アートとビジネス、テクノロジーの関係を考える「アルスエレクトロニカ」レポート

2016.10.17 17:15

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「Press Conference: Highlights of the 2016 Ars Electronica Festival credit: Ars Electronica / Robert Bauernhansl」

テクノロジーを用いたアート作品に触れたことがある人なら一度は耳にしたことがあるイベント「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」。1979年から始まり、毎年秋にオーストリアのリンツ市で開催される、アートとテクノロジー、ソサエティー(社会)がキーワードの世界的なフェスティバルだ。2016年には、日本人では真鍋大度、落合陽一、サザエbotが受賞するなど日本とも縁が深い。

重要なイベントということは知られているが、リンツまでは距離があり、なかなか実情を知ることは出来ない。そこでここ数年参加している「さわれるインターネット(Embodied Virtuality)」をテーマとするweb制作会社ユニバのCEO菊地玄摩氏に、今年実際に足を運んだ手応えとここ数年の変化を伺った。

小室哲哉氏・脇田玲氏の「アルスエレクトロニカ」での挑戦を追った10/16放送分の見逃し配信はこちらhttp://cu.ntv.co.jp/sensors_20161016/)から。

■多様な人を混ぜ合わせるオープンなイベント

--ここ数年通っている菊地さんから見て、アルスエレクトロニカはどういったイベントですか?

菊池:
僕自身はweb制作会社の人として、毎年フェスティバルの期間中にインスピレーションを得るために、技術的に新しい領域やアートと技術が隣り合う領域で何をしてるのかを期待して見に行きます。アルスエレクトロニカはアーティストに向けたハイコンテキストなものだけではなく、地元の一般の人から海外から来た僕ら、そして研究者、エンジニア、起業家など、多様な人を混ぜ合わせるオープンなイベントということが非常に面白いと思っています。

--アートとテクノロジーが結びついた展示作品が多いのですか?

菊池:
フェスティバルの特徴は、美術館のように作品を並べて展示するより、出来事を紹介するフレームや作品の評価の仕方が並んでいるように思えます。同じ作品でも置かれた場面によって意味が出てくることを重視しています。

また展示だけでなく、アーティストが自分の活動を語るシンポジウムもあります。受賞者のプレゼンテーションや、社会問題のディスカッションもあって、美術館に作品を見に行くようなモードだけでは消化しきれないと思います。

アルスエレクトロニカ自体、「アート」「テクノロジー」「ソサエティ」を同時に探求していくテーマがあって、アートだけの一軸のディスカッションはないです。科学者、政府関係者、企業関係者などがシンポジウムに登壇して、常に立場をミックスをしています。

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「A sea of flowers credit: Florian Voggeneder」

--リンツ市内に各所にある会場はどういった場所ですか?

菊池:
僕が行き始めた5年前はアルスエレクトロニカセンターという施設が中心となっていましたが、ここ数年顕著なんですがリンツの街中に広がっています。同時多発的に各所で出来事が起きるので、事前に準備しても全部は見られない。今年は電車で移動しながら散らばったものを集めるほど広がって規模も大きくなっています。そして意図的に美術館に集約して見せずに街中で行われています。

--それは自然に社会との接点を見出させる意図があるんですか?

菊池:
そうだと思います。同じテーマの作品でも置かれる場所が違えば、意味が変わります。 例えば、一昨年は銀行のホールを借りてディスカッションをする試みがありました。それはアーティストや観客含めて影響があり、普段銀行として使われている場所を意識してプレゼンするので例えばお金のことを意識せざるを得ない。そういった効果も狙ってか文化センターや現代美術館だけでない会場であえて行う試みがあって面白いですね。

■デジタル制御の新しい可能性をどう扱うか

--今年のイベント全体のテーマはありましたか?

菊池:
今年のテーマは「ラディカル・アトムズ、そして、私たちの時代の錬金術師たち」。ラディカル・アトムズという考え方を提唱したMITメディアラボの石井裕さんもフェスティバルにいらしていました。空間に直接浮かびながらデジタルで制御できる物質など、 ディスプレイを超える、デジタル制御の新しい可能性をどう扱うかというテーマだと思います。

錬金術師という怪しげなワードも入っています。歴史的には錬金術そのものが成功したとは言えないかも知れませんが、その後の科学の基礎になりました。いまの時代、将来へ向けた実験は誰の手によって試みられているか、というような意味になるでしょうか。このテーマは、受賞作品にももちろん関連していると思います。

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「Can you hear me? / Christoph Wachter (CH), Mathias Jud (CH) credit: Christoph Wachter, Mathias Jud」

--今年の受賞作品や注目された作品を教えていただけますか?

菊池:
全体で5部門あり、コンピュータアニメーション部門、インタラクティブアート部門、デジタルコミュニティ部門、U-19部門(19 歳以下向け)、伝説のメディアアーティスト(VISIONARY PIONEERS OF MEDIA ART)があります。「Can you hear me」というプロジェクトが、インタラクティブアート部門の最優秀賞作品でした。

このプロジェクトは、アメリカ国家安全保障局 (NSA) のベルリンの拠点近くにあるスイス大使館屋上にWi-Fiのアクセスポイントを置いて、Wi-Fiの電波を発信します。アクセスポイントの名前は自由に決められるので「Hello NSA」 などのメッセージが表示でき、NSAの人がアクセスポイントのメッセージを見てくれるかもしれないという作品。Wi-fiを飛ばすことは自由なのでグレーゾーンを扱っています。日本でもイベント会場に行くと、ふざけたWi-fi のアクセスポイント名が出てきますよね。それを逆手にとった政治的な意味合いを持った作品です。

--他に興味を持たれた作品をお聞かせください。

「Fairy Lights in Femtoseconds: Tangible Holographic Plasma (SIGGRAPH)」
菊池:
落合陽一さんの作品「Fairy Lights」が受賞していました。レーザーで空中に絵を書いたものを触るとプルプル動く作品です。これが今年のフェスティバルのテーマの文脈の中で、どう評価されていたかということが大事だと思います。
「Smart Atoms 」
菊池:
関連するものとして、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの2014年にスタートしたプロジェクト「Spaxels」があります。これはドローン3機を飛ばして、その中の一機を持って動かすと連動して残りの2機も動く。これによって実際は見えない三角形の辺の線が空中に見えてくる。リアルタイムにフィードバックがあると、空中でドローンがつながっているように信じてしまうという、今までになかった感覚が得られるデモです。

ここ数年はスクリーンの中で行われていたバーチャルなことが少しづつ現実に出てくる世界観があって、落合さんの作品が評価されているのもそういう流れと関連していると思います。純粋に光を手で干渉できるもので、これが進化すれば複雑な絵を空中に描けて直接触ることができる。そうなった時にどういう世界を想い描くかが今年のフェスティバル全体の関心なのかなと思います。

--今年のプレゼンテーションで面白いものはありましたか?

菊池:
Spaxels をやっているフューチャーラボのホルスト・ホートナーさんによるバーチャルリアリティ(VR)とオーギュメンテッドリアリティ(AR)のプレゼンテーションが面白かったです。VR はバーチャルをより現実らしくしていくアプローチ、AR は現実の中にバーチャルらしいものを作っていくアプローチ。その2軸のどちらから攻めるかが現在の解釈です。このプレゼンテーションでは、どちらが起点かは関係なく混ざり合ったもの、つまりミクストリアリティ(MR)として捉えていたことが興味深かったですね。

イベント全体のディレクションとして、今までのアイデアを改善することよりも、今までにスポットが当たっていないアイデアをどう見せるか、それに気づいて面白いと思えるかがあります 。例えば「Can you hear me」のように、普段接しているWi-fiの見せ方を変えて、当たり前だと思っていたことに別の方向から考え直すことがアルスエレクトロニカならではの視点です。

--アルスエレクトロニカのトレンドは社会・テクノロジーの変化とどのように結びつけて考えられていますか?

菊池:
身近なところでいうと最近の日本では、渋谷でアルス関連のイベントが行われたり、日本の企業や広告代理店もリンツに来訪しています。ヨーロッパでは、研究機関とも繋がっていてこれまでCERNという素粒子物理学の研究所との結びつきが強かったですが、現在はもっと広がって天文学の研究所などより広い科学者のネットワークとも繋がってきています。これは、アート作品やプロジェクト単位でたまに関わるという関係性でなく、戦略的に科学者や企業とパートナーシップを開拓しようということだと思います。

昔は最新のテクノロジーが高価で研究所などの限られた場所でしか手に取ることができなかったのですが、今はテクノロジーが普及して一般化するとともに進化する技術が多くなりました。スマートフォンにしても、 オープンソースのソフトウェアにしても、インターネットそのものにしてもそうです。

そのように民間企業がビジネスのために技術的なイノベーションを起こす状況となりました。そこでこそアートは役に立たなければいけないし、 サイエンスも最新の知見が必要だと彼らは思っています。自動運転など新しいテクノロジーが出てきた時に、技術にどう向き合って人間側がどう動いていくかを考えていく場でもあります。

アルスエレクトロニカは、アイデアやメンタリティ、考えるフレームなどの種をばらまき続けて、社会に適応していくテクノロジーを見出しています。目標を達成すれば終わるという作品ではなく、人類全体にとって重要なを変化をもたらす進化は何かということを問うていると思うんです。それがあることによってみんなが気づいたり面白いと思うことを見せていて、みんなの問題として提示している。 毎年その布石を打っているので、僕はそのインスピレーションの種となるものを見に行きたいと思って参加しています。

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「DRONE 100 - Spaxels over Linz credit: Martin Hieslmair」

--最後にアルスエレクトロニカのここ数年の変化を聞かせてください。

菊池:
個人的には、ここ数年は少し目に見えづらい部分が多く感じていたんですが、今年になって一気にテーマの流れが見えてきました。私がアルスエレクトロニカに行き始めた頃は、3Dプリンタが出始めて、スマートフォンが普及した時期で、モビリティーやソーシャルで物事を解決することの新規性がテーマとなっていました。現在は技術の新規性が下がってきて、技術を使って我々がどうするのか?人間側がどう変わるのか?というテーマに移行しています。

デジタルファブリケーションなどが一般的に普及した状況で、高価な制作費でなく現実的なコストで誰も使えるものとしてテクノロジーを提示することだったり、技術的にドローンを一気に飛ばすということではなく、飛ばした上で何が表現できるかということが重要になっています。そしてみんなスマートフォンを持って常時オンラインになったことが当たり前の状況で、さらに一回りしてつながらないことをどう考えるかとか、今何ができるかという新しい段階に差し掛かっています。

「新しいテクノロジーが当たり前になった状況の新しさ」に対して、どう向き合っていくかということで、今年は「ラディカル・アトムズ」というテーマが選ばれたと思います。異物としてのテクノロジーではなくて、テクノロジーが日常に入りこんだ状況で何をしていくかが面白い。アートやテクノロジーが社会に置かれた時にどう考えるか、そういう瞬間が体験できるイベントだと思っています。

--ありがとうございました!

取材・文:髙岡謙太郎

たかおかけんたろう: ライター / オンラインや雑誌で音楽,カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。

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