「町を編む」ニットアーティスト・宮田明日鹿が、"デジタル・ファブリケーション"の先に見据えるもの

2016.03.08 12:30

名古屋を拠点に活動するテキスタイル、ニットアーティスト・宮田明日鹿。「宮田編機」を主宰する宮田さんは、家庭用電子編み機を改造し、今までになかった手法で表現活動を行っています。「YouFab Global Creative Awards 2015」で審査員特別賞を受賞した作品「町を編む」では、岡山県の町の記憶を、写真を媒介に「編み物」に落とし込みました。家庭用編み機という古いテクノロジーをもってして、デジタル・ファブリケーションの先端で活動する宮田さんにお話を伺いました。

宮田明日鹿さん:テキスタイル、ニットアーティスト。家庭用編み機研究家。

■"家庭用編み機"と"写真"で町の記憶を編み込んでいく

戦後、昭和30年頃に全盛期を迎えたと言われる"家庭用編み機"を用いて宮田明日鹿さんはアーティスト活動を行っています。昨年発表した作品(プロジェクト)「町を編む」は、岡山県倉敷市玉島という由緒ある町を宮田さんが実際に二ヶ月間滞在する中ワークショップ形式で制作されました。

「町を編む」制作プロセス

住民の方への取材を通して、80代の女性の方の幼少期の思い出や当時のお話を尋ねたといいます。地域に住む方に思い出の写真を拝借し、自らも風景の写真を撮ることで町の記憶の輪郭を収集。それを素材に"記憶"を編み物に織り込んでいったのが「町を編む」というわけです。参加型の作品制作を通じて、「編み機が、コミュニケーションのツールともなる機械であったこと」を実感したそうです。

玉島の住民の女性。この方が着ているピンクのワンピースもよく見ると幼少の頃の古い写真が柄の元になっている。

ーー写真と編み機を掛け合わせるというのは、どういったきっかけで始めたのですか?

宮田:
"家庭用編み機"をはじめて知ったのが2011年頃で、ちょうどファブラボ(FabLab)が日本に入ってきた頃だったんです。ちょうどFabLabJapan発起人でもある慶應義塾大学の田中浩也先生にも出会う機会がありました。それから海外の動向も調べてみると、どうやら編み機を改造することで面白いことができそうだと思ったんです。

ーーデジタル・ファブリケーションに出会われてから、テクノロジー的な面も意識的に学んでいったのですか?

宮田:
私はファッションとテキスタイルの学校を卒業したので、まったくのアナログ人間。なので、電子系、メーカー系の協力者を探していました。それでも見つからなかったので、仕事を辞めてニット(編み物)の旅に出ることにしたんです。編み機を持って、ドイツを拠点にヨーロッパに旅に出ました。

■いつかドイツの村を編んで恩返しをしたい

2012年の冬、ドイツ・プファルツ(Pfalz)地方にある小さな村で住み込みで働きながら、ニットのデザイナーやアーティストに会うという生活が始まったそうです。

宮田:
住んでいたのはべルリンから車で約10時間くらいかかる人口もほんの数千人の小さなクラウセン(Clausen)という村。日本人というかアジア人が珍しかったのか、なぜか私が名誉村民になったんです(笑)。ど田舎でプレゼントも買えなかったので、持参した編み機でプレゼントを作ったりしました。ここに8ヶ月滞在した後、ベルリンに移動しました。
ベルリンに「ETIB(Electronic + Textile Institute Berlin)」という編み機専用のスタジオがあるんです。ここを運営しているビクトリアという女性が編み機オタクで、日本では見たことのないような型も含めて20台くらい編み機を持っているんですね。驚きました。

クラウセン(Clausen)を離れる前にサプライズパーティーを開いてくれたコーラス部の方々。

現在構想しているプロジェクトは岡山県倉敷市で行った「町を編む」をドイツ・クラウセンで行うことなんだとか。

クラウセン(Clausen)の風景。周りは緑と山々に囲まれている。

宮田:
ドイツも日本と同じく第二次世界大戦の敗戦国。なにか同じ情景が浮かび上がってくるのではないかと思っているんです。私は村のコーラス部に入っていたのですが、そこで70〜80代のおじいさんおばあさんにとても良くしてもらったんですね。なので、このプロジェクトを通じて恩返しをしたいと考えているんです。

■"編む"を通して思い出を可視化する表現がしたかった

ーー作品の中で「写真」が重要な構成要素となっていますが、これは自分の中のテーマに設定しているのですか?

宮田:
「町を編む」前の作品のコンセプトは「時を編む」でした。思い出というのは自分の中で刻一刻と変化していくものですが、それをこの手法で可視化して表現できないだろうかと思ったんです。あえて写真の解像度を下げているので、見える情報/見えない情報がハッキリと分かれて、全く違う絵になるのがすごく面白い。

例えば、この柄は何に見えるでしょうか?これは実は、美術館の作品の下に付記してある説明書き。普段は意識することさえないものほど、作品にしてみると見えてくるものがあるのだとか。

宮田:
今はスマホがあるのでいつでもどこでも写真が撮れます。それこそSNSには膨大な量の写真が溢れている。あえて時間をかけて写真をニット(編み物)に落とし込む行為に意味があるのではないかと思うんです。解像度の閾値を変えたり、同じ柄でも糸を変えることで見せ方を変えることができる。見せ方次第でまだまだ可能性はあると思っています。

ーー作品を見た方はどういった反応が多いですか?

宮田:
よく「ポップアートっぽい」と言われるのですが、実は写真の解像度を落としているだけなんですよね。見る人によって解釈が変わる自由がまた面白いというか。一度テレビでプロジェクトが取り上げられたのですが、「自分も昔使っていた編み機をみて懐かしく思った」という70代の女性の方々が見にきてくださりました。一見すると現代アートのようでいて、編み機というメディアを介することでたくさんの年代の方に共感していただけるんですね。

■電子編み機は古くて新しいツール、その道の第一人者を目指して

宮田:
今後はアーティストとして電子編み機をツールにするだけではなくて、パフォーマンスとセットで自分を表現していきたいです。今はデジタル・ファブリケーションの潮流にも目を向けつつ、家庭用編み機やテキスタイルの歴史を勉強しています。家庭用編み機は日本でできた機械なのに、ヨーロッパのようなユニークな用途で使われることがなかった。アーティストやデザイナーが活用することで必ず面白い使い方ができる古くて新しいツール。少し恥ずかしいですが、その第一人者になっていきたいなと思っています。

今年の作品「手工3D印字机 ~馬毛篇~」。馬の毛をあえて手で編みこんでいくことで、24時間という膨大な時間がかかった。完成した時には「3Dプリンターになったような気持ちがした」のだとか。

デジタルが志向するのは、何も効率性や利便性だけではありません。アナログと掛け合わせることで、"歴史"や"思い出"といった抽象的な時間を"形"として表現することもできるのです。自分が家庭用編み機で表現を始めた場所である、ドイツの村をいつか"編み"たいという彼女のプロジェクトには今後も注目でしょう。
なお、今月19(土)-20日(日)、note et silence.京都店にて「宮田明日鹿「KnitGraphy」ワークショップ」が行われるそう。お近くの方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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