御茶ノ水が医療イノベーションの街に!「デジタルヘルスラボ・プロジェクト」始動

2015.10.15 09:00

デジタル技術で医療にイノベーションを起こすヘルステック(Health Tech)を「御茶ノ水」の街が牽引しつつある。その先駆けとなる「デジタルヘルスラボ・プロジェクト」が始動。ヘルステックのキーマン達が集うキックオフイベントにSENSORSが訪問。アイデアの交換やそれぞれの取り組みの発表が行われた。

御茶ノ水は、順天堂医大や東京医科歯科大などの医療系研究機関が集まる地域であり、隣町の秋葉原に行けば様々な電子部品が手に入り、ウェアラブルデバイスやIoTのプロトタイプを制作するにも都合が良い。まさに「医療イノベーション」にはお誂えの街。そして、御茶ノ水に本拠地を置き、デジタル業界に多くの著名な修了生を輩出するデジタルハリウッド大学大学院が「デジタルヘルスラボ・プロジェクト」を牽引する。

このプロジェクトでは、アワードが開催され、医療・ヘルスケアの領域でイノベーションを起こしたい参加者が集まり、数ヶ月の間、医療やデジタルに精通したメンターから支援を受けながら自分のアイデアのプロトタイプ開発を行うことができる。10月3日(土)がキックオフとなり、12月下旬にプロトタイプ開発の最終成果を発表する。受賞者はデジタルハリウッド大学大学院の授業料優遇措置が受けられる(※入学試験合格者に限る)ほか、横浜市をはじめとした自治体とのビジネスマッチングの機会が用意される。

今回訪問したキックオフイベントでは、ヘルステックのキーマンが各々に考える「勘所」が発表された。

■「遠隔診療」明確化のインパクト

五十嵐 健祐氏

情報通信機器など用いて遠隔地にいる患者の診療を行う「遠隔診療」は、これまで禁止されていると解釈する医師が多かった。ところが、今年8月に厚生労働省が「遠隔診療」の明確な解釈を打ち出したことで、医療現場で積極的に導入することが可能になった。このインパクトの衝撃を語るのは、「お茶の水内科」院長の五十嵐 健祐(いがらし けんすけ)氏だ。五十嵐氏はすでに遠隔医療を臨床にて実施している。

五十嵐氏は、実際に病にかかってしまった後の治療よりも、それ以前の生活習慣を改善する「予防」の重要性を説く。バランスのとれた食事やこまめな運動といった"上流"の予防であるほど、解決策としてはお金も手間もかからない。生活習慣を改善するといっても「食事・運動・禁煙・飲酒・ストレス(睡眠)」の対策を徹底するしか方法はなく、そこにしっかりとコミットすることが大事。

そうした前提の上で、五十嵐氏はモバイル端末を使ったヘルスケアアプリの開発では、あくまでも一次スクリーニングにとどめ、確定的な診断は医療機関につなげることを推奨。ビジネス面においては、追加デバイスはなるべく無しで攻める、ユーザーの獲得を優先する、データを集めるよりも特定の疾患の特定の身体兆候を狙うといった具体的なアドバイスがあった。また、予防だけでではなく、遠隔診療であっても効果が期待できる可能性がある疾患として、高血圧症などの安定状態にある慢性疾患、皮膚疾患、メンタルヘルスなどの分野での活用を示唆していた。

この他にも各メンターによる自身の専門分野の紹介ピッチも行われた。デジタルハリウッド大学大学院にこの春入学した大学院生で、「ホスピタリティ・ワン」の高丸 慶氏の終末医療への取組み。日本うんこ学会の石井 洋介氏による大腸がん予防への取組み。「ユアクリニックお茶の水」院長 杉原 桂氏は、ヘルスケアは感情の抑制や忍耐が必要不可欠な「感情労働」であるとして「レジリエンス」をどう活かしていくべきかを語り、全14名いるメンターのうち9名がピッチを行った。

■医療の「評価」は保険会社が担うか?

吉澤 美弥子氏

チームビルディングを目的に参加者によるアイデアピッチも行われた。中でも印象に残ったのは「みややっこ」の愛称で知られるHealthTechNews( http://healthtechnews.jp )ファウンダーの吉澤 美弥子(よしざわ みやこ)氏のアイデア。吉澤氏はメンターとしても参画している。

吉澤氏のアイデアは「保険会社が運営する健康増進アプリ」。日本の医療費高騰の原因として、少子高齢化に加えて、医療を評価する仕組みが無いことに言及。評価する仕組みを整えるために、保険組合や保険会社が運営する健康増進アプリを構想している。主な機能としては次の3つがある。被保険者の活動をモニタリングして、良い生活習慣の実施に対してキャッシュバックする「リワード」。被保険者への注意喚起や保険料決定のため、日常習慣や医療機関による診断などの「データ収集&活用」。必要のない受診を無くすために医師やその他医療従事者とオンラインでやりとりができる「オンライン相談窓口」。

消費者にとってみれば、健康で過ごすだけでキャッシュバックされ、適切な保険に加入することができ、現代のニーズ合わせた医療アクセスの確保が可能。被保険者の健康を増進することで、保険会社からすれば、被保険者の医療費の削減に役立ち、もしも病気になった際にはコストパフォーマンスを考慮した最適な医療を提案できる。

結果、様々な医療情報が集約されることで、保険会社が被保険者に提供された医療の質を評価できるようになり、医療費の高騰を抑えられるようになるというもの。

ヘルステックを成功させるためには、横断的な連携が欠かせないことは五十嵐氏も指摘しているが、すでに多くの消費者や医療機関と繋がりを持つ「保険会社」に着目したことは、鋭い視点だと感じた。

■イノベーションに必要なのはストーリーをつくれること

最後に、「デジタルヘルスラボ・プロジェクト」を牽引するデジタルハリウッド大学大学院の杉山 知之(すぎやま ともゆき)学長が参加者に向けてエールを送る。

杉山 知之氏

杉山:
90年代にデジタルが人々の暮らしを変革するという確信があってデジタルハリウッドを開学しました。はじめはゲームなどのコンテンツ分野に力をいれていたけれど、デジタルヘルスという、直接的に人々の暮らしを変えることができるプロジェクトが立ち上がり、僕のやってきたことは無駄ではなかったと思いました。よくスタートアップを立ち上げるのに必要な人材は「ビジネス」と「デザイン」と「エンジニア」の三要素だといいますが、その上で、今一番必要なのは「ストーリーをつくれる人」です。みなさんのアイデアを聞いていると、それぞれにパッションがありました。今後それが一番の原動力になっていくと思います。

ヘルステックの街に進化しつつある「御茶ノ水」を中心に、今後どのような物語が生まれるだろうか。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。面白法人カヤック所属。@takerou_ishi

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