プロじゃないからできる、ナチュラルでリアルな番組を--『バイリンガルニュース』Mami×草野絵美 #EmisSensor

2019.03.27 17:00

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SENSORS MC草野絵美が、今をときめく気鋭のクリエイターをピックアップし、インスピレーションの源泉を紐解いていく連載「#EmisSensor」。第五回のゲストは、無料Podcast『バイリンガルニュース』で司会を担当するMamiさん。

『バイリンガルニュース』は、Mamiさんと友人のMichaelさんが英語と日本語を交互に話していく"バイリンガル形式"での会話を収録した番組。気になるニュースを取り上げ、2人で会話をするスタイルを取っている。週1回の配信を続けて今年で6年目となり、iTunesランキングで1位も獲得。2017年には、京都大学のリスニング教材にも採用された。

匿名で顔出しなし、編集なし、スポンサーをつけない---メディア業界の慣習からは一線を画したスタイルでチャートのトップを走り続けている同番組は、なぜ生まれたのか。これまでの歩みと、背景に隠された思想に迫った。

ナチュラルでリアルな姿を追求したから、6年目まで続いた

草野絵美(以下、草野):私が『バイリンガルニュース』を聴くようになったのは、友達からオススメされたことがきっかけです。「英語だけでなく、教養が身につくから聴いたほうがいい」と、口コミで広がっていて。まずは、『バイリンガルニュース』が始まった経緯を教えてください。

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Mamiさん

Mami:もともと友人だったMichaelと、よく電話で笑っちゃうような話をしていて。あるとき「これPodcastで流したら、誰か聞いてくれるかもしれないね」と思い立ち、自分たちの会話を録音してみたのがスタートです。最初は完全に手探りでしたね。

草野:そこから放送を重ね、今年でもう6年目になりますよね。

Mami:そうですね。番組を始めたばかりのときから、2人の中で「これ誰かが見つけてくれたら、絶対いける気がする」という根拠のない自信があって...ただ、6年後の今も続けているとは、正直想像していませんでした。

草野:他の番組にはない、新しい要素がたくさんありますよね。

Mami:英語と日本語で交互で話すスタイルが、他では見たことなかった。あと「一発録りで編集もしないのでピンポンの音が入ってる」、「音質がプロっぽくない」といった点もかなり珍しかったと思います。

草野:シンプルな録音機材とかカジュアルなノリは、長期間続けるうえで大事な要素かもしれませんね。クオリティばかり気にして凝ったことしようとすると、継続するのが大変ですから。

Mami:そうですね。色んな人から「BGMつけたほうがいいよ」、「最初のジングル入れたほうがいいよ」などと言われたのですが、すべて無視していました。

また、「Michaelがやる気なさそうに聞こえる。」というのも、番組を始めたころによく言われました。だけど人間って、みんながみんな常に元気いっぱいでニコニコ話すわけじゃない。番組用に無理やりテンションをあげたり、キャラを作ったりしない、ナチュラルな番組が1個くらいあってもいいかな、と思ったんです。

草野:そのナチュラルさを求めてる人、多いと思います。

Mami:Michaelが言ったことを、訳したり解説したりもしていません。リスナーのことは、ある意味考えてないんですよね。私は目の前にいるMichaelのことしか考えてなくて、Michaelも目の前にいる私のことしか考えてない。だから多分、単純に友達同士の会話という雰囲気を保てているんだと思います。

草野:Podcastって、耳元でささやかれるから、ある種YouTubeとかテレビ以上に親近感がある。だからこそ、何十万人ものリスナーが、Mamiさんのことを友達だと思っているかもしれないですね。

あとMamiさんがPodcastでプライベートな話、メンタルヘルス、時には性の話などをオープンに話していること自体が、女性のエンパワーメントになっているとも感じます。若い女性って、テレビに出ると媚びなきゃいけなかったりとか、男性が下ネタ言ったら恥じらわなきゃいけなかったり、一定の"立ち回り"が求められますが、Mamiさんはそんなことをしない。それってすごく大事なことだと思う。

Mami:番組を始めた頃は、よくMichealと「メディアでリアルさが失われている」と話していたんです。世に出回るテレビ番組やコンテンツは、全部台本があって、みんながニコニコ話をして...。言ってはいけない"暗黙の了解"や放送禁止用語があって、それをみんなうまくかわしながら器用にやっている。『バイリンガルニュース』では、そうじゃなくて「リアルなやつ」をやりたかったんです。

AI翻訳が出てきても、私は言語を勉強したい

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草野絵美

草野:私は1年アメリカ留学の後、国際色豊かな高校の帰国子女クラスに所属していました。その後慶応SFCに入学したのも9月だったので、自分の周りが半分くらい外国人の環境でした。

そのためか、常に「グローバル・シティズンである」という意識があって、「英語は話せる方がいいし、英語で思考することはすごく大事だ」と思っているんです。一方で、「翻訳精度が高くなっているから、言語学習は"趣味"になるんじゃないの?」と言っている人もすごく多いですよね。Mamiさんは、これからの時代で英語を習得する意味って、何だと思いますか?

Mami:脳に電極を差し込んで直でやり取りできるようになれば、言語を勉強する意味はなくなるかもしれないけど、それでも翻訳で失われるニュアンスってすごく多いので、自分で話したり理解できることのメリットは大きいと思います。他の言語を理解できることで得られる情報の量は、膨大です。たとえばWikipediaだったら、英語で書かれているページ数と、日本語で書かれているページ数はあまりにも違います。英語ができるだけで、格段に多くの情報を摂取できるようになる。

あと、単純に言語を勉強することによって、話している人たちの文化を学べることが好きです。情報収集ツールとして有能なのはもちろん、新しい考え方や今まで見えていなかったものを知るのが好きだから、言語を勉強したいと思う。

草野:その言語で考えることによって、はじめて理解できるようになる感覚ってありますもんね。

Mami:私は、勉強して英語を話せるようになった人のひとりなんです。面白くないと続かないと思ってるから、教科書の教材についてくるCDとかは聞きたくないし、参考書も面白くないから読みたくない。でも、ドラマのFriendsだったら全エピソード見れちゃうし、ブリトニーだったら全曲聴いて歌詞も覚えたい。

「拷問みたいに辛い思いしないとできるようにならない、というわけではない」と体感でわかっています。だから、「バイリンガルニュース」も面白いコンテンツを提供することを最優先にしているんです。

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草野:私のバンド『Satellite Young』では、テクノロジーについての歌謡曲を作っていますが、MamiさんとMichealさんのお話からはすごくインスピレーションを受けています。「バイリンガルニュース」で取り上げるニュースはどうやって選定されていますか?

Mami:毎週私とMichaelがそれぞれ6個ずつ選んで、相手が選んだ中からさらに3つ選ぶ、という方法で絞っています。単純に自分が面白いと思ったものを選んでいるから、話題が偏ることもありますが、それはそういうものとして、あえて調整せずに出していますね。

草野:何かRSSに登録したり、アプリなどでニュースを探されるんですか? Mami:情報源はほとんど全てネットですが、アルゴリズムによって選定された情報を受け取るのを避けたいので、フィードではなく検索窓からスタートします。ニュースサイトやサイエンス系のサイトも一通りみて、新しく発表された論文をチェックします。フィルターを通さない状態にするには、やっぱりアナログに検索窓から始めるしかないんですよね。

草野:「ニュースの選定」ではなく、「自分の知的好奇心をひたすら掘り下げていく」という感じなんですね。

Mami:そうですね。小学校3年生の時の日記を見たら、「『時間』って、誰が最初に決めたんだろう」とか、「もし人間がいなかったら、今ごろどういった生き物が地球にいたんだろう」みたいなことが書いてあったんです。多分小さい時から変なことに興味があったんだと思います。

草野:子供の時の気持ちを忘れずに、知的好奇心を持ち続けることって大事ですよね。

聴いている人に嘘をついたり、隠したりしない。どこにも忖度しないために、スポンサーはつけない

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草野:Mamiさんがスポンサーをつけなかったり、特定の企業についても自分の立場を表明ししたりしているのは、ジャーナリズムの意識を持っているからなのでしょうか?

Mami:私はジャーナリストではありません。けれどもさまざまなトピックを発信していくなかで、聴いてる人に嘘をついたり、何か利害関係があることを隠したまま宣伝するようはことは絶対にやりたくないなとは常に思っています。

もともとコミュニケーションコンサルタントとしてメディアと一緒に仕事をしていくなかで、疑問に思ったことがたくさんあったんです。メディアと仕事してない人が気づいていないであろう"暗黙の了解"って、実はたくさんあるんですよね。

草野:そのために顔を隠しているのでしょうか?

Mami:顔を出さないのには色々と理由がありますが、「本当になんでも言うためには、匿名の方が都合が良いかな」と思ったのも理由のひとつです。

たとえばドラッグのように、「科学的にこれがファクトです」と証明されてはいるものの、大手のテレビやラジオでは話しにくいトピックはたくさんあります。日本は幸いなことに政府から検閲を受けるようなことはないけれど、多くのメディアはスポンサーの目を気にして、絶対に触れないトピックも実は結構あるんですよ。

だからやっぱり、スポンサーが入ってない方がなんでも言える。どこを褒めようがどこを批判しようが、私とMichaelに実害がないので、どこにも忖度する必要がない。それは大事かなって思います。

子育ては一番のプロジェクト。子供を産んだら、「余裕」ができた

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草野:最後に、Mamiさんのこれからの展望について聞かせてください。

Mami:『バイリンガルニュース』がこんなに長く続いたことは、自分でもびっくりしています。子供もできて、保育園に入れずに仕事しているので、これからどうなるかは未知数なんですけど...。

ただ、子育てを通して自分が人として成長できていることは実感していますね。番組での発言にも、ひとつ新しい視野が追加されたかなって。

草野:私も、子育ては難しさもあるけど、人としてすごく成長できる体験だなと思ってます。最近は子供が6歳になって、教養や道徳についてインプットする段階になってきて、新しい楽しみがありますね。

Mami:私は子供を産むまで、自分のことを何かで証明しなきゃいけないと感じてたんです。常に自分を追い込んでるみたいなところがあって、「もっと新しいことしなきゃ」、「もっと違う仕事したほうがいいかな」とか思っていて。

でも子供を産んだいま、予想以上の大変さに、「子育てが1番のプロジェクトだから、自分を無理に証明しなくてもいいかな」と思えるようになりました。ある意味余裕ができたと思うんです。

草野:Mamiさんがライフイベントを通して変わっていくこれからの様子を、Podcastで聞けるのをとても楽しみにしています。

SENSORS MC:草野絵美

草野絵美 Sensors MC:1990年東京出身。慶應義塾大学湘南藤沢大学 環境情報学部卒業。作品制作・執筆・ラジオやTVのMC・CM出演など活動の傍ら、歌謡エレクトロユニット《Satellite Young》を主宰。歌唱・作詞作曲・コンセプトワークを行う。再構築された80'sサウンドにのせて人工知能やオンライン交際など現代のネット社会や最新テクノロジーをテーマに歌う。2017年には世界最大の音楽フェス『South by South West』にSatellite Youngとして出演。現在CMが放送中の参天製薬『サンテPC』2018年度イメージキャラクター就任。
Twitter:@emikusano

構成:ハルノ

1994年生まれ、愛知県出身。ロンドン在住。2017年からフリーランスでライターを始め、インタビュー記事を中心に執筆。
Twitter:@haruno_sudo

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