バイオテクノロジーは、インターネット同様の系譜を辿る--デイビッド×草野絵美 #EmisSensor

2018.12.18 18:00

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SENSORS MC草野絵美が、今をときめく気鋭のクリエイターをピックアップし、インスピレーションの源泉を紐解いていく新連載「#EmisSensor」。第三回のゲストは、MITメディアラボの研究者・デイビッド・コング。デイビッドは、バイオテクノロジーを巨大産業にすべく、"アウトローな視点"からアプローチを仕掛ける異色の研究者だ。

彼の持つ肩書きは、「ストリート・バイオロジスト」。草野絵美が、スプツニ子!さん紹介で、海を越えてインタビューしに行ってきた。

デイビッドは、産業を育てるには"蚊帳の外"からのアプローチが必要だと語る。「鼻の穴の微生物を使って音楽を奏でる」アウトローなアクションなど、彼独自の視点で見るバイオテクノロジー産業について話を聞いた。

バイオテクノロジーを多角的視点から紐解く

草野絵美(以下、草野):デイビッドは、初めて会ったその日に音楽や写真の話で意気投合したMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの研究者です。「合成生物学」について研究をしながら、バイオ・コミュニティのリーダーを務めています。まずは、デイビッドの生い立ちについて、教えてください。

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左から、デイビッド・コング、草野絵美

デイビッド・コング(以下、デイビッド):僕の両親は、どちらも大学教授。父はMITで電磁波の研究をしていて、母は統計学の教授です。つまり"オタクの家系"に生まれました。

父は貧しい家庭に育ったので、クラスのトップになるように勉学に励んだと聞いています。しかし、本当に関心を抱いていたのは、科学や工学ではなく人文学。孔子の書籍を若いころに暗記するほどだったそうですが、祖父に反対を受け、今のキャリアにあるそうです。

ただある日、愛読していた『易経』など、中国の古い哲学書とマクスウェルの方程式(電磁場のふるまいを記述する古典電磁気学の基礎方程式)に関連性を見出したのだといいます。

望んだキャリアではなかったものの、少年時代から夢中だった詩や哲学への情熱をキャリアのなかに見つけられたのです。

私も、父と同様のキャリアを歩んでいます。もともとは芸術や人文科学に興味を持っていましたが、キャリアはバイオロジーを専攻しています。一見関連性がないように感じるかもしれませんが、父と同じように、異なる領域に共通点を見つけています。バイオテクノロジーにアートや哲学をリンクさせる方法を見つけ、バイオ・コミュニティのリーダーをしているのです。

草野:なるほどですね。現在のキャリアであるバイオテクノロジーを、芸術から紐解く活動もしていると。

デイビッド:そうです。物理学者のリチャード・P・ファインマンが、「薔薇の美しさ」について語った、芸術と科学のの話があります。「画家や詩人は薔薇の美しさを感じることはできるが、科学者はさらに深層で薔薇の美しさを理解できる」と。化学的な観点から薔薇の美しさを掘り下げることで、さらに薔薇の魅力に迫ることができることを意味しています。つまり、サイエンスとアートは深く結びついているんです。

草野:ちなみに、バイオテクノロジーを専攻するきっかけについても教えてください。

デイビッド:博士号を取得する前に、「合成生物学」という新しい分野が現れました。既存の生物学分野と異なる点は、「メタファー(暗喩)の探求を軸に構成された学問」であること。そのメタファーとは「我々の生態系は。電子系や機械系、光学系といった分野同様にエンジニアできるのだろうか?」。

従来の生物学分野よりも、より複雑な体系を構築するための問いです。サイエンスの中でも、僕にとっては化学や物理などよりも生物学に美的感覚を感じていました。そうしたことが重なり、バイオテクノロジーの道に進みました。

「カウンターカルチャー」が巨大産業のキーワード

草野:興味深い研究ですね。研究をしながら、コミュニティを形成するのは、なぜでしょうか?

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デイビッド:コンピューターを巨大な産業にしたのは、ジョブズやウォズニアックなど、自宅のガレージで黙々と独自の世界観を磨き続けた"カウンターカルチャー"です。

バイオ業界でも同様に、アーティストやデザイナーが、独自の視点でバイオテクノロジーの可能性を拡張していくことできると思っています。なので、「研究」の蚊帳の外にいる人物を集め、少しだけ"過激な"ビジョンを掲げて活動しています。

草野:コンピューターが民主化したように、まだ民衆にとって未知の領域である「バイオ」を普及させていきたいと?

デイビッド:絵美の言う通り。コンピューターの黎明期、多くの人は「コンピューターって何?私の生活にどう関係あるの?」と考えていたでしょう。しかし今では、誰もがスーパーコンピューターをポケットに入れて持ち歩いている。

バイオテクノロジーも、これから同じ道をたどると考えているんです。2000年頃、そもそも民衆は「バイオテクノロジー」、「合成生物学」といった言葉を聞いたことはありませんでした。

しかし今では、「細胞農業」という分野で、動物を使わずに動物性の肉が生産できるようになりました。私は、草の根レベルの一般市民がバイオテクノロジーを探求するために、コミュニティを開いているんです。

鼻の穴の微生物で、音楽を奏でる。"蚊帳の外"から産業を拡張する、アウトローなクリエイティブ

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草野:コミュニティでは、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

デイビッド:コミュニティの中で今もっとも興味深い課題は「一般の人々にとって、合成生物学やバイオテクノロジーががどう自分の生活に関係するのか分かりづらく、関わりが持てない」こと。

バイオテクノロジーは、コンピューターのように、今後私たちの生活に欠かせないものになります。それなのに、理解が浸透していない。こうした分断を解消しようとしています。

草野:何か、具体例を教えていただけますか?

デイビッド:僕は今「マイクロバイオーム」の研究に深く関わっています。人体に生息する、何百兆という数の微生物の研究です。非常に注目されている研究ですが、一般の人に理解してもらうことが難しいのは分かっています。

そこで僕たちは、音楽を切り口に、「マイクロバイオーム」を誰にでも理解できる形で伝えようと考えました。誰でも、音楽と何らかの接点を持っているからです。この取り組みを「Biota Beats」と名付けました。

草野:とても気になります。「Biota Beats」がスタートした経緯について、もう少し詳しく教えてください。

デイビッド:詩人やミュージシャン、科学者、エンジニアなど、背景の異なる人材たちが同じ空間で仕事をしている「EMW」という施設があります。そこで新しいプロジェクトについて話をしている際に、施設にいた誰かがターンテーブルを指差し、「あのターンテーブルとマイクロバイオームをつなげられないか?」と提案したことがきっかけです。

草野:無関係に見える2つの要素は、どのようにして交わるのでしょう?

デイビッド:「Biota Beats」は、人体のあらゆる箇所から微生物を採取することからスタートします。ワキや耳の中、鼻の中などから採取した微生物の餌を与え、成長させる。

永長過程をデータ化したら、データをMIDI(Musical Instruments Digital Interface:1981年に策定された電子楽器同士を接続するための世界共通規格)に変換し、作曲します。つまり「Biota Beats」は、自分の体に生息する微生物を音楽として聴くことができるものなのです。

草野:面白いですね!遺伝子によって、一人ひとりが違う音楽を奏でられる...。妄想するだけで、ワクワクします。

デイビッド:僕のキャリアで指折りにうれしかった瞬間の一つに、DJ・ジャジー・ジェフが参加するイベントに登壇したことが挙げられます。彼に「あなたの微生物を採取して、音楽を作らせてくれないかな?」と尋ねたら、とても乗り気で、賛同してくれたのです。

しばらくすると、ジェフのマネージャーから連絡がありました。「今度ウィル・スミスとツアーに行くんだけど、もっとBiota Beatsで制作してみたい」と相談してきたんです。

世界的なDJのクリエイティブチームが、科学実験をしようと持ち掛けてくれた。「Biota Beats」の成功を確信しました。以来、子どもや若者向けのワークショップをたくさん開いているよ。

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草野:私が関わるプロジェクト「人工生命カラオケマシン」ともコラボしてほしいです!

デイビッド:絵美の「人工生命カラオケマシン」はとても興味深いね。ぜひ、こんどコラボレーションしたい!

SENSORS MC:草野絵美

草野絵美 Sensors MC: 1990年東京出身。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部卒業。元広告代理店テクノロジー専門プランナー。歌謡エレクトロユニット 「Satellite Young」として活動中。再構築された80'sサウンドに、ポストインターネット世代の違和感をのせて現代社会を歌う。スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル「New Retro Wave」からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし、2017年には「South by South West」に出演。
Twitter:@emikusano

編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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