次世代エンターテイメントは、現実を凌駕する体験にーエイベックス「2nd Function」がDOLLHOUSEを開催

2018.08.17 18:00

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スマホ1台あれば、何万もの曲をポケットに入れて持ち運べる。お気に入りのアーティストのPVや、異国の地で開催されている音楽フェスも、YouTubeを通して観ることができる。

テクノロジーの発達で、好きなときに、好きな場所で、音楽が聴けるようになった。簡単に音楽が手に入る今の時代、レコード会社の役割はなにか。

「僕たちは、"どこでもドアがある時代の鉄道会社"になりたいんです。いまは移動手段として使われている鉄道ですが、世界中のあらゆる場所へ瞬間移動できる『どこでもドア』が登場したら、純粋に『電車に乗る』行為を楽しむエンターテインメントとなるでしょう。移動手段としての価値がなくなっても、車窓の景色を眺めながらゆったりと移動する楽しみは、変わらずに求められるからです。」

そんな想いのもと、次世代のレコード会社の在り方を模索しているクリエイター集団がいる。創業30周年を迎えるエイベックスの"ファントム組織"「2nd Function」だ。PCやスマートフォンをジャックする新たなミュージック・ビデオの制作、ラグジュアリーブランドへのARコンテンツの提供など、高次のエンターテインメントの形を探求してきた。

2018年8月4日、彼らが新しく取り組むエンターテック・イベント「ADIRECTOR(アディレクター)」が始動した。本イベントは、音楽が簡単に手に入る時代に価値を持つ、"非日常"を体験できる場所だ。第一弾として開催されているのが、「ADIRECTOR vol.1- DOLLHOUSE」。表参道交差点に面したビルを丸ごと一棟ジャックした会場では、次世代エンターテインメントの可能性を探る、"エンターテック"の実証実験が行われていた。本記事ではDOLLHOUSEで体験できる、現実体験を凌駕する次世代エンターテインメントを紹介していく。

次世代型ライブは、音楽を体感する場所に。テクノロジーで拡張されるエンターテインメント体験

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ピンクのネオンに照らされた階段を上がると、ステージに佇む2体のマネキンが目に入る。近未来的なコスチュームに身を包み、空(くう)を見つめる彼女たちは、一体何者なのか。会場を訪れたゲストは不思議そうな顔でステージを眺めている。

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突然流れ出した音楽と共に、それまで微動だにしなかったマネキンたちが動き出す。彼女たちの動きには、人間らしい滑らかさは一切ない。無機質に繰り広げられるダンスパフォーマンスを見ていると、SF映画で描かれる「アンドロイドと共存する未来都市」が頭をよぎる。彼女たちの名前は「FEMM」。過激でコケティッシュなラップが欧米のティーンに支持され、世界中でパフォーマンスを行なっている「マネキン・デュオ」だ。

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FEMMのライブパフォーマンスには、最新鋭のテクノロジーがふんだんに活用されている。彼女たちは突如現れる光の糸によって、"マリオネット"のように操られているかのように見える。これは、リアルタイム可変レーザー「i_to(イト)」によるものだ。リアルタイムで動きをトラッキングし、ダンスに合わせてレーザーが追従する技術で、今年3月に行われたフィンランド発のスタートアップカンファレンス「Slush Tokyo 2018」でも話題となった。

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次世代のライブパフォーマンスは、衣装チェンジも超高速で行われる。パナソニックが開発した「高速追従プロジェクションマッピング技術」によって、ランダムに動く彼女たちの衣装にリアルタイムで映像が投影されている。

従来のライブパフォーマンスは、基本的に演者側が事前に決めた演出に基づいて行われるものだ。しかし「i_to」や「高速追従プロジェクションマッピング技術」を使った演出が一般的になった場合、演出をリアルタイムで変化させられるようになる。ゲストがその場で「i_to」の色を変えたり、好きな映像をアーティスト衣装に投影することも可能になるかもしれない。

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ライブ中盤、FEMMは高輝度透明ディスプレイに近未来的なVJが映し出されるDJブース「MNGL(ミングル)」の中に移動し、パフォーマンスを行った。人間の耳には聞こえない音波「非可聴音」を認識する、ADIRECTOR 専用スマホ・アプリを用いたサプライズ演出もあり、ゲストからはどよめきが起こる。

次世代エンターテインメントの主役は「観客」。テクノロジーで紡ぐ、"ADIRECTOR"たちの物語

「ADIRECTOR(アディレクター)」というタイトルは、「個人や単数を意味する "A" 」と「方向性を決めるという意味の "DIRECTOR" 」を組み合わせた新造語だという。これは次世代のエンターテインメントを享受する人びと、つまり今回のDOLLHOUSEに訪れたゲストを表している。一般的に、ライブに訪れた人びとは聴衆・大衆といった意味を持つ「オーディエンス」と表現され、演者と区別されることが多い。しかしYouTubeやTik Tok、Instagramのライブ配信など今日におけるエンターテインメントにおいては、コンテンツを見た人からのコメントや指示によって形が変わっていく。オーディエンスと演者の境目が融解しはじめているのだ。

「次世代のエンターテインメントを享受する人に対して、『オーディエンス』という表現は適切ではありません。」

そんな2nd Functionの想いを体現した本イベントにおいて、先ほどご紹介したライブパフォーマンスは単なるイントロダクションにすぎない。2nd Functionが提案する「次世代のエンターテインメント」は自分で体感し、自分で語ることができる"ナラティブ"な体験だからだ。

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ライブ終了後、ゲストたちはFEMMの衣装に投影されていた「高速追従プロジェクションマッピング」を自身に投影したり、世界最大の先進技術の見本市「CES 2018」で発表された「次世代AR/MRライヴ装置ACRONS(アクロンズ)」などを体験した。

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光源にズレを与えて、カラフルな影を生み出す「RGB_Light」の下では、自身の影を撮影し、自ら"作品の一部"となる若い女性の姿も目立っていた。

一方的にただ観るだけではなく、自らが主役となって体験しているゲストたちの姿は、まさに2nd Functionの思い描いた"ADIRECTOR"であった。

現実を超えるバーチャル体験で、エンターテックは民主化される

2nd Functionは、テクノロジーを活用したエンターテインメント"エンターテック"を民主化させようとしている。その第一歩として、VR / AR技術の可能性を探求しているのが、DOLLHOUSEだ。

社会全体を見ると、VRヘッドセット「Oculus Go」やGoogleによるARプラットフォーム「ARCore」などが登場しているものの、利用しているのはまだまだ一部の層に限られる。VRやARなどのバーチャルな体験は、現実の代替手段としてのイメージが強いのではないだろうか。

しかし、2nd Functionは現実と同じレベル、もしくはそれ以上の価値ある体験を提供したいと考えている。

「テクノロジーの進化と共に、VRやARライブのレイヤーをリアルと同等、もしくはそれ以上に持ち上げたいんです。ライブを観に行く時に、リアルかVRかを迷ってしまうような時代を夢想しています。」

たとえば「次世代AR/MRライヴ装置ACRONS」が一般に普及した場合、好きなアーティストのライブを好みの曲順や衣装で演出できるようになるだろう。現実では味わえない、オリジナルのライブを開催することができるのだ。

DOLLHOUSEは特別な機材がなくても、最新テクノロジーを手軽に体験できる場所だ。このような実証実験を繰り返すことによって、現実を超える体験となる「未来のエンターテインメント」が徐々に確立されていくのだろう。

構成:井下田梓

ライター・編集者。アパレル販売、WEBマーケターを経て、現職。関心領域はファッションテック、映画、文化人類学。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512

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