ブロックチェーンビジネスの鍵は、オープンエコシステムの構築ーー上野広伸×伊藤佑介が語る、エンタメ業界への応用

2019.02.26 18:00

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(左から)齋藤精一、落合陽一

「ブロックチェーンとエンターテイメントの可能性」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、上野広伸氏(double jump.tokyo株式会社 代表取締役)と、伊藤佑介氏(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)だ。

全3回にわたってお届けする最終回となる本記事。前半は「リアルとデジタルが融合する世界」をキーワードに、上野氏の思想を深掘りしていく。上野氏は「ARが日常的に使われるようになれば、ブロックチェーンの価値が上がる」と話し、近未来における価値観の変化を示唆した。

中盤は「ブロックチェーンのエンタメ業界への応用」をテーマにトークが展開。「支援でコミュニティを作る」ことを売りにして乱立するブロックチェーンビジネスに対し、落合からは「クラウドファンディングでも実現できるものが多い」と厳しい指摘が飛んだ。それに対し、上野氏はクラウドファンディングとブロックチェーンの大きな違いは「オープンエコシステムであること」だと話した。さらに齋藤は、自身が携わるスマートシティにもブロックチェーンが必要不可欠だと話し、新たな技術への期待を膨らませた。

後半は、業界の最前線に立つゲストから「ブロックチェーン業界に必要とされる人物像」が語られた。「オープンエコシステムを築くことができるプランナーが不在だ」と話す上野氏に対し、落合は「パブリックカンパニーの経営者がスキルマッチしているだろう」と意見した。

インターネットに次ぐ新技術として期待されるブロックチェーンは、世界をどう変えるのか。ゲスト、MCの議論から、その可能性を探っていく。

リアルとデジタルの世界が融合した時、ブロックチェーンの価値は向上する

黒田:それでは続いてのキーワードに参ります。「リアルとデジタルが融合する世界」。

上野:ブロックチェーンによって、デジタル上のキャラクターやアイテムの所有が証明できるようになりましたが、そこに価値を感じる人は多くありません。しかし近い将来、人びとがその価値に気づくようになると思っています。

今、人びとは当たり前にスマホを使って生活していますが、リアルとデジタルの世界は切り離されて考えられていますよね。でも今後、ARやVRが日常的に使われるようになって、24時間365日スマートグラスをかけて、バーチャル上でペットを飼うような世界になった時、初めてリアルとデジタルの世界が融合すると思います。自分のペットがどこかの会社による貸与品だったら嫌じゃないですか。人間って、ずっと見ているものに愛着が湧く生き物なので。その時に、ブロックチェーンで「自分のペットだ」と証明できることが、大きな価値になると思うんです。

黒田:たしかに、そうですね。

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(左から)上野広伸氏、伊藤佑介氏、齋藤精一、落合陽一、黒田有彩

上野:Twitter上では「パクツイ」と呼ばれるものがあります。2~3年前に誰かが投稿して、RT数が伸びたものをコピペしたもの。あれって、元のツイートも投稿者の発言かどうかは定かじゃないじゃないですか。Twitter上に投稿されたのは初めてだったとしても、実は投稿者以外の誰かが発した言葉かもしれない。でも、Twitter上での初めての投稿が「正」と認識されているんですよね。つまり「事実をデジタルに記録する」のではなく「デジタルに記録したことが事実」となっているんです。だから、今後は自分の発言や発明もデジタルの中に記録して初めて事実として認められるようになるのではないかと考えています。裁判で提出する証拠も、デジタルデータの方が優先されるようになるかもしれません。その時に、「ブロックチェーンに記録を残す」ことが大きな価値になるのだと思います。

齋藤:ヒップホップには「サンプリング文化」があるじゃないですか。「その旋律はどの曲から持ってきたのか」といった内容で裁判が起きることもありますが、文化として容認されている部分もある。ブロックチェーンによって、コンテンツの著作権がしっかりと管理されていくことはいいと思うのですが、そういう文化が無くなってしまうのは残念な気もするんですよね。曲を聞いて「ネタ元」を探すのも、ヒップホップの楽しみ方の一つなので。全ての曲がトレーサブルになった時、何が面白くなるのかが気になります。

上野:トレーサブルになったものを、どう運用するかが大事だと思いますね。

オタク業界を活性化させる「オタクコイン」も。ブロックチェーンはエンタメ業界を盛り上げる

黒田:ここからは、SENSORSスタッフやMCの二人からいただいたキーワードをもとに、ゲストのお二人にお話を聞いてみたいと思います。まずは「エンタメ業界への応用」です。ブロックチェーンは今後、どのようにエンタメ業界で活用されていくのか、教えていただきたいと思います。

伊藤: エンタメ業界でのブロックチェーン活用事例をご紹介します。トーキョー・オタク・モードさんという会社さんは今、ブロックチェーン技術を活用したオタクコミュニティ向けのサービスを開発しています。そして、アニメを愛する人たちが使える「オタクコイン」を発行して、コミュニティを作ろうとしているんですよ。オタクコインは、ユーザーがお気に入りのクリエイターに「支援金」として寄付することができるようにするもの。仮想通貨によるオタクコミュニティの活性化を目指しているんです。

オタクコインが実装されれば、ファンと制作側が一緒に作るアニメが生まれるのではないかと言われています。各制作会社さんの作品を観て、オタクコイン保有者は「良い」と思ったものに投票し、選ばれたものが放映される、といったことも実現するでしょう。

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齋藤: 「支援でコミュニティを作る」ことは、クラウドファンディングでもできると思いますが、何が違うのでしょうか?

伊藤:クラウドファンディングは、一つの作品に対して支援の輪を作ることに特化しています。もちろんそれも重要ですが、オタクコインの場合はアニメ業界全体を活性化させることができるんです。みんながオタクコインを所有していれば、それぞれが好きな作品を支援するために使います。オタクの世界で当たり前に使われるようになれば、オタクコインの価値も上がるんです。

落合: ブロックチェーンサービスの中には、「クラウドファンディングでもいいだろう」と思うものは結構ありましたね。でも、さっき話していた三次元地図のようなものを作る時には、それを構成する画像を撮影したりアップデートしたり、継続的に関わってくれる人が必要となる。ブロックチェーンを使えば、その人たちに継続的にインセンティブが発生するから人が集まりやすいんです。インセンティブをどのように設計するかが重要だと思います。

齋藤:クラウドファンディングのインセンティブは、「Tシャツがもらえる」「作品が先行で観れる」など、単発ですもんね。

上野:クラウドファンディングとブロックチェーンの一番の違いは「オープンエコシステム」であることだと思います。オタクコインは、同じ趣味嗜好を持った人たちの間で価値があるものですから、そのコミュニティ間でビジネスをすることもできる。クラウドファンディングのインセンティブは、流用がきかないじゃないですか。

落合: Makuake、CAMPFIRE、Readyforそれぞれに色があって、各プラットフォームに同じ価値基準を持つ人が集まっていますよね。だから、プラットフォーム内でインセンティブを流用することはできるかもしれません。しかし、プラットフォーム外でも価値を持つインセンティブを付与したいのであれば、通貨のようにみんながフラットに使えるものにしなくてはいけないと思います。

上野:ブロックチェーンゲームにおいても同様です。一つのゲームだけでしかアイテムが使えないとエコシステムが生まれないので、複数のゲームを跨いで使えるようにしなくてはいけません。

齋藤:今の日本では、ヒット作品が生まれにくいじゃないですか。NetflixやHuluなど、サブスクリプションサービスがあるから、ある一定のところまでしかお金が集まらない。でも、オタクコインが普及すれば一つの作品に多数の支援が集まって、ヒットとなることもあり得ますよね。ブロックチェーンは、コンテンツ業界を元気にする仕組みなのかなと思います。

上野: 法定通貨は、各国の法定通貨とやり取りができます。それはそれで価値があると思いますが、仮想通貨の場合は「同じ価値観を持った人が保有している」ことに価値があるんです。

黒田:でも、仮想通貨の価値は法定通貨に換算されて図られていますよね。

上野:今はそうですが、今後リアルとデジタルの世界が融合した時には、法定通貨に換算せずとも、仮想通貨の価値が評価されるようになると思います。

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齋藤:仮想世界で生活ができるゲーム「セカンドライフ」があったじゃないですか。ゲーム内の住人として生きることができるものですが、結局リアルの世界でご飯を食べないと死んでしまうし、トイレにも行きたくなる。そうなると、リアルとバーチャルの融合は不可能なんじゃないかとも思います。

上野:ブロックチェーンのビジネスを考えていると、そういう発想になりがちですね。

落合:デジタル世界だけの経済圏も成り立ちつつあるとは思います。たとえばnote。僕がnoteにアップしたコンテンツに対してユーザーが投げ銭をして、そのお金で僕は他の人のコンテンツを買っています。noteで得た収入は、わざわざ日本円に変えなくても有効に使うことができています。

伊藤:コミュニティごとにトークンを発行できるサービス「fever」を利用した例で、面白い話があります。とある美食サロンに参加している人は、コミュニティ内で得たトークンを使って、そのサロンメンバーの農家の人から野菜を買って、所属するコミュニティのトークンだけで生計を立てているそうなんですよ。

齋藤: 食に対する価値観が同じ人たちが集まっているコミュニティの中に生産者がいたら、その人から買いたいと思いますもんね。

落合:田舎では、近所の人同士でネギと米を交換したりしているじゃないですか。リアルの世界だと、全てをそれで賄うことは難しいけれど、デジタルの世界ではありだと思います。僕がiTunesで聞いている音楽は、僕の本が売れたお金で買っているから、はじめから物々交換をしてもよかったと感じることもありますね。

斎藤: 価値観が一緒の人同士であれば、物々交換は成立しますよね。

落合:価値をデータ化すれば、対等な取引ができますよね。仮想通貨はそのためにあると思います。

黒田:新しい稼ぎ方も生まれて来るのでしょうか?

上野:ゲームの世界でいうと、スキルがなくても稼げる人が出てくると思います。今までは、ゲームスキルの高い人が賞金を稼ぐことができましたが、ブロックチェーンゲームの場合、プレイ中に手に入れるアイテムをやりとりして価値を上げることで稼ぐことができるようになるのではないでしょうか。

齋藤:ブロックチェーンは「通貨の取引が記録されている台帳」だと思われがちですが、「貸し借りの取引が記録されている台帳」なんですね。

上野: 通貨は、貸し借りを数値化したものですからね。それ以上でもそれ以下でもない。

ブロックチェーン業界に必要なのは、エコシステムプランナー

黒田:ブロックチェーン業界で不足している職業はあるんですか?

落合:セキュリティ人材じゃないですか?

上野:技術面ではそうですね。でも、業界全体で不足しているのはプランニングができる人です。ビジネスサイドの人とテクニカルサイドの人はいるのですが...。ブロックチェーンを活用したビジネスを考える場合、一つの組織だけが稼げるようなものではなく、オープンエコシステムを築けなければ意味がないんです。そういった発想を持って指揮できる人がいないんですよね。

落合:パブリックカンパニーの経営者なんかが向いてそうですね。彼らは「人類の経済活動に貢献したい」と思って会社経営をすることで、一つの生態系を作っていますから。

齋藤:今後、ブロックチェーン技術で実現しなくてはいけないのはスマートシティだと思います。個々の企業はゴミ箱にセンサーをつけたり、自転車にスマートロックをつけたりしていますが、それらが連携しないとスマートシティは実現しません。でも、連携するには莫大な費用がかかるので、誰もやらないんです。各企業にトークンを発行して、みんなでお金を出し合ってスマートシティを実装すれば、新たな都市の価値を創造できると思います。

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黒田:それでは最後のキーワードになります。落合さんからいただいた「欲望とブロックチェーン」について、お願いします。

落合:新しい技術は「お金儲けができる」ものでないと普及しないと思うんですよ。でも誰か一人が儲かる仕組みだとみんなが使うようにはならないですよね。かといって、みんなが対等に儲かる仕組みだと、欲望が満たされない。そのバランスについて、お二人はどのように考えていらっしゃいますか?

上野:欲望はどんな世界でも必ずあるものですが、その形は多様です。My Crypto Heroesのユーザーには、1位になることで欲望を満たす人もいれば、アイテムを集めることに快感を覚える人もいます。コミュニティ内の目的が分散していると、エコシステムが回りやすいと思いますね。みんなが同じ目的を持っているコミュニティは、経済合理性が低いんですよ。なので、ブロックチェーンでエコシステムを作る時には、数種類の目的が生まれる仕組みを考えるべきだと思います。

齋藤:その設計ができる人が不足しているんですね。

上野:そうですね。エコシステムプランナーのような存在が不足しています。

齋藤:そうなると、伊藤さんが博報堂ブロックチェーン・イニシアティブでやられているようなブロックチェーン企業に対するサービス支援の需要が高まりそうですね。伊藤さんは、ブロックチェーン業界を今後どのように変えていきたいと思われますか?

伊藤:各企業が別々のベクトルでブロックチェーンを活用したトークンコミュニティのビジネスを起こそうとしているので、その成果を数値で統一的に可視化することが必要だと思っています。例えば、わたしたちが開発して昨年11月にリリースしたトークンコミュニティ解析サービス「トークンコミュニティ・アナライザー」で、「コミュニティが活性化した時に何が起きているのか」をデータで読み取ることで、各企業の後方支援をして、ブロックチェーン業界全体の盛り上がりに寄与できればと思っています。

インターネットの登場以降、人びとの暮らしは一変した。誰しもが情報を発信・享受できるようになったことで、デジタル世界の"ゆるい繋がり"が生まれたのだ。そして今、ブロックチェーンの普及により、同じ価値観を持った人たちで形成される強固なコミュニティが誕生しつつある。信頼のもと、"強い繋がり"で結ばれたコミュニティは新たな道を切り拓く。ブロックチェーン技術によって、人びとの暮らしはより良くなっていくのではないだろうか。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一は和室が苦手!?ゲスト:伊藤佑介・上野広伸( ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性 3/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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