BuzzFeed 躍進の裏側--古田大輔に聞く"バズ"の本質と働き方の変革

2017.01.20 17:00

世界11カ国で展開する、アメリカ発のグローバルメディア『BuzzFeed』。「楽しくて、信頼されて、シェアされるメディア」と称するように、可愛い猫が登場するようなエンターテインメントコンテンツからシリアスな政治・社会問題を含むジャーナリズムやルポタージュまで手広くコンテンツを提供する。1月19日で1周年を迎えた『BuzzFeed Japan』は昨年、数々のスクープ記事を生み出し、かつてないスピードで爆発的なトラフィックを獲得した。Web業界のみならず、テレビや紙媒体、映画などあらゆる業界が注目するメディアに急成長。その中心人物である、BuzzFeed日本版創刊編集長・古田大輔氏に『BuzzFeed』の思想や編集術、そしてホワイト企業を目指すという「働き方」について迫った。

2006年にアメリカで設立された『BuzzFeed』は、2007年のサービスローンチ以来、グローバルで急速な発展を遂げてきた。もともとは創業者CEOのジョナ・ペレッティが「人々はどんな情報を共有したいか」を検証するための実験プロジェクトとして始動。当初はエンターテインメントコンテンツからスタートしたが、規模が大きくなるにつれ、2012年に報道を扱うニュース編集部を立ち上げた。

今回話を聞いた『BuzzFeed Japan』創刊編集長・古田大輔氏が現職に就くまでの経緯も面白い。当時、朝日新聞で記者だった古田氏は『BuzzFeed』の国際担当バイスプレジデントに、日本版編集長が決まったら独占インタビューをするという約束をとりつけた。ところがある日、「君が候補だ」という話を受け、ニューヨークにいる創業者のジョナ・ペレッティと面談を行うことに。編集長というポジションを経験したことがないことに戸惑いはありつつも、「『BuzzFeed』のコンテンツがより多くの人に広まり、それがポジティブなインパクトを与え、世の中を動かす力になっていく。こうしたコミュニケーションを通じて、人々を結びつけていく」という価値観に共感し、『BuzzFeed Japan』の編集長を引き受ける決断をしたという。

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『BuzzFeed Japan』創刊編集長・古田大輔氏。前職、朝日新聞社時代の海外駐在の経験も含め、これまで世界40〜50カ国ほどを訪問しているという。それでも「最後、どこに住みたいか?」と問われれば、迷うことなく故郷である福岡を選ぶのだとか。

■『BuzzFeed』が考える「分散型メディア」と、それを支えるテクノロジー

『BuzzFeed』には当然ウェブサイトが存在するが、Facebookのタイムライン上で展開している料理動画メディア「Tasty Japan」に代表される、各種SNSに最適化してコンテンツを送り分けるスタイルを採っている。最近では定着してきた感もある、「分散型メディア」について古田氏自身がどのように捉えているのか聞いた。


古田:
『BuzzFeed』にとっての「分散型メディア」とは、読者がいるところに我々が出かけていくという考え方です。FacebookやTwitterにはものすごい数のオーディエンスがいて、プラットフォームとして成り立っています。例えば僕らがやっている「Tasty Japan」は4ヶ月で200万人のフォロワーがついています。FacebookやTwitterの他にも、InstagramやLINEなどあらゆるプラットフォームでコンテンツを楽しんでもらえればそれで良いと考えているのです。

先日ドイツのメディアにインタビューを受けたのですが、その記者が面白い言葉を使っていました。「分散型メディアは家を持たない、ホームレスメディアなのでは?」と聞かれたんですね。でも僕らはそうは考えておらず、『BuzzFeed』は自分たちのWebサイトやアプリを持っています。そこが母屋だとすれば、母屋以外の場所で潜在的な読者にコンテンツを運んでいくことによって、より多くの読者を得るというのが僕らの分散型メディアの考え方です。

コンテンツを分散させるということは同時に、オーディエンスに関するデータが分散してしまうということも意味する。読者が記事のどの段落で離脱したのかを計測する独自のコンテンツマネージメントシステム(CMS)を運用し、テクノロジーにも力を入れる『BuzzFeed』は複雑なメディア環境においてどのようにデータ分析を行っているのだろうか。(参考:佐々木俊尚がBuzzFeed Japan編集長 古田大輔に聞く「"バズ"の本当の意味」

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去年、『BuzzFeed Japan』の記事の中でユニークで印象深かったと古田氏が挙げた「女だけど「ヒゲ」を生やして鼻下にビールの泡をつけたい

古田:
分散型メディアを成り立たせるための技術的な核は、どこでどう読まれているのかをトラッキングし、把握することです。僕らは「Pound」という社内ツールなどを使って、どこからコンテンツに人が流入しているのかを計測しています。我々はページビューだけではなく、コンテンツビュー(content view)という指標を持って、日々のメディア運営ができるということを一つの強みにしていますね。

--一人一人のライターやエディターが自主的に分析するという形ですか?

古田:
普段使っているCMSにはデータトラッキングするためのツールが入っているので、自分たちのPCでどの記事がどれだけ、どういうふうに読まれているかというデータをみることができます。それを常に意識することができるので、次のコンテンツを生み出すための発想の元にしていくということが可能になっていますね。

「記者がこうした数字をみると、数字ばかり追いかけるようになるのではないか?」という質問を受けることも少なくないのですが、『BuzzFeed』に関してそれはないと言い切ることができます。なぜなら、「ポジティブなインパクトをもたらしたい」という理念があるからです。オーディエンスがどんな感情を持つのかを想像しながらコンテンツを作っているので、相手が嫌な気持ちになるコンテンツはできるだけ作りません。僕らが数字をチェックするのは昨日より今日、今日よりも明日のコンテンツをよくするための指標として使うというのが僕らのデータの使い方です。

■Webメディア業界にとって激動だった2016年--これからのメディアは何を伝え、どうビジネスをしていくべきか

周知の通り、去年一年間はWebメディアにとって激動の年だった。理念に先行させる形でオペレーションの最適化を図ったキュレーションメディアの、倫理を欠いたコンテンツ制作体制が問題化。あらためてWebメディアのマネタイズの難しさも露呈する結果となった。これからのWebメディアは何をどう伝え、ビジネスをしていくべきなのか。メディアの未来像をうかがった。

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取材方法に関しても、それぞれのバックグラウンドで強みを生かしているという。新聞記者出身であれば、警察、消防署、各省庁に連絡を取るのが得意であり、インターネットメディア出身であれば、Webから情報を集めるのに長けている。お互いに簡易マニュアルのようなものを作成し、知識をシェアし合っているという。

古田:
『BuzzFeed Japan』の組織でいえば、ビジネス面を担うCEOがいて、僕はコンテンツに責任を負う編集長です。なのでマネタイズに関して具体的な施策を話すことはできないのですが、あくまでメディアを何年もみてきた人間として答えさせてください。まず、インターネットメディアが儲からないということではないと思うんです。日本はまだ立ち上げから一年なので数字を言えるところまではきていないですが、USではある程度の収益をあげています。『BuzzFeed』に限らず、ニューヨークタイムズ紙もデジタルのサブスクリプションの比率が大きくなっていますし、日本でも日本経済新聞さんはデジタルの収益が増えてきています。

「インターネットメディア=儲からない」というのは短絡的な結論ではないでしょうか。もちろん今現在、新聞やテレビが大きなオーディエンスを持っていることは間違いない。それでもこれから先、より多くの人に情報を伝えていこうとすれば、インターネット以外の選択肢はないはずです。だとすれば、お金を稼げるか、稼げないかではなく、稼がないといけないだろうと思っています。

--2017年以降、新たに取り組もうと思っていることはありますか?

古田:
立ち上げから一年、幸いなことに読者も数が増えるに従い、ライター、エディター、レポーターの数も増えてきました。あとは動画チームも大きくなり、すごくバランス良く成長していると思うのですが、個人的にはまだまだできることがあると考えています。アメリカではオバマ大統領にライブインタビューを行ったり、イギリスやカナダでも首相インタビューを敢行できるポジションまで大きくなっているんですね。今年は選挙があるとも言われていますし、僕らも首相インタビューを行うところまで持っていこうと思っています。一方で、若者のファッションであったりカルチャーのような僕らがまだ取り組めていない分野に対しても必要な人材を採用し、よりコンテンツを多様にしていきたいです。
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「千人単位で記者を抱える大手新聞社と同じことをしても意味がない」と語る古田氏。13年間の新聞記者経験があるからこそ、新興メディアとして差別化すべき勘所があるという。

古田:
また、『BuzzFeed』の魅力の一つはグローバルなネットワークがあること。なので、日本発信のコンテンツがアメリカで読まれるんです。例えば去年僕らが自分たちでやった仕事で誇りに思っているのが、オバマ大統領が広島にきたとき、広島の人たちにインタビューをした記事があります。「あなたがオバマ大統領に伝えたいことはなんですか?」という問いに、ほとんどの人が「ありがとう」とか「一緒に平和を作っていきましょう」と答えたんです。それを英語に直して、アメリカで発表したらすごく読まれたし、みんなシェアしてくれて、感動しているんですよね。この例のように、日本のオーディエンスに限らず、世界のオーディエンスに日本のことを知ってもらうということは今後もやっていきたいですね。

■「報道するメディアから変わらなければいけない」--『BuzzFeed』の働き方革命

Webメディア業界において、『BuzzFeed』は「バズ」という概念を世界に広く知らしめ、コンテンツ制作の手法やメディア運営の方法で革新的な取り組みを行ってきた。昨今、長時間労働が社会問題として扱われることが増え、日本全体で「働き方改革」に対する機運が高まっている。とりわけ、メディア業界をおける超過労働の常態化は無視できない現状にある。これに対し、「ホワイト企業を目指す」と宣言している『BuzzFeed Japan』が進める「働き方革命」の意図について語っていただいた。

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『BuzzFeed』で働く社員のバックグラウンドは、新聞社、雑誌社、テレビ局、インターネットメディア、はたまたケーキ屋、保育士と様々だ。採用の第一基準は「コンテンツを作るのがめっちゃ好きかどうか」とのこと。

古田:
僕も正直、新聞社にいたときにはかなり長時間労働をしていました。「なぜ日本では長時間労働が当たり前になっているのか?」、僕は一つの理由としてメディアにも責任があると思っています。ようは、長時間労働を報道する側が長時間労働をしてしまっている。さらにいうと、 何らかの規制やルールを作るべき省庁の方々も長時間労働をしている。まずはそこから始めないといけないのではないでしょうか。

僕は一昨年の10月に『BuzzFeed』に入社しているのですが、最初の二週間ニューヨークに研修に行ったんです。午後6時になるとみんな一斉に帰り、7時を過ぎたら僕しか残っていませんでした。それをみたときに衝撃を受け、「考え方を変えないと」と思いました。なのでできるだけ短い時間で働けるように、様々なツールを取り入れ、会議の時間を短縮化したり、無駄な時間を減らそうとしています。

例えば、うちのニュースのエディターで、現場のレポーターをとりまとめているリーダーの小林明子がいます。彼女にはまだ小さな子供がいて、午後6時には彼女は帰るんです。ニュースを報道する側から変えていきたい。まだ僕らもすべてをできているわけではないですが、できるだけそれに向けて努力を続けていきたいと思っています。

ローンチからわずか1年で月間1,600万ビジターを集める人気メディアに成長した『BuzzFeed Japan』。『BuzzFeed』が日本に上陸するまで、「バズ」という言葉にはネガティブなイメージがつきまとっていた。PVを過度に追い求め、模倣したコンテンツを粗製乱造したり、ボタンを押さないと読めない仕組みになっているメディアが少なからず存在したからだ。こうした印象を払拭し、本来インターネット的でポジティブなはずであるというイメージに「バズ」を転換していきたいという古田氏。昨年末のキュレーションメディア問題をいち早く仔細にスクープしたのも、思い返せば、他ならぬ『BuzzFeed』だった。2017年『BuzzFeed』のさらなる成長と共に、バズという言葉の意味は着実に変わってくだろう。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。リクルートホールディングスを経て、独立。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集/ライティング。『PLANETS』や『HIP』では構成を行う。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。修士(学際情報学)。将来の夢は馬主になることです。
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カメラマン︰松平伊織

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