私たちは、「ゲーム観戦」に熱狂する。今夏から公式に「スポーツ」となるeスポーツ業界は、既存の業界をどう変える?--新団体「JeSU」副会長・浜村弘一氏 

2018.02.28 18:00

2018年2月7日、アプリ分析ツール「AppApe」を提供する株式会社フラーは、1年間で著しい成長を遂げたスマホアプリを表彰する「AppApeAward2017」を開催。今回は同イベント内の「アプリマーケットセミナー」で行われた、株式会社Gzブレイン代表取締役社長の浜村弘一氏による講演「拡大する世界のeスポーツ市場と日本市場における展望」をレポート形式でお送りする。

e-sportsの市場規模は拡大の一途をたどっており、2018年内には950億円を突破すると見込まれている。日本は2018年2月に「一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)」を設立し、世界に遅れを取らぬよう、e-sports振興へ一層力を入れていく予定だ。

同団体の副会長に就任した浜村氏。ゲーム業界を創世期から見守ってきた同氏の言葉は説得力があり、e-sportsによりこれから訪れるゲーム産業の変革と発展を予感させた。

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浜村弘一氏
株式会社Gzブレイン代表取締役社長、ファミ通グループ代表

1986年、ゲーム総合誌『週刊ファミ通』(当時は『ファミコン通信』)創刊から携わる。 『週刊ファミ通』編集長に就任したのち、株式会社エンターブレイン 代表取締役社長、 カドカワ株式会社 取締役を経て、現職。現在もファミ通グループ代表として、 さまざまな角度からゲーム業界の動向を分析し、コラムの執筆なども手掛ける。 著書に『ゲームばっかりしてなさい。-12歳の息子を育ててくれたゲームたち-』ほか。

■オリンピックの種目候補にもなったe-sports。その勢いは日本の法規制をも脅かすか

娯楽の定番として挙げられるPCゲームやテレビゲーム。欧州を中心に、それらを「本気」でプレーし、賞金獲得を目指す「e-sports」が勢いを増している。e-sportsの市場規模は、2018年内にはグローバルな市場規模が1000億円に差し迫ると発表された。

更に、今夏にインドネシア・ジャカルタで開催される第18回アジア競技大会では、公式導入を見越したe-sportsのデモンストレーションが開催される。

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「AppApeAward2017」で行われたセッション「激動するe-sports、2020に向けた戦略とは」

世界のe-sports市場がいわゆる"スポーツ"に劣らない盛り上がりを見せる一方で、ゲーム大国であったはずの日本は遅れをとっている。そうした現状は「定量的な数値を見ても明らかだ」と浜村氏は説明する。

浜村弘一氏
(以下、浜村):
e-sportsと聞くと欧米に人気のイメージですが、最も市場が大きいのはアジア。更に、e-sportsにおける本場「メジャーリーグ」は韓国です。そんななか、日本の市場規模は世界の5%に満たない状況です。かつて日本はWii、PlayStationなどの家庭用ゲーム機をはじめ、ハード・コンテンツ制作においては"ゲーム大国"でしたが、e-sportsでは存在感が乏しい。

e-sportsの特徴は、派手な演出とプロゲーマーたちのハイレベルな技術が飛び交う大会。この大会における賞金額の差分を見ても、日本と海外の差は明確だ。2017年、国内外で行われた代表的な賞金付き大会を紹介する。

【海外】
① Dota2
大会名:The International 2017
主催:Valve
開催地:米国・シアトル
賞金総額:約30億円

② League of Legend
大会名:2017 League of Legend World Championship
主催:Riot Games
開催地:中国・北京
賞金総額:2.4億円

【日本】
①モンスターストライク
大会名:モンストグランプリ2017
主催:株式会社ミクシィ XFLAGスタジオ
賞金総額:5000万円

② ShadowVerse
大会名:RAGE Vol.5
主催:CyberZ
賞金総額:1000万円

日本はPCゲーム市場が大きくないことや、"参加費を徴収し、賞金制大会を開催する"ことで「刑法賭博罪」に抵触するなどの法規制がe-sportsの発展を妨げてきた。しかし海外の盛り上がりは、日本の法規制を動かすほど大きく、熱量を帯びている。海外での盛り上がりを象徴する最たる例がオリンピックだ。

国際オリンピック委員会は、東京の次の開催場所となるパリ大会でのe-sportsの導入に関して、以下のような声明を出している。

「競争型の"e-Sports"はスポーツ活動とみなすことができ、伝統的なスポーツの選手に匹敵する強度で準備やトレーニングを行うことができる」

競技としての導入を見越した、かなり踏み込んだ発言だ。オリンピックでe-sportsが導入された場合、日本でも法規制が見直され、「e-sportsが盛り上がる『土壌』が作られていくのではないか」と浜村氏は指摘している。

■家族で楽しむものから、「若者の青春」に?e-sportsの影響に企業はどう対応するか

e-sportsは、"スポーツ"であると同時に"ゲーム"でもある。e-sportsの隆盛はスポーツとゲーム双方の業界に影響を及ぼす。とりわけゲーム業界で、その影響は顕著になってきている。

これまで日本のゲーム市場は家庭用ゲーム機が主流であったが、e-sportsの影響もありPCゲームが市場を賑わせ始めているという。毎年開催される「東京ゲームショウ(以下、TGS)」で行われたユーザー投票が、その影響を物語っている。

浜村:
TGSでは「フューチャー部門」と題し、来場者の投票でその年のゲームソフトのベスト10を選定するイベントがあります。2016年までは家庭用ゲームが覇を争っていましたが、2017年にはPCゲームがランクインしました。それが『PUBG』。世界大会も行われ、大きな盛り上がりを見せているソフトです。それ以外にも、ベスト10のうち4本がe-sportsとして大会が開催されているソフト。e-sportsは、すでに人々の嗜好にも影響を与えています。

さらに、任天堂が2017年に販売した「NintendoSwitch」の購買層は、e-sportsの影響を受けているという。

浜村:
従来、任天堂のソフトの購買層は男女比が1:1、かつ10代と40代を中心に購買層が多い「フタコブラクダ型」の傾向が強くありました。親子で楽しむゲームソフトを中心に販売していたからです。しかし、大人気ソフト『スプラトゥーン』がe-sportsの種目として盛り上がると、男性、かつ10代20代で多く購入されるようになりました。歴史のある任天堂で購買層が変化したことは初めてで、いかにe-sportsの影響を物語っています。

■e-sportsの新専門団体「JeSU」。コンテンツメーカーと協働し、倍速で世界を追いかける

2018年2月1日、e-sportsの盛り上がりを背景に、日本eスポーツ連合(JeSU)が設立された。これまでゲームメーカーや競技大会の運営者ごとに分かれていたe-sportsの3団体が統合。これから大会やプロゲーマーを効率的に一元管理していく。

さらに、コンテンツ制作を行うゲーム会社が加盟する一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CECA)と日本オンラインゲーム協会(JOGA)も協力。これまで、海外ではe-sportsとゲームメーカーが協業することは例がなかった。IPホルダーの力強いキャッチアップにより、プロライセンス制度の創設や高額の賞金大会の開催、育成機関の充実など、国内の認知度向上を目指す。

体制が整い、日本国内でe-sportsの普及への「土壌」を作る布陣は整った。JeSUが最初に着手することとはなにか、浜村氏はこう語る。

浜村:
まず目指すのが、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟です。日本国内でスポーツとして認可してもらうことで、国内のプロゲーマーの地位が向上する。今夏にインドネシア・ジャカルタで開かれるアジア競技大会への日本選手団派遣を目指しています。

e-sportsの普及へ、JeSUは第一歩を歩もうとしている。セッションの最後には浜村氏がこれから目指す"e-sports像"が語られた。

浜村:
いまe-sportsを中心に動いているお金は、スポンサーと広告収入がほとんど。野球やサッカーと同様の収益構造です。ゲーム産業は今までゲームを「プレイする層」からお金をもらう構造でしたが、更に下のレイヤーの「プレイする人を見る層」が生まれ、どんどん市場が拡大していきます。

この「見る層」を開拓するためには、プロゲーマーのスターを誕生させなくてはなりません。私たちJeSUはプロゲーマーが競技に集中できるよう、プロライセンスの設定、競技大会の普及、育成環境など、環境の整備を進めていきます。今後、世界のトッププレイヤーが生まれ、日本中がe-sportsで盛り上がっていけばいいですね。

将棋も囲碁も、スポーツも、はじめは単なる「遊び」だった。しかし、遊びだからこそ人々は自由に熱狂し、突出した才能を持つモノを認め、資金を提供するようになった。「遊び」は昔から人々を惹きつける大きな魅力を持っている。

ドローン、VR、ともするとけん玉まで。多様化する社会は、新旧問わず単なる「娯楽」を「仕事」へと変化させる。ゲームはその端緒に過ぎない。懐疑的になっていては、時代においていかれる。これからの世界を楽しむために必要なのは、あらゆる才能を認め、一緒に盛り上がっていくことだろう。

取材・文:半蔵門太郎

長野県佐久市出身。千葉大学では文化人類学を専攻。
テクノロジーやインターネットの影響で様々な「境界」がなくなっていく動きに関心を持つ。
Twitter:@hanzomontaro

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