サンフランシスコにオープン「D.Haus」【前編】人と技術をデザインで繋ぐコミュニティ・ワークスペースの可能性

2015.10.16 10:00

人と技術をデザインで繋ぐコミュニティー・ワークスペース「D.Haus」がアメリカ・サンフランシスコSOMA地区にオープンした。「D.Haus」を立ち上げたのは、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーbtraxだ。今回は、カリフォルニアのライフスタイル誌「Cal」でも執筆しているSENSORS編集・市來と、UCバークレーへの留学経験のあるライター・神田の"カリフォルニア好き"両名が、サンフランシスコを舞台に12年以上デザインコンサルティングを行ってきたbtrax CEO ブランドン 片山 ヒル氏に、「D.Haus」立ち上げの経緯を伺った。

btrax CEO ブランドン 片山 ヒル氏/画像提供:btrax

■立ち上げのきっかけは、デザイン教育の場がないこと

サンフランシスコは、Uber・Airbnb・Twitterなどを始めとして、爆発的に普及しているサービスが生まれている地だ。ディスラプティブなビジネスモデルと高度なUXによって爆発的に普及しているサービスが多く誕生している。スタートアップが成功する上で、競合よりも少しでも使いやすく、親しみやすいサービスを提供することの重要性が高まっているのは間違いないだろう。

市來:
今回どのような経緯で、「D.Haus」を立ち上げられたんですか?
ブランドン:
サンフランシスコでは有望なスタートアップが生まれ、成長し、また新たなスタートアップを育んでいくというエコシステムがうまく機能しています。テクノロジーや人材、お金がビジネスとして組み合わされてゆく土壌がある一方で、デザインをベースとしたワークスペースや、コラボレーションができる場がなかなか無いんです。「デザイン思考」で世界的に有名なIDEOや、初期のマッキントッシュをデザインしたfrogのように、スタートアップを育んできた素晴らしいデザイン会社の多くがサンフランシスコにはあります。一部の企業は、そういったデザイン会社とコネクションを持っているんですが、ほとんどはつながりを持っていないというのが現状です。スタートアップで活躍する人が、デザインに関する教育やメンタリングを受けられる環境がまだまだ足りないと感じていたため、デザインをベースにして、人と技術が繋がっていく場所をつくりたいと思っていたんです。条件に合う物件をずっと探していたところ、とても良いところが見つかりました。

■「D.Haus」はデザインとコラボレーションの拠点になる

画像提供:btrax

市來:
物件自体も、立地の面でも、優れていたということでしょうか?
ブランドン:
そうですね。「D.Haus」があるエリアは、サンフランシスコ中心部のSOMA地区のなかでもかなりアクセスの良い場所です。物件はもともと、8年ほど前まで弊社が入っていたビルでもあります。ビルの一階にはスタートアップが入居していますし、隣のサウスパークというブロックには、Twitterの一番最初のオフィスもありました。このエリアは、十年以上前はどちらかというと倉庫街の印象が強かったんですが、最近ではもう立派な一等地になっていて、Caltrain(郊外向けの通勤列車)やバスとか電車のプラットフォームからも近く、AT&Tパーク(野球場)もすぐ近くにあっても比較的治安がよいです。

再開発が進むD.Haus近隣のエリア/撮影:市來孝人

■世界で成功しているプロダクトは、必ずデザイン性が高い

近年、デザインの重要性は日に日に高まっている。だれもがサービスを創ることができる環境が整いつつあり、App Storeには多くのアプリケーションが毎日登録されている。そんな中で私たちがその存在を目にし、実際に使用するサービスはごく一部だ。そんな中で生き残るためには、ユーザーにとって少しでも使いやすいサービスであり続ける必要があると言えるだろう。ブランドンさんは、「デザイン性が高いサービスでなければ全く使われない時代に突入している」と語る。

D.Haus コーワーキングスペース/画像提供:btrax

市來:
なぜ今、デザイン教育やメンタリングを受けられる場が必要なのでしょうか?
ブランドン:
一昔前までは、一般的に「デザインが良い」というと「なんかかっこよくていいよね」という認識だったんですね。それが近年、特に三年ほど前から、デザインが良いということの価値が相対的に上昇している。もっともわかりやすいのはAppleの例です。iPhoneやMacbookを貫く「デザイン性の高さ」がブランド力につながっていますよね。デザインが良いとビジネス面でも大きな利益があるということに、多くの企業が気づきはじめていると思っています。ただ、デザイン性の高いプロダクトをどのように作っていけば良いのかを学ぶ場所がすごく少ないので、デザインを基本とした場所づくりをしたいなと思っていました。
弊社はもともとデザインコンサルティング業を提供していますが、優れたデザインというのはクライアントさんと一緒になって本気で取り組まなければ、生まれてきません。クライアントさんのデザインに関する理解や感覚を超えるプロダクトが生まれることは、ほとんどありません。クライアントさんのデザインに関する能力値が高くないと、デザイン性の高いものは世の中に出にくいということがわかったので、近年ではいかにデザイン教育の場を提供していくか、ということにこだわっています。

キッチンも非常に解放的だ。/画像提供:btrax

市來:
ブランドンさんがデザインの重要性を感じられたのはいつ頃からですか?
ブランドン:
実は私自身、デザイナーなんです。サンフランシスコの大学でデザインを学んできたので、デザインの重要性は昔から感じています。サービスを創るときって、最初にアイデアがあって、それを実現するテクノロジーを考えて、プロダクトに変換しますよね。プロダクトができたらユーザーなりを集めて、ビジネスに変換する。その過程で最も重要なのがデザインだと思っています。デザイン的な考え方、デザイン的な仕組みを用いて、より良いUXを提供することによってビジネスに変換できるのです。
個人的には「デザインがすべて」とも言えると思っています。結局ユーザーからしてみると、どういう難しいテクノロジーを使っているのか、どういう仕組みになっているのかということよりも、使いやすいのか、使っていて気持ちいいのかということが重要だと思われるはずなので。

■日米におけるデザインの「幅と深さ」の違い

btraxでは、世界を目指す日本発のスタートアップを支援するイベント「SF Japan Night」を開催している。サンフランシスコと日本双方のスタートアップシーンに関わってきたブランドン氏によると、日本とアメリカではまだまだ、デザインが担う役割に違いがあるという。

ブランドン:
日本で「デザイン」というと、ある程度物事が決まったあとに、最終的に小綺麗に整える作業である場合が多いです。一方でアメリカでは、プロダクト・サービスの初期段階から関わっている場合が多く、デザインを「もっとも良い解決方法を生み出すためのプロセス」として認識しているケースが最近増えています。日本の伝統的企業であれば、仕様書が完成し、試作品ができたあとで、外観をきれいにするためにデザイナーに手伝ってもらうという話になりがちですが、アメリカの場合はアイデアを出す段階からデザイン思考的アプローチを用いて、ユーザーがどういうものを求めるかを整理していったりするので、デザインが持つ役割の深さと幅が違うのではないかということを感じています。

ブランドン氏がサンフランシスコで体感してきた「デザイン」に対する意識から立ち上がった「D.Haus」。後編では、どういった企業の入居を想定されているか、またこの「D.Haus」があるサンフランシスコと、同じくIT産業集積地のシリコンバレー、この2エリアの違いについても伺う。

聞き手:市來孝人

SENSORS WEBエディター
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
Instagram:@travelling_la

構成:神田ゆうき

1993年生まれ、フリーライター。早稲田大学国際教養学部在籍。Twitter:@93yu_ki

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