世界が注目する"人機一体"テクノロジーの祭典「サイバスロン」とは?

2016.11.17 13:30

先天的な要因や、事故などで身体の一部を脊損してしまった障がい者を支援する「サイバー義体」の技術力を競う大会「サイバスロン」がスイスで開催された。実はこのサイバスロン、4年後の第2回大会の開催国の有力候補として日本が挙がっているのをご存知だろうか。いま日本でサイバスロンを開催することの意味、そしてそこに秘められた想いとは。

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会場:クローテン市(チューリヒ近郊)  スイスアリーナ

変化というものは、ある日突然訪れるのではなく、小さな積み重ねによってもたらされるものだ。世界において、いま最も注目すべき変化は「身体的弱者」へ注がれる視線にあると言える。
2011年の世界陸上に健常者と方を並べ出場したオスカー・ピストリウス選手の走りは見る人に熱狂を生み、多くの身体的弱者に勇気を与えることとなった。 そんなスター選手の活躍を追い風として、2012年のロンドンパラリンピック、そして記憶に新しい2016年のリオパラリンピックの盛り上がりは世界中の人の身体的弱者に対する視線がこれまでにない熱を帯びてきている証拠だと言っても過言ではないだろう。

サイバスロンはそんな変化の中、スイス連邦工科大学チューリッヒ校でリハビリロボットを研究するロバート・リエナー氏の呼びかけによって、身体的弱者を支援する「サイバー義体」技術を大きく前進させるための試みとして始まった。

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競技の様子

今年の10月に開催された世界大会には、日本からXiborg、大学発ベンチャーのメルティン、和歌山大学の3チームが出場し、サイバー義体が、つまり、身体とテクノロジーが一体となった状態で日常生活の含む様々な障害をクリアしていく、サイバスロンならではの競技が行われた。

通常の競技スポーツに比べると、かなり地味な印象を受ける内容だが、第1回大会は当初の予想を大きく上回る5000人もの観客を集め、その盛り上がりはロバート氏をはじめとした主催者にとっても驚くべきものだったという。 なぜいまサイバスロンがそこまでの盛り上がりを見せることとなったのか。 大会運営に関わり、現地でその盛り上がりを目の当たりにした後藤啓介氏にお話を伺った。

■サイバスロンは健常者と障がい者の気持ちが一つになっている。

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電動ウィルチェアのマシン

--現地で実際にご覧になって、サイバスロンの魅力というのはどこにあったのでしょうか?

後藤:
サイバスロンの大会に出場していたマシンがとにかくかっこよかったという一言に尽きます。デザインという意味だけでなく、身体と一体となったマシンが次々と障害をクリアしていく様子に、観客は惹き付けられました。
大会自体は日常生活の中で必要になる動作を再現し、障害物をクリアしていくという、地味な競技内容に見えます。しかしながら、そもそも歩くことのできない人たちが、最先端技術の粋を集めたマシンを駆使して、階段を登ったり、荷物を運んだり、一つ一つ障害をクリアしていくのです。その姿に、会場は大いに盛り上がりでした。目の前で披露されるテクノロジーは「できない」を「できる」に変えてしまう力を持っていることに、観客は心が動かされたのだと思います。
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電動ウィルチェアのマシン 【左】香港チーム キャタピラ型  【右】日本チーム 4輪歩行型

--お伺いしていた競技の内容から、ロボコンのような大会をイメージしていたのですが、どのように違うのでしょうか。

後藤:
大前提、ロボットが主役ではなく、人が主役だという点で大きく違います。サイバスロンは、身体とテクノロジーの一体性を競う競技と言っても過言ではありません。また、身につけるテクノロジーが操作する人を傷つけてしまうようなことがあっては絶対ならないので、大会側が非常に高いテクニカルチェックを設けていることも大きな特徴です。サイバスロンへ出場するためには、何百というチェック項目を全てクリアしなければなりません。出場したXiborgの遠藤謙くんが、これをクリアできたら、製品化できるレベルに到達する、とよく言っていました。
実は、これが主催者であるロバート氏の狙いなのです。サイバスロンに出場するチームのテクノロジーは、製品化できる高いレベルにあることを世界に証明し、製品化へのベンチマークにしていきたいと考えています。 そして、国際スポーツ大会という多くの人の注目を集める機会を作ることで、この領域に関わる技術者にモチベーションを与えられれば、と思っています。
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パワード義手のレースは、超ハイテク義手を装着し、6種類の障害物タスクをこなす義手の動きの巧緻性を競う競技。

--ミスがない、と言うのがとても画期的だと感じたのですが、サイバスロンを皮切りに人間と機械の融合技術も加速していく、ということがあり得るのでしょうか。

後藤:
大いにあると思います。但し、サイバスロンのスタートラインはあくまで、身体的弱者の生活をサポートするテクノロジーの発展に寄与するというところにあるということを忘れてはいけません。
つい、車を持ち上げられるパワードスーツや、100mを5秒で走れるロボット義足などをイメージしがちですが、サイバスロンは、あくまで、障害者や高齢者といった身体的なハンディキャップを背負っている人々の生活をサポートするための技術をドライブさせていくという信念からはじまっています。近い将来、健常者の身体能力を拡張して競う競技が出てくると思いますが、それはサイバスロンではありません。私にとってサイバスロンの最大の魅力は主催者、出場者、そして観客の中でその信念が共有されているところにあると感じています。

■日本でサイバスロンを開催する意義とは。

--現在、4年後の第2回大会開催地として、日本が検討されていると伺いました。2020東京オリンピック・パラリンピックで世界の注目が集まる中、サイバスロン開催はどのような意味を持つのでしょうか。

後藤:
日本と欧米では、身体に障がいを負う背景に、大きく異なる点が一つあります。それは、戦争地に派遣される軍人さんの有無ですね。今回の出場者の中にも、退役軍人の方がいらっしゃいました。このような障がいを負った軍人の方をどう支援するかという問題は、日本人の私たちが想像するよりも、より身近なのだと思います。
しかし、日本における身体的弱者の視点からすれば、世界に先駆けて、超高齢化社会に突入することです。 4年後のサイバスロンが日本で開催されることになった際には、高齢者が生き生きと身体を動かすことができるようなテクノロジーを充実させて、高齢化社会を乗り切るモデルケースとして、世界にアピールしたいと考えています。
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レース終了後の各国チームの様子。

--サイバスロンをキーとして、高齢化社会を支える技術の進歩に拍車をかけるということですね。

後藤:
はい。すでに高齢者の歩行をサポートするディバイスは実用化されていますし、パワードスーツも介護の現場に導入されはじめています。また、もともとハンディを乗り越えるテクノロジーであったものが、ゆくゆくは一般的な、日常的に使われるものになっていくと考えています。例えば、電動車椅子の技術がパーソナルモビリティに応用されたり、と。社会課題を解決するテクノロジーが、一般の人々にも幅広く浸透していく、というのは、とても日本らしいやり方だと思います。

サイバスロンの持つミッションをアピールするために、できるだけ多くの人に見てもらい、楽しんでもらうスポーツエンターテイメントに仕立てることが重要とも考えています。大会や競技の見せ方についてもじっくり考えていきたい。4年後には技術も進んでいるので、2016年大会よりも、さらに大きな驚きと感動があると思います。

--ありがとうございました。


日本において身体的弱者に対して注がれる視線は、未だ憐憫の情を多く含む。しかしサイバスロンを取り巻く熱気が日本にも伝わることとなれば、その視線は必ずや賞賛と羨望の眼差しへと変わることに間違いない。現在第2回の開催候補地には、日本の名前が挙がっている。4年後の世界が注目する日本で、大きな変化を見せることができるよう望むばかりだ。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。卒論のテーマは「2016年時点のインターネットコミュニケーションにおけるGIF画像の果たす/果たした役割」。
Twitter @do_do_tom

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