「クリエイターの為に」表現を続ける、Web編集者・塩谷舞の流儀

2015.11.26 09:30

TOKYO DESIGN WEEK 2015で行われた、クリエイターや文化人が様々なテーマで討論し合うトークイベント「ソクラテスカフェ」。10月24日は、紙とWebそれぞれ異なった出自を持つ編集者、佐渡島庸平(コルク代表)と塩谷舞(PR・Web編集者)が登壇し、「編集観」についてのトークが行われた。

今回の記事では、今年2015年、CINRAを退職しフリーランスのWeb編集者となった塩谷舞(しおたん)さんにフォーカス。独立時のブログ「株式会社CINRAを退職しました。」がFacebookで1,000いいね!を超えたり、独立後に執筆を手がけた記事も、度々SNS上で話題に。今回のトークセッションでも、佐渡島さんが塩谷さんの考え方を改めて探るべく質問を投げかけ、塩谷さんが自ら手がけた記事を実例としながら執筆秘話を明かすシーンがしばしあった。今回はそんな塩谷さんの編集観・キャリアについて語られた部分をピックアップし、その流儀を掘り下げていく。
トークセッション全体について取りあげた「Web編集者は"バズ"を越え、"文化"を創り出せるか?〜佐渡島庸平×塩谷舞 @ TOKYO DESIGN WEEK」も合わせてどうぞ。

■「ブランドづくり」というより「友達づくり」に近い感覚

まずセッションの冒頭では、「ネットとの出会い」について語られるシーンがあった。

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和気藹々とした雰囲気でスタート。佐渡島庸平さん(左)と塩谷舞さん(右)

塩谷:
ネットとの出会いは、お父さんがWindows95 を買ってくれた小学校5年生頃ですね。学校の友達と喋るよりもより本質的な会話ができることとか、運動ができない自分にとって、運動できる・できないを吹っ飛ばして、文章がうまい・絵がうまいで評価される世界が本当に天国みたいな感じで没頭しました。

以来、水を得た魚のようにインターネットをやって。(向き合い方としては)なにかネット上で自分のブランドを作り上げようというよりも、普通に楽しく友達とワイワイやっていたらここまで来たという感じです。
佐渡島:
塩谷さんにとって「ブランドづくり」「友達づくり」というのはそれぞれどういう定義なんですか?
塩谷:
私、5つ歳上の姉がいるんですが、彼女は小さい頃から雑誌「VOGUE」とかすごく好きだったんですよ。そんな姉は大学を出て上京し、ファッション誌の編集者になりました。地元の書店で見る姉の仕事はいつもキラキラしてて、ラグジュアリーで、カッコ良かったです。そういった雑誌の世界観が「ブランドづくり」だとすると、私がやっていたのは、そんなカッコ良いものじゃなかった。例えば大学時代、フリーペーパーを作っていたのですが、広告が足りない時にTwitterで「助けてください...なんとあと3枠もあります!」とかつぶやいたら、リプライで広告の相談が来るんです。「メンバー募集!一緒に本気でやりましょう!」というツイートを見て、素晴らしい仲間が集まったり。そんなインタラクティブな関係性はお友達のような感覚で、これは雑誌が作っている「憧れ」の世界観とは違う「友達づくり」に近いものなのだな、って。

Twitterを使い始めた大学時代、印象に残ったのはアーティストの奈良美智さん。奈良さんは深夜にずっと絵を描いている様子をツイートしているんですよね。その様子をずっと追っていると、個展に行ったときに共に達成感を味わえるというか、共存体になれるなと思いました。音楽のライブのような一体感を、Twitterを通じて、アート作品でも得られるように感じたんです。自分が記事を出すときも、「この記事は感極まって、マジで号泣しながら書きました」って補足ツイートしたりして。読者の方も、ライターが泣きながら書いてると知ると、あらたな共感を得られるかもしれない。

■あえて喜怒哀楽を描き、エモくバズらせる

そんな"ネットとの出会い"に関するお話を踏まえ、今回は記事執筆時のこだわりについても、実際に手がけた記事を実例にして語られた。お菓子のスタートアップ・BAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務める塩谷さん。"演出"を加えることで、BAKEのファンを増やすような記事を手がけてきた。

塩谷:
BAKEは、最初に始めた「Click on Cake」というオンラインで注文する宅配ケーキのサービスがなかなか上手く行かず、大変だったらしいんです。社員は当時2人だけ、男二人の共同生活でした。そこで資金の足しにと、アパートの部屋をAirbnbで貸したそうです。そこにたまたまアメリカから21歳のプログラマーが泊まりに来て、写真ケーキのサービス「PICTCAKE」をがっつり一緒に作り上げてくれた。それが大成功して、会社が急成長しはじめた......という、本当に面白いエピソードがありました。社長からのその話を聞いた時に「これは!」と思い、普通のニュース記事っぽく書くのではなく「21歳のアメリカ人エンジニアとの運命的な出会い」として、社長の叶えたい想いと一緒に、劇的なストーリーとして編集していったんです。これを読んで働きたいと言ってくれた人や、BAKEのファンになってくれた人がいたりしました。

さらには北海道で社長のお父さんが営んでいる洋菓子屋さん「きのとや」の販売員さんに取材に行った記事があるのですが、それを読んで感動したという大学生が北海道までその方のお話を聞きに行って、その後BAKEにエントリー。なんと、次の春に新卒入社してくれることにもなりました。

月間ではまだ10万PVほどなのですが、ただ数字を稼ぐこと以上に「働きたい」「そこに自分もコミットしたい」と思ってくれるコンテンツを作らなきゃと思ったし、「刺さる」人には深く刺さって行動をしてくれたり、一緒に働きたいと言ってくれたりということが起こっていて、嬉しいです。
佐渡島:
深く刺さるためには、何が重要だと思います?
塩谷:
そうですね...やっぱりいかに読み手に共感してもらえるか、というところです。

記事の登場人物と自分を重ねて読むことが出来ると、ぐさっと刺さりやすいですよね。有名人の記事だと固定のファンが読んでくれますが、私が書く多くの記事は、「ふつうの人」が主役です。隣にいるふつうの、でもちょっと憧れる素敵な人が、どんな失敗をしてしまったかとか、悔しかったこととかを根掘り葉掘り追っていく。ただ、失敗談で終わるんじゃなくって、将来的な希望を軸に書いていくと、たとえ読んでくれる人が2〜3千人だったとしても、強い衝撃を受けて行動に移してくれる人がいます。テクニック的なところでいうと、タイトルはあえて固有名詞(人の名前)ではなく、属性などを書くことが多いですね。(タイトルは)SNSでタイトルを見たときに「あ、これは自分と同じ状況だ」って思ってもらうためのフックだから、固有名詞が邪魔することも多いんです。
佐渡島:
たぶん旧来的なメディアは「すでに起こったこと」ベースで伝えるんだと思うんですよ。それに対して、塩谷さんの文章は、そこで起こった感情を順番に書いている。
塩谷:
エモーショナルベースですね。「エモくバズらせる」というのが、個人的にキーワードかなと思っています。悔しかったとか、失敗して落ち込んだとか、そういうところを出させてくださいという点は(取材対象者に)わりといつもお願いしているんです。みんな、成功の裏にある本音のほうが知りたいですし。取材対象者に憑依して、いろんな言葉を色とりどりに書いて、それで広めていくということが楽しいです。
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■「中の人」 としてちゃんと憑依する

そんな塩谷さんの情報発信は、自らのメディア・ブログのみが起点というより、執筆するテーマごとに合った数々のメディアへ記事を提供する形をとっている。その形態の理由とは。

塩谷:
私というライターはいるけれど、乗り物はいっぱいあるという認識なんです。今日のイベントの告知記事「もうバズらせることに疲れたよ。ネットの消化・消耗文化にガチで勝負いたします。」はPARTNERさんという美大生向けのメディア、「宇宙兄弟」のイベントレポート記事「小山宙哉、平田広明、佐渡島庸平が「宇宙兄弟」を語った満月の夜、コンテンツビジネスの未来が光る」はSENSORSさん、安野モヨコさんのインタビュー記事「「漫画を生み出すことに疲れた私は、漫画を描くことで元気になれた」安野モヨコさんインタビュー」は箱庭さんという女子クリエイター向けのメディア、音楽チャンネルのクリエイティブな事例の舞台裏「ロックの爆音でパンチラは可能か!? ぴかりんMV「ロックロールパンティ」密着取材」はKAI-YOUさんというキャッチーでポップなネタを扱うメディア...というように、それぞれのテーマに合う乗り物との相乗効果で、記事のファンが増えていくようになればいいなと思っています。

やっぱり「自分のメディアでやっています」というだけだと広がる可能性も小さいし、TwitterやFacebookからの経由で読まれるということも多いので、私をフォローして下さった方にとってはどこで書こうがフラットに読んで頂ける。一方で、自分の色や軸がなかなか出来づらい面もあって、ゆくゆくはちゃんと自分の軸をつくらないといけないなと思いながら、今はネタ記事から女子向け、真面目な記事まで、カメレオンのようにやっています。

ちょうど(このイベントの)翌日に配信される、コルクの「宇宙兄弟」のメルマガと安野モヨコさんのメルマガ、実はどちらも書いているんですよ。
佐渡島:
うちの、かなりの仕事をお願いしてますね(笑)
塩谷:
そう!コルクの、漫画の仕事って世界観が明確にあるから「今日は宇宙の中に入っていこう」とか「今日は魔界の中に入っていこう」とか、憑依するのに時間がかかって、実はけっこう1記事ごとに精神消耗するんですよ(笑)。でも、やっぱりメルマガを受け取っている人はビジネス情報ではなくて、物語の情報を受け取っているので、「中の人」 としてちゃんと憑依しないといけないなと思っています。

それ(ちゃんと憑依しよう)を思わされるキッカケになったのが、コルクに「宇宙兄弟」の担当編集をしているユヒコちゃんという24歳のスタッフの子がいて。最初に「宇宙兄弟」のメルマガを書いた時の修正依頼で「塩谷さんをどうか愛させてください。読み終わったあと、塩谷さんを好きになりたいです」と返してくれて。ビックリしたんですよ。言います?そんなこと。私はなかなか言えないです。

宇宙兄弟のメルマガでは佐渡島さんも「サディ」って名乗っていて、まるで「ヒビト」「ムッタ」「セリカ」と並んだ、作中の登場人物みたいなんですよね。ファンの方から見ると、メルマガだって、宇宙兄弟の一部。その世界の中に入ってきてほしいということが、「愛させてください」という戻しに込められてるんだと思いました。

WEB編集者ってどうしても数字を取ることと、媒体のトンマナとかルールを守ることに重きを置いてしまう人が多いように感じるのですが、愛情を指標に戻しをしてくる編集者がコルクの中にはいるんだ、って感動したんです。
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■大事にしたいのは、"クリエイターの為になる"情報を伝えていくこと

このように、様々な人のストーリーを、様々な媒体で執筆する塩谷さん。一方でトークの中でも「ゆくゆくはちゃんと自分の軸をつくらないといけない」という言葉があった。塩谷さんが持つ「自分の軸」とは。イベント終了後、より詳しくお話を伺った。

--色んなメディアに出つつも、最終的に塩谷さん個人としてどういった方向性を目指しているのか、興味があります。まず今、仕事を選ぶ時の基準などはありますか?

塩谷:
そうですね。最近はこうして取材していただいたり、表で喋ることも多かったりするんですけど、本当はちょっと腑に落ちない。あくまでも裏方でありたいんです。それでも前に出る理由は、自分が媒介者として注目していただけることで、あたらしい考え方や、クリエイターを紹介できる状況が生まれるから。
よく「恋愛コラムを書いてほしい」というご依頼とかもあるのですが、それだと私だけがコンテンツになっちゃうので、お断りしています。

どの活動も、最終的にはクリエイターの生み出すものを伝える為に私がどう動くかというところなので、そこはブラさずにいきたいです。

--「クリエイターの為に」という意識は、昔からお持ちだったんですか?

塩谷:
高校の頃から「私より才能のあるクリエイターが、なぜコミュニティ内での立場が低いんだろう」とか「才能のある人が、周囲からの同調圧力によって、才能を活かさずに殺してしまっている」と感じることが多くて、それは私の一番のストレスであり、やる気を出すモチベーションでもあります。そこは10年くらいずっと同じ考えでやってきています。

ネット界で大きな影響力と人気を持つ塩谷さん。しかし、その裏にある自らの編集観や軸については語られることが案外少なく、このトーク中でそのようなテーマが挙がったことは大変興味深かった。そのトークを通して、取材対象者やテーマに深く入り込んで読者の心を打つ記事を書くことの出来る背景には「クリエイターの為に」という前提があることを知ることが出来た。

今後も彼女が取り上げる取材対象者・テーマのみならず「塩谷さん自身」が、その記事をどんな想いで書いていったのか...そんな視点で読み込んでみると、より記事に込められたメッセージが浮かび上がってくるはずだ。

取材・文:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
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