『¥マネーの虎』仕掛け人による実写版『天才バカボン』--バラエティー20年のキャリアを活かしたドラマ作り

2017.01.06 09:00

1月6日(金)夜9時から日本テレビ系列で放送される金曜ロードSHOW! 特別ドラマ企画『天才バカボン2』。上田晋也、松下奈緒らが出演。昨年3月に放送され、話題になった『天才バカボン~家族の絆』に続く第2弾だ。

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このドラマの演出・プロデューサー栗原甚は、1993年の入社以来、約20年間、バラエティー番組を手掛け、2013年6月よりドラマ制作へ。バラエティー制作時代は『伊東家の食卓』『ぐるナイ』などでディレクターを担当し、その後、企画・総合演出として『¥マネーの虎』をはじめ、『あややゴルフ』『中居正広のザ・大年表』など、今までにない人気バラエティー番組を数多く生み出してきた。『¥マネーの虎』は日本での放送終了後、世界中にフォーマット販売され、英BBC(Dragons'Den)や米ABC(SHARK TANK)など、世界30ヵ国で放送中。番組販売を含めると、世界184の国と地域で放送されている。
特に、アメリカ版『¥マネーの虎』(SHARK TANK)は、2014年・2015年・2016年の3年連続で【エミー賞】(CREATIVE ARTS EMMY AWARDS)のリアリティ番組部門(OUTSTANDING STRUCTURED REALITY PROGRAM部門)で「最優秀作品賞」を受賞。この他にも、世界中で賞を受賞している。
バラエティーからドラマへという異色のキャリアを持つ栗原に、そのキャリアを活かしたドラマ作りの"こだわり"について聞いた。

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栗原甚(写真左)

■ヒット番組=制作者のモチベーション×出演者のモチベーション

--まずは、ドラマ『天才バカボン』シリーズがスタートした経緯について教えて頂けますか?

栗原:
実は、上田晋也さん(くりぃむしちゅー)が「バカボンのパパによく似ていると言われるので、天才バカボンをドラマでやってみたい!」という強い想いから始まっています。2014年の夏、上田さんから「これまで色々なテレビ局や広告代理店に相談したけど、映像化の許諾が取れなかった...」という話を聞きました。それで「だったら、僕が聞いてみましょうか?」と答えたのが、そもそものスタートです。正直、最初は映像化の大変難しい作品だと思ったので躊躇しましたが、自分の中で"完成形をイメージできた"ので、その後、企画書を作り、原作者に会いに行きました。

--これまで実写化が難しかったという状況の中、なぜ実現させる事が出来たのでしょうか?

栗原:
まず最初に、原作者に電話で問い合わせした際に「今までにも数多くのドラマ・映画・CMなど、映像化のオファーを受けているが、すべて断っている」と言われました。なぜ今まで実写化されなかったのか?簡単に言うと「ナンセンス・ギャグマンガなので、実写化は不可能だ」と原作者が考えていたからです。 特に『天才バカボン』は「赤塚不二夫の代表作なので、とても大事にしたい!」という原作者の想いもありました。
そこで僕は、ドラマ版『天才バカボン』は、自分の「最大の武器」(20年間バラエティー番組を作ってきた経験)を発揮すれば必ず成功する。つまり、ドラマ版『天才バカボン』は、僕にしか作れないドラマだという企画書を持参し、プレゼンしました。他局を見渡しても、20年間もバラエティー番組を作り続け、その後、全くの畑違いのドラマ班に異動し、ドラマを作っている人間なんていません。非常に珍しい経歴なんです(笑)。
具体的な提案としては『天才バカボン』のドラマ化にあたって、「しっかりと"笑い"の要素を盛り込みたい」と伝えました。でも、"笑い"って...とても難しいです。センスも必要です。どんなに面白いギャグマンガでも、そのまま映像化してしまうと、全く面白くありません。マンガだからこそ面白いこと、ドラマだからこそ面白くできることを精査し、作っていかなければなりません。
僕は、バラエティー番組をたくさん作ってきて、"笑い"ほど難しいものはないと実感しているので、実は、原作者には「しっかりと"笑い"の要素を盛り込みますが...ナンセンス・ギャグは、一切やりません!」とも伝えています。 たぶん、それでOKが出たのではないでしょうか(笑)
ちなみに『天才バカボン』は、僕らよりも上の世代の方に愛され、馴染みのある作品なので、「年配の方にも満足頂けるような作品にしたい」、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のような「古き良き、昭和の家族像を描きたい」とも伝えました。

ただ思い返すと、上田さんの「やってみたい!」という強い想いがあったから、僕や制作スタッフは頑張ることが出来たと思います。やはり番組は、制作者のモチベーションはもちろん、出演者のモチベーションが高くないとヒットしません。『¥マネーの虎』がヒットしたのも、番組出演者(志願者vs5人の虎)のモチベーションが高く、真剣だったからです。ただ単に僕は、出演者を本気にさせるための仕組み(番組システム&撮影現場の雰囲気)作りをしただけです。「志願者」と呼ばれる「お金を投資して欲しい!」というモチベーションが高い素人と、「虎」と呼ばれる「お金を投資したい!」というモチベーションが高い社長との"出逢いの場"をセッティングしただけです。双方モチベーションが高い同士だったからこそ、番組がヒットしたのだと思います。
ちなみに『あややゴルフ』は「松浦亜弥が本気でゴルフをやる!」『ザ・大年表』は、「中居正広が毎回1つのテーマについて真剣に猛勉強し、池上彰のように解説する!」という企画でした。つまり、僕が手掛けて高視聴率を獲得した番組は、企画自体が出演者の持つ高いモチベーションが必要十分条件になっています。言い換えれば、どんなに制作者が頑張っても出演者が本気にならないと、番組の面白さ&メッセージは、視聴者に伝わらないという事ですね。
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■バラエティー20年のキャリアがドラマ制作に活きた事

--改めて『¥マネーの虎』開始当時、この企画を思いついたきっかけについても聞かせて頂けますか?

栗原:
あの番組は「土曜深夜24:50からの60分枠」として企画募集された際に提出した企画です。僕は、できるだけ具体的な放送枠が決まっている方が、番組を作りやすいと思っています。たぶん誰でも視聴ターゲットが決まっている方が考えやすいのと同様に、何曜日の何時という「放送時間帯」が決まっている方が、「視聴者生理」の面からもアプローチできるので、企画を考えやすいのです。例えば、日曜日の夜と金曜日の夜は、同じ時間でも視聴者が観たい番組は違います。ですから「まず、この時間だとどんな番組を観たいだろう?」という出発点から考え始めます。
当時の土曜深夜は、ドラマ・バラエティー・歌番組など、なんとなく観ることのできる"温度の低い番組"、いわばBGVのような番組ばかりでした。そこで僕は「とにかく"温度の高い番組"を作ろう!」そして「深夜なのに、なんでこんなに熱いんだ!」と視聴者の目に留まるような番組を作ろうと考えました。
ちなみに、僕が番組を作る際にいつも立ち返る事は、ドラマでもバラエティーでも同様で「この人でなければ、成立しない!」というキャスティングをする事です。なぜなら、キャスティングには"必ず意味がある"からです。誰でも良い訳ではありません。もし誰でも良ければ、その番組はどこにでもよくある普通の番組になってしまい、視聴者の目には留まりません。
『¥マネーの虎』でも、やはりそうでした。ご出演頂いた吉田栄作さんは「見届け人」として「志願者」の横に居てもらいたい理想の人でした。理由は、栄作さんご自身も、大きな野望を抱き挑戦し続けていたからです。実際に彼は日本の芸能界で大成功している時に、その地位や人気をすべて捨て去り「ハリウッドで成功したい!」という夢を追いかけて渡米しました。そしてアメリカで皿洗いなどのアルバイトをしながら、ハリウッド映画のオーディションを何度も受けていたのです。その人間性や背景を知り、『¥マネーの虎』にはこの人しかいないと思いました。このように自分も何かに挑戦した経験のある人でなければ、あの『¥マネーの虎』の見届け人は出来ないと思ったからです。野望を持つ「志願者」の気持ちを理解できる男でなければ、あの場に居てはいけないのです。

これはドラマでも同じだと考えています。『天才バカボン』には沢山のキャラクターが登場しますが、僕は、どのキャラクターも、身長・風貌・しゃべり方・雰囲気など、あらゆる面で「この人でなければ、成立しない!」というキャスティングにこだわりました。
言い換えると、僕の中では、上田晋也演じるパパ以外にも、ママは松下奈緒、バカボンはオカリナ、おまわりさんは高嶋政伸さん、レレレのおじさんは小日向文世さんでなければ成立しないのです。どのピースが欠けても、『天才バカボン』は出来ないのです。そして、最後のピースとして残った天才児ハジメちゃん役は、オーディションで決めることにしました。3歳〜10歳までの男の子をオーディションしましたが、理想のハジメちゃんは見つからず...その後女の子を対象に、再びオーディションを始めました。そして日本中の約1,000人の子どもをオーディションした頃、早坂ひららを見つけたのです。そして長い髪を切り、女の子ではなく、男の子としてデビューさせました。それだけこだわれば、ヒットしない訳がありません。その後、ドラマの主題歌をタモリさんにお願いしたのも、まさに「この人でなければ、成立しない!」という僕のこだわりからです。
他局のドラマで「なぜ、この配役なの?」と思うことがよくあります。もし理想のキャスティングでなければ、そのドラマ自体を中止にしないとダメだと僕は考えています。
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--出演者の真剣さや本気度が番組の熱にも繋がるという点を伺ってきましたが、バラエティー制作の経験が、現在のドラマ制作に活きている点が他にもあれば、教えて頂けますか?

栗原:
バラエティーは、最初の3〜5分がとても重要です。"笑い"で言う「つかみ」が大事です。最初のアバンが面白くなければ、その後を観てくれません。つまり、チャンネルを変えてしまいます。ドラマも同じだと思うんです。でも、他局のドラマを観ていると、よく東京の空撮から入ったりするんですよね。なぜでしょう?ドキドキもワクワクもしませんよね?連ドラが始まるとよくこのシーンを観るので、なぜ変えないのかな?と不思議に思います。映画であれば、映画館に入って5分で帰っちゃう人はいないですが、テレビドラマは映画とは違い、つまらないと思われた瞬間チャンネルを変えられてしまうのですから(笑)。
僕は、ドラマでもバラエティーでも、単発番組でも長寿番組でも、自分の中で毎回"新しいテーマ"や"今回やる意味・意義"を明確にして、作るようにしています。それは常にモチベーションを高く保つためでもあります。わかりやすく言うと、「毎回、新しい挑戦をする!」という事です。

今回の『天才バカボン2』では、あの大人気キャラクター「ウナギイヌ」の実写化に挑戦しました。 そして出演者に対しても、"新たな挑戦"をお願いしました。上田さんには、人生初のフィギュアスケートに挑戦してもらっています。クランクインの数ヵ月前から、仕事の合間を縫ってスケート場に通い詰め、練習してもらいました。
天才児ハジメちゃん役の5歳、早坂ひららちゃんには、"英語"の長いセリフに挑戦してもらっています。ちなみに、前回の第1弾では、大人でも難解な経済用語の入った長いセリフを完璧に覚え、日本中を驚かせました。ひららちゃんも、クランクインの数ヵ月前から英会話のレッスンに通ってもらいました。 このように、"新たな挑戦"が加わるだけで、出演者のモチベーションも上がり緊張感が増します。それは、番組に良い効果をもたらします。
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--最後に、今回是非観てほしいというシーンについても教えて下さい。

栗原:
前回の第1弾では、少ししか出演しなかったマツコ・デラックスさんが、第2弾では、物語のカギを握る重要人物を演じています。 また、先ほど話したVFXを駆使した「ウナギイヌ」が大物俳優と"夢の共演"をするので、ぜひ観て欲しいですね。 そして何よりも、上田さんの初フィギュアスケートと、ひららちゃんの英語の長セリフ。 とにかく見どころがいっぱいあるので、楽しめると思います。

金曜ロードSHOW! 特別ドラマ企画『天才バカボン2』は1月6日(金)夜9時から放送。詳しくは公式サイトhttp://www.ntv.co.jp/bakabon2/)にて。前作『天才バカボン~家族の絆』はHuluで配信中だ。

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