「歩く」をクリエイティブで再定義した作品が集結 BAPA3期卒業制作展

2016.09.30 11:45

バスキュールとPARTYが次世代のクリエイター育成を目的に立ち上げた、デザインとプログラミングの学校「BAPA」。9月4日、BAPA3期生の卒業制作展が汐留・日テレホールにて開催された。 「旅するBAPA」と題された今回は東京だけでなく、京都でもスクールを同時開催し、日本各地のクリエイターがしのぎを削った。卒業制作展では、BAPA校長で株式会社PARTYの伊藤直樹氏や、同じく校長で株式会社バスキュールの朴正義氏、さらにはこれまでの東京のみで開催されていた1期2期のBAPAに参加していた卒業生も登場。講演やワークショップに挑戦し盛り上がりを見せた。

BAPA3期に参加したメンバーと講師陣

第3期卒業制作は「日本を歩く」をテーマに東京、京都それぞれのチームが約3ヶ月の期間中に制作した作品を展示の形で発表。テクノロジーの進歩により人間の認識が大きく揺らいでいるとされる近年。もっとも基本的な身体的行為である「歩く」体験の魅力を再発見すること、あるいはそれをアップデートすることを目指した作品たち。このレポートでは作品の紹介と会場の様子をお届けする。

◼クリエイティブの力で、歩く人をどれだけ増やすことができるのか?

BAPA校長である株式会社PARTYの伊藤直樹氏が制作展に先立ち「普段は別の分野にいるデザイナーとエンジニアが一緒になってものをつくることで、新たに化学反応が起きるということがBAPAの醍醐味」と語ったように、会場の多くのチームが普段はデザイナーやエンジニアとしてそれぞれの仕事をこなしながらBAPAの制作に従事している。これまでの卒業生にも、BAPAで業種を超えたコラボレーションを体験したことをきっかけにフリーランスとして活動を開始したり、BAPAで結成したチームで卒業した後にもハッカソンに参加したりするという動きがある。今回3回目を迎え、これまで東京に限られていた機会を広げるべく、京都での同時開催を決定。よりその選択肢を広げることを目指した。
もう一人の校長である朴氏は今回のテーマ設定について、「『クリエイティブの力で日本を歩く人をどれだけ増やすことができるのか?』という問いを投げかけたつもり」と語る。特にデジタル領域でのデザインやエンジニアリング経験を背景に持つ受講生たちが、誰もが当事者である「歩く」ことについて考え抜き、これまで経験したことのないような企画、制作、展示までを短期間で行うことで、これまで自分のいた領域から一歩踏み出す経験を得ることができたのではないだろうか。

BAPA校長の株式会社バスキュール代表の朴正義氏(写真左)とPARTY伊藤直樹氏(写真右)

IngressやポケモンGOを世に送り出し、「歩く」ことの価値を多くの人に再発見させることに関しては大先輩であるNiantecの川島優志氏からも会場に「歩き回ることは創造力によい影響をもたらします。自分の周囲の世界をもう一度見つめ直すいい機会となり、人やものとの出会いが生まれます。」とコメントが寄せられた。

ここからは「歩く」ことの魅力を多角的に考え抜き生み出された、3期生の作品を見ていく 。

◼︎「歩く」ことの魅力を捉えた個性豊かな作品たち

・kyoto Aチーム HANAMACHI POKKURI

京都の街を歩いている時に、舞妓さんに出会う体験はその偶然性も相まって記憶に残るものになる。 そんな京都の風景をデジタル技術でアップデートするというのがこの作品の目的となっている。 「京都の一歩を、うつくしく。」をテーマに、京都の歩く風景である舞妓さんの高下駄"ぽっくり"をデジタル技術でリノベーション。 プロジェクターと360度反射ミラーのコラボレーションによって、舞妓さんが一歩足を踏み出すたびに京の花街をイメージした花柄が足元を光で彩るというもの。

コンセプトを説明するメンバー。

歩くたび内蔵の小型プロジェクターが歩みに合わせて花柄の模様を投影してくれる。

実際に京都の舞妓さんに試してもらったところ、観光に来ていた外国人からの人気が抜群で、写真撮影の申し入れが絶えなかったそう。 伝統的な風景を尊重しながら、そこにデジタル技術で少しだけ彩りを加えることができるということがわかる好例だった。

・Kyoto Bチーム てくてくみっけ

私たちはなぜ歩くのか?歩くという漢字には「少し止まる」という文字が入っている。つまり、あゆみに合わせてゆっくりと進む景色の中に、新たな発見があるとき、私たちは少しだけ歩みを止め、その発見や出会いを噛みしめるのだ。そんな体験を小さな子供の視点で考えたとき、街中の景色はまだ何も知らない子供たちにとって発見の連続なのではないだろうか。そんな想いから作られた色や形を見つけて歩く親子の散歩を楽しくするアプリ。

周囲の身近な景色の中にあるいろを子ども自身の解釈で「みっけ!」することで創造性を育むことができる。

子供達が散歩の中で見つけた色や形を記録し、日記にしていく。 子供が探している様子を動画に撮り日記に載せることもできる。 子供と親のコミュニケーションの一助として、また日記を振り返ることで日々の成長を実感する契機となるアプリケーションだ。

・Kyoto Cチーム KIMONO YOU

京都に古くからある呉服市場の伸び悩みに着目し、新たな顧客として京都を訪れる外国人に着物を買ってもらうことを解決策として設定。外国人の着物需要は実際非常に高水準だが、多くがレンタル着物で済ましてしまう現状を覆すサービスを作ることができないか?と考えていった。 外国人の英語名に漢字を当てるというトレンドを取り入れ、漢字に含まれるイメージを着物の柄に落とし込むことで、世界に一つだけの着物を制作してお届けするというサービスを考案。外国人に着物を着て歩いてもらうことで、日本で楽しく歩く体験を生み出すことを目指したものとなっている。

筆者の名前を入力して作成された着物。
苗字から模様。名前から色。名前の文字数から模様のパターンを決定し
オリジナルの着物を作成してくれる。

会場には実際に染物屋さんで製作したリアルな着物が展示販売されていた。

今回は実際に制作した着物と、注文の際のシステムを展示。web上で自分の名前を入力すると、自動的に当てはまる漢字とそこから想起されるイメージと色を抽出し、着物の柄を決めてくれるというシステムは、日本人の名前で試してみても非常にワクワクさせてくれる。 着物の制作にはかなりの金額がかかるため、今後は手ぬぐいや浴衣など、購入のハードルの低いもののラインナップも揃え、実際のビジネスとして動き出していくという。

・Kyoto Dチーム 京T

街を知る人から説明してもらいながら歩いて行くと、その見え方・感じ方が変わってくるという気づきから、自分が来ているTシャツをガイドにするという奇想天外な発想を実際の製品にしてしまったもの。 GPSと小型スピーカー、さらにはキャラクターの口が音声に合わせて実際に動く機構をTシャツの前面に搭載し、観光スポットに近づくとそのスポットの見どころを、教えてくれる 芸者、千利休、仏といったキャラクターごとに口調や性格が変わり、お好みのキャラクターと一緒に観光ができる

それぞれに個性を持ったゆるいキャラクターがTシャツの前面に大きくプリントされ、その口の部分にはなんとスピーカーと口を動かす機構が仕込まれている。

校長の朴氏も京Tを体験しながら会場を廻っていた。

会場では実際に着て、展示の案内をしてくれるというサービス体験も可能で、幾人ものお客さんが不思議そうな顔をしながら喋るTシャツを着る人を眺めるという光景を見ることができた。

・Tokyo Aチーム Log Play

ライフログとダークデータと呼ばれる、日常の中で無意識に溜まっていくが未だ活用されていないデータをつかって新たなコミュニケーションを生むことを目指したというこのチーム。 「歩く」という人間の生活の中でも意識することがあまりない行為を、Tシャツという自分の所属を表すことのできる表現媒体にあえて落とし込むことで、制作者も想定していないコミュニケーションが生まれるのでは?という意味を込めてデジタル技術を盛り込んだTシャツを制作。

胸の部分に歩数を表示するパネルが仕込まれたスタイリッシュなTシャツだ。

歩数の他にも心拍や聞いている音楽など、普段は決して外に出ることのない人々のライフログを見に待とうという発想が斬新だった。

歩数そのものを数として表示するものから、心拍数を光の明滅によって表すもの。そして歩きながら聞いている音楽を表示できるものなど、そのバリエーションを多く持つことが印象的だった。 「Logを外に出していくという行為自体を提案していきたい」と語るように、人間の生活の中で生み出される一挙一動がまだ見ぬ価値を生むかもしれないと思わせてくれる作品だ。

・Tokyo Bチーム Mori Eat

会場の中でもひときわ目立つブースを展開していたこちらの作品。東京チームが参加した長野合宿の際、森の中を歩きながら、実は知らないだけで、道端には食べられるものがたくさんあるということに気づき、食用可能な野生植物を判定できるアプリを考案。 撮影した写真に映る植物の色と形から、機械学習によってその植物の種類を判定、さらに独自のデータベースを参照しその植物が食べても害のないものかどうかを教えてくれる。

ブースには本物の切り株が置かれ、さながら森の中のような雰囲気を醸し出していた。

切り株の随所に実際の植物があり、アプリの体験ができるようになっていた。

ブースにはメンバーが千葉の森から調達してきたという本物の切り株が置かれ、実際に森の中にいるような環境で食用植物を見つける体験をすることができた。 普段であれば決して想像もしない、道端にある食べられる草を見つけるという体験は、移動とともにただ流れていくだけの景色の解像度を少しだけあげてくれることは間違いない。

・Tokyo Cチーム patternbrerra

「日本人の8割は歩くことが好き」という調査結果と、「日本人の8割は雨の日に外を出歩くことが嫌い」という調査結果のギャップから、「雨の日に歩くことをポジティブにする」というミッションを達成すべく考案された「絵柄が変わる傘」。

実際に使用している人から見える内側にプロジェクションがなされる。
ジャイロセンサーによって傾きを検知し、ユーザーのアクションに合わせて模様が変わるおしゃれな傘となっている。

手元の絵の部分に小型プロジェクターを取り付け、スクリーンに使われている布を傘に張ることで、傘の内側に絵柄を投影することができる。 そしてGPSによって歩いた距離を測定し、その長さによって絵柄を変えることができたり、ジャイロセンサーによって傘の傾き具合に応じて絵柄が移動したりするという、インタラクティブかつロマンチックな傘となっている。

・Tokyo Dチーム つながり万歩計

「一人で歩く時間よりも、二人で歩く時間を大切に」というコンセプトのもと、2つ揃うことで初めて歩数をカウントし始める指輪型の万歩計を考案。実際にカウント数をwebアプリで計測し、手をつないで歩いた歩数によってレベルが上がっていくというシンプルなゲームを楽しむことができる。

2つの指輪型のデバイスを2人が同時につけることで、その間の歩数のみを計測する。

歩数に応じてステージが進んで行く。ゲーム感覚で二人の距離を近づけることができるロマンチックな提案だ。

実際に試してみると、日常の手をつなぐという行為の特別感をより一層増してくれるため、いつも以上にドキドキするという体験ができた。 デバイス自体は非常にシンプルなものでも、「歩く」体験に含まれる要素を見つめ直すことで体験そのものをアップデートすることができる好例だ。身近な人と手をつなぐ口実として、率直に欲しいと思える作品だった。

・Tokyo Eチーム ソルアニ

キレイな歩き方、汚い歩き方、自分の歩き方がそのどちらであるか意識したことがあるだろうか。 実は日本人は自らの歩き方を生活の中で意識することが少ない。そんな人々に対して、このソールアニマル、略して『ソルアニ』は気づきをあたえてくれる。履くだけで自分の歩く際の足の裏にかかる力を計測して、重心の位置から歩き方を判定してくれるのだ。

足にかかる体重の分布を計測してくれる靴型デバイス。

体験者の足の裏にかかる体重から、歩き方の綺麗さを判定。
ちなみに親指の付け根あたり重心がかかる「内側重心」だと綺麗な歩き方になるという。

ソールに生きているかのようなキャラクターを与え、キャラクターが改善方法をアドバイスしてくれるため、これを履くだけで、自然と歩き方も綺麗にしようという気持ちが育まれる。 よりキレイに歩く人を増やすことを目指し、人々の健康を促進するだけでなく、歩くことをより楽しくしてくれるデバイスだ。

・Tokyo Fチーム INDOOR BACKPACK

ひきこもり問題に一筋の光をあてるVRコンテンツ、それが『INDOOR BACKPACK』だ。 「最新技術とアイデアを駆使し、VR技術と家族の愛がコラボレーション」をコンセプトに、VRを使ってひきこもりを解消、外の世界を存分に歩けるように背中を押してくれるサービスとして開発。

VR空間内に登場する美少女と、追いかけっこをしたり、本当に手をつなぎ温もりを感じることができるが、実際は母の手であるという衝撃的な仕組み。

装着すれば、VR空間の中に"バーチャル彼女"が現れ、自然と部屋の中を歩き回って追いかけることになる。 時たまバーチャルな女の子(実際は母)と手が触れ合うといった体験をするうち、気づけば外の世界に出たくなっている、という演出がなされている。 全国のひきこもりの息子さんを持つお母さんへ、これまでになかったソリューションを提供する施策として期待がかかる作品だ。

◼︎ワークショップで現役生に挑んだ卒業生

現役生が作品をプレゼンする最中、会場ではこれまでにBAPAに参加した気鋭のクリエイターがプレゼンの裏で同時進行のワークショップとして「東京を歩く」をテーマにプレゼンベースの作品の制作に挑戦する。 フリーランスとなりますますの活躍を見せる灰色ハイジ氏をはじめとして、PARCOの広告などを制作するアートディレクターのくぼたえみ氏などのデザイナーや、「Days of BAPA」の連載を担当してくれたエンジニアでタレントの池澤あやか氏、SONYでカメラの開発に従事している水落大氏などの第一線で活躍するエンジニアが集結。かつてBAPAで学んだ経験をフルに生かし、現役生に負けないクリエイティビティを発揮した。

テーマは「東京を歩こう」。

全員が、1時間で作り上げたとは思えないクオリティのアイデアとプレゼンを発揮する中で、PARTYの伊藤氏は「誰もが本当にこれを作って世に出すには何が足りないのか、という視点を持っていたということが、BAPAの中で何回も繰り返し言っていたことに通じていて、やはりやってよかったと感じました」とコメント。BAPAの卒業生のなかに根付いたものづくりに対する真摯な姿勢を存分に感じることができた。

◼︎3ヶ月の実りあるスクールもついに終了

世の中にクリエイティビティを育むための学校は数あれど、BAPAのように、企画から制作、さらには展示までを一貫して一つのチームが短期間で集中して取り組むことのできる環境はそう多くはない。今回のスクールを終えた3期生も、ものづくりに対する考え方、とくにチームで一つのものを作ることについて大きな手応えを得ていたようだ。

「始めた当初は時代を先取りしていたけど、今はいい意味で時代に追いつかれてきたということを今回の展示の盛り上がりを見て実感した。つねに一歩先の未来を見据えられるように運営する側の僕らも成長していかなければならない」と朴氏がコメント。さらなるクリエイターの飛躍の場として進化したクリエイティブスクールBAPAの次回開催が待たれる。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

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