未体験の映像を生み出す、デジタルネイティブのCGアニメ監督 櫻木優平、稲葉大樹インタビュー

2017.01.27 15:30

クラフターは、博報堂のクリエイティブディレクターである古田彰一氏(クリエイティブディレクター/代表取締役社長)と、スタジオジブリとプロダクションI.Gという日本のアニメ制作現場のトップで制作・プロデュースを手掛けてきた石井朋彦氏(プロデューサー/取締役)が出会ったことによって生まれたアニメーションスタジオだ。

そのクラフター社内では、若手のCGクリエイター達による数々のアニメ作品が生み出されている。今回インタビューをお届けするのは、共に自主制作アニメ出身。3DCGアニメの新たな表現であるスマートCGを生み出す櫻木優平監督と、2Dなのに3Dのように回り込んだり振り向いたり出来るフラット3Dを開発し、『ふうせんいぬティニー』の劇場版(2017年夏公開予定)を準備中である稲葉大樹監督。二人に新たなアニメーションの表現についてお話を伺った。

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櫻木優平監督(左)と稲葉大樹監督(右)

■クラフターでスマートCGを手掛ける櫻木優平監督

櫻木優平監督は岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』のCGディレクターを務め、「日本アニメ(ーター)見本市」での『新世紀いんぱくつ。』で監督デビューを果たした。最近では宮崎駿監督が制作中の3DCG短編『毛虫のボロ』に参加したことでも話題の人物である。実はポケモンGOのヒューマンキャラクターのデザイン、モデルはクラフターが手掛けており、モデリングの担当をしているのも櫻木氏である。

--まず、クラフターに参加するきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

櫻木:
石井さん神山さんと『009』(『009 RE:CYBORG』)の時に知り合って、その時自分は別の会社に居たんですけど、そこを辞めた時に石井さんから『花とアリス殺人事件』のCGディレクションをやらないかという話がありまして。当時、神山さんが3DCGに興味があり、社内に1人置いてCGがどういうものかを見たいといっていたこともあって、席を1個作ってもらった感じでした。
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©花とアリス殺人事件製作委員会

--それまで所属していたスタジオからクラフターに来ることで、何か新しいことに挑戦できるという気持ちはあったのでしょうか?

櫻木:
ありました。最初はしがらみの無いフラットな環境でCGディレクターが出来るという点にそれを感じていました。監督として関わらせていただけるとは思っていませんでした。手描きアニメスタジオには、制作進行や手書きアニメーターがコンテを描かせてもらってそのうち監督になる、みたいな流れがあるんですけど、CGアニメーターはCGアニメーションディレクターが最高職で、そこから監督になるという流れはまだ明確に無いんです。大きなスタジオに長く滞在し続ければコンテを描かせてもらうチャンスがくるかもしれませんが、同じように監督が出来るチャンスを待っているベテラン勢が結構いるので、自分の番が来るのを待っていると10年ぐらいかかりそうな印象でした。

■手描きの作画をマネし過ぎたら作画に勝てない

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手描きの作画によるアニメでは難しい細かいディティールまで表現されている『新世紀いんぱくつ。』のキャラクター。
©nihon animator mihonichi LLP.

--櫻木さんの『新世紀いんぱくつ。』などを拝見して、櫻木さんの手がけるスマートCGは、結構、手描きのセルアニメの作画の良さや特徴を取り込んでいると思うのですが。

櫻木:
難しいところなんですけど、これまでの手描き作画が作り上げてきた、「アニメってこんな感じだよね」というフィールドがあると思うのですが、そのおかげで海外のフルCGほどリアルにしなくても作品が成立しています。CGはリアルになるほどコストがかかります。単純にCGの質感をセルアニメっぽくするだけだと、低クオリティーのCGにしか見えません。アニメのフィールドに乗れるぐらいには見慣れた手描き作画に近くする必要性があります。ただ、そもそも手描きとCGでがツールが違うので、得意不得意な表現も違います。CGなりの強みを出せる要素を見つけていかないと、「手描きのほうがいいじゃん」となり、アイデンティティーが無くなってしまいます。
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『新世紀いんぱくつ。』より
©nihon animator mihonichi LLP.

--スマートCGだからこそ実現出来た部分はどこになるのでしょうか?

櫻木:
ひとつは密度を出すという部分だと思っています。今回はキャラクターデザインの時点でかなりディテールを細かくしてもらいました。細かい線やグラデーション処理など普通のアニメだと大変になるような事をあえてデザインに盛り込んでいます。作画で密度感を全カット出す場合は、コマの数だけ一枚一枚描きこむことになるのですが、CGだとベースとなるモデルにさえ組み込んでしまえば密度が出せます。

ほかにはCGだとZ情報という奥行きの3D情報を使っています。最近ピンボケの表現がアニメでも多く見られるのですが、手書き作画だと手作業で奥行きの情報を作っていく必要があり、とても手間がかかります。CGだとその奥行きの情報が簡単に出せるので、それを使ってぼかしを入れています。
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『新世紀いんぱくつ。』より
©nihon animator mihonichi LLP.

■宮崎監督との作業はCGアニメーター達への継承作業

--宮崎駿監督の3DCGの新作短編『毛虫のボロ』に参加されていますが、宮崎さんとのお仕事はどうでしたか?

櫻木:
もともとはCGで何か新しいことが出来るのでは?という期待を感じていました。ただ、作っていくにつれて「CGも手描き作画も同じだね」と感じたようで、CGを使って何か新しい事をしたいという気持ちより、宮崎さん自身が作画で培ったノウハウをCGアニメーターにも伝えたいという気持ちが強くなっていったようでした。ミッションとしては、これまで宮崎さんの作ってきた作風をどうCGで作るか、という部分になりました。単純にアニメーターとしての技術だけで言えば、正直熟練度には圧倒的な差があり、教わることばかりでした。宮崎さんが例としてあげて来るアニメーターの名前も全て、自分のような一端のアニメーターからすると神様のような大御所ばかりで、「え、そんな人たちと比べられるの...?」というプレッシャーを感じながらの作業になりました。とはいえ、宮崎さんも我慢強く凄く丁寧に教えてくれたので、とてもありがたかったです。教え方にもかなり気を使っていただいたように感じます。
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作業中の櫻木監督

■手書き作画と比較をされている地点でまだ未成熟だと思っている

--作品を見てもらった反応で手応えを感じる時はどういう時ですか?

櫻木:
現状、CGと手描き作画の比較は絵のクオリティーの話が大半なので。そこで比較さてれいる地点でまだ文化が未成熟だと思っています。そもそも手法が違うから本当は演出自体に差が出るはずなので、本来もっと違う形での比較になると思います。実写かアニメかぐらいな......

--手描き作画みたいだと言われてしまう時点で......

櫻木:
ピクサー、ディズニーなどはもう、作画だったら?という所は超えているじゃないですか。製作者の気持ちとしては手法的なところを意識させないぐらい自然に作品を見てもらいたいです。特に手描き作画っぽいねとか、まるで手描き作画と言われるのが一番不毛で、本当はそこら辺に意識が行かないぐらい、純粋に作品の面白さを評価されるようになりたいです。

本当はCG屋さんからもっと監督が出なければいけないんですけど、そういう流れがないので、やりたいと思っている人たちがかなり意図的に行動しないと今は難しそうです。アニメ業界は手書き作画の文化が強いから、CGの人にコンテを書かせるということ自体、かなり挑戦的なことだと思われているのではないでしょうか。
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『新世紀いんぱくつ。』より
©nihon animator mihonichi LLP.

--これから先、やりたいことはなんでしょうか?

櫻木:
本当のことを言うと作画のアニメ監督がやりたいです。とはいえ自分はCGで作れる監督さんという売りでやらせてもらっているから、それをやらせてもらうにはもう少しキャリアが必要だと思っています。

今はそう考えているといった感じです。何か起きれば考えは変わったりするので(笑)。

--今後、『新世紀いんぱくつ。』よりも長い作品は発表されますか?

櫻木:
そうですね。今、絶賛いくつか作っていて大変です(笑)。

■『ふうせんいぬティニー』シリーズの稲葉大樹監督

『ふうせんいぬティニー』シリーズの稲葉大樹監督は、自主制作の『お願い!モンスター』をアドビ After Effects(※以下AE)で制作、『ティニー』TVシリーズの監督を経て、新たなアニメーション表現であるフラット3Dを自ら開発して、現在は『ふうせんいぬティニー』の劇場版の作業中であるという。

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稲葉大樹監督

--稲葉さんは、クラフター以前には個人で『お願い!モンスター』等の作品を発表していましたが、『ふうせんいぬティニー』シリーズの監督になったのは、どういった経緯になるのでしょうか?

稲葉:
元々、僕が最初にいたのが、フランスのアニメやゲームを手がけているAnkama社の日本スタジオで撮影スタッフをやっていたんです。Ankamaではアニメーションツールとして主にFlashが使われていました。基本的にはキャラクターのパーツを分解して動かすという「カットアウトアニメーション」の手法ですね。ただ、その手法と「手描きの原画」を組み合わせて今まで見たことの無いようなクオリティの作品を作っていまして。いままで自分がカットアウトアニメーションに感じていたある種の「安っぽさ」が完全に払拭されたんです。

僕自身が撮影スタッフだったこともあって、この手法をアニメの撮影で広く使われているAfter Effects(※以下AE)でも応用できないか、ということから始まりました。

Ankamaではセクション同士の距離が近く、監督やアニメーターや、各ディレクターから色々なことを勉強することができたんです。企画の立ち上げ~完パケまで、キャラクターデザイン、コンテ、レイアウト、編集...といったアニメ制作の各工程を、を監督達のすぐそばで経験できたのも大きかったと思います。

その後会社を離れることになり、自分が学んだ「アニメの作り方」を一度作品にしてみようか、と作ったのが『お願い!モンスター』です。
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稲葉監督が個人で製作したオリジナル作品『お願い!モンスター』より

--ということは、『お願い!モンスター』はAEで作られてるんですね。

稲葉:
AEです。爆発とかは作画でやっていて、ちょこっと3Dも使っています。この時はレイアウトとかラフ原画は手書きでやっていまして、それに合わせてバラバラのパーツを組み合わせて作るアニメーションを1本作ってみようかなと思っていました。

クラフターに参加したきっかけとしては、櫻木さんがこの『お願い!モンスター』を石井さんに紹介してくれたことです。その時ちょうど『ふうせんいぬティニー』の企画が動き始めていたみたいで、僕がこういう技法を使っているので、短いパイロットフィルムみたいなの作れないかと話をもらって、1分位のものを作ったのが今の『ふうせんいぬティニー』へと繋がっているんです。

■立体として存在しないキャラクターを立体に見せるフラット3Dとは?

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--そうして『ふうせんいぬティニー』を2シーズン手掛けられて、現在作られているという劇場版には、新たにフラット3Dという独自の技法を導入したということですが......

稲葉:
フラット3Dは、一つ一つは単純な2Dのパスの変形を連動させて、立体として存在しないものを立体として見せかけているという技術なんです。このフラット3Dでしか出来ないことがあって、ティニーのキャラクター達って絵本が原作なので、立体としては全然成立していないんですよ。それをウソをウソのまま成立できる。今まではちょっとした動きのために形を切り替えなきゃいけないのか、だったらやめよう......となっていたそのひと手間ひと手間が今回は自動化されているんです。
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フラット3Dによるティニーが回転するテスト映像
©2016 Genki Kawamura & Kenjiro Sano / Tinny Movie Project

稲葉:
これを導入した理由は大きく2つあって、TVシリーズは多くて10人ぐらいの別々の方がアニメを担当していたんですけど、一人一人がパーツを手付けで動かすので、当然ズレるんです。福笑い現象と僕は呼んでいるんですけど。TVシリーズは5分を1〜2人で担当していたので、そんなに気にならなかったんですけど、長尺をチームで担当すると、カット毎に動きもみんな結構個性的なんですよ。AE上のパラメーターでうまく動きを作る人もいれば、本当に1コマ1コマ位置をずらして調整している人もいて、そういうカットが混在するとかなり見苦しいことになるというのがあって、動きに統一感を持たせたかった。あとは単純に物量が多く、1つ1つ手付けで動かしていたことが300〜400カットになるので、だったら最初からそれをフラット3Dで組み込んでしまって、できるだけ楽にしたかった。その分動かしたいところを動かすという感じですね。
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フラット3Dによるティニーが歩くテスト映像
©2016 Genki Kawamura & Kenjiro Sano / Tinny Movie Project

稲葉:
 体のベースを縮小したら頭全体が0.1秒遅れて何%で進む、同じ動きをするというのを最初に全部設定しちゃっていて、1箇所動かすだけで、全部ずれて動くというふうにしているんです。これを今までは手動で全部していたんですけど。

--ティニーが動くときのホヨホヨした感じが動きをつける人によって変わってしまう......

稲葉:
まさにそうなんです! そこを数字で制御したいというのが始まりだったんです。

--これをVRで見たら面白いかもしれませんね。VR空間に居るのに見えるのはフラット3Dで......

稲葉:
でも、なんか3Dに見える。それはそれで面白いですね。
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©2016 Genki Kawamura & Kenjiro Sano / Tinny Project

■劇場版『ふうせんいぬティニー』は3Dなのか、フラット3Dなのか分からない

--フラット3Dを使った『ふうせんいぬティニー』の新作の見どころは何処になりますか?

稲葉:
3Dなのか、フラット3Dなのか分からないというのが一つの見どころですね。どうやって作っているのか?一見分からないという。それは多分、『ふうせんいぬティニー』みたいなタッチじゃないと出来ないことですね。TVシリーズと一緒なんだけど、TVシリーズとは全く違うことになっているティニーが見られるかなと思います。

進化したスマートCGで監督の道へと本格的に動き出した櫻木監督。Flashアニメの手法を応用し、フラット3Dを生み出した稲葉監督。二人ともが自主制作アニメ出身ということもあり、一人でアニメ作品を生み出せる実力を持つが故に、作品を生み出す技術から開発、監督として非常に高いポテンシャルを発揮し、これまでに我々が見たことがない映像を生み出している。これから目にするであろう彼らの新しい作品で、さらにどんな新しい表現の挑戦が行われるのか?非常に楽しみである。

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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