Ring×Moff×KAGURA〜UXを武器に海外へ挑戦するスタートアップ

2016.03.16 10:00

2月26日に虎ノ門ヒルズにて行われたSENSORS IGNITION 2016にて、「次世代のUXを武器に、世界に挑戦するスタートアップ」と題して、サンフランシスコに本社を置き、JapanNightというスタートアップのためのピッチコンテストも主催するマーケティングエージェンシー btrax.incのCEO Brandon.K Hill氏をモデレーターとして、「Ring」を開発したログバーの吉田卓郎氏、「KAGURA」を開発したしくみデザインの中村俊介氏、Moffの高萩昭範氏が登壇し、日本発・世界に挑戦し評価されるスタートアップの考え方についてトークセッションを行った。

軽快に様々な話題が飛び出した当セッションは前編・後編の2記事に渡ってお届け。前編となる当記事では、ビジネスを行う上での方法論、描くべきビジョン、そしてスタートアップと大手企業の差などについて語られた内容をお送りする。

◼︎ユーザー体験を軸に海外で展開する三社。海外での反応は。

Brandon:
三社ともUX、ユーザー体験を武器にしている会社ですよね。しくみデザインKAGURAもまさに完全に体験型サービスだと思います。どうやって展開していくのでしょう?

btrax.incのCEO Brandon.K Hill氏(撮影:萩野 格)

中村:
考えているフェーズが二つあります。とにかく最初はプロ向けに、KAGURAで演奏ができるミュージシャンを増やす。それが浸透できたら、おもちゃやフィットネスクラブのメニュー化のような広がりを持たせようかなと思っています。

しくみデザイン 中村俊介氏(撮影:萩野 格)

Brandon:
Moffはどのように展開していきますか?
高萩:
アメリカでは他に競合がいないので、ウェアラブルスマートトイという形で展開しています。Moffは腕時計型のバンドの中にモーションセンサーを仕込んで、動かしたらスマホのアプリと連動して遊んだりすることができるものです。Kinectのように体の動きを自由に取ることができるので、独自のアプリケーションと連動して、いろんなサービスを展開しています。昨年はパートナーシップに非常に力を入れまして、昨年の11月にはアメリカの教育テレビであるPBS KIDSと組んで新しいウェアラブル教育コンテンツを開発したり、バンダイナムコエンターテイメントさんと組んでパックマンを使った新しいサービスを始めたりとか、フィットネスクラブと連携して、CESで新しいフィットネスサービスを発表したりしています。

Moff 高萩昭範氏(撮影:萩野 格)

Brandon:
吉田くんは指にはめる形のジェスチャーデバイス、「Ring」を開発しました。KickStarterで一億円以上のファンディングに成功したことで有名です。最近はもう一つ新しいプロダクト、「iliという翻訳機のサービスを作ろうとしていますね。両方とも世界展開をしていて、サンフランシスコにもオフィスを出している。KAGURAもMoffもRingも、海外向けに製品を開発していますよね。実際のところの海外の人たちの反応はどうなんですか。
中村:
僕は英語が全くできないんですが気にせず、なんとかできるという気持ちで外に出しています。KAGURAは楽器にしたいと思っているので、NAMM SHOWという世界最大の楽器のショウに出したりしています。そうすると日本人よりも反応が良いんですよね。
高萩:
弊社はアメリカの方が圧倒的に売り上げがいい。昨年はアマゾンなどのECサイトを中心に販売して、今年から現地のおもちゃ屋さんでも売り始めました。
Brandon:
僕自身プロダクトそのものがセンスいいな、と思っています。腕に巻くバンドは汎用性の高いものをつかっていて、デバイスの部分が専用で作っているものだから、コストがあまりかからないですよね。
高萩:
ハードウェアが汎用に作ってあって、どちらかといえばアプリケーションや、自らアプリを改良できるソフトウェア開発キットに重きを置いています。子供でも高性能なセンサーデバイスを使えるように、ということで作っています。
Brandon:
Ringのユーザーの層は、どの国の人が多いのでしょうか。

ログバー 吉田拓郎氏(撮影:萩野 格)

吉田:
お客さんは一位がアメリカで次が日本、最近は台湾でも使ってもらっています。筐体自体は複雑な工程があるので日本の九州で作っています。

◼︎形のない体験そのものは、どうビジネスになるのか?

(撮影:萩野 格)

Brandon:
MoffやRingはデバイスという実物がありますが、それ以外のマネタイズについてはどのように考えているのでしょうか?
高萩:
今年は色々仕込んでいます。僕らはデバイスありきではあるけども、ハードは汎用で、どちらかというとアプリケーションに重点を置いているということがある。さらには、デバイスを使ってもらうことで蓄積するデータにも目をつけていて、そういう意味でソフトウェアの方にシフトしていますね。
吉田:
Ringはひたすらシンプルにハードで稼ぐぞ、という意気込みでいます。ハードが売れれば売れるほど利益も出てくるので、より生産に重点を置いていくことになりますね。そういう意味では最近のデータ活用とかそういう流れには逆行しています。ビジネスモデルが複雑になっていくのがあまり好きじゃない。シンプルに作ることに集中します。
Brandon:
KAGURAはまさにソフトウェアという感じですが、モバイルアプリでのマネタイズについては?
中村:
ソフトだけでは一定の限界があるとは思っています。ハードがネットに繋がっている方が面白い、という雰囲気がある。
Brandon:
近年のIoTの盛り上がりもそれに付随するものですよね。実際のところ、儲かると思いますか?
中村:
IoTは相当確固たる後ろ盾がないと儲からないと思います。一個一個デバイス作るのにお金がかかりすぎますし、大手企業しかその負荷には耐えられないんじゃないでしょうか。
Brandon:
高萩さんは大手出身でしたよね。
高萩:
そうですね。そういう意味ではIoTは工程が色々複雑だったり、ビジネスのことがよくわかってないといけないな、という気がします。参入障壁も高いのでやっているプレイヤーからするといいことも多いし、そういうモデルを作ったもの勝ちかなという気がする。かなり勝ちパターンが決まっているアプリよりは、有象無象がいて楽しい感じがします。
Brandon:
中村さんはアートとサイエンスと両方やっているエンジニアの博士号を持っていますよね。
中村:
芸術工学の博士号を持っています。本職はデザインの会社なんですけど、ただデザインをするときにあるものを作ってるだけではつまらないので、世の中にないしくみを作ろうということで、しくみデザインという会社を立ち上げたんです。そこでは結果的にデザインのスキルよりはテクノロジーをがっつり動かせるエンジニア寄りの仕事をしています。
Brandon:
Moffにはデザイナーがいないんでしたっけ。
高萩:
デザイナーはいないんですけど、僕自身が2,3年間前からデザイン思考にはまっていて、Moffもデザイン思考とリーンスタートアップの手法をオリジナルで組み合わせて作りました。そういう手法が大好きなんです。ひらめきとか、ロジカルに考えてという手法があまり好きではなくて、どちらかというといろんなところにプロトタイプを作って、それを観察しに行って確かめてステップを作っていくというのが好き。Moffバンドもそういうオリジナルなやり方で作っていました。
Brandon:
ユーザーテストは海外のひとにもやってもらったりしていたんですか。
高萩:
実際のプロトタイプは日本の人だけでした。SXSWのときにある程度形ができたものを持って行って、日本でも海外でも反応に全然変わりがないんだなということを実感したので、海外に持って行きました。
Brandon:
iPhoneはローカリゼーションの必要がとても少ないので、国境関係ないですよね。UIが独自のものだとローカリゼーションって余計なコストになったりする。海外、日本のUIをシームレスに作ることができる都いう点でiPhoneは楽ですね。
中村:
ユーザー体験がどうお金になるか、という話だと、一番最初にKAGURAが評価を受けたのは、アメリカのintelのコンテストだったんです。そこから日本でも注目されたので、最初が外からというのは大きかったですね。
Brandon:
Moffはコンテンツをどんどん売り込む形なんですかね?
高萩:
アメリカで、PBS Kidsというところと組めたのは大きかったのかな、と思うことがあって、ディズニー、ニコロデオン、 PBS Kidsというのが三大子供向けコンテンツブランドなんです。「PBS Kidsと組んでいます」と言うだけで印籠のように使える。なぜ組めたかといえば、ローンチしたその年のデジタルキッズサミットというサンフランシスコのイベントに呼んでもらえて、そこで登壇したら向こうが認識をして、その翌年NYで行われたトイフェアのときに向こうからブースに来てくれて、ウェアラブルコンテンツ教育利用に興味があるということでお話を頂きました

「体験をビジネスに」
一口にそう表したとしても、その手法には様々なアプローチがある。そしてそこにはその手段を用いるにあたっての必然性、確固たる哲学が存在するということがわかるだろう。後編では「モノ-コンテンツ-体験」の関係性や、海外進出の際に突き当たった壁、そして日本と海外では何がどう違うのか等が語られた模様をお届けする。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。テクノロジーを用いたアート表現を目下のところ勉強中。卒論のテーマは「映像表現における日本語の文字の動的遷移の手法とそれに起因する認知の変化の総量について」。専らの興味は「ポスト・ヒューマニズム」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

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