノ氏

シン・ジュノ氏
(以下、シン):
弊社の代表的なアプリは「Wechat」。現在、中国国内外を合わせMAU(Monthly Active User)ユーザー数は10億人近く。ほかにもゲームアプリの配信、AIの研究開発もおこなっています。売上は毎年40~50%ずつ伸びており、昨年の売り上げは4兆円。現在、アメリカや台湾、日本など、国外に多くの拠点を構えています。

続けて自己紹介おこなったのはフリマアプリ「メルカリ」を配信する株式会社メルカリの取締役社長兼COOの小泉文明氏だ。小泉氏はテンセントの売り上げの大きさ対し「国家予算レベル」とツッコミを入れつつ、事業の紹介を始める。

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株式会社メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明氏

小泉文明氏
(以下、小泉):
メルカリは先日、会社設立5周年を迎えました。この5年で、日本だけでなくアメリカやイギリスでアプリを配信しています。2017年の年末に世界全体で1億ダウンロードを突破。うち6,000万超が日本、3,000万超がアメリカ、残りがイギリスという内訳です。

最近力を入れているのはライブコマースをはじめとした新規事業です。今後の展望としては、今までのような「モノ」の交換だけでなく、人が持っているノウハウやアセットを商品として流通させるサービスを展開していきたいと思っています。グローバルな展開を中心に、メルカリのエコシステムをつくっていく施策を打っていく予定です。
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dely株式会社 代表取締役CEO 堀江裕介氏

続いて自己紹介を行ったのはdely株式会社の代表取締役CEO・堀江裕介氏。

堀江裕介氏
(以下、堀江):
dely株式会社の堀江と申します。dely株式会社は"70億人に1日3回の幸せを届ける"をミッションに、レシピ動画サービス「kurashiru」を配信しています。現在、累計ダウンロード数は1,000万。1万4,000本という、世界一のレシピ数を誇る動画配信サービスです。 

事業を始めるころ、SNS上にはTastyさんやTasteMadeさんなど、レシピ動画がグローバルに広がっていました。しかし海外のレシピ動画メディアは、派手で面白い反面、実用性の低いレシピが多かった。「冷蔵庫の余りもので」といった実用的なレシピを紹介するメディアを作れば、日本にローカライズすることができるのではないかと思ったことが起業のきっかけです。
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フラー株式会社 代表取締役CEO 渋谷修太氏

最後に自己紹介をおこなったのはフラー株式会社CEO・渋谷修太氏だ。

渋谷修太氏
(以下、渋谷):
フラー株式会社の渋谷です。私たちはアプリのデータ分析をおこなうツール「AppApe」を提供しています。国内のアプリ分析ツールではNo.1の認知度を誇っており、アプリ売上げランキング上位100社のうち82%が利用している状況です。

分析ツールを提供する上で肝要なのは「デベロッパーの気持ちを理解すること」。私たちはデータを観察するだけでなく、みずからも"常にアプリを作り続ける"ことで、デベロッパーの気持ちを理解し、より実用的なアプリを提供したいと考えています。

たとえばAR機能を用い、顔にカメラを向けると吹き出しが出てくるアプリ「いでよ!!フキダシくん」を配信しています。こういった取り組みは、自分たちでARを盛り上げたいと思う一方、ARのビジネス展開のノウハウをつかみ、他社のビジネスに還流したいという思いがありました。

■アプリビジネスで「少ない資本で一発当てる」ができなくなった理由

アプリ業界で生き残っていくなかで、独自の戦略を身につけていった4人。アプリビジネスはどんな言葉をキーワードに、どのように盛り上がっていくのか。ディスカッションが始まった。

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--2017年はアプリビジネスにとってどんな一年でしたか。

堀江:
個人的にもアプリ業界としても、アプリを作るのにお金がかかる時代になってきていることを感じました。「kurashiru」でレシピ動画に注力することを決定してから、70億円の調達資金はすべてテレビやウェブの広告に費やしました。競合環境が激しくなっている昨今、スタートダッシュを決め、マーケットシェアを先に奪うことが何より大事になりつつあります。競合が多ければ多いほど、「アプリは安価に参入できる」という考え方は、今はもう通用しないでしょう。
小泉:
去年1年間で一番変化が顕著だったのは、やはり仮想通貨です。2017年の初めこそ誰も言及していませんでしたが、年末にはさまざまな人が仮想通貨の話をしている。仮想通貨の影響はアプリビジネスにも影響を及ぼしてくると考えられるので、注意深く観察する必要がありますね。
シン:
最近では中国市場が伸びる一方で、中国のIT企業の多くが日本に流れ込んできています。現在日本で人気の「荒野行動」や「THE KING OF FIGHTERS '98 ULTIMATE MATCH Online」の提供元は中国のIT企業です。
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シン:
また、近年のゲームアプリ業界は、"お金がお金を生む"、「資本集中型」の産業になりつつあります。「ゲームで稼いだお金を元手に、ゲーム以外の事業を始め、そこでまた収益を上げる」という新たなビジネスモデルが出来上がりつつあります。

--2018年、アプリビジネスで注目すべきポイントはどこにありますか?

堀江:
ここ数年で人びとが"熱しやすく冷めやすい"状態になったことを感じます。コンテンツが増え刺激が多く、強くなる一方で、それに飽きるスピードも速くなっている。アプリを作るときには、世の中がどんな刺激を欲しているのか、先回りして提供することが求められます。
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堀江:
また、スタートダッシュに成功したとき、次に考えるべきは「中長期的にアプリを使用してもらうにはどうすればいいか」です。ユーザーが飽きず、ほどほどの熱量を持ってもらうための"刺激のコントロール"をすることは非常に大事になってくるのではないでしょうか。
小泉:
いま、若い人たちのあいだで"テキスト"を使わず、動画や写真、スタンプで会話を簡略化するコミュニケーションが増えてきています。メディアに関しても同様のことが言えるでしょう。図や画像、動画など、「kurashiru」のように直感的に理解できるメディアは目立っていくと感じています。
堀江:
テキストや画像に比べ、動画はグローバル展開しやすいのも強みの1つです。僕自身、最終的にグローバルで勝負したいと考えたときに、コミュニケーションに障壁のない動画メディアを選びました。

また、ただ動画を撮るだけでなく、オリジナルコンテンツは一定のフォーマットに沿った形で作るようにしています。フォーマット化することで、海外展開時の翻訳作業が簡便化されるためです。

■ジャンルの制覇へ、次なる挑戦は?経営者たちが語った今後の展望

アプリビジネスを様々な角度から切り込んだトークセッション。最後に、各人の今後の展望を伺った。

渋谷:
私たちが創業した2011年頃は、単なる"ダウンロード数"よりも本質的な"アクティブユーザー数"や"起動回数"に着眼したデータを提供していました。それらは当時、ユーザーの行動を読み取ることに関して時代を先取っていたからです。

しかしこれからの時代は、アプリが中長期的に利用されるための、より深くユーザーの行動を観察したKPIが必要になります。膨大なデータを武器にそのKPIを突き止めたいですし、最終的にはスマホアプリの分析に関して、日本の皆さんに頼ってもらえるような会社にしていきたいですね。
シン:
今後のアプリビジネスは、勢いのある中国と、日本、そしてアメリカによる三国志のような様相を呈していくのではないかと思っています。そのような状況下で勝つために必要なのは、スピードです。今後テンセントはさらなるグローバル化を目指し、スピード感を持ってインドやヨーロッパに深く参入していきます。
堀江:
delyを、世の中で来ている"波"を的確にとらえられる会社にしたいです。そのためには、1つのプロダクトで"一発"を狙う業態では長続きしません。社員の育成にもしっかり力を入れ、会社として健全な状態を作ることが重要だと思っています。言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、この当たり前を出来ている会社は少ない。コンスタントに勝負を積み重ねていく中で、何回か大きく勝てる。そんな"強い組織"を作っていきたいです。
小泉:
僕らがここまで成長する過程において、「やろうと思えばできる」と思うことがたくさんありました。選択肢は無限です。しかし、それらすべてを実行していたら、成長することはできなかったでしょう。大事なのは"何が必要で、何を求められるか"を見極め、見つかった一点にフォーカスすることです。今後もその姿勢を貫いていき、みなさんに良いプロダクトを届けていきたいと思っています。
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セッションを終えて

セッションの中で、スタートダッシュを成功させたアプリの次なる課題として、中長期的な利用を促進するUXの提供が挙げられた。アプリが増えれば増えるほど、ユーザーの流動性は増す。今後、アプリを提供する企業がどのような施策でユーザーを確保するのか。激しい競争の中から生まれるイノベーションに期待したい。

取材・文:半蔵門太郎

長野県佐久市出身。千葉大学では文化人類学を専攻。
テクノロジーやインターネットの影響で様々な「境界」がなくなっていく動きに関心を持つ。
Twitter:@hanzomontaro

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