ユーザーが採掘し続けることで、ビットコインは価値を持つーー仮想通貨から紐解く、ブロックチェーンの仕組み

2019.02.19 18:00

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(左から)上野広伸氏、伊藤佑介氏、齋藤精一、落合陽一、黒田有彩

「ブロックチェーンとエンターテイメントの可能性」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、上野広伸氏(double jump.tokyo株式会社 代表取締役)と、伊藤佑介氏(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)だ。

全3回にわたってお届けする第2弾記事の前半では、「トークンエコノミー」をキーワードに展開されたトークの様子をお伝えする。仮想通貨を軸に生成されたコミュニティを「トークンエコノミー」と呼んでいるが、経済価値以外のトークンを軸に発生するコミュニティもあるのだと、伊藤氏は言う。さらに落合と齋藤からは、ブロックチェーンを活用した新たな取り組みの内容も明かされた。

後半は、上野氏が構想する「俺嫁プロジェクト」をもとに、ブロックチェーンゲームに注目した背景が語られた。「ブロックチェーンゲームは、新しい概念の遊びだ」と話す上野氏に対して、齋藤は「強固なコミュニティ生成ができるブロックチェーンは、熱狂的なファンが集うゲームと相性がいい」と、その思想に共感した。

ブロックチェーンによって生まれる「新時代のコミュニティ」の在り方を、伊藤氏と上野氏の話から、紐解いていく。

ビットコイン保有者たちは、運命共同体。価値で繋がるコミュニティ「トークンエコノミー」

黒田:次のキーワードは「トークンエコノミー」です。伊藤さん、ご解説をお願いします。

伊藤:「トークンエコノミー」とは、貨幣に変わる価値となる「トークン」で構築される経済圏のことです。

インターネットの登場以降、個人間での情報伝達が可能となりました。さらに個人のWebサイトや掲示板ができたことで、インターネット上には「共通の興味や関心を持った人たちの情報共有の場」として、さまざまなコミュニティが誕生しましたよね。そして今、「ブロックチェーン技術がさらに発展すれば、情報だけではなく"価値"を共有するコミュニティが生成できるのではないか」と言われているんですよ。それが「トークンコミュニティ」の概念です。

たとえば、ビットコインを利用する人たちはみんなでその価値を高めあったり、相場が下落した時には一緒にリスクを負ったりする運命共同体のようなものです。このように、トークンによって生成されたコミュニティを「トークンコミュニティ」と呼んでいます。

黒田:経済価値以外の価値を持つトークンもあるのでしょうか?

伊藤:avexさんが昨年設立した子会社エンタメコインさんは、アーティストのファンの「応援量」をトークンにして、ファンのコミュニティを作ろうとしていますね。同じように、経済価値以外の価値があるトークンを作ろうとしている企業さんは、いくつかありますよ。

黒田:落合さん、齋藤さんはどんな時にブロックチェーンを使われているんですか?

落合:複数人で一つのデータベースを構築する際に、ブロックチェーンを活用することが多いですね。うちの研究員がブロックチェーンを使って三次元地図を作ろうとしていて、僕も一緒に論文を書きました。色々な人が360度カメラで撮影した画像を使って、三次元の地図を作るんです。ブロックチェーン上に画像データがあるので、同じ場所で撮影された写真があれば、自動的に最新の写真に更新されるんですよね。

齋藤:僕もまだ実現させられていないのですが、ブロックチェーンを使って「3D都市データ」を作りたいと考えています。さまざまな人が街中で撮影した写真から取得したGPSのタグを、ブロックチェーンで管理して、都市を3Dで再現するんです。ドローン撮影をする人、360度カメラで撮影する人、3Dスキャンをする人など色々な人がいますが、彼らがデータを提供しあって一つの価値を創造していくイメージですね。さらに、そのデータを誰かが購入すれば、新たな経済圏も生まれますよね。

落合:ブロックチェーンで写真を管理する場合、誰かが既存の写真をスクリーンショットしてアップしたとしても、ブロックチェーン上にデータがないから偽物だとすぐわかる。

ブロックチェーンの仕組みは、経済合理性が高い。ユーザーが能動的に動き続けられる理由

上野:昔あったファイル共有ソフト「Winny」をご存知ですか?

落合:ありましたね。

上野:Winnyはピアツーピア通信を使うことで、中央サーバーを介さずに個人間でファイル共有ができるものでした。つまり、ブロックチェーン登場以前にも、中央サーバーなしでのファイル共有は実現できていたんですよね。

では、ブロックチェーンはWinnyと何が違うのか。それは「ユーザーにとって経済合理性がある」点です。Winnyを利用するユーザーの多くは自分の欲しいファイルをダウンロードしたら、ソフトを終了させていました。Winnyはソフトを起動している人たちが媒介となってファイルが共有されるため、ネットワークとしてはソフトの起動数が多い方がいいのですが、ユーザーにとってはずっと起動しているとCPUも食いますし、欲しいものが手に入れば起動し続ける理由はありません。しかし、ブロックチェーンを使った仮想通貨の場合、「採掘」を意味する「マイニング」と呼ばれるプロセスを踏むことで、新しい仮想通貨を得ることができるんです。だから、プロセスを踏み続けた方がお得なんですよね。ブロックチェーンは、ピアツーピア通信とは違って、ユーザーが自発的にアクションを起こし続ける仕組みになっているんです。

落合:昔は「どこのコンピューターにどのファイルがあるか」といった情報を、ピアツーピア通信で調べていたのですが、その情報を持っている人たちへのインセンティブは結構低かったんですよね。でも今は、マイニングを行うことでインセンティブが発生する。だから、積極的にマイニングをしている人たちはそこでお金を稼ぐことができているんですよ。

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齋藤:黒田さんは、ピアツーピア通信を使ったことはありますか?

黒田:あるんでしょうけれども、いまいち分かっていないかもしれません...。

齋藤:たとえば、黒田さんが作曲した曲があって、僕はその曲を聞きたいと思っているとします。僕と黒田さんのパソコンがピアツーピア通信で繋がっている場合、黒田さんのパソコンがオンライン状態にあれば、共有フォルダに曲が格納されて、僕はそれをダウンロードすることができるんです。その時、黒田さんも僕のパソコンに入っている別の曲をダウンロードできるんですよ。そして僕は欲しいものが手に入ったので、インターネット接続を切ります。オンライン状態だとパソコンの動きが遅くなるので。そこに対して、オンライン状態でマイニングをし続けることで儲かる仮想通貨が登場したんです、だから、サーバーを複数持つ人が増えたんですよね。

上野:中国の山奥にある農場に、サーバーマシーンを置いている人もいますよね(笑)。

黒田:マイニングをするのには、すごく電気代がかかると聞いたことがありますが、それでもマイニングをする方が儲かるんですね。

上野:マイニングによってユーザーが得るインセンティブって、サーバー運用費なんですよ。しかし、一万台のサーバーを動かしていたら全てのサーバー運用費が支払われるわけではないんです。ブロックチェーンのサーバー運用費は、宝くじ方式で支払われるんですよ。世界中で動いている何万台ものサーバーのうち、どれか一つのサーバーを運用している人に対して運用費が発生する。多くのサーバーを動かしていた方が当選確率が高いんです。だから一万台ものサーバーが同時に動いているんですよね。それだけのサーバーが動いていれば、同時に止まることはほぼありません。だからデータが半永続的に残っていくんです。

落合:金を掘ることも、ある意味宝くじ型じゃないですか。掘る場所が多いほど、掘り当てる確率が高くなる。

黒田:なるほど。皆さんのおかげで、だんだん理解してきました。

獲得アイテムが現実世界の"所有物"になる。ブロックチェーンゲームで切り拓くゲーム業界の未来

黒田:それでは次のキーワードへ移りたいと思います。「Dapps」です。

伊藤:Dappsは、Decentralized Applications(ディセントラライズド・アプリケーションズ)の略語です。「ディセントラライズド」は「非中央集権的」を意味していますので、先ほどお話ししたように「中央集権的な管理者がいなくても動くアプリケーション」を指す言葉ですね。

従来型のアプリは中央集権的な仕組みで成り立っています。たとえばゲームアプリの場合、開発会社のサーバー上に、ゲームの仕組みがあって、ユーザーはそこにアクセスしてゲームをプレイしています。つまり、ゲーム内で獲得したアイテムは、実際には開発会社のサーバー上にあるんです。しかしDappsのゲームは、文字通りアイテムを所有できるんです。だから、今後は運営元の違うゲーム同士を跨いでアイテムを使うこともできるようになるかもしれません。

黒田:ドラクエで手に入れた剣を、違うゲームで使えるようになるかもしれないんですね。

伊藤:そうですね。ブロックチェーンの中に、各ユーザーのアイテムの所有権が刻まれます。

黒田:それは面白いですね。この内容については、この後上野さんに詳しくお伺いしたいと思います。

黒田:続いては、ブロックチェーンゲーム開発者である上野さんを深掘りするために、上野さんが大切にしていらっしゃる思想や信念などを伺いたいと思います。まずは「俺嫁プロジェクト」について教えていただけますか?

上野:僕は今独身なのですが、「リアルな嫁が見つからなかったらバーチャルな嫁でいいじゃん」と言って発足したのが「俺嫁プロジェクト」です。バーチャルな嫁を作るためにはAIやVRなどの技術が必要で、さらに「自分の嫁」であることを証明するためには、ブロックチェーン技術が必要だと、数年前から仲間内で話していたんです。もちろん"ネタ"ですが、発想自体は面白いと思っていて。ちょうど一昨年仮想通貨界隈がも盛り上がった時に、「まずはブロックチェーンを使ったゲームを作ってみよう」と言って、double jump.tokyoを設立したんですよ。だから、会社の最終ゴールは僕の嫁をバーチャル上に作ることなのかもしれません(笑)。

黒田:初音ミクさんとご結婚された方もいらっしゃいますよね。

上野:ブロックチェーンで客観的な証明を残すことって結構重要なことなんです。バーチャルの女性キャラクターってたくさんいるじゃないですか。だから、「○○は俺の嫁」と言っても、信憑性を担保できない。しかし客観的に管理されているブロックチェーン上に「自分の嫁は○○」と書き込まれたら、事実として証明されるんですよね。

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黒田:なぜ、ブロックチェーンゲームを軸にしたビジネスを始められたのですか?

上野:昔は「日本のゲーム会社はすごい」と言われていましたが、今は中国など海外でクオリティの高い大作ゲームを作っている企業も増えています。そんな中、正攻法でゲームを作ってもグローバルの舞台で戦えないので、新しい技術であるブロックチェーンを使って新しい遊びを作ろうと思ったんです。ブロックチェーンで今までのゲームにあった欠点をカバーすることよりも、全く新しい概念の遊びを提供することに面白みを感じています。

黒田:実際に、どのようなゲームを開発されているのでしょうか?

上野:昨年11月末に「My Crypto Heores」というゲームを出させていただきました。このゲームのコンセプトは「ゲームにかけた時間もお金も情熱も、あなたの資産となる世界」。ゲームにかけたお金や時間をデータとして記録することで、「プレイしたこと」が資産になるんです。そしてMy Crypto Heoresは、ビットコインに次いで世界第二の時価総額を持つ仮想通貨「イーサリアム」をベースにしたゲームです。ですから、キャラクターやアイテムの所有が明確になる。イーサリアムはERC721と呼ばれる規格のもと、トークンを発行しているので我々がゲームを作っただけで、イーサリアム上にエコシステムが誕生したんです。ある意味、クローズドな世界ではあるものの、ゲーム以外の場所でトークンが使えるところが、従来型のゲームとは全く違う点ですね。おかげさまで、今はイーサリアムネットワークの中では、世界一のデイリーアクティブユーザーを誇っています。とはいえ、いわゆるソーシャルゲームと比べるとまだ少数なので、これから伸ばしていこうと思っています。

黒田: 齋藤さんと落合さんは、ブロックチェーンゲームをやられたことはありますか?

落合:友達が、豚を売り買いするゲームを作っていますね。

上野:くりぷ豚(トン)」ですね。

黒田:なんですかそれ。面白そう。

落合:取引するものがユーザーが所有欲求を感じる動物であることと、運営側が消せないものであることに意味があるのかなと思います。「いつか消えてしまう」と思うと、情熱が注げないから。しかし、データベースに「私が持っています」と書かれていることを「所有」と言っていいのかはわかりません。実際に手元にあるわけではないので。

齋藤: 僕はブロックチェーンゲームをプレイしたこもないですし、具体的なタイトル名を聞いても知らないものが多いですね。

ブロックチェーンは、強固なコミュニティを生成するものじゃないですか。ゲームも同様でにアンチがいたり、熱狂的なファンがいたりする。だから、ブロックチェーンを使ったゲームはいつかできるだろうと思っていましたが、いよいよ実装される時代になったんですね。

続く第3記事の前半では、「リアルとデジタルが融合する世界」をキーワードに、上野氏の思想を深掘りしていく。上野氏は「ARが日常的に使われるようになれば、ブロックチェーンの価値が上がる」と話し、近未来における価値観の変化を示唆した。

中盤は「ブロックチェーンのエンタメ業界への応用」をテーマにトークが展開。「支援でコミュニティを作る」ことを売りにして乱立するブロックチェーンビジネスに対し、落合からは「クラウドファンディングでも実現できるものが多い」と厳しい指摘が飛んだ。それに対し、上野氏はクラウドファンディングとブロックチェーンの大きな違いは「オープンエコシステムであること」だと話した。さらに齋藤は、自身が携わるスマートシティにもブロックチェーンが必要不可欠だと話し、新たな技術への期待を膨らませた。

後半は、業界の最前線に立つゲストから「ブロックチェーン業界に必要とされる人物像」が語られた。「オープンエコシステムを築くことができるプランナーが不在だ」と話す上野氏に対し、落合は「パブリックカンパニーの経営者がスキルマッチしているだろう」と意見した。

インターネットに次ぐ新技術として期待されるブロックチェーンは、世界をどう変えるのか。ゲスト、MCの議論から、その可能性を探っていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一の友達は"くりぷ豚"マニア!?ゲスト:伊藤佑介・上野広伸( ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性 2/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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