佐々木俊尚がBuzzFeed Japan編集長 古田大輔に聞く「"バズ"の本当の意味」

2016.03.02 12:30

情報・メディア・テクノロジーを中心に時代の最先端を読み解き発信してきた作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏。Twitterで毎朝、45万人以上のフォロワーに向けて情報をキュレーションを行うことでも有名だが、今回SENSORSは佐々木氏が去年より開始した有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」に注目した。

記事:佐々木俊尚が探求する21世紀型"メディア・シェア・ライフスタイル"コミュニティ「LIFE MAKERS」では、佐々木氏がなぜ今コミュニティづくりを行うのか理由を伺った。
後編となる今回は、インタビュー同日にバズフィード・ジャパン創刊編集長の古田大輔氏を招いて行われたLIFE MAKERSのトークイベントの模様をお届けする。

(左)佐々木俊尚氏(右)古田大輔氏

■ついに日本でもスタートしたBuzzFeedは"調査報道や独自報道"にも力を入れる

今年1月より日本版が開始した「BuzzFeed(バズフィード)」。月間ビューは50億回を超える、世界でも大人気のメディアだ。いわゆる「バズる」の語源にもなった同社のコンテンツで最も有名なものと言えば"猫"にまつわる記事、写真、動画であろう。一方で注目すべきは同社が調査報道や独自報道にも相当な熱を入れているということだ。例えばUS版編集長ベン・スミス氏の前職が政治メディア「Politico」であることや、今回日本版の編集長の就任した古田氏の前職が朝日新聞というトラディショナルな報道機関であることにも表れている。

BuzzFeedのトップページ

同社にはニューヨーク、ロンドンに調査報道を専門に行う20名のチームがある。同チームを率いるマーク・シューフス氏はジャーナリズムにおいて最も権威のあるピュリッツァー賞を2000年に受賞している。最近では、プロテニス界における八百長のスクープ調査報道記事が話題になった。

古田:
2万6千試合に及ぶデータを統計的に分析したことにより暴露されたスクープなのですが、普通は美しくビジュアライズして報道しがちですよね。でもビジュアライズされた記事ってあまり読まれないことが分かっているので、楽しく読んでもらうためにGIFで表現したんです。本質はとにかく広く伝わることだと思っているので。(日本語の翻訳記事

今年の1月19日にバズフィード日本版がスタートしたが、最初の記事として福島第一原発の現在を伝えた長大なルポが独自報道記事としてアップされていたことにも一つの明確な方針が打ち出されていた印象がある。この記事を読むと分かるように、スクロールダウンがかなり続く分量の多い記事になっている。しかし、古田氏によればバズフィードはこうした記事もスムーズに読んでもらえるような読者体験を提供していると自負する。

古田:
今までの日本のメディアにはなかった読者体験を提供しています。一つは広告が一つもないこと。シリアスなルポを読んでいるときにバナー広告を見たくないですよね。もう一つはページ分割がないこと。「次へ」をクリックできなったときや、ローディングで待たされるのって嫌ですよね。BuzzFeedは「1PVいくら」というビジネスではないのでこうした仕様が可能になっています。

詳細はバズフィードが公表している「編集・倫理ガイドライン」に詳しいが、バズフィードが目指すのはただバズを追い求めるのではなく、「楽しくて、信頼されて、シェアされるメディア」なのだという。

■ライター、エディター、エンジニア、チーム全体がデータにセンシティブでいる

現在、日本版バズフィード編集部を構成するメンバー13名。編集長である古田氏、副編集長の伊藤大地氏、ソーシャルメディア上でのコンテンツ展開を考えるエディター、写真を専門に扱うフォトエディター、海外コンテンツを日本語化するアダプテーション・エディター、データ分析をしてコンテンツ戦略を考えるマネージングエディターがいる。この6名のエディターに加え、現場のニュースリポーター(ライター)6名とバズを担当するスタッフライター3名というのがバズフィードの体制だ(2016年1月時点)。

佐々木:
ライターよりもオペレーション的な仕事をする人の方が多い体制になりますか?

古田大輔氏:バズフィード・ジャパン創刊編集長。1977年福岡生まれ、福岡育ち。早稲田大政経学部卒業後、放浪生活を経て、2002年朝日新聞入社。京都総局を振り出しに、社会部記者、東南アジア特派員、デジタル版編集などを担当。2015年10月にBuzzFeed Japan創刊編集長に就任。趣味は仕事。

古田:
そうですね。今までのWebメディアの考え方だとライター、特に外部ライターを増やすことがすごく多かったと思うんですね。理由は単純で、コンテンツ数が増えるほど、PV数も伸びますから。「1PVいくら」というビジネスモデルだと正しい戦略だと思うのですが、僕らの場合は本質的に喜ばれるものは何か?シェアされるものは何か?ということを突き詰めていくやり方を採っている。なので、ユーザーに受け入れられるコンテンツを考え抜くエディター側が非常に重要になってくるんです。
佐々木:
今までも新聞なんかは典型ですが、記事を書くまでが記者の仕事で、紙面のレイアウトなんかは整理部だとかが担っていましたよね。誰がどこで読んでいるのかが全く分からなかった。バズフィードは配信した後に、ソーシャルメディアでどのように発信し、拡散させるのかっていう部分に相当力を入れるメンバー構成になっているということですかね?
古田:
エディターだけではなく、ライターにもデータにはセンシティブであってくれと常々言っています。バズフィードのデータ解析ツールを使えば、ライターでもかなり深い分析ができるんです。あとはツイッターでコンテンツに対してどのような意見が出ているのかは常にウォッチするように徹底していますね。なぜなら、PVがすごかった、シェア数がすごかった、というのはもしかしたら炎上しているだけかもしれないわけですから。本質的に読者がコンテンツをどう受け止めているのかという配信の先までライターがみる。ただどうしてもライターだけだと袋小路に陥ってしまうので、それをちゃんとオーバービューするエディターがいるという構成ですね。
佐々木:
従来のWebメディアだと、自社の記事がどう見られているのかというのはGoogle Analyticsで調べるのが一般的でした。バズフィードはそこに対して社内ツールを持っているんですよね?
古田:
グローバルの社員1,400人のうち、データをみるエンジニアだけで約200人いるんですよ。例えば、統計を専門にやっているスタッツ・チームに、「このデータ頂戴」と言うと矢のスピードで返ってくる。あとは自分たちが扱っているCMS上でもデータが見れるんですよね。なので、ライターやエディターが常にデータの動きを気にしながら、仕事をすることができる。これは地味だけど、素晴らしいことだと思います。
僕が入社してすぐにNYに研修に行った際も、エンジニアの人が会いに来てくれたんですね。彼らが言ったのは「私たちの仕事相手はオーディエンスとエディターだ」。オーディエンスに最高の体験を与えると同時に、エディターが最高の環境で仕事ができるようにツールやデータを整える。「アイデアがあったら何でも言ってくれ。すぐに作るから」というふうに、エンジニアとの距離がすごく近いんです。
佐々木:
データとは、例えばどんなものが見られるんですか?
古田:
リアルタイムにソーシャル上で、どのように拡散されているのかというデータが分かりやすくビジュアライズされているのが一つ。もう一つ僕が感動したのが、どの段落で何秒滞在しているのかが分かること。これってライターとしては自分を鍛えるには最高の環境ですよね。自分が仮説を立てながら構築した文章構成が正しいのかの検証ができる。「第四段落で飽きちゃったのか」と分かるから、次に書くときには構成を意識しながら改善することができるんですね。

■バズフィードを理解するための注目の3キーワード:分散型・ネイティブアド・動画

佐々木:
バズフィードUS版ではInstagram、Snapchat、Pinterestなど様々なプラットフォームにコンテンツを流していますよね。いわゆる"分散型"というものです。日本の場合はLINE、Twitter、Facebookくらいしか有力なプラットフォームがないですが、このあたりはどのように考えていますか?
古田:
そこはまさにバズフィード・ジャパンのチャレンジの部分で、本国の人たちもとても関心を持っているところです。統計からも明らかなことですが、日本は諸外国に比べてシェアする文化が低いんですね。バズフィードで昨年最もシェアされたコンテンツで300〜400万シェアくらいだと思うのですが、日本と桁が3つくらい違います。ここをどのように活性化させていくことができるか。
佐々木:
あと、バズフィードといえばネイティブアドがグローバル市場の中で高い価値を発揮していますよね。古田さんはバズフィードのネイティブアドの成功要因をどのように捉えていますか?
古田:
バズフィードでは、編集(editorial)と広告(creative)と両者の間に固い線を作って分けています。"church and state(政教分離)"なんていう言い方さえするのですが、お互いに干渉しないようにしているんです。なので、僕はあくまで編集側のトップであって、ネイティブアドに関しては僕の関知するところではないんですね。ただ、一般的な知識からいうと、バズフィードがひたすらどのようなコンテンツが喜ばれるのかを研究していることが大きいのではないでしょうか。これは当然、ネイティブアドにもつながっていく話でもありますしね。
佐々木:
あと注目すべきは動画ですよね。料理の動画をはじめ億単位のビューで見られています。あれは誰が作っているんでしょう?
黄身がとろ〜り。子どもも大好きスコッチエッグ

黄身がとろ〜り。子どもも大好きスコッチエッグ

Posted by BuzzFeed Japan on 2016年2月10日


古田:
ロサンゼルスにバズフィードモーションピクチャーズという会社があります。イメージとしては、映画制作会社を一つ買ってしまった感じでしょうか。映画を撮ることが出来るくらいのセットもあって、シリアスなドキュメンタリー何かが制作されています。一方で、フード動画などは意外とイギリスのオフィスの片隅とかで作っていたりするんですね。

■シリアスなジャーナリズムも面白バズ記事も、同じ読者が読んでいる

佐々木:
バズフィードのコンテンツを考えていく上で、コアなジャーナリズム記事と面白バズ記事が同居したものをどうやって見せていくのかということがありますよね。ここの組み合わせというか、配分はどのように考えていますか?

イベント終了後、LIFE MAKERSの会員での集合写真

古田:
バズフィードがニュースを始めたのは2012年なのですが、データを見てすぐに理解したのは"シリアスなニュースも面白いバズも同じ人が読んでいる"ということなんです。なので、我々がレコメンドで特定のジャンルを送っていくというよりは、読者の人たちの判断に任せる。僕らのモットーの一つとしてあるのが、「私たちのところに読者を引きつけるのではなく、読者のいるところにコンテンツを配信する」ということなんですね。あらゆるチャネルにコンテンツを配信した上で、それを読んでもらえるかどうかは読者を信頼して任せます。

「我々の成果指標はより多くの人に、より良いものを届けたか」バズフィードの創業者ジョナ・ペレッティが全社員に向けて発したメッセージで語られた言葉だ。日本において"バズ"や"バイラル"と聞くと、"一過性"や"コピペ"といった文脈で語られることが多い。しかし、バズフィードが"バズ(buzz)"に込める思想は根本的に異なっている。可愛らしい猫もシリアスな報道ニュースも、読者にとっては"良いコンテンツ"足り得るのである。ローンチ後、1カ月足らずでFacebookのファンが2万弱に迫る勢いのバズフィード・ジャパンが、日本における"バズ"の再定義を行っていくのかもしれない。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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