Ring×Moff×KAGURA 海外進出体験談〜UXの重要性・SXSW出展の意義

2016.03.17 10:00

2月26日に虎ノ門ヒルズにて行われたSENSORS IGNITION 2016にて、「次世代のUXを武器に、世界に挑戦するスタートアップ」と題して、サンフランシスコに本社を置き、JapanNightというスタートアップのためのピッチコンテストも主催するマーケティングエージェンシー btrax.incのCEO Brandon.K Hill氏をモデレーターとして、「Ring」を開発したログバーの吉田卓郎氏、「KAGURA」を開発したしくみデザインの中村俊介氏、Moffの高萩昭範氏が登壇し、日本発・世界に挑戦し評価されるスタートアップの考え方についてトークセッションを行った。

軽快に様々な話題が飛び出した当セッションは前編・後編の2記事に渡ってお届け。前編に続き、後編となる当記事では、「モノ-コンテンツ-体験」の関係性や、海外進出の際に突き当たった壁、そして日本と海外では何がどう違うのか、などについて語られた内容をお送りする。

◼︎三社に聞く、売れるプロダクトの秘訣とは?

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(撮影:萩野 格)

Brandon:
ビジネスにおいてUXが価値になってくるという印象はここ数年強く感じています。モノ-コンテンツ-体験の同一直線上があったとして、その体験における比率は確実に大きくなっていて、ハードウェア一つ売るにしても良い「体験」がないと売れなくなってきている。そこで御三方にその生み出し方や、売れるプロダクトの秘訣についてお聞きしたいと思います。
吉田:
一つのプロダクトで経験したことを無駄にせずに、次のプロダクトにもつぎ込んでいます。例えば自分が知っているつもりの技術でも、知らない人の方が多いかもしれないということ。僕のデバイスはBluetoothコネクションを使っているんですけど、Wi-Fiは知っていても、Bluetoothについて知らない海外の人が多くて説明に苦労したことがありました。そのこともあり、スマートフォンにデバイスをつないで行うコンテンツがUX的に煩わしいと感じる人がいるのかもしれない、という感覚が今あります。なので次のデバイスはそういった接続一切なしで動くデバイスを作りました。
高萩:
僕らは、なんでこのプロダクトを作ったのかというメッセージ性を非常に大事にしています。やはりその商品がある理由について、納得してもらうかそうでないかで全然反応が違うので、ストーリーの中でデバイスが必要とされるビジョンを必ず見せています。Moffバンドに関して言えば、子供をもっとアクティブにするためにやっているんだ、なぜなら今の子供たちはアプリとか画面に向かって全然動かないからだ、という話をすると共感してもらえる。結果としてファンになってもらえるということがあります。
Brandon:
確かに、そこに最終的な目標があるのとないのとでは共感してもらえる幅が大きく変わってきますよね。
高萩:
そういうビジョンステートメントは、続けていると世界中で「俺もそうなんだ」といって協力してくれる人が出てきたりするし、派生して新しいニーズが出てくるということもある。最近はMoffバンドを使ってからだとアプリを使った遊びをすることについて、身体障がい者の子を持つご両親、先生から非常に大きな引き合いをいただくことが多くて、自分達でも気づかなかった領域に向かうことができそうだ、ということに気づけます。
Brandon:
KAGURAについてはいかがですか?
中村:
一番最初の着想段階は、僕でも楽器が弾けるようになりたい、というところから始まっているんです。なので「だれでも弾ける楽器にしたい」という目標がありますね。UXという観点から思うのは、実際僕の会社はもう12年もやっていて、全然スタートアップじゃない。13年くらい前にKAGURAの前身を作ったんですけど全然受けなかったし、そもそもパソコンが今みたいに処理が早くないし、カメラもついていない、という状況だった。そういうところから始めてここまできて、技術に振り回されてはいけないな、と強く思います。こういう風になっていたら良いな、これがあると良いな、というビジョンさえあれば、その時代にあるテクノロジーで何かしら実現することができると思います。たとえば今ならKinectがあれば、画像処理を使ったプロダクトは簡単に作れる。KAGURAもKinectを使っているんですか?と聞かれることがよくあるんです。僕自身使ってももちろん良いと思うけど、Kinectがあるからやったわけではない。Kinectは画像からデータを取るという技術を一般化したという意味ですごい功績を持っていて、10年前から「参加する広告」をやっていた自分達からすると、今のweb屋さんがこぞってKinectを使って似たようなことをやり始めて、一つのジャンルができていく光景は面白かったですね。でも自分達は先駆者としての役割をもう十分果たしたと思うので、楽器というまた別ジャンルにシフトしていこうとしています。

◼︎UXビジネスに場所は関係ない

(撮影:萩野 格)

Brandon:
吉田くんはサンフランシスコにオフィスを出しましたが、その目的はどのようなものだったのでしょうか?
吉田:
憧れということももちろんありますが、現地から流行ればみんな後追いで流行るかな、と思ったことがあったからです。一ヶ月に一回くらいの頻度で行っています。最近はiliの開発があってあまり行けていないんですけど。
Brandon:
しくみデザインは逆に国内、福岡でずっと拠点を置いていらっしゃいますよね。そのローカル意識はどこからきているのでしょうか。また地方の強みみたいなものがあれば教えて下さい。
中村:
たまたま福岡でスタートして、ずっとそのまま来ているということが大きいですね。あとは日本の中で、僕がやっていることを東京でやり始めました、というと埋もれてしまうけど、福岡でやっていました、ならばウチくらいしかないという良さがあります。そうすると何か福岡でやりたいとなった時に「じゃあしくみデザインに声をかけよう」ということになってくる。また福岡で特徴的なのは、行政ととても距離が近い。市を挙げて企画をする時にとてもやりやすいというのも福岡に居続ける理由としてあります。小さいなりに、便利な点が多いです。また、KAGURAの特性上、UXありきで言葉が全くいらないので、極端に言えばどこでもできるという自負がある。「東京からきた」、「福岡からきた」そのどちらもアメリカの人にとってはどっちでもよかったりするのです。

◼︎海外で活動するにあたって、英語がネックにはならない?

Brandon:
三人に共通していることとして、英語を話さなくてもガンガン海外で通用しているということがあるじゃないですか。JapanNightに出た時、英語でプレゼンするイベントなんですけど、必要に駆られたから練習した、という姿が印象的でした。
中村:
デモをすれば伝わります。Q&Aは音で返事してもいいかな、と思うくらいです。

中村氏による「KAGURA2」の実演(撮影:萩野 格)

高萩:
僕はQ&Aのときだけ専属の通訳の人を横に置いてます。
Brandon:
それは危ないね。前回のJAPAN NIGHTのとき、Q&Aのときに通訳を横に置いていた人はいましたけど、ワンステップ置かなくてはいけないから白熱すると混乱してくる。ひっちゃかめっちゃかになって評価が下がるという光景を見ました。
高萩:
僕の場合は完全に英語から日本語に翻訳してもらうというわけではなく、あくまで保険として、聞き取れなかったり、意味がわからなかったものを英語で簡単に言い換えてもらうということをお願いしています。

◼︎SXSW出展の意義と反響

(撮影:萩野 格)

Brandon:
全員同じ年にSXSWに行ってらっしゃる。体験談などあれば教えて下さい。
高萩:
SXSWに合わせてキックスターターを始めたので、その点では良かったと思いますね。伸びないと言われている子供向けコンテンツだったんですけど、だいたい900万円くらい集めることができました。Ringに比べれば少ないですが、失敗することの方が多いクラウドファンディングで、目標も最初は200万くらいで競合だったところにも大きく差をつけられたのでそういう意味では良かったかな、と。
中村:
今年、僕のKAGURAをKAO=Sというアーティストが使ってSXSWのMUSICステージで演奏してもらうことになっています。これから一年で、KAGURAをさまざまなアーティストに使ってもらう、というのが僕らのやることだな、と思っています。アーティストがいて、使ってもらうことで普及しやすいコンテンツでもあるので、「KAGURAアイドル」なんかも出てきたら面白い。僕自身が去年SXSWに行ってみて感じたのは、思ったより感触が小さかったということですね。なぜかといえば、イベントとしては展示ブースは全然メインじゃない。
高萩:
Moffが昨年出展した、Mobile World Congressというフェアがあるんですけど、そこでは大企業のエグゼクティブな方々がワラワラといてとても気が引き締まる。それに比べるとSXSWはスタートアップがいってゆるくやっても許されるというか、みんなお酒を飲みながら展示ブースにテンション高めでやってくる光景は忘れられないですね。
中村:
そういう意味では展示ブースよりもお金はかかるだろうけど、周辺のライブハウスを借りてそこでセッションをやる場を設けた方が効果は確実に高い。会場の周りで非公式でテント張ってセッションやったり、バー貸し切ってやっているイベントが終日あって、そっちの方が断然面白かったです。
吉田:
たまにビッグアーティストのマネージャーがフラッと通って、僕らみたいなITデバイスに投資している、とポロっともらしたりすることがあって、SXSWは大ホームランを狙えるイベントでもありますね。
Brandon:
三人とも今年は行かないんですか?
吉田:
二年前は確かに良かったんですけど、一年前に行ってみて「あれ?」と思うことがあって、ちょっと効果が薄れてきたと感じます。メジャーになりすぎて、アメリカで力のあるスタートアップは出展していない感じがします。
Brandon:
Twitterが一番最初に出てきて、有名になったのがSXSWだった。それが知れ渡ってしまったからインディー志向の力ある人は出てこなくなったのかもしれないね。確かに最近は話題になるスタートアップは出てきていない印象があります。

◼︎日本と世界、国が違うとどう違う?

(撮影:萩野 格)

質問者:
日本にとらわれない考え方をお持ちだと思ったのですが、逆に日本にいて煩わしいと思ってしまうことや、なぜ日本ではビジョンの話をすると忌避されるのかということについて、お考えがあれば教えて下さい。
吉田:
日本の若者が若気の至りで「これやるぞ!」と意気込んだ時に、周りの人が、特に年配の人が「君は経営を頑張った方がいいよ」とアドバイスをしてくる。その先輩がどんな気持ちで言っているのか、その先輩が海外のことを知らないで言っていたりするなら、そのまま聞き流して自分のやりたいことをやれるかどうか、というところの違いかなと思います。
中村:
自分は海外で重点的にビジネスをしているわけでも、ましてや成功しているわけでももちろんないんですけど、ひとつ気になるところは、日本人は集団的に細かいトレンドに流されすぎている気がします。先ほども述べましたが、会社としてインタラクティブ広告を15年近くやっていたんですけど、ここ最近になって非常に盛り上がりを見せている。それ自体は嬉しいことなんですけど、その盛り上がり方や、飽き方が極端すぎるという気がしますね。
高萩:
日本の会社と話をしていて、アメリカと違うな、と思うところは、一番最初に「それって儲かるの?」という質問がくる。細かい仕様や、かかる費用についてとても気にしている。逆にアメリカは「なぜそれをやっているの?」ということや、ビジョンについての質問がくる。仕事の本質として優先することの順番が、国として違うんだなと感じることが多いです。だからアメリカでやっているというと聞こえは悪いですが、それは自分に合うものを選べるという意味で、あってもいい考え方だとは思います。あとは、アメリカはとにかく話が早いです。事前に上手くやればいきなり重役が出てきて、その場で話が決まったりする。あとはスケジュールなど、自分たちのキャパシティに関わる話なので気分が楽なんですよね。

海に囲まれた日本に長く住んでいると、海外でビジネスを行うことが想像しにくい。ましてや全てを自分だけの力で切り抜けなければならないスタートアップとなれば、そのハードルは尋常でなく高いものに思えてくる。しかし、確固たるビジョンをもち、それを伝えようという意思さえあれば、自然と人も集まり、気づけば国境を超えている、そんな光景を追体験できるトークセッションだった。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。テクノロジーを用いたアート表現を目下のところ勉強中。卒論のテーマは「映像表現における日本語の文字の動的遷移の手法とそれに起因する認知の変化の総量について」。専らの興味は「ポスト・ヒューマニズム」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

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