「エイベックス・ベンチャーズ」仕掛け人に聞く"エンタメ特化CVC"の狙い~小室哲哉、松浦勝人らが審査員を務めたピッチレポート

2017.05.12 10:00

エンターテインメント領域に特化したCVC「エイベックス・ベンチャーズ」がついに本格始動。エイベックス・グループ代表・松浦勝人氏も自身のブログで度々ベンチャーズに言及するなど、同社の期待の高さもうかがえる。先月にはエイベックス・グループが持つさまざまな事業と幅広くコラボレーションできるスタートアップ7社による、公開プレゼン「avex Enter-Tech Pitch」を開催した。今回は当日の様子に加え、仕掛け人の一人であるエイベックス・ベンチャーズの西島英教氏にCVC立ち上げの経緯やイベントの狙いについて話をうかがった。

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ピッチに登壇したスタートアップ7社、審査員(エイベックス 代表取締役・松浦勝人氏、小室哲哉氏、経営共創基盤・塩野誠氏)、ピッチの司会を務めた鈴木貴歩氏、エイベックス・ベンチャーズの西島英教氏。

■エイベックスとのオープンイノベーションに向け、集ったスタートアップ7社による「avex Enter-Tech Pitch」

エンターテック(Entertainment × Technology)領域を中心にVR、ブロックチェーン、ファッションテック、ウェアラブルデバイス、女性起業家などバリエーション豊かな7社のスタートアップが集った「avex Enter-Tech Pitch」。 

日本においてはエンタメに特化したCVCであるということも珍しいが、今回のピッチで注目したいのは各スタートアップがエイベックス・グループの持つアセット(事業、サービス、アーティストなど)を生かした協業プランを持ち込んできていることだ。また、ピッチ会場にはエイベックス・グループの社員が多数詰めかけており、単なる投資にとどまらず、社を巻き込んだオープンイノベーションを起こしていくことへの強い意識がうかがわれた。ピッチイベントでは同社代表取締役・松浦勝人氏、小室哲哉氏、塩野誠氏(経営共創基盤)が審査員を務めた。 

エイベックス・ベンチャーズや今回のイベントに関しては、代表の松浦氏が自身のブログで何度か言及しているように、肝いりの企画であることがうかがえる。特に下記のブログでは、起業家としての自身のこれまでや会社の成長を振り返りながら、今後の展望、そしてエイベックス・ベンチャーズへの期待を語る。

エイベックスは、レコード会社が中心になり、著作権を管理するために音楽出版社をつくり、ライヴをやるためにライヴ運営会社をつくりというように拡大し、自前の音楽インフラを築くところまできた。

すべてはレコード会社を支えるためだった。ところが、音楽を取り巻く環境の変化に対応していくにつれ、レコード会社中心の構図から変化して、自社の音楽インフラがどんどん強く、大きくなっていった。

社長に就任して以来、どこに出口があるのかと、いつも考えてきた。

だったら、音楽インフラを開放して、骨のあるやつを見つけて、資金を支援し会社をつくらせ、新しい音楽をどんどん世に送り出してもらう。

アーティストを抱えるのではなく、投資をする。引用:「GOETHE 5月号 素人目線より 僕が投資すべきビジネス」より

■仕掛け人が語る"エンタメ特化型CVC"立ち上げの経緯と狙い

今回のピッチイベントを契機に、「エイベックス・ベンチャーズ」は本格始動した。その仕掛け人の一人である西島英教氏にそもそもエンタメ特化型のCVCを立ち上げた訳、イベントの狙い、今後の展望について話を伺った。

--まずはじめに、「エイベックス・ベンチャーズ」を立ち上げた意図をお教えください。

西島:
CDセールスの減退や若者のテレビ離れ。この4〜5年、これまで従事していたタイアップ楽曲の広がりに限界を感じ始めていました。ある折、アメリカの「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」へ視察に行く機会があり、そこで「音楽とテクノロジーが良い形で連携することで、ヒットが生まれるかもしれない」というヒントを得たんです。

そこから少しずつテクノロジーやスタートアップと触れ合う機会を持つようになり、より一層「音楽×テクノロジー」の必要性を強く感じるようになりました。つまり、音楽を世の中に広く届けるためにスタートアップが持つ新しいテクノロジーや想像力を生かしていくべきだということです。

最終的にエイベックスがベンチャーキャピタル事業を始めることを会社に提案するわけですが、「VC」という概念をアドバイスしてくれたのは、SENSORS MEMBERでもあり、「エンターテック」という言葉を提唱されているParadeAllの鈴木貴歩さんでした。「エンターテインメントに特化したVCはほとんど存在していないので、勝機があるのではないか」。2015年から本格的に「エイベックス・ベンチャーズ」の設立へ動き始めました。

--今回のピッチイベントの狙いを教えてください。

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西島:
当然、起業家や他のVCの皆さんに当社の存在を認知していただくというイベントの狙いもありました。一方で、当社はさらなる飛躍に向けた「avex group成長戦略2020」を掲げ、変革期にあります。そんななか、当社グループ社員へも会社が積極的なチャレンジをしているということを感じてもらいたかったという狙いもありました。

--今回のピッチに登壇したスタートアップ 7社はどのように事前選考されたのですか?

西島:
「エイベックス・ベンチャーズ」はエンターテインメント領域に特化したVCですが、そもそもエンターテインメントに特化したスタートアップも多くは存在しないという認識を持っていました。そこで当社単独で候補となるようなスタートアップをソーシングするのではなく、他社VCの方々に当社設立のご紹介も兼ねて、ピッチイベント開催の案内をし、エイベックスからの出資や事業提携に興味があるスタートアップを広く募集させていただいたんです。

先ほど社内に向けたアピールというお話もさせていただきました。今回は僭越ながら、VRやウェアブル、ブロックチェーンまで様々なジャンルに分けつつ、当社の既存領域と協業が考えられる企業に絞らせていただきました。

--イベントを終えられて、具体的に協業(あるいは出資、買収)は進みそうでしょうか?

西島:
イベント終了後のネットワーキングでは、数多くの当社の社員が起業家の皆さんと名刺交換やアイデア交換をしていましたね。あれほど多くの社員が起業家を取り囲む光景は正直、運営スタッフ含めて想像もしていませんでした。手前味噌ながら、「みんなチャンスやヒントを求めているのだな」と感じ、とても嬉しかったですし、やって良かったと感じましたね。エイベックス・ベンチャーズからの出資の話はもちろん、われわれも掌握できないほどに、各子会社・事業部のなかで様々な協業の話が進んでいます。

■VR・IoT・ブロックチェーンからスポーツ・インフルエンサーマーケまで、多彩なスタートアップによるピッチ

「avex Enter-Tech Pitch」に集ったスタートアップ7社は、それぞれが限られた持ち時間のなかで、会社、プロダクト、エイベックスとの協業プランについてアツいピッチを行った。今回は各社のサマリーをお届けする。

①「InstaVR」(登壇者:芳賀洋行氏)

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世界10,000社以上に導入されているVRアプリ作成ツール「InstaVR」。ウェブ、iOS/Androidアプリ、Gear VRアプリ、HTC Viveアプリなど様々なVRプラットフォームにワンクリックで配信することが可能だといい、低コストでVRアプリを素早く簡単に作成できる。エイベックスとの連携に関しては、「エンタメにおけるライブ講演数を無限にすること」を提案した。

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審査員を務めた小室哲哉氏は自身が携わるプロジェクトぜひ連携したいと好反応で、「今年9月、ウィーンで行われる『アルスエレクトロニカ』に間に合いますか?」とすぐにでも協働したい姿勢を見せた。(ピッチ終了後の、授賞式で「InstaVR」は小室哲哉賞を受賞)

②「STYLER」(登壇者:小関翼氏)

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以前SENSORSにも登場している、小関氏がCEOを務める「STYLER」はファッションテック分野のコミュニケーション・プラットフォームだ。Amazon出身でもある小関氏が開発する「STYLER」は、「撥水性があって、オンオフでも着られるグレーのコート」といったファッションアイテムへの抽象的なニーズを書き込むことで、アパレルショップ側から希望に沿った提案を受けられ、イメージに近いものが見つかるという仕組みになっている。エイベックス所属のアーティストにサービスのアンバサダーになってもらうことで、海外への事業拡大を加速させていくことを提案した。

③「Coupe」(登壇者:竹村恵美氏)

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今回のピッチでは唯一の女性起業家であった竹村恵美氏がプレゼンした「Coupe」は美容師とサロンモデルをつなぐマッチングサイト。ミレニアル世代にとって最も"ドヤれる"アルバイトであるというサロンモデルの倍率は35倍という高倍率だといい、質にこだわりながらサロンにモデルを提供しているという。現在、5,000名の美容師が登録し、2,600サロンが利用中。インフルエンサー事業にも乗り出しており、エイベックスと協業することでCoupe発のタレントを生み出していきたいとのことだ。

④「ookami」(登壇者:尾形太陽氏)

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スポーツエンターテインメントアプリ「Player!(プレイヤー)」。リアルタイム性に重きを置いた設計思想で、1964年の東京五輪以降変化がなかったスポーツの観戦体験をアップデートすることを目指しているという。アプリを通じてリアルタイムの速報データが届き、ユーザー同士のコミュニケーションを取ることで、ライブの臨場感を体験できる。エイベックスとの協働として、①エイベックスが抱えているアスリートをライブコメンテーターに起用する、②チケット流通プラットフォームとして「Player!」を活用する、③ライブ配信の共同開発を通じて、新たな映像配信の課金システムを作るの三点を提案した。

⑤「クラスター」(登壇者:加藤直人氏)

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ひきこもりを加速するバーチャルルームアプリ「cluster.」。仮想空間においてバーチャルの部屋を作成することで、最大数千人で仮想空間を共有できる。すでに「cluster」α版を用いたトークショーは実施済。今後の展開として、パブリックビューイングの会場で世界中の人と360度のライブ体験を提供していきたいという。VRによるライブイベント体験、エンタメビジネスを革新する上でエイベックスと協働できることを示した。(ピッチ終了後の、授賞式で「クラスター」は松浦勝人賞を受賞)

⑥「Orb」(登壇者:仲津正朗氏)

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独自の分散型台帳技術に基づき、提供されるコミュニティ通貨プラットフォーム「orb」。最先端技術の活用により、今までとは異なるDRM(Digital Rights Management)の開発に取り組もうとしている。従来までは著作権管理業者とコンテンツ配信業者がDRM技術を提供し、中央集権的にサービスが運用されてきた。DRMの仕組みを非中央集権型に変革することで、2次創作や新楽曲作りを促し、不用意な海賊版の粗製乱造を防ぐ方向に持っていきたいのだという。

⑦「BONX」(登壇者:宮坂貴大氏)

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アウトドアにも最適なウェアラブルトランシーバー「BONX」。音楽や通話といった機能に加え、最大の特徴になっているのはグループ通話がボタン操作なしに行えることだ。つまり、アクティビティを共にする仲間と雰囲気や感情まで全てを共有できる。エイベックスが持つ音楽関連のアセットやノウハウを、スポーツアクティビティIoTに結びつけることで、全く新しい体験が創出できるのではないかという提案を行った。 

「avex Enter-Tech Pitch」の参加を通じて感じたのは、「エイベックスベンチャーズ」がCVCとしての投資機能に留まらないということだ。イベントに参加したエイベックス社員の多さ、熱気、スタートアップとの積極的な交流。「エイベックスベンチャーズ」をハブとして、社内を大いに巻き込みながら、オープンイノベーション誘発しようという狙いがうかがえた。イベント終了後から早速、協業への具体的な動きが加速しているとのこと。エンターテインメント業界で確固たる地位を築くエイベックスが、テクノロジーに強みを持ったスタートアップとタッグを組むことで、"エンターテック"の先進事例が生まれ出てくることを期待したい。 

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体でライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

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