「日本一、音のいいスタジアムにしたい」ベイスターズ球団社長が語る音楽へのこだわり

2016.04.14 20:00

プロ野球・横浜DeNAベイスターズ 池田純球団社長に、ライゾマティクス アーキテクチャーを企画演出に迎えた本拠地開幕セレモニーの舞台裏を伺った記事「【プロ野球×テクノロジー】"前代未聞の演出"を!ベイスターズ本拠地開幕戦の裏側」。この取材で池田社長がさらに詳しく語ってくれたのが、「音」へのこだわりだった。

「球団事務所内にはBOSEやJBLのスピーカーなどがある部屋があります。そこで、どのタイミングでどんな音楽を流すかとか、曲のどこを切り取るかとか、大きな音で音楽を聴きながら、職員とみんなで考えています。」と語る池田社長。
「選曲」と「設備」両面で、ライブやコンサート会場のように"音"の面からも楽しめるスタジアムにするべく工夫を積み重ねる、横浜DeNAベイスターズの"音"へのこだわりに迫った。

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■ターゲットの嗜好も加味した選曲の基準

記事「【プロ野球×テクノロジー】"前代未聞の演出"を!ベイスターズ本拠地開幕戦の裏側」で紹介した、本拠地開幕セレモニー。白馬の登場やプロジェクションマッピングなどの印象的な演出のあと、さらに試合前の緊張感を高めてくれたのは、セレモニー終了後、試合前に行われる監督によるオーダー交換の時間。こちらは審判立ち会いのもと行われる、いわば形式的な時間である。

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​(C)YDB

しかし、セレモニー中と同じ照明が落ちた状態で、ベイスターズ・ラミレス監督、巨人・高橋由伸監督にスポットが当たり、メタリカ「Enter Sandman」がBGMとして流れ、グラウンドに登場しオーダー交換を実施。この「Enter Sandman」は、2013年に引退したMLB ニューヨーク・ヤンキースの名クローザー マリアーノ・リベラが登場曲に使用していたことでも有名な、スポーツシーンでは欠かせない一曲と言える。

メタリカ「Enter Sandman」
池田:
ベネズエラ出身のラミレス監督に合う曲を色々と考えていました。昨年までも(球団の応援歌)「勇者の遺伝子」を布袋寅泰さんに作曲して頂いたこともあり、「キル・ビル」の(布袋さん作曲の)音楽「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」を使用していました。

--監督のメンバー表交換中は、あまり音楽を使わない印象がある時間ですよね。

池田:
あの時間も、一つのエンターテインメントになり得るんですよね。ラミレス監督に一番合いそう曲は何だろうと考えていたときに、ちょうど新入団会見があったロマック選手が球団事務所のBOSEのある部屋に挨拶に来てくれたんですね。その時「Enter Sandman」を流していたら、「Oh, good song!」と言うもので、本当はラテン系が監督本人の好みだけれども、じゃあラミレス監督に合うか一回かけてみようとリハーサルをしてみた所、雰囲気が出たので採用しました。その後は続けてFall Out Boyの「The Phoenix」を流して、戦いに挑む雰囲気を演出し、球場のテンションを高めています。
Fall Out Boy「The Phoenix」

野球はイニングの間の攻守交代もあり、「合間」が多いスポーツだ。そんな中、スタジアム内で流す楽曲については一定の判断基準を設けていると言う。その選曲の基準とは。

池田:
我々の戦略ターゲットであったり、実際に来場頂いている方は20代後半〜40代の方が多いので、最近のヒット曲とその方々が思春期だった頃の音楽を大体7:3くらいのバランスで組み合わせるよう意識しています。例えば球場を締めるときの音楽が以前は「蛍の光」だったものを、モトリー・クルーの「Home Sweet Home」に変えたり。THE 真心ブラザーズの「どか〜ん」を、お客さんがフライをキャッチするイベントで使うなど。もちろん日本の音楽もいいものがいっぱいあるので、演出したい雰囲気によって、洋楽と邦楽を使い分けています。
もう一つの判断基準に「5人に3人が知っている曲」というものがあります。全員が知ってるベタベタな曲じゃなくて、ある程度のマジョリティが知っているような曲。「あれ、この曲何だっけ?」と、音楽もツマミにして、野球にまつわるあらゆる要素がツマミとなって、球場に来た人たちの会話と楽しい雰囲気を盛り上げられたらいいなと思っています。

例えば、海外のスポーツシーンでもよく流れるKernkraft 400「Zombie Nation」。この曲は勝ち試合の最後を締めるクローザー・山﨑康晃が自らの登場曲にしており、この曲のメロディに合わせて、ファンがタオルマフラーを掲げてジャンプする光景がおなじみになるなど、選手自身による選曲の意識も高く、それらによる球場が一体となる盛り上がりも生まれつつある。

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​(C)YDB

■横浜スタジアムが上級のエンタメ空間になる可能性

「選曲」とともにもう一つ、こだわっていきたい点として挙がったのが「設備」だ。

池田:
私個人の想いとして、このスタジアムを日本一音の良いスタジアムにしたら、日本にオンリーワンのブランドをこのスタジアムは手にできると思っています。例えば今年スーパーボウルを開催したリーバイス・スタジアムや、MLB ヒューストン・アストロズの本拠地ミニッツ・メイド・パークは、実はすごく音にこだわっています。
リーバイス・スタジアムはBOSEがスポンサーについているのだと思いますが、音響設備がスポーツと音楽という関係においては十分に整っていて、重低音がすごく効いています。屋外なので音は上に抜けていきますが、フェスにいるような屋外で音楽を楽しむ解放感の片鱗を、スタジアムのナチュラルな音響設備が充実していることにより、スポーツエンターテイメントの領域に高めて、お客さんを楽しませている。
ミニッツ・メイド・パークは、どのエリアにいても音が均一に聞こえるようなシステムを組んでいる、とても音にこだわっている球場です。視察に行ったとき社長さん自身に、誰もいない球場で全てのエリアで音を聴かせてもらったのですが、どこにいても聞こえ方が同じなんですよ。その社長さん、有名な方なんですが、その人自身の音に対するこだわりを感じました。

横浜スタジアムは、音のディレイがすごいですし、グラウンドレベルにスピーカーもありません。スピーカー自体も音楽を聴かせるためのスピーカーというより、ものはものとして良いものなのですが、単純に音を出すための業務用に近いスピーカーを何年か前に設置したようです。最近、音楽業界のプロの方にも球場を見てもらったりしているのですが、まずスピーカーを音楽用のものに変えなければ音楽は最適にならない、と。野球は選手の登場曲など至る所で音楽を流していますし、実は音楽の力は、野球の魅力をスポーツエンターテインメントの域に持ち上げるために必要不可欠な要素だと思っていますので、設備面をしっかりと強化しなくてはならないと考えています。
スピーカーを音楽との相性の良いものにして、さらにディレイをなくすための中継のスピーカーとグラウンドレベルのスピーカーを置いて、どのエリアでも同じ音に聞こえる設計と調整をしなくてはなりません。プロの音楽業界の方から、「あそこは意外に分かってるんだよ」と評価されるような音響システムを組んでいかないといけないなと思っています。
また照明も、本当はコンサートなどで使っているようなシャーピーとか様々な照明や光線やらを、あちこちリアルタイムで好きなところを照らせるように出来たらいいですが、今はまだ全部事前にプログラミングしないといけない、融通の利かない照明設備でしかありません。

--今年1月には株式公開買い付け(TOB)で横浜スタジアムの子会社化が完了し、改修や設備追加なども実現しやすくなっていくのでしょうか?

池田:
こういった演出面の設備投資はその費用対効果の測り方が難しいので、誰かの強い想いとかこだわりがないと、「どこから投資していくか」と考えた時に、「すぐには」とはなりづらいと思っています。思い入れを持った人間がどれだけそこに投資をできるか、そういったことが、スタジアムのブランドを創っていくんだと思います。当然、費用対効果も考えなければいけない。その辺りはこれからの大きな課題になると私は考えています。
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​横浜スタジアムTOB時に公開された、球場の将来イメージ図 (C)YDB

野球を見るだけが野球場ではない。音楽を楽しみ、時に歌ったり踊ったりしながら、その空間を野球とひとつになったエンターテインメントとして楽しむ。そんな未来が、すぐの実現は出来なくとも、はっきりとしたイメージとしてあるようだ。

池田:
本当は、音楽と光の力で、もっと盛り上がりを作れるはずです。例えば、野球はルール上、試合中は照明を消してはいけないですが、仮にルールが改正されたとして、勝ち試合の最後を締めるべくクローザーが出てきた瞬間にバンと照明を落として、真っ暗な状態で登場する選手にスポットライトを当てて、中からスモークをたいて、登場感満載で球場全体の視線をそこに集中させて、登場させる。さらにスタジアムの一部に椅子の下から重低音が響くような「超重低音シート」なんかを作って、球場全体もある程度の重低音を効かせて、音楽と光でテンションが上がって、まるでライブにいるのと同じようなエンターテインメントを、野球場で味わえるわけです。

「BALLPARK」という本を作りスタジアムの未来予想図を紹介したのですが、1番から9番まで打者に例えて、スタジアムづくりに重要な要素を紹介しています。実はここにもDHとして「音」を入れています。
横浜スタジアムは傾斜もあり切り立ち度が凄いので、屋外である以上当然上には音が逃げてしまうのですが、切り立ち度が凄い分、音の反響が向かい同士で壁のようになっていて。建設当時はそんなに音のことまで考えて作っていないでしょうから、偶然の産物なのでしょうが、良い感じで3万人の歓声が響きわたって、人の声の一体感が増殖され、独特の雰囲気を醸し出します。さらにそこに音や光をもっともっと有効に演出出来れば、"日本一、音にこだわったスタジアム"を作れる。そうすると野球の試合はもちろん、アーティストのライブのためには更なる音響設備は必要ではありますが、コンサートの聖地のようなスタジアムブランドになり上がって、野球以外の面でもハコとしての存在感を高めることが出来るでしょう。
イメージしているのは同じく切り立ち度が凄い、コロラド州デンバー郊外にあるレッドロックスという野外のライブ会場です。ここは自然の岩に囲まれているのですが、その見た目の迫力はもちろん、音の反響といいますか調和が抜群にいいのです。ここのコンサートの音はものすごいものがあります。生でそこで聴くと震えてしまうほど、「音」の大切さを知らされます。以前はビートルズからローリングストーンズまでライブをした会場です。

野球ファンの間では、急勾配で階段のキツいスタジアムと認識されている面もあるが、そこを逆手にとって「音」を生かす発想の新鮮さと、歴史のある球場を活かしていこうという意志を感じた。そういった環境を活かしながら新たな発想・設備が加わっていくことで、横浜スタジアムが上級のエンターテインメント空間となる未来はそう遠くないかもしれない。

取材:佐々木 聖

SENSORS アシスタントディレクター
1991年・神奈川生まれ神奈川育ち。学生時代から自主映画を制作し始め、2012年からTV番組制作の道へ。情報番組で経験を積み、現在SENSORSでディレクター修行中。映画監督としての活動も続けている。
SENSORSでも「プロジェクションマッピング」や「VR」など映像を扱うネタに関心。

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