真鍋大度×アルスエレクトロニカ演出監督対談『メディアアートが社会に与えるインパクト』

2016.07.15 09:15

世界最高峰のメディアアートの祭典『アルスエレクトロニカ』も注目するライゾマティクスリサーチ真鍋大度氏と"アルス"の演出監督ゲルフリート・ストッカー氏のSENSORS特別対談をお届けする。 メディアアートが社会や企業に与えるインパクトをIntelのアート支援などの事例を元に紹介する。メディアアートが社会や企業にインパクトを対談を通して探る。

メディアアートは単なる「芸術」の域に留まらず、この混沌とした時代の先導者たることも期待される。SENSORSで常に追いかけているライゾマティクスリサーチ真鍋大度氏はまさに"先達あらまほしけれ"としてメディアアートの域からビジネスにつなげる事例を多く作る人物だ。そのような彼が常に参加し続けるイベントがある。毎年9月にオーストリアの首都リンツで開催されるアルスエレクトロニカだ。アワードと展示、そして教育を軸に1979年からメディアアートを追究しているアルスエレクトロニカの総合演出監督ゲルフリート・ストッカー氏の来日にあわせて特別にSENSORS主催で真鍋大度氏とストッカー氏の対談を行った。いつものSENSORS記事に比べると長文になったが、両氏が語るビジネスとアートをつなげる努力について大事な言葉が詰まっているのを大切にしたく、じっくり味わってもらいたい。

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ライゾマティクス・リサーチの真鍋大度氏とアルスエレクトロニカ演出監督であるゲルフリート・ストッカー氏のSENSORS特別対談を博報堂にて実施した。

■テクノロジーが人間に与えるインパクトを実験する

真鍋氏がアルスエレクトロニカで初めて作品を発表したのは2004年、真鍋氏とストッカー氏の出会いは2008年に遡る。真鍋氏がアルスエレクトロニカに招待されてプロジェクトを発表して以来の仲である。
ストッカー氏が初めて真鍋氏に会った時の印象は 「若く、エネルギーとクレイジーなアイディアに満ち溢れたアーティスト」だ。その印象は2016年現在も変わらない、と付け加える。世界中の第一線で活躍するアーティストを見続けるストッカー氏から見ても真鍋氏は 天性のアーティストで"未来への創造に寄与しているアーティストの一人"であると断言する。
真鍋氏もストッカー氏に敬意を表する。当対談ではメディアアート界のアーティスト、そしてディレクターとして第一線で活躍する両氏が現在気になっていることをお互い投げかけあってもらった。メディアアートが時代に与える影響、日本と世界の差異、アートとビジネスの関係などが掘り下げられていく。
(※以下ストッカー氏トーク部分"ST:"と記す。)

真鍋:
まずストッカーさんに質問したいこととして、アルスの歴史で言うと1970年代の終わりからテクノロジーを使った表現というのが急速に進化し、さらに、社会にどんどん浸透していって今はもう成熟期と言っていいと思うのですが、その状況をどのように見ているのか?初期の頃から見ているからこその視点で教えてもらいたいです。
ST:
テクノロジーはものすごいスピードで進化しています。アルスは1970年のまだコンピューターやマイクロエレクトロニクスが一般に普及する前からそれらを使ったアーティストや作品を紹介しており、テクノロジーの進化や世の中の変化を常に感じております。ただ、昔から変わらないポイントも存在します。それはアーティストはテクノロジーのインパクトが人間の生活にどのような影響を与えるのか?を追い求める習性があるということです。そしてその追究が過去よりも現在、より重要になってきています。というのは、テクノロジーが様々なものをチェンジさせているからです。テクノロジーの進化の中で人々がどのように振る舞えば良いか?悩む時代だからこそアーティストが追究する作品が、いままで以上に意味を持つものとなってきています。
真鍋:
テクノロジーが社会に浸透する前に自分たちの体や作品を使って先行して実験し検証できることが、メディアアーティストの役割と考えています。いま、例えばGoogleの様な先進的な企業がすごいスピードでいろんなものを開発して、しかも彼ら自身がアート作品を作り始めていて面白い状況だと思うのですが、ストッカーさんはこの状況をどのように見ていますか?
ST:
アートは新しい指針を出すために常に必要だと考えています。同時にテクノロジーやデジタルは日々の生活の方向性を決めるために不可欠になってきている世の中です。アーティストにとって責任範囲がちょっと変わってきていて、テクノロジーそのものが何なのか?ではなくテクノロジーがどのような価値を我々の生活にもたらすのか?が大事になります。そしてテクノロジーを浸透させるためのアプリケーションをどのように作れば、我々の文化に価値あるものとなるか?ということを考えなければならない。これは新しいタイプのアーティストの必要性を生んでいます。私が真鍋さんの作品が好きなのは、メディアアーティストの作品として、新しい文化の創造に寄与するカタチで作品を作っているところです。とても21世紀的で、一番現在において重要なことかもしれません。
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「テクノロジーが社会に浸透する前に自分たちの体や作品を使って先行して実験し検証できることが、メディアアーティストの役割」と語る真鍋大度氏

■インタラクティブアートはメディアアートなのか?

真鍋:
メディアアートはメディア作品を通してテクノロジーの社会実験をするもの、だと思うのですが、現在、例えばインタラクティブアートという文脈ではテクノロジーの役割を問うことよりも、単純にゲーム的に楽しめるものも増えてきています。それ自体の良し悪しはさておき、だんだんそういうものが増えてきました。こういうことは日本だけのものなのか?それともヨーロッパでも同じことが起きているのか聞きたいと思っています。
ST:
そのトレンドは世界中で起きています。テクノロジーが簡単にアクセスできるような時代になったので、同じような現象が世界中で同時多発的に起きています。このトレンドはデモクラシゼーション、テクノロジーの民主化とも言える現象です。みんながテクノロジーを使える時代です。テクノロジーがその分アーティストにとって魅力的な存在ではなくなってきているとも言えます。ですがそのような世界や文化もテクニックも受け入れる必要がありますね。同時に今起きている複数のプロジェクトは間接的に新しい文化やテクニックにつながり、社会活動にもつながっていきます。いま局所的に起きている自動運転やロボットも近い未来、我々の生活にもっともっと身近になります。我々は新しく文化や言語を開発していかなければなりません。

■社会にインパクトを与えるためには"産業"が必要

筆者が今年の1月に、ラスベガスのテクノロジーの祭典「CES」に参加した際にIntel社長が基調講演にて紹介したドローンの事例があった。それはアルスエレクトロニカと組んで"ドローン花火"として複数台のドローンを制御し、夜空に"Intel"の文字を演出するものだった。IntelはそれをIoT事例として紹介したが、実はこのプロジェクトはもともとアルスエレクトロニカがアート作品として発表していていたものに、後からIntelが参加した座組である。メディアアート作品に企業が協賛し、より大規模なものとして開花させた事例について真鍋氏が質問したいという。アート作品と企業の関係を掘り下げていくヒントとなりそうだ。

真鍋:
アルスのドローンを使ったプロジェクトは、パブリックアート、新しい花火と言ってもいいかもしれませんが、なぜIntelと協業することになったのでしょうか? 質問の背景には僕自身、企業や広告とメディアアーティストの関わり方はどのようなカタチが良いのか?常に考えながら活動しているのですが、メディアアーティストはクラフトやテクノロジーに関する部分のみが評価をされて、アイディアやコンセプトを作り出している部分が正当に評価されていないケースが多い様に感じています。あのアルスのドローン作品はアルスの作品をIntelがサポートしているということが明確になっていて、すごく良い事例になっていると思い背景を伺いたいと思いました。
ST:
メディアアーティストは産業、企業とコラボレーションをするべきだと思っています。なぜならメディアアーティストは最新のテクノロジーを使って作品をつくる必要がある性質上、企業の最新のテクノロジーに触れられる環境にある必要があります。 同時にアーティストか?企業か?どちらがオーナーシップを持つべきか?も問題になります。我々のドローンプロジェクトの際には、まずはアーティスト起点で始まりました。それを公共のアートイベントとしてリンツ市で発表しました。ドローンがもたらす空中のビジュアル・エフェクトは人々にどのような影響をもたらすか?実験する意味を込めて我々独自でスタートさせました。2012年の事です。最初は手弁当でドローンが落ちたりして大変だったのですが、ドローンやテクノロジーが公共の環境に存在する意味的なものを見出し継続的に続けていきました。数年経ってIntelが我々のプロジェクトの存在を知り興味を持ってくれました。というのはドローンそのものもそうですし、ドローンの自動制御というのがIoT(Internet of Things)の思想に近く、Intelが相応しい事例を探していたところ我々のドローンが最適なプロジェクトと考えられて一緒にやることになりました。Intelにとってだけではなく、我々にとってもIntelのサポートが入ることによりプロジェクトのレベルが一段あがりました。アイディアを思いつき実行に映すまではメディアアーティストだけでも出来ますが、社会にインパクトを与えるためには産業や企業と一緒にプロジェクトを組む必要があります。
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最近注目しているテクノロジーは遺伝子工学、バイオテクノロジーと語るアルスエレクトロニカのストッカー氏

■テクノロジーのトレンド:遺伝子工学、バイオテクノロジー

メディアアーティストが扱うテクノロジーの領域も広がってきている。ストッカー氏と真鍋氏がいま注目するテクノロジーについて両者に質問してみた。

ST:
最近注目しているのはジェネティック・エンジニアリング(遺伝子工学)とバイオテクノロジーですね。あとインフォメーションテクノロジーとバイオテクノロジーの融合しているものも興味があります。既に多くのアーティストが取り組んでいますね。またAI、自動制御、ロボットなどももちろん注目のテクノロジーです。
真鍋:
ストッカーさんが注目する通りですね。 また、自動制御を支える技術が進化することで表現も進化していくと思います。 ライゾマリサーチではUWB(ウルトラワイドバンド)と呼ばれる位置認識、高速無線通信技術を用いて新しい自動制御のシステムを開発していますが、 この辺が新しいパフォーマンス作品を生み出していくと考えています。 AIに関してはバックエンドはエンジニアリングというよりも数学の勝負になってますが、 コンテンツを作るフロントエンドは簡単に使えるライブラリも増えているのでデータ勝負というところでしょうか。
ST:
AIの話はまさに、ですが、テクノロジーのトレンドやテクノロジーを追うよりも大事なのは、アーティストそのものの視点です。そのテクノロジーが人間にどのような影響を与えるのか?を知ることがより重要になります。そして彼らの作る作品が社会や文化にどのような影響を与えるのか?という視点が今後もっと大事になります。

■日本はメディアアートへのサポートが足りない

ストッカー氏はここ数年の日本人アーティストの貢献がメディアアートの進化において重要な役割を担っていると述べる。 テクノロジーが我々の生活に欠かせないことを理解している国民性やクラフトマンシップが背景にあると言う。ここ15-20年の間にアルスだけではなく世界のメディアアート・シーンにおいて日本人の作品が与えた影響は大きく、世界中のメディアアーティストも注目していると言う。

ただ、メディアアーティスト個々人の素晴らしさとは裏腹に日本の政府や業界からのサポートが少ないことに警鐘を鳴らす両氏の意見を以下に伝える。

ST:
日本はメディアアーティストへのサポートが足りないと感じています。実験的な作品を作り続けるアーティストにも価値があるのに、そこへのサポートが足りない。 日本はテクノロジーをベースにしたイノベーションやクリエイティビティにより進化した国です。メディアアーティストをテクノロジーリサーチャーとして考えていただき、もっと支援すると、もっと良い作品が生まれてくると思います。次世代にどのテクノロジーを生活に活かすべきか?そのリサーチをするメディアアーティストにもっと支援があっていいと思います。政府からの支援ももっとあって良いと考えます。そのことによりテクノロジーやビジネスも新たに生まれてくると考えます。
真鍋:
サポートが足りないことは常々思うことです。僕らがやっているリサーチは国内では評価されず、海外で評価されビジネスとして成立することが多くなってきています。ストッカーさんが指摘してくださった支援が改善されることにより、もっと日本発のメディアアートが世界に発信していけると信じています。ただ、どうやればいいのか?僕には方法がわからないのが現状です。

■海外では評価され、国内では評価されないメディアアート

真鍋:
先ほど述べた海外で評価された事例として、Nosaj Thing"Cold Stares"があります。こちらはアルスエレクトロニカでは優秀賞を受賞するけれど、国内のコンペでは評価されないというケースがありました。昔に比べると作品を発表する環境が整ってきていて、DVDを航空便で送らなくてもYouTubeにアップすれば良い環境になってきたので世界中の人が見てくれる環境が整っているのも背景にはあります。 ある実験動画をYouTubeから世界に発信した際に、日本国内では変な人が現れたぞ、という感じだったのですが、アルスは僕の作品を見つけて招待し、さらにはライブパフォーマンスの場所も作ってくれたりしました。実験的なメディアアーティストを社会に還元する仕組みをアルスが先駆けて作ってくれていると感じています。
Nosaj Thing"Cold Stares"

■日本でアルスエレクトロニカを実現するためには?

ST:
日本でアルスをやるべきだと思います。先ほどの真鍋さんの例でありましたが、確かに作品のディストリビューションチャネルはYouTubeなどの登場により敷居が低くなりました。ただ最先端のメディアアーティストが作った作品はオンラインで見るだけではなく、実際に触り、感じること、つまりは体感することが大事なのです。我々は体を持った人間ので、実際に作品の意味を理解するためには触ってみなければわからないのです。オンライン上でアイディアにアクセスするだけでは理解しえなかったものがフェスティバルに集まります。メディアアーティストとしてはオンライン上でアイディアを発信した上で、実際に人々に体感してもらうところまでを担う必要があります。それがメディアアートであり教育でもあるのです。特に若い人達に体感させて,影響を伝えることにより未来の社会やビジネスも変更していきます。

あとは立ち上げるためには本当にやりたい!という強い意思を持った人がいればできると思います。また資本をもった企業にも説明にいき、イベントを支援することにより彼らの未来の利益に繋がることを強く訴えかけるべきです。日本には必要なものが揃っていると思います。
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「メディアアートが企業や社会に与えるインパクトを理解するために、メディアの役割も大きい」と語る真鍋氏

真鍋:
アルスは日本にあったらいいなと思いますが、ストッカーさんと話をしていると日本ではメディアアーティストの役割というのが企業や社会に理解されていないな、と感じてしまいます。自分自身も日々のプロジェクトに忙殺されていくと大きなミッションをこなせなくなってしまうので、いまのストッカーさんの発言は身が引き締まる思いです。 また、メディアの責任もあると思います。いまはメディアは派手でわかりやすいものばかりを発信していますが、そうではない作品をきちんと紹介するというのも大事です。

■対談を終えて

対談を終えて改めてメディアアートが我々の生活に与える影響を振り返ってみたところ、ドローンも人工知能もライゾマティクスの舞台やDJイベントから花開いて行っている事実に気がついた。そしてテクノロジーのサイクルが早いからこそ遺伝子工学やバイオテクノロジーなどは、生活に浸透する前にまずはアートとして人々の目につくカタチで登場していることも改めて知る機会となった。
アートはアーティストだけのものではなく、ビジネスに結びつけ我々の生活に結びつけることにより未来が広がることを再認識させられる対談だった。最後の真鍋氏の言葉にあるように、その未来への種であるアート、メディアアートを丁寧に紹介することがメディアの役割でもあることもしっかりと胸に刻みたい。

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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