アートは、情報氾濫時代の"方舟"となるーーCINRA主催「SNS展」

2018.09.25 08:00

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昨年の12月、森美術館で開催されていた「レアンドロ・エルリッヒ展」に行った。錯覚を使った参加型の展示がInstagramでも話題になっていたが、中でも印象的だったのは、ボートが水面に浮いている"ような"展示物。一見船着場のように見えるが、そこに水はない。コンピューターによって計算された動きによって、ボートがゆらゆらと揺れているだけなのだ。私たちは「揺れるボートは水に浮かんでいる」と無意識のうちに固定概念を抱いているために、このような錯覚を起こすらしい。

固定概念や日常におけるさまざまな事象、物、人...。あまりにも当たり前に存在しているものに、人は気づきにくい。アート、特に現代アートにはそんな当たり前を気づかせる「問い」がある。だから人は「感性を磨く」ために週末に美術館へ足を運ぶのだろう。

日常の中で「当たり前に存在しているもの」といえばSNSだ。スマホを触れば、無意識のうちにTwitterを開いているし、楽しいことがあればInstagramのStoriesにアップする。なかなか会えない家族との交流の場所は、もっぱらLINEグループだ。

――SNSが空気のようにある時代で、SNSについて考える。

そんなテーマを掲げた展覧会『SNS展 #もしもSNSがなかったら』が、3331 Arts Chiyodaで開催された。会場には、SNSを舞台にさまざまな分野で活躍するアーティストによるオリジナル作品が並ぶ。さらに事前の一般公募で投稿された作品の中から、キュレーターがセレクトした作品も展示された。

会場となった3331 Arts Chiyodaがある千代田区は、「若者の街」としてイメージされやすい場所ではない。しかし来場者は7割ほどが10代後半から20代前半と思われる若年層の女性。取材日が展示最終日だったこともあってか、次から次へと人が訪れていた。

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会場に足を踏み入れると、まず目に入るのは壁一面に描かれた本展のメインビジュアル。Instagramでも人気のイラストレーター・たなかみさき氏によるものだ。多くの人が足を止め、スマホのシャッターを向けているのは詩人・最果タヒ氏による書き下ろしの詩。

その周りに浮かぶのは、「#もしもSNSがなかったら」のハッシュタグがついた思い思いのツイート。これらは一般公募で集められたものだ。ポジティブな内容が大半を占めるものの、中にはネガティブなメッセージも。そうした「リアルさ」もまた、SNSが孕む多様性を表現しているのかもしれない。

「SNSが空気のようにある時代に、SNSを使うならLINEモバイル」

「SNS展」は、株式会社CINRAが主催し、特別協賛にLINEモバイルが参加する形で開催された。CINRAは、カルチャーニュースサイト「CINRA.NET」の運営、WEB制作、イベント企画などを手がけるクリエイティブカンパニーだ。

カルチャーやアートに関心のある若者から支持され、昨年ローンチした女性向けのライフ&カルチャーコミュニティ「She is」も注目を集めている。最近ではリアルイベントの開催にも注力しており、小学校を貸し切って開催したカルチャーフェスティバル「NEWTOWN」や、渋谷にある複数のライブハウスを会場とした「CROSSING CARNIVAL」などがある。

LINEモバイルは、MVNO事業を手がける会社だ。サービスの特徴の1つとして、LINEやTwitter、FacebookやInstagramといった主要SNSのデータ通信量をカウントせず、使い放題となる「データフリー」機能を打ち出している。

今回の取り組みが始まった経緯、企画のコンセプト、そして企画展終了後はどのような展望を描いているのか? LINEモバイル株式会社 マーケティング担当 福島広大氏、株式会社CINRA She isプロデューサーの竹中万季氏、ディレクター 柏木良介氏にお話を伺った。

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左から福島広大氏、竹中万季氏、柏木良介氏

LINEモバイルがサービスを展開するMVNO業界では、複数の事業者が凌ぎを削りながら事業展開を進めている。そんな中でLINEモバイルはどのようなポジションを取るべきか。改めて自社のアイデンティティを模索する中で辿り着いたのが、「SNS」であった。

福島広大(以下、福島):SNSが普及したことによってLINEが生まれ、さらにその根本である通信を支えるためのサービスとしてLINEモバイルは誕生しました。私たちは自社の強みを考えていくなかで、SNSに寄り添いながら事業展開をしていくべきだと結論づけたんです。

そこでLINEモバイルが発表したのが、主要なSNSが使い放題の「データフリー」機能だ。MVNO業界において一番の戦場となる春商戦のコンセプトは、「SNSが空気のようにある時代に、SNSを使うならLINEモバイル」。どうすればユーザーに対して、効果的にメッセージを伝えられるのか。アプローチの1つとして選んだのはアート展であった。

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福島:キャンペーンであれば、ユーザーに参加してもらう投稿型を取ることが非常に重要だと考えました。しかし、これだけ情報が溢れている社会の中で、ただ投稿を集めるだけでは一過性の施策にしかなりません。何かしら形のあるアウトプットに繋げていくことで、参加した人の心に残る施策が実現できると考えました。たどり着いたのが、「アート展」です。

CINRAが意識した「開かれた場づくり」

LINEモバイルが今回「SNS展」への特別協賛を決めた理由は2つある。 ひとつはCINRAが手がけるコンテンツが「SNS特有の空気を理解している」点。もうひとつはWEBだけに留まらず、リアルイベントも積極的に手掛けている点だ。

CINRAが10年以上に渡り「CINRA.NET」を運営する中で特に意識していたのは、「キュレーション」だ。音楽、アート、デザイン、映画など「本当に良いと思うものをCINRAがオススメする」ことに重きを置いて情報を発信してきた。

昨年9月にローンチされたコミュニティメディア「She is」は「自分らしく生きる女性を祝福する」をコンセプトに掲げている。そのコンセプトに共感したり、何か想いを抱く人たちが集まる場所を目指して、運営している。

このような独自の"色"を持つ自社メディアがあるために、CINRAはクリエイティブやカルチャーに関心がある読者を多く抱えている。CINRAは今回の企画を考える上で、"良き理解者"であり"味方"である読者の興味を惹くことを1番に考えたそうだ。

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竹中万季(以下、竹中):私たちが抱えている読者には、SNSで情報を能動的にとりにいく人や、自ら意見や想いを発信する人が多く、「SNSがある今について考える」という企画を行うときに、まずはそのような人たちに興味を持ってもらえる企画にしたいと考えました。足を運んでくださった方の多くは、そうした方々のSNSへの投稿がきっかけで来場されていて、結果として広くリーチすることができました。

CINRAのもうひとつの強みは、「コミュニティ形成力」。読者に会い、"集う"場所を作るために、リアルイベントも積極的に行っている。今回の展覧会開催にあたっても、その知見は活かされた。

「SNSをテーマにした展覧会」であれば、オンラインだけで完結させることができたかもしれない。だが、「今やSNSはオフラインとは切り離せない」と、竹中氏は考えている。

竹中:「CINRA.NET」や「She is」を運営する中で、ファンを増やし、コミュニティを形作るためにはリアルの場で集うことが必要不可欠だと感じていました。今回は展示のテーマが「SNS」なので、もちろんSNSやWEB上だけで完結する展覧会という形も考えられたかもしれないですが、SNSで出会い、リアルでの付き合いに繋がっていくことが当たり前になっている今、最終的にリアルの場所で展覧会を行うという形にしたほうが、「SNSがある今」が見えてくるのではないかと考えました。

SNSの可能性を"思索"させる問いを投げかける

LINEモバイルはデータフリー機能を直接的に訴求するのではなく、その背景にある思想を伝えることを選んだ。「今自分たちが使っているSNSって結構大事だよね」と思ってもらえるようにーー。

この思想を伝えるためにCINRAが考案したテーマは、「もしもSNSがなかったら」。空気のように存在するSNSについて、立ち止まって考えるための「問い」だ。SNSの魅力をストレートに伝えるのではなく、敢えて逆説的な問いを設定した理由は、SNSの持つ多面性を伝えることにあるという。

竹中:SNSの登場で、誰もが「個」としての発信ができるようになりました。 お互いの意見が違っていたとしても、別の部分で重なることもあるのがSNSのおもしろさだと思います。SNSをテーマとして扱う上で、できるだけ多様な意見が集まるようにできればと思いながら企画しました。

公募で集まった「#もしもSNSがなかったら」のハッシュタグがついたメッセージの中には、SNSに対しネガティブに捉えているものもある。会場にはそれらの意見も、ポジティブな意見と同列に展示されていた。来場者は立体物となったメッセージを通して自分自身の感情と向き合い、SNSがある現在となかった世界を比較して想像する。。その結果、感想として「エモい」とツイートする人も多かったそうだ。

「ポジティブな感情もネガティブな感情も、どちらも提示することによって、共感できる人の数が増えたのではないかと思うんです」と柏木氏は展示を振り返る。

「SNSに対する想いがある人」がアーティスト・キュレーターに

今回の展覧会では、ジャンル、表現方法、活動範囲にいたるまで「ベン図」のように微妙に重ならずに、SNSで活躍しているアーティストたちの作品が発表された。彼ら、彼女らの人選には両社のこだわりがある。

数々のアーティストとのネットワークを持つCINRAは、SNSの持つ多様な側面を表現できるようなアーティスト、また公募作品をセレクトするキュレーターを選出した。

柏木良介:今回関わってくださった方の中には、写真家・濱田英明さんのようにInstagramを通じて世界的に人気になられた方もいれば、燃え殻さんのようにTwitterを主舞台に文章でさまざまな人を惹きつけている方、そしてゆうこすさんのようにSNSを特徴ごとに使い分けながら発信されている方もいらっしゃいます。表現方法だけではなく、活動範囲やその方々が抱えるファンが被らないようにすることで、多くの人に『SNS展』のことを知っていただけたのではないかと思います。

さらにCINRAは、「SNSに対して、自分の言葉を持っていそうな人」を意識的に選んだという。

竹中:SNSが持つポジティブな面、ネガティブな面の両面に気づき、SNSについて何かしらの言葉、想いを持っていそうな方に参加していただきました。だからこそ、アーティストの方ひとりひとりが「もしもSNSがなかったら」というメッセージを自分ごととして捉えてくださり、楽しみながら作品制作をしていただけたのだと感じています。

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企業が掲げるメッセージを世の中に伝えるためには、さまざまな手段がある。今回CINRAとLINEモバイルは、社会に対して問いを投げかける役割を持つ「アート」に注目し、企画展を通じてメッセージを投げかけた。

CINRAのクリエイターとのネットワーク、メディアを基軸にしたコミュニティ、そしてそれらに集まるファンがあったからこそ、実現した企画展だろう。

企業が世の中にメッセージを発信する場合、主な手段として選ばれるのは広告やキャンペーンだろう。情報が溢れ返る現代において、直接的な訴求は一過性のものになりかねない。アートを通して問いを投げかけ、コミュニティの力で波及を呼んだ今回の「SNS展」のようなアプローチが注目されてもいいのではないだろうか。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



取材・編集:岡田弘太郎

1994年生まれの編集者 / DJ。『SENSORS』シニアエディター。大学在学時に『greenz.jp』や『SENSORS』で執筆、複数のウェブメディアで編集を経験し、現在は編集デザインファーム「inquire」に所属。関心領域はビジネス、カルチャー、テクノロジー、デザインなどを横断的に。慶應義塾大学でデザイン思考/サービスデザインを専攻。
Twitter:@ktrokd



撮影:萩野格

広告プランナー/フォトグラファー。
instagram:@itaru_ha_2

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