【ビョーク×VR】テクノロジーに込めた地球・人間・音楽への愛--「Björk Digital」が実現した理由

2016.06.29 08:30

「Björk Digital ― 音楽のVR・18日間の実験」
ビョークのVR作品展示が6月29日から日本科学未来館で始まる。そのオープニングに先駆けた公開収録とトークセッションに参加した。 当記事ではアーティストでありクリエイティブ・ディレクターとしての才能も持ち合わせるビョークの考えに迫る。なぜ彼女はテクノロジーの進化を喜んで受け入れ、常にチャレンジし続けられるのか?背景には彼女の人間への愛が伺われる。

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© Santiago Felipe

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とても不思議な公開収録に立ちあった。
世界の歌姫ビョークが仮面を着け360度カメラの前で激しく踊り、歌う。その背景には日本科学未来館のジオ・コスモスがプロジェクションマッピングで化粧され君臨する---

これはDentsu Lab Tokyo菅野薫氏が指揮を執った世界初のリアルタイム360度VRストリーミング配信の公開収録である。
昨年3月からビョークとのコラボレーションの機会を探り、アイスランドやニューヨークに打合せに行き企画をあたためたと語る菅野氏と、ストリーミング演出AR/VR、ライティングを手がけたライゾマティクスリサーチ真鍋大度氏、映像演出のP.I.C.S TAKCOM氏と日本科学未来館内田まほろ氏がビョークと行った、熱のこもった60分間のトークセッションの内容をお届けする。

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© Santiago Felipe

■ビョークがテクノロジーを作品に取り込む際の視点

内田:
「ビョーク×デジタル」、最新アルバム『Vulnicura(ヴァルニキュラ)』をVRをステージに作品公開された背景について教えてください。
Björk:
今回の作品を話す前に、前作の話をしましょう。前作『Biophilia(バイオフィリア)』ではタッチスクリーンを使い曲を作りました。そして自然の理論をまず考えそこから曲を作り上げていくというプロセスを得てアルバムができました。今回の『ヴァルニキュラ』は逆の手法を取り、まず曲が出来上がりました。そしてその曲にはストーリーが時系列で存在し、まるでギリシャ悲劇のような作品に仕上がったのです。このギリシャ悲劇的作品をVRで表現するのが面白いのではないか?と思ったのがキッカケです。
新しいテクノロジーを使う時に気をつけなければいけないのは、芯があるかどうか。『ヴァルニキュラ』は物語性が芯として存在したのでVRを使っても良いかと考えてます。
内田:
本日公開収録したリアルタイム360度VRストリーミング配信、この作品をDentsu Lab Tokyoと作り上げたプロセスを教えてください。
Björk:
Dentsu Lab Tokyoとは長い間話をして今回のプロジェクトにたどり着きました。きっかけはジェシー・カンダ監督との『Mouth mantra』MVの口の中の360度撮影に対して彼らが技術面でサポートしてくれたことでした。その時から何か一緒にできないか? とお互い思い話を続けていたところ本日のリアルタイム360度VRストリーミング配信をオーディエンスの前で実施する話を提案してきてくれました。
非常に面白い取組なのでこの新しい体験に相応しい曲はどの曲か?を考えて『Quick Sand』を選びました。なぜならばこの曲は短くて焦燥感を掻き立てる曲だから。 今回はオーディエンスの前でパフォーマンスをするので、パフォーマンスに最適と考えました。そしてライブなので生で歌うことにこの曲の持つ焦燥感と、リズムがストロボっぽいのでオンラインで見ている人にも臨場感を感じてもらえると思いました。

■テクノロジー×エモーション×コネクション

世界初のリアルタイム360度VRストリーミング配信をビョークを招いて実現させたDentsu Lab Tokyoクリエイティブ・ディレクター菅野氏は、 「ビョークにクリエイティブディレクションを受けながら作り上げた」と今回の作品について語る。 ビョークは新しいテクノロジーを使って表現をすることに積極的であると同時に、「そこにエモーショナルなつながりや人とのコネクションがあるのか?」というのを強く意識しながら作品を作られたという。 新しいテクノロジーを使うだけではなく、そこにどのようにエモーションを作るのか?ということを重要視するビョークに、菅野氏が質問をした。

菅野:
新しいテクノロジーを使いながら"エモーショナルなつながり"と"人とのコネクションを築く"を両立させる際に大切にしていることを教えてください。
Björk:
ミュージシャンである以上、人間臭さや"ソウル"をどのように伝えるか?を大切にしています。これは私が音楽活動をする上で昔から変わらない価値観です。 それが生楽器だろうと最新テクノロジーだろうと変わりません。

一つ例を出すと、バイオリンという楽器は300年以上の歴史があるので、人間の感情の表現もバイオリンを使って行えるようになっています。それは長い歴史の中で多くのバイオリニストが試行錯誤をした結果として培われたものです。 今回のアルバムの『ヴァルニキュラ』でも全楽曲の70%程はストリングのアレンジを楽しみました。そしてストリングと触れている時に、「バイオリンは昔のコンピューターみたいなものなのではないか?」と感じました。 バイオリンと同じように現在のコンピューターやVRも、近い将来、人間の感情を伝えるためのノウハウが培われていくと考えています。

この、あるテクノロジーが人間の感情を表現するまでのプロセス、その可能性を探っている現在はとてもエキサイティングだと思っています。 これは初めて火星を歩いた人の気持ちと一緒かもしれません。
考えてみれば電話も100年前に発明された時には『直接人と会わなくてもコミュニケーションできるのか?』と不安視する方が多かったそうですが、100年経ったいまは電話を自然なコミュニケーションとして捉えていたり、それだけではなく、色々と状況や感情によりツールを使い分けています。好きな人とチャットしたり、Skypeで会話したり、母親に連絡する時には携帯メールを使ったり。感情表現をするときにツールを使い分けられるようになりました。

そのような過去から現在を考えると、将来的にはVRも我々の感情表現に近いものが作れると思っています。 人間臭さをどのツールを使ってもどのように感情を伝えるべきか?というのを模索し続けて行くものと思っています。
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■ビョークがコラボレーションする相手に求めるもの

菅野氏と一緒にアイスランドなどにも打合せに行き企画を固めていたライゾマティクスリサーチ真鍋氏は、ビョークのディレクターとしての才能についても触れた。ビョークはプロジェクトを進める際のテーマやビジョンが明確なので、最初からバシッとやりたいことが伝わり素晴らしいディレクションだったそうだ。ビョークの直感でのひらめき、発言がすべて的を得ており貴重な体験をしたと語る真鍋氏はビョークがいままで数多くのアーティストとコレボレーションしてきた経歴について質問した。

真鍋:
ビョークと一緒にプロジェクトをした知り合い全員が「ビョークとのプロジェクトは素晴らしい」と言います。僕も貴重な経験をさせていただきました。 ビョークに質問ですが、今まで様々なアーティストとコラボしていると思いますが、どうやってコラボ相手を見つけるのでしょうか?
コラボレーションする時の考えを聞きたいです。
Björk:
私も今回のコラボはとてもやりやすく楽しかったので感謝しております。
コラボレーションに関しては「衝動的」「直感的」に決めています。
コラボレーションする相手と双方成長できるか?というのを大切にしています。 一緒に成長できない相手は手放さなければならないと考えています。 あとは、純粋に「コラボしたい、一緒にものをつくりたい」という気持ちが大切です。 習慣だから誰かとやる、ではなく、何故この人とやるのか?をちゃんと考え、双方がやりがいを感じられるものでなければならないと思っています。

私には16歳から一緒に仕事をしている仲間がいます。 同時に、短い期間コラボレーションする仲間も沢山います。 どちらも同じくらい良いクオリティのものが作り上げられます。

まさに「生きている」という感覚はこのようなことを言うとおもうのですが、仕事であっても人間感覚と一緒で「この人とだったら一緒に3週間旅行にいってもいいな」と思う人と「この人とはあまり話が弾まないからこれ以上はないかな」と思う人と、直感で分かると思います。 その人間的な感覚を大切にしながらコラボレーションする相手と、相乗効果を作っています。
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■ビョークが語る地球の未来について

トークセッション最後に内田氏からビョークが未来について、そして彼女が大切にする「コネクション」や社会について質問が投げかけられると、ビョークは地球環境について語り始めた。

Björk:
これは私だけの使命ではないとおもうのですが、未来に対して感じていることはみんな一緒だと思っています。 なんとかしなければ地球がどうにかなってしまうというのをみんな感じていると思います。
地球環境に対していままで人間がやってきたことを見つめ直すべきですし、これは政治家だけの問題ではないと考えています。
我々はいま罪の意識が麻痺しているのかもしれません。 自分一人が行動したってどうにもならないよね、という消極的な考えに麻痺されてしまっています。最近の映画は地球がダメになるので火星や他の惑星に移住するような話も多いですが、私はこの地球を捨てずに大事にしていかなければいけないと考えています。 一度ダメになった地球も元に戻せると信じています。

いくつか例をあげますと、昔イギリスは炭鉱が盛んで空気が汚染され多くの方が体調をを崩しました。ですが産業革命まっただ中なので炭鉱をやめるわけにはいかない。みんな諦めかけていたのですが、ある市長が炭鉱はやめよう、という決断をしイギリスの空に青空が戻った話があります。 もう一つの例はニューヨークのハドソン川上流に工場があり川を汚していたので魚が生息してなかったのですが、数年前に工場が停止されると川に魚が戻ってきて自由の女神のそばにクジラがやってきたニュースもあります。もうダメだろうと諦めかけたところにもキッカケがあれば元気な地球に戻せるのです。

私が何故音楽にテクノロジーを取り込むのかというと、テクノロジーで多くのことが解決できると考えているからです。 地球を綺麗にするのに箒や雑巾だけでは綺麗にできないですが、最新テクノロジーを使い頭の良い方々を集めてみんなでチカラをあわせれば、地球も元に姿に戻せると信じています。 テクノロジーが自然と人間、そして音楽と共存することで地球を大切にしていけると考えています。
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テクノロジーを信じ未来を切り拓く視点に、今まで以上にビョークへの親近感を感じた。 同時にテクノロジーだけではなく人間、自然も含めて地球に存在している大切な存在であることを改めて認識したトークセッションであった。

最後に菅野氏から「ライブはテクノロジーの進化によりどのように変化していくか?」SENSORS向けに特別にメッセージをいただいた。 
"音楽はこれまで、音源や映像でレコードされたものの素晴らしさと、ライブパフォーマンスとしてその場にしかうまれないものの素晴らしさは、それぞれが別の素晴らしさを持っていました。VRはそのふたつの体験を結びつける可能性を秘めていると感じています。 今回のプロジェクトからは、VRならではの情報量の多さもさることながら、これまでの映像と異なるビョークの音楽との密接な感情的な結びつきを感じて頂ければと思っています。"
ぜひ18日間のライブ体験を味わいに日本科学未来館にも足を運んでみてほしい。

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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