「"可愛くなる"ためのテクノロジー」で、女性はどう自分らしさを表現するのか--久保友香×ミワンダフル

2016.09.16 17:00

「シンデレラテクノロジー」という概念の元、日本の"可愛い"の法則やバーチャルアイデンティティーにおける美意識について工学的アプローチから研究している東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任研究員 久保友香氏と「メイクで世界を笑顔に」をモットーに数多くの女性をメイクで笑顔にしているメイクアップアーティスト ミワンダフル氏による「SENSORS SHIBUYA FASHIONCODE WEEK」トークセッションの模様をお届けする。 日本の女の子にとっての「盛れる」定義や日本人の美意識、さらにはメイクとテクノロジーの関係性など様々な切り口から、SNSとリアルな世界の両方を生きる女性はどう"自分らしさ"をデザインしていくか「メイクテクノロジー」について語られた。

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久保友香氏(左)、ミワンダフル氏(右)

■浮世絵に描かれている女性と、現代の女性の共通点

--久保さんはどうして日本の美人画についての研究から、「シンデレラテクノロジー」と言う概念に至ったのですか?

K:
最初は日本の絵画にあるデフォルメ表現について研究していました。日本の絵画は絵巻とか浮世絵を観ても分かるように、現実そのものを描かない特徴があります。現実の人間の顔は多様性があるはずなのに美人画に描かれる顔は均一的。 リアルな顔と、絵などに描かれるバーチャルの顔とが、ずれた表現がなされているということが、すごく面白いなと思い研究を始めました。そのずれの法則を数式に導き出すということをやっていました。

例えば浮世絵の『寛政三美人』に書かれている3人の女の子の顔は、素人目に見ると一見そっくりな顔です。 そっくりすぎて本当に美人だったのかすら、よく分からないくらい。多分ここに描かれているのは当時の美人の基準であり、本当は違う顔をしていたのではないかと思うんです。 なぜ日本のバーチャルの世界ではこのような描き方をしているのか、すごく気になっていた時に、この均一性が現代の女の子にも引き継がれているのではないかと気がついたんですね。 ティーン向けの雑誌に載っている写真も、ネット上のプリクラの写真も、私には皆顔が似ているように見えました。 それは化粧や画像処理によってデフォルメしているからです。女の子たちはそれを「盛る」と呼びます。 この「盛り」こそが日本の文化なのかなと思って、そこから現代の若い女の子にフィーチャーしました。

久保友香氏

--日本の歴史的絵画の研究から現代の若い女の子の「盛り」文化に行き着いて、気づいたことはありますか?

K:
例えば江戸時代、豪華なお化粧をして、浮世絵に描かれることができるのは、高位の遊女などの、スポンサーがついているような特別な立場の女性だけでしたが、今だと一般の女の子でも実際よりも盛って、不特定多数に情報発信出来るようになっています。 誰でもリアルアイデンティティーと不特定多数から見られるバーチャルアイデンティティーの二種類を持てるようになっていて、女の子たちの間では、バーチャルアイデンティティーでは、実際の顔より適度に盛ってコミュニケーションすることがさかんに行われています。 私はそういう日本の女の子たちが無意識に行っているビジュアルコミュニケーションの中に、未来、世界に普及するコミュニケーション技術のヒントがあるのではないかという仮説を持って、女の子のたちの行動を観察しています。

そもそも日本の女の子たちを起点に、新しいコミュニケーション技術が広がる事例は、古くから結構あるのです。 古くは平安時代の平仮名や、現代の絵文字。自撮りというのも2000年に発売したカメラ付き携帯を使って日本の女の子たちから始まり、今はselfieとして世界中に広がっています。 最初日本の女の子たちだけがやっていると馬鹿にされたりするんですけれど、簡単で使いやすいビジュアルコミュニケーションは、結果的に広く普及しやすい性質があります。 なので、日本の女の子たちが無意識に行っているビジュアルコミュニケーションを観察しながら、そこから法則を見出そうと研究しています。

■日本と海外、メイクへの考え方の違い

--「メイクで世界を笑顔に」をモットーに活動されているミワンダフルさんは、普段どのような活動をされているのですか?

M:
私の活動は「メイク×ライブエンターテイメント」であり、世界中のストリートでメイクをしてメイクの笑顔を届ける活動をしています。 いまはバスキュールにいて、メイクとテクノロジーを掛け合わせて新しいことができないかとメイクスマイルプロジェクトを立ち上げています。

一つ目のライブエンターテイメントはストリートで偶然出会う方にメイクをする、ストリートメイクです。木製の40キロほどあるピンクのフレームを必ず持って行って、ニューヨークのタイムズスクエアやパリのエッフェル塔の前などにこれを置いてメイクをしています。 都内だと109さんの前などでやらせていただきました。ストリートメイクをしてみて思わず笑顔になっていただいた女の子に自宅に戻ったらもう一回できないよという声があって、こうしてこの笑顔を忘れないために、彼女たちと約束したのがみんなでメイクをできるようになる新しいライブイベント。 これが二つ目のライブエンターテイメント活動である、メイクアップを軸にしたミュージカルのような参加型のメイクレッスンショー「メイクアップレストラン」です。
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ミワンダフル氏(右)

--メイクについていろいろ研究や経験されているお二人にお伺いしたいのですが、私たちはなぜメイクをするのですか?

K:
メイクをすることに一生懸命の若い女の子たちに、なぜメイクを頑張るのかと聞くと、最初はみんな「そういえばなんでだろう」と考えこんでしまうのです。そこで男の子にモテたいからかと聞くと、ほとんどの場合「そうではない」という答えが返ってきます。 そして最終的にたどり着くのが「自分らしくあるため」という答えなんです。私から見ると、一見そっくりに見えるし、ネットでも「量産型女子」などと言われている彼女たちが、「自分らしさ」を追求していると知って、最初、驚きました。

しかし、女の子たちの声をよく聞き、彼女たちの行動を詳細に観察するうちに、だんだんとその謎が解けました。 彼女たちは、一様にトレンドを取り入れているように見えて、実は創意工夫で自分に合ったカスタマイズをしていたり、そこに至るまでの過程はそれぞれ違うのです。 そのような過程を知った上で彼女たちの顔を見ると、確かに人によっての違いが見えてきました。彼女たちのいう「自分らしさ」とは、一から作り上げる「自分らしさ」ではなく、コミュニティーで共有する型、つまりトレンドを守った上での「自分らしさ」。大人からはわからないけれど、女の子同士ではわかりあっている、見る人から見ればわかる「自分らしさ」なのです。

--日本の自分らしさは協調性の中にちょっと自分をアレンジするという感じがしますが、ミランダフルさんは世界で活躍されていて世界と日本のメイクの違いは感じますか?

M:
日本のメイクが発達するのは、日本人が他人の目をすごく気にする性格だからかなと思います。 海外は色々な人種の方がいてメイクの流行があるようでないんですが、日本は顕著に流行が現れていて、みんなすごく影響されやすいなと感じます。海外の方がマイウェイなのかもしれないですね。

また、海外の方がInstagramなんか見ていても自撮りばかりあげている方が結構いて、日本人はあまり自撮りばかりあげるとナルシストと言われてしまうのではないかと思い小出しにしている感じがしますね。 海外の方は結構自分を出して、他人というよりも自分を中心に魅力的に見せるのが得意なように思います。

■メイクでの演出と、アプリの加工を使っての演出

--最近はやりのアプリを使って自分を演出するという事は、メイクと同じカテゴリーに入ると考えていいのでしょうか?

K:
そうですね。基本的に加工アプリが好きな人はメイクも好きで、アプリだけ好きという方は、学校でお化粧が禁止されている方とか特別な場合だと思います。 その日のメイクに合わせてアプリも変えたり、若い女の子たちにとって、リアルな手段とバーチャルな手段はシームレスです。いずれも可愛くなるための手段の一つとしては、同じカテゴリーと言えますね。
M:
そうするとメイクは必要ない?なんて声もあるかもしれないですが、それでも会った時に「あれ?」となってしまうのは辛いんです。女性ってすごくいろんなことを気にすると思います。 あまりにも写真と現実で離れすぎているのも良くないと思うけれど、いい写真が撮れた時ってやっぱり嬉しいですよね。きっとリアルなメイクとアプリやテクノロジーの力を使うことで素敵な自分を演出できるのかなと思います。

--「盛れる」という感覚も、日本人ならではの感覚があるのでしょうか?

K:
写真と現実で離れすぎているのは良くないと考えて、絶妙な最適化を計るところは、日本人ならではの感覚だと思います。 女の子たちは、メイクや画像処理で理想的になれると「盛れてる」と呼びますが、それがどういう状態なのかを調べたところ、メイクや画像処理で加工をし過ぎると、それは「盛れすぎ」であって「盛れていない」ことと同じになると言います。 「盛れすぎ」と「盛れてる」の境界線はなんだろうと考えていったところ、メイクや加工をしすぎると急激に別人感が増すところがあります。その一歩手前のところが一番「盛れてる」なのだとわかってきました。 「盛れてる」の基準はトレンドにも左右され、見る人がどういう加工に目が慣れているかによっても変わってきます。 すごく難しい問題ですが、その最適解を求めるのが勝負なんです。

「盛れる」の定義を説明する久保友香氏(左)、ミワンダフル氏(右)

K:
例えば今は、メイクも画像処理もナチュラル傾向にあります。私はこの傾向を、一過性のトレンドとは思っていません。 なぜならナチュラルなメイクや画像処理ほど難しいものはないからです。 自然な人工物を作ることは最も難しい課題です。人は技術を進歩させ、一番難しいところに向かうと思います。

似たような例では、ハリウッド映画のCGも、かつてはいかにもCGとわかるようなものでしたが、今ではどこがCGかわからないほどナチュラルです。 その追及は今後もさらに続くでしょう。それと同じでメイクもアプリもどこが加工かわらないほどナチュラルになるように、今後も技術者は追求していくと思います。 そして女の子一人一人も、難しい課題に挑戦する好奇心があります。人間というのはどんどん難しいものに挑んでいく生き物で、それこそが文明であり、ナチュラルメイクの追求にもそれが現れているように思います。

--それこそがミワンダフルさんがバーチャルだけでなく、リアルでメイクを作っていく理由でもあるのですか?

M:
そうですね。やっぱりテクノロジーの力できれいになる体験はできると思うんですが、ストリートにいるとみなさんのお悩みにぶつかるときがあって、それをリアルメイクで叶えるということこそが技術だと思います。 かわいいはひとつじゃないと言いますが、日本では意外とかわいいのフォーマットは決まっていて。自分も流行に左右されていると思うんです。ただ、海外に行くとすごく気が楽になるんです。 例えばミャンマーではタナカという目の下に白い線を引く文化があって、みんなその線をしているんです。それがミャンマーの町では文化であり美しさでもあるんです。 日本はすごく流行に左右されていて、自分も影響を受けてしまっていますが、海外に行くアクションを通じてもっときれいやかわいいの個性があるということを伝えたいと思ってやっています。

久保友香氏(左)、ミワンダフル氏(右)

--最後に、流行やファッションというものはコミュニティーの中から作り得るのか?それともこれはビジネスの中、社会の経済活動に踊らされてしまっているだけなのか?さらには、テクノロジーの力でそれを乗り越えていくことは可能なのか?教えていただきたいです。

K:
技術の進歩が目指すべきところは、企業からトップダウンでなく、女の子たちからボトムアップ的に流行を作りあげられるシステムだと考えています。 技術には、特別な人にしか与えられなかった機会を、一般の人に開放する役割があると思っています。 ただし、女の子たちは意外と、型としてのトレンドを与えられることも楽しんでいるところがあります。 それがあるからこそ、トレンドに合った姿を見せることで、情報収集力を評価し合ったり、型を守った上で見る人が見たらわかる「自分らしさ」を見せることで、日本人らしい守破離の精神に基づくような評価をし合ったりしています。 ですので、日本の女の子たちの中にトレンドがなくなることはないと思っています。
M:
今は皆が簡単にシェアしたり、投稿したりできる時代になっているので、突拍子もないメイクやファッションがネットの力で流行となる可能性はあります。 私自身、世界中で出会った人とInstagramで友達になってコミュニケーションをできるようになった分、世界が大きいようで小さくなっているなと感じるので、きっとストリートから新しい流行が生まれることもあり得るんじゃないかなと思っています。

メイクは自分らしさを表現するものであり、女性のアイデンティティーであると語ったお二人。テクノロジーとメイクはかけ離れたものに感じるが、バーチャルアイデンティティーにおける美意識やメイク加工アプリの技術向上など、想像以上に近い存在であることがわかった。 また、今はInstagramなどSNSを通して誰もが流行を作り出せる次第。一人一人の女性の美意識から、新たな流行がより多く生まれてくるかもしれない。

取材・文:見﨑梨子(みさきりこ)

1993年生まれのフリーライター。青山学院大学総合文化政策学部に在籍。『SENSORS』をはじめ複数の媒体で記事の執筆・編集に携わる。DJとしての一面もあり、東京都内の様々なクラブで活動中。
Facebook:https://www.facebook.com/riko.misaki

写真:松平伊織

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