クリエイティブディレクターとデジタルネイティブが作るアニメの未来 クラフター 古田彰一、石井朋彦インタビュー

2017.01.30 12:00

クラフターは、博報堂のクリエイティブディレクターである古田彰一氏(クリエイティブディレクター/代表取締役社長)と、スタジオジブリとプロダクションI.Gという日本のアニメ制作現場のトップで制作・プロデュースを手掛けてきた石井朋彦氏(プロデューサー/取締役)が出会ったことによって生まれたアニメーションスタジオだ。

通常のアニメスタジオと違い、セルアニメから3DCG、クレイアニメ、さらに独自開発中のスマートCG、フラット3Dなど、多岐に渡る種類のアニメを手掛けている。

古田氏、石井氏にアニメの現在、未来について伺った。

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クリエイティブディレクター/代表取締役社長・古田彰一氏(左)、プロデューサー/取締役・石井朋彦氏(右)

■クリエイティブディレクターが経営するアニメスタジオが生まれた経緯

--まず、クラフターというアニメスタジオが作られた理由を教えてください。

古田:
そもそもは、僕が広告業界でずっとクリエイティブディレクターをやっていて、広告表現の可能性を探るうちに、アニメーションという日本が誇る表現技術に関して、まだかなり未開拓だなという思いがあったんです。そんな中、ある飲み会がきっかけで、ジブリ、I.Gというアニメ業界のド真ん中を走ってきた新進気鋭のプロデューサーだった石井と知り合いました。彼と話すうちに、広告という表現ジャンルと、アニメーションの融合というものが形を帯びてきたんです。

広告って基本的にはコミュニケーションビジネスで、アニメや映画というのはコンテンツビジネスですね。広告と言うのはお客さんが顧客=クライアントです。コンテンツビジネスは、お客さんが観客です。でも、ターゲットとする対象は同じ「人」だよねと。コミュニケーション技術とコンテンツ技術を一つにする事で、新しいクリエイティブが生まれるのではないかという事で、広告業界とアニメ業界双方のクリエイターが共にアニメーションスタジオを作ったのです。
石井:
クラフターの前身であるスティーブンスティーブンを立ち上げた5年前、いや、それ以前から、広告とアニメーションはもっと融合すべきだと考えていました。

企業が求めているもの、お客さんが見たいと思うもの、それらをちゃんと結びつけるにあたって重要なのは、プロデューサーでも、監督でもなく、クリエイティブディレクターなのです。クリエイティブディレクターがアニメの特徴を熟知し、スケジュールも理解し、クライアントと現場と向き合う。古田社長との出会いによって、理想が現実になりました。

例えばKDDIさんとご一緒させて頂いた未来の携帯電話の姿を描くアニメ『もうひとつの未来へ。』を作った時のことです。アニメーションの現場は、クライアントが望むものより、面白いものを作りたいと考える。でも、クライアントは面白い物語の中に、リアルで共感出来るテクノロジーの未来を盛り込みたいと考える。双方に向き合って作品を成立させたのが、クリエイティブディレクターである古田社長だったのです。
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KDDI ブランドシネマ「もうひとつの未来を。」
©KDDI © STEVE N' STEVEN

古田:
スタッフサービスという人材派遣会社のCMで、サイボーグ003を使って制作したこともありました。タレントの代わりにアニメキャラを使うという試みをかなり大々的に用いた事例です。
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スタッフサービスとサイボーグ003のコラボCM
©2012「009 RE:CYBORG」製作委員会

石井:
広告のクリエイターとアニメのクリエイターが共に作品を作れば、視聴者にとってもクライアントにとってもメリットのある作品が作れるという確信が、どんどん生まれていった時期ですね。

--最近のクラフターは、広告よりアニメスタジオとしての存在感が増しているように感じます。

古田:
この5年で、コンテンツというものに対するクライアントの興味度が上がってきました。広告とコンテンツの境界がだんだん無くなってきている。社名をスティーブンスティーブンから、「作り手」を意味するクラフターに変更したのもそれが理由です。今は全体の6割から7割がコンテンツ制作です。一方で、クライアントとの物作りの距離は、以前よりもずっと近づいているように感じます。

■アニメの制作本数が増える中、どう作ってゆくのか

--最近、アニメ業界ってなかなかDVD、BDが売れないということが言われています。クラフターがよりコンテンツに寄ったビジネスに舵を切っていく上で、どうやって利益を出しているのでしょうか。

石井:
アニメーションの制作費は、昔から大きく変わっていません。対してDVD、BDの売り上げが下がってきている事は事実です。それでも本数が増加しています。それはここ数年、海外販売が上向いていたからです。そろそろそのバブルも弾け始めていると思いますが、海外での配信環境が整い、海外販売額が国内の販売額を上回るようになってきた。

ただ、全ての作品が海外で高値で売れる訳ではない。だから、本数がどんどん増えているんです。本数が増える程競争は激しくなり、売れないものと売れるものの差がはっきりしてくる。本数が増えた事により、スタッフの不足が深刻化しています。

--それはものすごく言われていますよね。

石井:
大手プロダクションが新しい作品を受けきれない中、若手の中堅プロデューサーが次々と独立して、小さいスタジオを作り、現場を支えきれない事態も起きてきました。スタジオが増えても、職人的技術を要するアニメーション制作スタッフの数が比例して増える訳ではないからです。

■デジタルネイティブによるアニメを「作り方から作る会社」

石井:
クラフターはその競争の中に飛び込まない事を意識しています。作画の作品を作りたいときは、プロダクションI.Gなど信頼関係のある大手のスタジオとスケジュール予算をきっちり決めて、妥協のないように制作します。  メインの制作チームは、デジタル技術を駆使する新しい世代の若手クリエイター達です。 アドビ After Effectsで、テレビシリーズを作りきってしまうスタッフもいれば、3DCG技術で手描きのアニメーションを凌ぐようなセルルック3DCGアニメーションを生み出すスタッフもいる。彼らと一緒に、これまでと違う形でアニメーションを作ろうではないかというのが、古田社長の掲げる「作り方から作る会社」というクラフターという会社の戦略です。
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古田:
デジタルで制作するという大きなイノベーションがここ数年で起きていますが、すぐにデジタルシフト出来る現場は少ない。我々は設立当初から完全にフルデジタル環境で作り始めているので、イノベーションに対応しやすいんです。若いスタッフは、新技術を真っ先に使いこなしますし、社内で生まれたフラット3Dのように、自ら新技術を開発し始める。作り方を自ら生み出しながら新しい作品を作るという、流れが今後デジタルの中では加速していくでしょうね。

もうひとつ大きいのは、デジタル時代になるとオールラウンダーになるということです。これまでは絵を描くのが上手な人とか、撮影、ライティングが上手な人とか、ある程度分業されていたものが、デジタルだとひとり何役もこなすことができる。コストを絞りつつ、クリエイティブに対する作り手の意思が発揮されやすい。集団作業のアニメーションに、どんどん個性が盛り込みやすくなってくるという変化も起きています。

--一昔前にコンピューターの打ち込みによって一人で音楽を作れるようになったということが、今、アニメで起こっているのかなと思ったりします。

石井:
おっしゃる通りです。若い世代と話していると、最近のデジタルネイティブが憧れる監督は、新海誠さんなんです。新海さんが『ほしのこえ』の映像をひとりで作った時に、彼らはまだ高校生や中学生だったわけですよ。そんな世代が自分でコツコツアニメを作ってきて、ニコニコ動画、YouTubeに作品を発表しているうちに、段々練度が上がってきていて、今に至っている。まさに最新世代は新海さんが一人でアニメを作った時から生まれてきたんだなぁと。そんな新海さんの『君の名は。』が大ヒットしている事も、象徴的な出来事だと思います。
石井:
櫻木もそうだし、稲葉もそうですけど、昔の監督は偉い人というポジションで人を従えてやるという話が、今や完全にプレイングマネージャーとして、同じフィールドで、同じ目線で自らも作っちゃう。そこが全然変わってきていますね。だから監督の意味がだいぶ変わりましたね。

■アニメのヒットが続いた2016年「アニメだからこそ新しいものでも観られた」

--今年は新海監督の『君の名は。』や、元々アニメーションの監督である庵野監督の『シン・ゴジラ』、それだけでなく他にも『聲の形』や『この世界の片隅に』というヒットしにくい題材の作品がヒットしていて、これまでと流れが変わったのがハッキリ目に見えてきたと思うのですが、今後求められていくアニメはどうなっていくのでしょうか?

石井:
ありとあらゆる物語がアニメで作られているのが日本のすごいところです。オタクであろうがリア充であろうが、普通のエンターテインメントと全く同じ延長線上でアニメを見ている。「何故アニメが元気なのか?」とか、「何故アニメは当たるのか?」と言っているのは上の世代だけです。若い人から見れば「いや、普段から見ていますから」という事だと思います。

何故、アニメであんなに重いテーマなのに『この世界の片隅に』が観られているのか? という議論では無く、アニメという親しんだジャンルだからこそ、戦争という普遍的かつ重厚なテーマを、幅広い世代に届けることができたのだという議論をすべきです。
古田:
特別なことが起きているわけじゃなくて、やっぱりそうなったんだなという感じの方が強いですね。
石井:
新海さんみたいに、これまでのアニメの文脈じゃないところで作り続けてきた監督の作品が、若い人たちが「自分たちが発見した」という喜びをもって迎えているという事は大きいと思います。上の世代から、「『スター・ウォーズ』観たのか? エピソード4からちゃんと見たのか!?」と言われて、ウンザリしていた若い世代が「新海さんの作品こそ僕たちのものだ!」と新鮮の受け止めた、ということなのではないでしょうか。勿論、作品が優れていたということが大前提ですが。

■トランプショックと同じで、メディアはまだアニメをマイノリティであって欲しいと思っている

--これからのアニメってどうなっていきますか?

石井:
面白いと思いますよ。「アニメだから」ということじゃなくなった時代に、次から次へと若いクリエイターと一緒に作品を作れたら......と思うと、ワクワクしますね。
古田:
これまでアニメという1ジャンルに押し込められていたものが、今やそれはジャンルではなくて、スタンダードな表現手法になったんです。そこが今解き放たれたという事は、逆に全ジャンルを取り込むと思います。セカイ系とかアニメが先行して発明したジャンルもあるから、そういうところも含めてアニメは過去の物も未来の物もみんな取り込み出しているので、このカオスの力はすごいですよね。
石井:
作り手も受け手も社会も、もう随分前から変わってきていて、むしろそれを論じるメディアの見方が違っていた。トランプショックと同じで、なんとなくアニメはまだマイノリティであってほしいという願望がいまだにあるのではないでしょうか。

--そう言われると、すごく腑に落ちますね。

石井:
潜在的に声を上げない人たちは最初からトランプに入れるつもりだったというようなコトが、多分、メディアでも起きていますよね。「何故、今アニメ?」とか見出しを見る時点で、本質から離れているのだと思います。
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アニメが余命宣告されているという話も聞く業界が激動する現在だが、もはやアニメを支持しているのはこれまでのオタクやアニメファンというだけでなく、全ての若い世代は普通のエンターテインメントの一つとしてアニメを受け入れている。2016年は、こうした表に出ていなかった事実を社会全体が認識をしたという印象的な1年だったといえる。今後、アニメは全世界を巻き込んで大きくなる黄金期を迎えることになるかもしれない。その中でデジタルネイティブの世代が台頭するのは間違いなく、「作り方から作る」クラフターは特にユニークな存在として目が離せない。

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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