理系出身コピーライターが「文鳥社」で実践する"デザイン思考"

2016.02.04 09:30

博報堂でコピーライターとして勤務ののち、昨年デザインカンパニー「文鳥社」を創業した牧野圭太氏。Facebookの人気ページ「コピーライターの目のつけどころ」の運営でも知られる。デザイン思考を応用して開発したという「文鳥文庫」は蔦屋書店や無印良品などで発売され話題を集める。理系出身でコピーライターとなり、デザインに主軸を置く会社を設立した牧野氏へのインタビューを通じて、2016年以降デザイナーだけではなく経営者、エンジニアにも必要になる「デザイン」の本質について考えてみたい。

■意図せずコピーライターに配属、"デザイン"の重要性に気づく

2009年に博報堂に入社した牧野氏は当初、ビジネス全般を学びたいとの思いから、営業を志望していた。理系出身だったこともあり、自分がクリエイティブ職であるコピーライターに配属されるとはつゆにも思わなかったという。しかし、この偶然が結果的にデザインを主軸に置く文鳥社設立の伏線となっていく。

牧野:
元々はビジネスに興味があって入社したのですが、たまたまデザイナーと24時間二人三脚で仕事をしていく環境になりました。コピーライターの仕事ってデザイナーと組んで、企画を考えて、ロゴやポスター、キャンペーンを作っていくんですね。

牧野圭太氏:株式会社文鳥社 代表。2009年博報堂に入社し、コピーライターに配属。その後、HAUKHODO THE DAYなどを経て2015年7月 「文鳥社」を設立。

博報堂子会社"HAKUHODO THE DAY"にて、カゴメやメルセデス・ベンツなどを担当した後、昨年7月に文鳥社を設立。 その背景には「6年周期」(小学校6年、中高6年、大学・大学院6年、そして会社生活6年)という牧野氏が一つの区切りをキャリアの道標に据えている考え方がある。

牧野:
良い会社、悪い会社関係なく、やっぱり同じ場所に居続けると思考は固まってきてしまうと思います。どれだけ良い会社でも一つの井戸のようなもので、やはりそこから出て他の世界を見ることが絶対に大事だと感じていました。ちょうど6年経ったし、30歳になって、やりたいことも見えてきたのでチャレンジしてみる最高のタイミングだと思いました。

ーー文鳥社は"デザイン・カンパニー"と銘打っていらっしゃいますが、それはやはり博報堂で6年間デザイナーの方と共に仕事をした経験が大きかったのでしょうか?

牧野:
そうですね。今から振り返ると、博報堂に入ってクリエイティブに配属されたことは自分にとってものすごくラッキーだったと思います。世の中でデザイナーとこれほど一緒にする仕事ってなかなかないと思います。社内に正社員のデザイナーを数百人抱えている会社って大手広告代理店くらいじゃないでしょうか。
デザイナーの能力は、大きく言うと、先入観なく物事のあり方を正しく把握して、より正しい形を探せることだと考えています。営業やマーケティングは前例主義に陥りがちですが、デザイナーは創造的なジャンプをすることができます。デザイナーは"今はないモノ"を創り出さなければいけないので、仕事に対するスタンスが全然違うんです。

デザイナーやエンジニアが備えている"モノを創り出す"能力が日本全体で不足していることに問題意識を持っているという牧野氏。独立したタイミングでプログラミングを学び直したという。

■「今ある形が全て正解とは限らない」ー文鳥文庫が生まれるまで

文鳥社が最初のプロダクトとして開発したのが、16ページ以内に収まる短編文学作品を製本することなく、蛇腹型に折り畳んだプロダクトだ。太宰治の『走れメロス』も梶井基次郎の『檸檬』も本来は、10分程度で読めてしまう作品なのだ。

文鳥文庫の第二弾では、村上春樹氏の短編「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」をはじめとして、著作権がまだ失効していない作品も多数収録されている。

出版界のマーケットが縮小し、Webで活字が溢れる中でも、文鳥文庫として「紙」で発売する意義は「情報」ではなく「世界観」を読者に伝えられることあるという。出版業界の方からは驚きと共に、好意的なレスポンスがあったといい、本の新たな形の呈示に成功した。

牧野:
「本の形はほとんどが同じものですが、短編にもっと適した形が他にあるのではないか?」というのが文鳥文庫の発想の元になっています。電車に乗ると分かるように、みんなスマホを眺めていますよね。SNSなどから常時、情報を摂取することで情報欲求が満たされてしまっている。加えて、短いセンテンスの文章に慣れてしまったことで、一冊の本が長く感じるんですよね。本がスマホよりも物理的に重いということも、ハードルになっている気がしました。だけど、10分程度で読める良質な素晴らしい物語ってたくさんあるんですよ。

今までは「短編集」という形式で、いくつかの短編が寄せ集められ、一冊の本として刊行されることが通例だった販売形式を個別販売にできないか。当初はA3の紙の裏表に一つの物語を収める計画だったという。A3には8面あるため、裏表でちょうど『走れメロス』の16ページ分が全て収まる。開ける手間などを考慮して、最終的に蛇腹型に落ち着いたのだという。これらは全て、博報堂のデザイナーである柴田賢蔵さんと二人三脚でつくりあげた。

■日本の"デザイン教育"を変えたいー文系・理系・デザイン系となるように

無印良品 有楽町店で販売中の文鳥文庫(写真提供:文鳥社)

蔦屋書店、無印良品、下北沢B&Bなどの店頭で販売されている文鳥文庫だが、営業活動はしていない。自分たちで本のセレクトをしていて、「置きたい」と言ってくれる本屋にだけ卸すことにしているのだという。文鳥社として、ビジネスを発展させていく中で、いかなるロードマップを描いているのだろうか。

牧野:
正直に言えば、文鳥文庫だけで儲けるつもりはあまりありません。これはあくまでも自分たちの思想を体現するプロダクトの一つだと位置付けています。自分たちはデザインを生業としていること。既存のモデルにとらわれず、ゼロから物事を考え、新しい形を探すこと。装丁のような細部まで美意識をもって物をつくりあげること。できるだけ「文化的な仕事」をしていきたいということ。そういったエッセンスが詰め込まれていると考えています。
文鳥社としては日本で一番大きくて、一番いいデザイン会社になることを目指しています。ゆくゆくはデザイン会社として上場させるような会社にしたい。文鳥社としては今後、デザインを軸に3つの領域をやっていこうと思っています。一つは文鳥文庫のような自社プロダクトやサービスを開発していくこと。もう一つはクライアントビジネスですが、次世代に必要となるようなベンチャーを中心に仕事をしたいと考えています。最後のひとつは「デザイン教育」です。

ーー具体的にはどういった内容になるんでしょうか?

牧野:
現状、社会人の若い人や大学生が気軽にデザインを学べる場って限られています。美大に行ったり、専門学校に行くと費用も時間もかなりかかりますしね。そういった中で、ベーシックなデザインをしっかり学べる組織を作りたいと思います。最初は大人から始めて、できれば高校、中学、小学校へ遡りながら、日本のデザイン教育を変えていくことにチャレンジしたいと思っています。
日本はたいてい「文系にいくか、理系にいくか」という選択になりますが、本当は文系・理系・デザイン系と言われてもいいくらい、"デザイン"って必須で基礎的で汎用的な能力だと考えています。ビジネスのほとんどが、プロダクトなりサービスなりを作る上でモノづくり(デザイン)なわけですよね。モノを作ることによって価値を生んでいる世の中なのに、デザインを学んでいる人が少なすぎるという問題意識を持っています。なので、長期的には進学する際に、理系や文系と同じくらいデザインが当たり前になって、認められることが重要です。そのためになる事業をつくっていきたいと考えています。

■「何でもかんでもデザイン」は正しい

ーーここでいう「デザイン」は具体的には何を指すのでしょうか?

牧野:
「デザインという言葉のもつ役割が広くなってきた」という話を最近よく耳にします。でも本当はその認識は間違っていて、デザインは本来からそういうものです。日本では商業的なグラフィックデザインが重視されすぎたのかもしれません。表面の絵を作る人がデザイナーだよねっていう考え方が根付いてしました。デザインとは本来、「より正しく、より適した姿形を生み出す」ことです。

男性用トイレで汚れを軽減するために考案された標的としてのシールや『宇宙兄弟』を事例に「デザイン思考」について綴ったブログは話題を集めた一方で、「何でもかんでもデザインで括るのは良くない」という批判も来たというが、牧野氏に言わせれば「本当は何でもかんでもデザイン」なのである。今いる周りを見渡してみても、この文章を打っているMacBookProも、机も椅子も、ペットボトルも何もかも誰かのデザインを経てここに存在している。

ーー文鳥文庫は今後も継続して出版されていくのですか?

牧野:
実は第三弾からは企業なり土地と紐付いた物語をソートして、クライアントと一緒にタイアップで製作しようと考えているんですよ。例えば、分かりやすいのは京都。京都の物語を集めて、文鳥文庫を一つ作って、京都土産にしましょうと。例えば京和紙を装丁に使い、京都の文化も織り込んでいきながら、京都でしか買えない仕様にする。そうすることで、京都を訪れた人のあたらしいお土産になるといいなと思います。

牧野氏がデザインを語る際、力点を置いていたのはモノの表面にある意匠ではなく、あるべき正しい形を探すモノづくりそのものだった。インタビューの最中も、部屋に置いてあったペットボトルから「ラベルのないペットボトルの水」、先日スタバで思いついたという「熱いかどうかが見て解るマグカップ」、自宅でプロトタイプを試行しているという「和紙のカーテン」など次から次へと充溢するアイデアを語ってくれた。SENSORSは今後も文鳥社に注目し、生み出される物事を取材していく予定だ。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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