カンヌライオンズから見えたPRの"勝利の方程式"とは?博報堂ケトル橋田和明インタビュー

2016.08.10 11:45

第63回カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルが終わり早くも1ヶ月が経ち、カンヌライオンズ事務局からも今年度イベントインサイトをまとめたInsight from Cannes Lionsを発表した。そして、カンヌライオンズ2016のオフィシャルメディアサポーターであるSENSORSでは、今回は事後インタビューをお送りする。
関連記事:【カンヌライオンズ2016】知っておくべき今年のキーワード7つ
カンヌライオンズの舞台を11年間守っている、あのミステリアスなMCは何者?特別インタビュー

IMG_1753.JPG

博報堂ケトル橋田和明氏 - オフィスにはケトルがたくさん

今回、カンヌライオンズPR部門では2,224作品の応募があり、グランプリ作品はスウェーデンのオーガニック食品販売のスーパーマーケットチェーン「Coop」の「The Organic Effect」が選ばれた。こちらはオーガニックではない食品を食べてきた家族が2週間オーガニック食品のみを食べることに切り替え、尿検査の結果、体内から健康になったという結果をもとに、健康のためになら高価なオーガニック食品に払う価値があるのではないだろうかというとてもシンプルな問いかけをした作品が選ばれた。 そのPR部門で審査員を務めた博報堂ケトル橋田氏にPR部門裏話などインタビューをした。
[カンヌライオンズPR部門受賞作品リスト]

■三段階のフレームワーク:Publicity、Perception Change、Behavior Change

--カンヌライオンズの審査員の体験、経験はいかがでしたか?

橋田:
スパイクスアジアの審査員はやったことありますが、カンヌは初めての経験でした。とても楽しかったけど、とても大変でしたね (笑)

--何が一番苦労されましたか?

橋田:
PR会社vs 広告会社の構造が見え隠れしていたことは大変でもあり、勉強にもなったポイントでした。

--そんなことがあったのですね、、確かにPR部門受賞作品発表のプレスカンファレンスでも何故PR会社がPR部門のグランプリを受賞できないのか?と鋭い質問が審査員長John Clinton氏にもでていましたね。

橋田:
はい、ただ、Johnも答えていたように僕たちPRの審査員はみんな会社で選んでなく、素直に良いアイディアの作品を中心に審査しています。なので、たまたま広告会社のアイディアがPR会社のアイディアよりも良かったというのが結果です。

--今回の審査基準で"良いアイディア"と言われましたが基本となる軸はあったのでしょうか?

橋田:
歴代のPR部門の審査員で受け継がれている基準があります。それは、ある意味フレームワークのようなもので順番にパブリシティ(Publicity)、パーセプション・チェンジ (Perception Change)、ビヘイビア・チェンジ (Behavior Change)という三段階のフレームワークです。

パブリシティを獲得すること、さらにパーセプション・チェンジは意識変化、そして最後にビヘイビア・チェンジとして実際の行動変化ということが起きたかどうか、という内容がPR部門の暗黙の基本ルールとしてあるのではないかなと思っています。

このフレームワーク方式を前提とした上でさらに審査委員長Johnが繰り返し審査員のメンバーに言っていたことが2つあります。
一つはアイディアがどれだけサプライジング(今まで見たこと内容なアイディア)なものか、そして二つ目はアイディアによって導かれた結果内容の目利きです。メディア上でのインプレッション数とかではなく、このアイディアだったからこのような結果が生まれた、という関係性を大切にしよう、ということを言っていました。

--ほかにPR部門内での変化を感じたことはありましたでしょうか?

橋田:
今年はPR部門の基準がとてもソリッドになったと感じています。先ほどお話した暗黙のフレームワーク方式と合わせてどのように第三者のレスポンスを引き出せたか?ということも大事にしていました。
PR部門はAD(広告)ではない。ペイド(Paid)ではなくアーンド(Earned)である、ということをとても重要視していました。いかに押し付けではなく、人々からのレスポンスを引き出して、その人たちのソーシャルストリーム上で拡散されることが出来るかがキーポイントでした。これをソリッドにすることによって、他の部門との違いも明確になったんだと思います。
PRLIONS2016_hashida.002.jpeg

ソリッドになったPRフレームワーク方式

■PR業界にとってはとても示唆深い作品

--実際に選ばれたグランプリ作品「The Organic Effect」はこの公式に当てはまったのでしょうか?

橋田:
グランプリ作品「The Organic Effect」は、クライアントであるスーパーマーケットCoopの過去20年間で一番の売り上げをだしたという数値上の結果もでていますが、何よりも先ほど話していたフレームワークにがっちり当てはまる作品なのです。着眼点は、オーガニック食品はスウェーデンでは環境にいいもので、ただ高いだけの食品というパーセプションを変えること。オーガニックは環境だけではなく、身体にとっても良いので、オーガニック食品を食べよう!ということに気づいてもらうためのプロモーションです。実際に今までオーガニック食品を食べていなかった家族の体内からは殺虫剤を含む化学物質が検出されて、その後2週間オーガニック食品のみの生活した後に体内から化学物質がきれいになくなりました。この事実を証明したことが一番のクリエイティビティだったと思います。映像をみることで子供にそんなものを食べさせたくないという意識の変化を起こし、オーガニック食品を食べてみようという行動の変化にもつながるという綺麗にフレームワークに当てはまった作品だったと思います。

2016年度PR部門グランプリ作品「The Organic Effect」

--今までの歴代のPR作品に比べると少し地味な作品だったかな、という印象もあったのですが...

橋田:
多くの人から今年のPR部門のグランプリ地味じゃない?と言われます (笑)
でも、僕はPR業界にとってはとても示唆深い作品だと思います。PRという枠組みの中だけで考えると、普通200件のサンプルをとるなどして、調査リリースを出したくなってしまいます。それを、ひと家族をモデルとしたストーリー動画で訴えたことで、その情報がエモーショナルになり、パワフルになり、広く波及したんだと思います。PRにもクリエイティビティの必要性を業界全体に伝えることができたのではないかと思います。

--実際に橋田さんがお仕事をされる時にはPR型または広告型のどちらで取り組まれていますでしょうか?

橋田:
そう聞かれるとPR型な気がします。基本キャンペーンを作る時はプッシュ型やペイド型ではなく、プル型(アーンド型)の広告やキャンペーンをつくることが自然となっています。たとえディトリビューション方法がペイドメディアだったとしても、そこからいかに自然なレスポンスを引き出して拡散させるかを考えています。

--最近、橋田さんが手掛けられたYahoo! JAPANさんのYahoo! Smart Stretch 360もプル型ですが、なぜYahoo! JAPANさんがストレッチだったのでしょうか?

橋田:
これは、Yahoo! JAPANさんの20周年記念のキャンペーンです。現在、ヤフーニュースなど多くのコンテンツがスマホで読まれている中で、スマホが引き起こしている問題に気づきました。それは、肩こりや首の健康問題。それを、スマホで解決しよう!ということをテーマにした、20周年を迎えたヤフーの社会貢献でもあります。
また、普通にストレッチしょう!とメッセージしても誰もやらないというと思ったので、360度動画を見ているだけで実際にストレッチになってしまう、という360度動画の新しい使い方にチャレンジしてみました。

--今後360度動画はメインコンテンツ動画になると思いますか?

橋田:
デバイスが進化していますし、Facebook上でも360度映像のアップが可能になったことも受けて、今後伸びる可能性がとても高いコンテンツになると思います。
また、今回のキャンペーンを通して、360度動画コンテンツの可能性を垣間見ることもできました。360度動画は見る人の自由を拡大しているものですが、逆に、見る人の行動を規定することもできる、ということ。ひとつのユーティリティーを作りだしただけでなく、360度動画と人との新しい関係性のひとつになれるとうれしいですね。

--ありがとうございました!

今回、橋田氏にお話を伺い根本的なPR(パブリックリレーションズ)とクリエイティビティの関係性が今後重要視されるように感じた。PRではアイディアが一番重要、ということではなくPRアイディアにクリエイティビティがはいることで最大限アテンションを引き出して、行動変化を生み出すかということはPR業界の未来の形なのかもしれないと思う。これから先もPR x クリエイティビティとは、という問いをしながら橋田氏の活動を追いたいと思う。

【関連記事】
【カンヌライオンズ2016】知っておくべき今年のキーワード7つ
カンヌライオンズの舞台を11年間守っている、あのミステリアスなMCは何者?特別インタビュー

ライター:中村寛子

大学を卒業後、グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad:tech/iMedia Summitを主催しているdmg::events Japan株式会社(現Comexposium Japan)に入社。 ad:tech tokyo 2010より、主にコンテンツプログラムの責任者として従事。 また、東京開催以外にもad:tech kyushuやiMedia Brand Summit, Data Summitなど8つのカンファレンスローンチを展開。2015年11月にmash-inc.を設立し、現在グローバルPRチャンネル制作をしている一方で企画プランニングなどプロジェクトベースで携わっている。

最新記事