機械と人間の境界を超える体験。Rhizomatiks Research×ELEVENPLAY 新作公演「border」

2016.01.09 13:00

メディアアーティストとして活躍する真鍋大度・石橋素らが率いる「Rhizomatics Research」と演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」の新作ダンスパフォーマンス「border」のプレビュー公演が2015年12月4日から6日の三日間、前作「MOSAIC」に引き続き東京・青山のスパイラルホールにて開催された。

©photo by Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

ELEVENPLAYとは、PerfumeやBABYMETALの振付・ライブ演出などで知られる演出振付家のMIKIKOが「自分たちの表現を追求する場」として主宰し、2009年から活動しているダンスカンパニーだ。2014年と2015年に行われた前作「MOSAIC」において、ドローンを用いたダンス演出で大きく話題を呼んだことは記憶に新しい。毎回の公演においてテクニカルサポートを務めるRhizomatiks Researchも、ELEVENPLAYとのコラボレーションにおいては毎回実験的な試みを多数行っており、いわば双方の全力を垣間見ることのできる公演でもある。

今回は、自らをメディアアート、パフォーミングアーツの文脈の中に位置づけ、常に新しい表現を探求し続けてきたRhizomatiks ResearchとELEVENPLAYの、今回の公演における新たなチャレンジについて考察していく。

◼︎テクノロジーを用いて、"ステージ"という概念を覆す。

Rhizomatiks Researchの名前を有名にした要因は言わずもがな、2010年から行っているPerfumeのライブにおける、プログラミングを軸とした様々なテクノロジーを用いて行う斬新なライブ演出のテクニカルサポートだ。
しかしそこに至るまでには、Nosaj ThingやELEVENPLAY、PerfumeなどのRhizomatiks Researchの哲学に共感するトップパフォーマーを巻き込みながら、パフォーマンスにおいてテクノロジーをいかに用い、それらの効力を最大化できるかという挑戦を次々と繰り返す試みがある。
それはすなわち、毎回の公演において何かしらの新しいチャレンジが行われているということであり、それらは驚きをもって私たち観客に受け入れられる。結果としてRhizomatiks Researchはテクノロジー演出の雄として、多くのフォロワーを生んできた。

特に今回のELEVENPLAYとのコラボレーション「border」では、発表された当初からその特徴的なビジュアルが話題を呼び、ダンスパフォーマンスの公演としては異彩を放っていたといえる。実際に普段ダンスの公演を見に来ないであろう人も多数会場に足を運んでいたのが印象的であった。

そんなRhizomatiks Research × ELEVENPLAYの新作公演における"新しさ"とは一体なんだったのか。
それは「WHILL」と「AR」という二つのテクノロジーを用いたステージ対観客の関係性の再編、また「人間/機械」の境界線を曖昧にする体験にあると言えるのではないだろうか。

©photo by Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

まずはパーソナルモビリティの「WHILL」。これはBluetoothによって遠隔操縦が可能、かつ、24個の小型タイヤがドーナツ状に組み合わさることで、その場回転が可能になり、これまでにない駆動性能を誇る新世代のパーソナルモビリティである。
体験者はWHILLに乗りパフォーマンスを体験することになるのだが、自らの手足をその外に出すことは許されず、動かすことができるのは首と目線だけとなる。つまり観客たちは「見ること、聴くこと」のみを許される。この部分のみにおいては、ホールで行われるような公演で想定されるような、一方的な「ステージ 対 観客」の構図とあまり変わりがない。

©photo by Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

しかしながら電動の車椅子であるWHILLは、無線制御によって舞台のなかを「移動する」ことになる。随所でダンサーの動作に応じてに引き寄せられたり、押し込まれるなどしながら、自らの意思とは別の力によって、観客自身が舞台の上を細かく動き回る。(この際、WHILLの運動性能が遺憾なく発揮される。)
そうなれば自ずと、観客たちの視線も舞台の上を360°動き回ることになる。これは「第四の壁」を前提とするような通常のダンスパフォーマンスではまず考えられない。ここにこれまでに考えられなかった三次元のステージ体験が生み出されていく。

また、唯一観客側に動かすことを許された目線すらも、HMDによってジャックされる。体験者が装着させられたOculus Rift Dk2はVRコンテンツを表示するためのHMDだが、目と同じ高さにカメラを取り付け、HMD内に表示された体験者の目線の先にある視界の映像に3DCG映像を重ねることで、視覚によって認識される現実の世界を拡張することができる。つまり体験者は常に自らの見ている現実を改変される可能性にさらされる。
それに加え、耳をもヘッドフォンによって塞がれるため、体験者が現実を現実として認識するための一切の手立てが奪われてしまうのだ。
このように体験者の視覚や聴覚をジャックし、現実の視界の上にあたかもそれが現実であるかのような虚構を表現する手法は「SR(Substitutional Reality=代替現実)」と言われる。

幾度となく方向転換を繰り返し移動する客席と、現実と虚構を重ね合わせて表示するHMDという一種の「舞台装置」たちによって、観客の自分がどこからその舞台を見ているのかという現実認識がどんどん曖昧になっていく。それこそがこれらのテクノロジーを用いていた狙いなのではないか。

◼︎機械と人間の境界を超える

そんな舞台装置を用いて表現されていたのはいったいどんな主張だったのか。
それは体験者の現実認識を揺り動かし、さらには「機械」と「人間」の境界を曖昧にしていくということだったように思う。

モノクロのワイヤーフレームによって構成された虚構の世界と、カメラによって捉えられる現実の映像が交互に変わっていく。現実の映像の中ではダンサーたちが私たち体験者を導くようにして移動させていく。無機質に躍動する3DCGの世界に対して、ダンサーたちの有機的、かつ十分に訓練されたしなやかな動きは、目の前の世界が私たちが普段目にしている現実であるという思いを掻き立て、体験者たちに安心感を与える。

©photo by Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

©photo by Muryo Homma(Rhizomatiks Research)

WHILLの上から周囲を見回すと、舞台上に置かれた高さ2メートルの直方体の白い箱が常に視界の中にある。現実の映像に映し出される箱と3DCGの中の箱は同じ位置にあるため、そのどちらにおいても箱が舞台の上の自分の位置を確かめる目印となる。しかし突然、現実の映像の中にあるはずの白い箱が変形し、様々な色に明滅を始める。同じようにしてダンサーたちの動きも激しくなり、最終的に現実と虚構の境界線を越えてしまう...

そんな演出の中でふと、序盤のワイヤーフレームで構成された3DCGの世界は、我々人間にとっては虚構にすぎないが、現実にある箱の位置の座標やその他のセンサーから渡される数値を入力され、解析し、出力するコンピュータにとっては、それが現実なのではないか?という思いが頭をもたげる。このステージは、「虚構と現実」というものを「コンピュータが見る現実と人間が見る現実」として捉え直し、私たちの見る現実にコンピュータが介入してくる体験、はたまた私たち自身がその境界線を超え、コンピュータの見る現実に放り込まれる体験を生み出すことが目的だったのではないだろうか。

◼︎コンピュータの見る"夢"の中に迷いこむかのような体験

我々が普段当たり前のように使用しているコンピュータはIntelligence Amplifier、すなわち「人間の知性を拡張増幅する」という考え方に基づいて生み出されてきた。

実生活の中でも、スマホやPCがない世界を想像するのが難しいほどに、我々の周りには人間の知性を外部化したコンピュータが溢れている。我々はいつでも検索することによってweb上から有用な知識を引き出すことができるし、カメラロールを見ればいつどこでどんな景色を見たか、簡単に思い出すことができる。このように、人間が本来持つ機能は次々と機械によって代用され、拡張され続けてきた。すなわち人間とコンピュータは、ある意味では同じつくりをしていて、私たちが気づかないうちに、人間と機械を区別しているものが取り払われてしまう可能性もないとは言い切れない。

この「border」では、終盤に3DCGで作られたスパイラルホールが失われ、コンピュータの見る"夢"の中に迷いこむかのような体験ができる。現実を生きる人間が夢を見るように、休むことなく現実を解析し続けるコンピュータが見る夢があるとするなら、そのようなものなのではないだろうかと思わせてくれる。

以上の考察は、いち体験者の主観にすぎない。本公演の最大の醍醐味は、体験した後に「わけがわからないけど、とにかくすごい」という高揚感に全身を支配されることにある。
2月には、山口県にあるメディアアートの美術館、山口情報芸術センター(YCAM)にて、今回のプレビュー公演にて得られたフィードバックを反映しアップデートされた完全版が公開される。青山での公演を見逃した方はもちろん、体験してその世界観に魅了された方もぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

数々のチャレンジを乗り越え、世界に二つと無いパフォーマンスを生み出し続けるRhizomatiks ResearchとELEVENPLAYの活動から今後も目が離せない。


取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。テクノロジーを用いたアート表現を目下のところ勉強中。Twitter @do_do_tom

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