「モノやコトが均質化した時代」に求められるメディアとは何か?〜稲着達也×佐藤慶一×朽木誠一郎

2015.12.25 17:00

今年SENSORSでも多く取り上げてきたテーマである「編集」。「良いものをつくれば売れる・読まれる」という時代が終わり、「どう届けるか」という読者との"コミュニケーションを編集する力"がいま、編集者に問われているーー今回は、そんなテーマを元に語られた『編集会議2015秋号』の刊行記念イベント「若手編集者たちが語る編集2.0」(下北沢・B&Bにて)の模様をお届けする。Synapse COO稲着達也氏、「現代ビジネス」編集者佐藤慶一氏、ノオト編集記者・朽木誠一郎氏が登壇。前編では「コミュニティ」「もののメディア化」をキーワードに、これからのメディアのあり方を若手編集者3名が紐解いていく。

(左より)稲着達也氏、佐藤慶一氏、朽木誠一郎氏

■雑誌のような特集・連載はWebで機能するか

ーーまずは事業紹介をしていただきたいと思います。稲着さんが取り組まれているオンラインサロン「Synapse」のビジネスモデルは非常に注目されていますよね。

稲着:
ありがとうございます。Synapseが提供するオンラインサロンは、ファンクラブ、私塾、ラーニングコミュニティのようなものだと思ってください。ビジネスモデルもファンクラブなどと一緒で、月額会費を払うと他では手に入らない情報が手に入る。例えば、吉本興業の芸人さんがテレビでは言えないことをサロンで発信したり、美魔女ブームの仕掛け人による編集者向けの私塾があったり、竹中平蔵さんによる経済学の私塾もあります。

なぜオンラインサロンを始めたのかというと、本やCDが売れないコンテンツ不況の時代に、コンテンツの新しい売り方を世に問おうと思ったからです。僕はコンテンツ消費の原点は「体験」だと思っています。知識や情報は今まで口頭で伝承されていたものですし、娯楽は劇場で観られていたものです。そこには熱狂があり、共感・共鳴の中でコンテンツが広まっていって、その価値は不変だな、と。では、なぜ今の時代にコンテンツが売れないかというと、情報革命によってパッケージコンテンツはコピーして大量頒布することが容易になってきたからだと思っています。でも、完成されたものはコピーできても体験はコピーできないので、体験価値ベースのコンテンツを売っていけば、もっと高単価のコンテンツ市場をつくっていけるんじゃないかと思っています。
佐藤:
私からは「ぼくらのメディアはどこにある?」の話をさせていただきます。メディア名がクエスチョンで終わっているのも特徴だと思うんですが、業界内のメディア論ではなく、20代の編集者だからこそ提供できる視点はなにかを考えて取り組んでいます。今、メディアが生活に溶け込むような存在になっているんじゃないかなと感じていて、企業、場所、個人の3つの軸でメディアっぽいものに対して取材を行っている企画です。サイボウズさんのスポンサードを受けて成り立っていて、Webでは難しい「特集のようなメディア」が機能するのかという実験も含めて、7月末から運営してきました。
朽木:
今はもうLIGの社員ではありませんが、今回取り上げていただいたように「LIGブログはオウンドメディアの成功事例」と言っていただくことが多くて、それはありがたいことだなと思っています。僕が編集長をしていた1年間で、260万PV/60万UUから650万PV/240万UUになりました。9月にリニューアルして、PVがまた上がったそうなので、まだまだ成長過程にあるのではないでしょうか。これからは有限会社ノオトの朽木として頑張っていくので、よろしくお願いします。
佐藤:
ノオトでの肩書きが記者と編集になっていて、ライターではない? 
朽木:
ライティングは会社でもすることになると思いますし、Yahoo!個人などは個人活動としても続けていこうと思っているんですが、肩書は会社の方針でこのようになっています。また、今Webメディアで実力のある方には記者経験がある場合が多いように思います。人気ブログをやってらっしゃる方も、長い記者経験に裏打ちされて活躍されていると思うと、一次取材をして徹底的に記事を書き続けることを経験したかったんです。前職のように、今はネットで一発目立つことはできるんです。でも、そこに中身があるかといったら無いと思っています。なので、もう一回きちんと編集やライティングを学ぶためにノオトに入ります。

■メディアがコミュニティを持つのは新しい発想ではない

ーーさて、これからの編集を考える上でのキーワードを中心に語りたいなと考えています。ひとつ目は「コミュニティ」。オンラインサロンSynapseはまさにコミュニティ・ビジネスですよね。

稲着:
実は、メディアがコミュニティを持つという発想は決して新しいものではないんです。例えば女性誌の『VERY』は読者にインタビューをして、その内容を記事化したり、一緒にプロジェクトをやったりしています。それでも今後、コミュニティを編集してメディアにすることの価値はますます高まっていくと思っています。なぜかというと、情報化社会においては視聴者・読者の声が台頭して、より多くの人に届きやすくなったからなのかなと。そこには新しいアイデアがあったり批判があったりと様々ですが、声があまりに大きくなってくると、まとめなきゃいけなくなる。でもまとめようとして調整しすぎると、尖りがなくなってしまう。だから、いかに尖った声を上手くまとめて、ひとつのコンテンツににしていくかが大事。その行為が編集と似ているから、「コミュニティ」が「編集」とセットで語られると思うんです。
朽木:
紙媒体ではあったとしても、Web上のコミュニティを編集し、マネタイズする手法は今までなかったかもしれませんよね。
稲着:
そうですね。ちなみに、僕はひとの集まるところに特定の「目的」と「アーカイブ性」を足せば、それは全てコンテンツになり得ると思います。その目的設定や誘導の方法を考えること、そしてアーカイブ性をどのような形で実装していくかを考えることはまさに編集。加えて、コミュニティの中では参加者がそこで能動的なアクションを取ると、コンテンツの魅力が深まっていく。そういう意味では本やCDなどのパッケージは単体でそれ以上は深まらないものなので、お金をとっていける可能性はあるかと。ここにコミュニティをコンテンツ化していくことの可能性があるのではと考えています。
佐藤:
Synapseさんはこれから独自プラットフォームを始めるんですよね。そうすると、このコミュニティは月曜日に盛り上がって、金曜日に盛り下がるといったことがわかるようになる?
稲着:
そうですね。雑誌、DVD、CDは多売原則のビジネスなので究極的に誰が買っているのかは見えにくいんですよ。それが見えるのが、オンラインサロンの強みだと思っています。
朽木:
コミュニティの盛り上がり方や熱量を可視化して、指標にできるのは面白いです。
佐藤:
よく言われることですが、これからのメディアはマスにいくか、ニッチに振り切るかのどちらかですよね。ニッチだと、手の届く関係性や顔の見える関係性が重要になる。Synapseさんは、コミュニティに誰が入っているのかがわかるので、既存のコミュニティより顔の見える関係性をつくることができるのが新しいと思います。
朽木:
見ていて楽しそうです(笑)。自分はどちらかというと従来型のメディアにいるので、どうにかしてオンラインサロンのインタラクティブ性を、こちら側に持ってくることができないのかなと思います。

■モノやコトが均質化した時代に求められるメディア

ーー次のテーマは「もののメディア化」です。佐藤さんが今やられている「ぼくらのメディアはどこにある?」についてお話お願いします。

佐藤:
僕はメディアに関して、「どこまでがメディアなのか」を広げていきたいと思っています。ものづくりをしている人であれば、コンテンツをつくるだけではなく、届けるところまで考えているはずです。例えば、服を作ってどう売るのかとか、街全体をメディアと見立てて本屋、売店を配置していくなど、街全体を編集すること。そういった活動をしている方に「自分のことメディアだと思っていましたか?」と投げかけると、その返し方も興味深い。僕ら自身も「メディアとか何か?」に対しての答えがないので、問題提起していきたいなと。
稲着:
なるほど。ちなみに「メディアとは何か?」を考えた時、僕はメディアとは人格やキャラがあるものだと考えています。雑誌で言うと『SWITCH』や『BRUTUS』そして『ケトル』は公園、コーヒー、缶詰、ファッション......何を扱っても成り立つ。読者としては「彼らならばこういう切り口で、こういう魅せ方をしてくれる」という期待感があるんですね。なので、興味がないテーマでも買ったりするんですけれど、これは雑誌の編集部にキャラがあるからだと思っていて。そういう観点からみると、切り分けられた情報が集合したニュースキュレーションサイトは、少なくとも僕の考えるメディアではない。一方で、タワレコやB&Bは店舗ですけれど、メディアですよね。特定の人格が見え隠れしていますから。

加えて、そういった前提で「今なぜメディアが必要なのか?」という部分も考えられればと思うんですが、ひとえに今がコモディティ化の時代だからだと僕は思っています。今はモノもコトも均質化していっている時代です。でも、こんなコモディティ化の時代において僕らは自分たちのライフスタイルを表現する手段としてソーシャルメディアを手にしてしまった。こういった世界では人よりお洒落に振る舞わなければいけないし、楽しく過ごしていないといけないし、目立つためには人と違う情報を発信していなければいけない。人々は違いを求めている。それに応えられる存在が、特定の人格やキャラに基いて選別され、まとめられた情報を発信するメディアなのかなと思っていて。今の時代に本当に必要とされているのは、世の全ての情報の中から自分に適したものを機械がレコメンドしてくれるメディアではなくて、人格やキャラのあるメディアであると。必要だから、色んなものがメディア化しているんだと思います。一般的なWeb界隈の知識人が言うこととは真逆なんですが、機械的なレコメンデーションやキュレーションの価値はどんどん落ちていくと思っています。
朽木:
「なぜメディアが必要なのか」という点で最近思ったことは、メディアというものを上手く使えば、政治など関心がない人が多い話題でも、ちゃんと伝えることが出来るんじゃないかという点です。これは最近政治に関する記事を初めて書かせていただいて感じたことです。

今は「マスに対して届けたい情報」が届きにくくなっている気がしているので、マスに届けたい、という思いはありますね。メディアリテラシーの高い層やハイエンド層じゃない人に対しても、どうやったら情報を届けられるか、ということを最近はよく考えています。

【後編】では「自分ゴト化」と「マネタイズ」そして「キャリア」をキーワードに、読者をコンテンツに巻き込む方法、稼ぐ仕組みのつくりかた、Web編集者のキャリアについて、若手編集者3名が読み解いていく。

[登壇者プロフィール]

稲着達也(いなぎ・たつや)
早稲田大学政治経済学部出身、シナプス株式会社COO兼プロデューサー。Synapseリリース後、兼務でドワンゴにて新規事業開発、統合サービスデザインに従事し、2015年シナプスに本格復帰。ファッションショーイベントや討論イベントのプロデュース、ストリーミング番組企画、Webキャンペーンや書籍出版等、媒体問わず様々なコンテンツの企画・編集に携わり、現職。
Twitter:@t_inagi

佐藤慶一(さとう・けいいち)
編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。学生時代にNPO法人グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」のライターインターンやコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業での編集アルバイト経験を経て、講談社「現代ビジネス」エディター。ブログ「メディアの輪郭」を運営。2015年7月、現代ビジネス×サイボウズ式によるブランデッドメディア「ぼくらのメディアはどこにある?」を立ち上げた。
Twitter:@k_sato_oo

朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
編集者、ライター。大学時代にフリーライターとしてキャリアをスタートし、卒業後はメディア事業をおこなう企業に新卒入社。オウンドメディアの編集長として企画・編集・執筆を担当したのち退社。現在は編集プロダクション・ノオトに勤務するかたわら、Yahoo!ニュース個人/サイボウズ式ブロガーズ・コラムなどで執筆、PAKUTASOのフリー素材モデルとしても活動している。
Twitter:@amanojerk

取材・構成:岡田弘太郎

1994年生まれ。慶應義塾大学3年生。複数のウェブメディアで取材・執筆・編集を担当。主な取材領域は、音楽、スタートアップ、デザインなど。

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