新時代のカルチャーを創造するための"プロデュース能力"とは?中川悠介(アソビシステム)× 村上範義(W TOKYO)-- 「Epoch Produce #1」イベントレポート

2018.09.06 08:00

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2018年6月26日、次世代のプロデューサーを目指す人の開拓・育成を目的とした「Epoch Produce #1」が調整さん主催で行われた。ゲストスピーカーとして登壇したのは、時代を創ったプロデューサーの2人。「青文字系カルチャー」の生みの親、アソビシステム株式会社 代表取締役社長の中川悠介氏と、「東京ガールズコレクション」を手がける株式会社W TOKYO 代表取締役社長の村上範義氏だ。

モデレーターに迎えられたのは、エンターテインメント、テクノロジー領域のコンサルティングなどを行うParadeAll株式会社 代表取締役 エンターテック・アクセラレーター 鈴木貴歩氏。

日本独自のカルチャーをプロデュースし、世界に発信し続けている2人は、どのような視点でビジネスを開拓してきたのか。両社の取り組みをベースに、次世代を牽引するために必要な「プロデュース能力」が語られた。

なぜ、"青と赤"に目を向けたのか。文化を創った二人のプロデューサーが見ていた景色

まず、会場に集まった「次世代プロデューサー」を目指す来場者を前に、時代の最先端を行く登壇企業から、それぞれの会社設立に至る背景が語られた。

イベントの口火を切ったのは、会社設立10年目を迎えたアソビシステムの代表・中川氏。同社は原宿を拠点に、ファッション・音楽・ライフスタイルなど"HARAJUKU CULTURE"を発信し続けている。「青文字カルチャーの生みの親」である中川氏は、青春時代を過ごした原宿の街で生まれていくカルチャーに魅せられ、アソビシステムを設立したそうだ。

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アソビシステム株式会社 代表取締役社長 中川悠介氏

中川悠介(以下、中川):僕は10代のころ、よく原宿で遊んでいました。好きな音楽アーティストのファッションを真似たくて、アパレルショップに通っていたんです。さらにそのショップの人たちが行く飲食店に通うようになって...。原宿の街には、音楽、ファッション、食などそれぞれの領域に、小さなコミュニティがあることに気づいたんです。一過性のブームではなく、それぞれのコミュニティに住人がいる。そんなカルチャーをつくっていきたいと思ったことが、会社設立のきっかけになりました。なのでアソビシステムは、「ブームをつくること」よりも「カルチャーをつくること」に価値を置いています。

一方で村上氏が代表を務めるWTOKYOは、青文字系とは対極にある「赤文字系カルチャー」を軸にビジネスを展開している。カンパニービジョンに掲げる「すべての女性に、輝く舞台を」を実現すべく、"リアルクローズの祭典"東京ガールズコレクション(以下、TGC)を開催している。

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株式会社W TOKYO 代表取締役社長 村上範義氏

村上範義(以下、村上):女性が輝く社会を実現するために「TGC」を開催しています。2005年からスタートし、今年の9月で27回目を迎えます。

10代の頃から女性誌に関わる仕事をしていて、世界に足を運ぶ機会に恵まれていました。そのときに、ある面白いことに気づいたんです。アメリカやヨーロッパではひとつの世代に対して、雑誌が5個ほどしかありません。しかし日本には、ひとつの世代に向けた雑誌が、30誌ほどもありました。たとえばOL系の『CanCam』、ギャル系の『ViVi』、お嬢様系の『JJ』、さらに原宿系の媒体などです。

それぞれのジャンルに存在している独自のカルチャーを束ねて「日本のガールズカルチャー」として発信すれば面白いことが生まれるのではないか。そんな思いが、「TGC」をはじめたきっかけになっています。

雑誌ビジネスの盲点を突く、時代を創った着眼点

原宿の街に訪れる日本好きの外国人を目の当たりにし、「日本のクリエイティビティの可能性」にいち早く注目した中川氏は、当時全盛にあった「赤文字系」の対極として「青文字系」を生み出した。

中川:当時、モデルといえば『JJ』『ViVi』『CanCam』などの赤文字系雑誌の紙面を飾る華やかで社交的な存在でした。一方で、街に目を向ければ、芸能事務所にも属していない"普通の高校生"であるにも関わらず、イベントに1,000人超のファンを集める「読者モデル」も続々と登場していたんです。

『Zipper』『CUTiE』『mini』などの紙面に登場する彼女たちは、短い前髪と個性的なファッションを身にまとった、"ちょっと変わった子"たち。今でこそSNSの隆盛によって「インフルエンサー」が人気を集めていますが、当時彼女たちが露出していたのはテレビでもメディアでもなく、雑誌だけでした。そんな彼女たちの持つ影響力に、大きな可能性を感じたのです。


世界に浸透し、有名セレブも支持する"Kawaiiカルチャー"も、アソビシステムがこの10年で広めてきたものだ。同社を代表するアーティスト、きゃりーぱみゅぱみゅの世界観は"Kawaii"の伝道師・増田セバスチャン氏が支えている。

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中川:増田セバスチャンが発信した「カワイイカルチャー」は、世界中に広がりました。日本では形容詞として使われている「カワイイ」ですが、海外では抽象的な概念を表す名詞として「カワイイ」が使われています。雑誌「Cawaii」も含め、当時の日本の「カワイイ」はほとんど「C」からはじまるものでしたが、海外では「Kawaii」と表記されています。この事実からも、新しい解釈がなされていることがわかります。実は昨日、LAにあるファッションストリート・メルローズ通りに行っていたのですが、そこにも「K」ではじまる「Kawaii」の文字がたくさん並んでいましたよ。

一方で「赤文字系」のモデルを束ね、「世界に通用する日本のガールズカルチャー」を育んできたのがWTOKYO。当時デザイナーの権威を示す場であった「ファッションショー」に対するアンチテーゼとして、「TGC」を始動したという。

村上:「TGC」を開催する前の2004年まで、パリコレクションやミラノコレクションに代表される「ファッションショー」と銘打つものは、デザイナーの権威を象徴する場所でした。そこに疑問を持ち、多くの人が日常で着ることができる「リアルクローズ」を題材にしてショーを開催したんです。

「ヒエラルキーのないファッションショー」を開催するにあたり、村上氏が工夫したのはモデルのキャスティング。発行元の出版社が異なることに由来する「雑誌の垣根」を越え、100人以上の人気モデルを「TGC」のステージに集結させた。

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村上:当時は、出版社が非常に強い力を持っていました。媒体ごとにモデルさんが所属されている感覚だったので、違う雑誌に所属するモデルさんが同じステージに上がることはあり得なかったんです。

しかし日本のガールズカルチャーを世界に持っていくために、まず『ViVi』や『JJ』『CanCam』などの人気雑誌のトップモデルさんから交渉しました。オセロの四隅を押さえるイメージです。すると面白いことに、業界の慣習なのか、トップの人が出演を決めると「じゃあ私も」と他のモデルさんも追随してくださったんです。

世間の目が変わったら、ビジネスのギアが変わった----"赤と青"、世界が変化した分水嶺

アソビシステムを代表するアーティスト・きゃりーぱみゅぱみゅは国民的アーティストとなり、その活躍の場を世界に広げている。一方で「TGC」はガールズカルチャーのプラットフォームとなり、さまざまな地方自治体や企業とのコラボレーションを実現してきた。

10年近くの年月をかけて「カルチャーのプロデュース」に取り組んできた両社は「ビジネスのギアが変わった瞬間」を次のように語った。

中川:アソビシステムがつくってきたカルチャーは、マイクロコミュニティの集合体で「お茶の間向け」ではありませんでした。長年変わらずにそのスタンスを貫いていたのですが、きゃりーぱみゅぱみゅがお茶の間に知れ渡った瞬間、大きな変化を感じました。あのときが、自分にとっても転機となりましたね。知らない親戚も増えましたし、先輩もやたらに増えて(笑)。それまでは自分の足で仕事を取りにいっていたのですが、初めて「仕事をもらう」経験をしたのも、この時代です。

(関連記事:「ネット上で売れるタレント」の素質とは?--中川悠介(アソビシステム) × 森泰輝(VAZ)

村上:はじめて「TGC」を開催したときに、大きな変化を感じました。開催前は「リアルクローズのショーなんて馬鹿げている」といった否定的な意見が多かったんです。しかし1万人もの方が来場してくださり、一気に世界が変わりました。ショーを体感した方々が「次にこれをやりたい」と提案してくださり、いろんな方面から新しい話をいただく機会が増えました。

アソビシステムはエージェント。きゃりーの世界進出を成功させたプロデュース術とは?

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ParadeAll株式会社 代表取締役 エンターテック・アクセラレーター 鈴木貴歩氏

次に話題が及んだのは、カルチャーを世の中に広げていくための「プロデュース手法」について。

今でこそSNSの普及によって、"個の力"を起点にインフルエンサーとして活躍する個人は数多い。しかしアソビシステムは10年も前から変わらずに所属タレントの個性を尊重し、彼ら・彼女たちの"インフルエンス力"を育むことにフォーカスしてきた。

中川:僕たちはずっと、所属している子たちの"セルフプロデュース力"を大事にしてきました。青文字系の雑誌にはスタイリストがいないことが多いんです。彼女たちは服も自分で選ぶし、ヘアメイクも自分でやる。だからこそ、どんなに可愛い子でも私服がおしゃれな子でなければ、弊社には所属させていません。自分の個性をきちんと持っている子を、一番大事にしてきました。

キャラクターや方向性を大人が作りこむアイドルとは違い、きゃりーぱみゅぱみゅは自立した存在なんです。だから、本人のアイディアも取り入れながら、彼女の世界観をプロデュースしています。衣装デザインにもプロモーションの仕方にも、関わるクリエイターの選定にも、彼女の意見を取り入れています。そういった意味で、弊社の仕事は、芸能事務所というよりエージェントに近いのかなと思います。


これまでの芸能界では「お茶の間で通用すること」が人気の条件とされていた。しかしインターネットの発達によりマスメディアの影響力は弱まり、お茶の間の価値は低下している。「セルフプロデュース能力」に長けたアソビシステムのタレントたちの中には、テレビにもラジオにも出ていないにも関わらず、多くのファンを抱えて活躍している子もいる。

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中川:きちんと自分のフォロワーを持っている子たちの大切さがやっと広まってきた気がします。メディアに頼らずに自己発信ができる子たちを集めた結果、本当の人気者を輩出できているのでしょう。

アソビシステムを象徴するタレント・きゃりーぱみゅぱみゅは海外でもその名を馳せている。英語がほとんど喋れない彼女が世界中ののファンを熱狂させている背景には、中川氏の「限界を決めない挑戦」があるそうだ。

中川:常に目の前の目標を決めないようにしています。目標がゴールになってしまうので。「海外ではやれないよね」ではなくて「海外でもやれるんじゃないか」と思って続けてきた結果、きゃりーのように海外に受け入れられるカルチャーをつくりだすことができたと思っています。

"See now, buy now"を皮切りに、TGC経済圏を創出。リアルから派生した、広告換算50億円超のプラットフォーム

ガールズカルチャーのプラットフォームである「TGC」は、さまざまな企業や自治体と積極的に手を組むオープンイノベーションの一形態となっている。それは、村上氏が開催当初から「立体的に広がるイベント」を意識的に設計していた結果だという。

村上:「TGC」を開催するにあたり、私が最初に考えたのは「あらゆるメディアと"シェイクハンド"ができるような状態をつくる」ことでした。千手観音のように100個の手があり、さまざまな企業やメディア、自治体と手を組めるイメージです。僕たちの大義は、"経済に直結する"ことだったので、はじめからビジネスを意識していましたね。

モデルがショーで着ていた服が買える「See now, buy now(シーナウ・バイナウ)」。数年前からハイブランドのショーでも取り入れられているこの手法を、「TGC」は2005年の初回開催時から取り入れている。

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村上:一般的にファッションショーといえば、女性向けのメディアや情報番組でしか紹介されません。しかし僕らは「See now, buy now」をフックにテクノロジー系や経済紙に売り込んで紹介してもらいました。そのような媒体に露出していたことがきっかけで、AIとのコラボレーションや、世界初の「ドローンモデル」を使った演出など、テクノロジー企業との取り組みも実現しています。

逆に、テクノロジー領域が女性向けの場で紹介されることも多くありません。なので、どこよりも先に「テクノロジー×エンターテイメント」取り入れることで、「女性向けに最新テクノロジーを試すことができる場所」としてのイメージづけを行いました。


「TGC」の大きな強みは、人々の熱狂を生む"ライブ感"。昨年開催した「TGC」は、LINEでの生中継視聴数は140万以上、「#TGC」を含むツイートは1億インプレッションを記録し、広告換算額は50億円超にものぼった。

村上:mixi、Facebook、Twitter、Instagramと時代とともに可処分時間を消費するツールは変化しています。しかし、変わらないのはやっぱり人。なので、僕らはリアルイベントに圧倒的投資をすることで、人を先に抑えました。そうした施策が、多くの人からの熱狂につながっているのだと思います。

カルチャーを軸に、新領域への挑戦を続けていく。時代を担うプロデューサーが描く未来構想

エンターテインメントの力で時代を牽引してきた両社は、公的機関や他企業との派生ビジネスにも積極的だ。

中川氏は、クールジャパン戦略推進会議の構成員でもある。同氏は早くからインバウンドに注目し、日本のポップカルチャーまるごとを世界に発信する「もしもしにっぽんプロジェクト」を主導している。同プロジェクトは、きゃりーぱみゅぱみゅがはじめてフランスライブを行った際に同氏が味わった、ある悔しさがきっかけではじまった。

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中川:きゃりーの公演会場はライブハウスだったのですが、同時期に韓国勢がスタジアムでフェスをやっていたんです。スポンサーには韓国の名だたる企業が並んでいました。そのときに「日本のカルチャーも国をあげて海外に進出しなければいけない」と思ったことが「もしもしにっぽんプロジェクト」をはじめるきっかけになっています。結果として現在は「Japan Expo」やサンフランシスコの「J-POP SUMMIT」、ロンドンの「HYPER JAPAN」など世界のジャパンカルチャーとの連携が実現しています。

同社はインバウンド施策だけでなく、Airbnbとの提携、村田製作所やBASEとの連携を通じたIoT領域への取り組みなど、新しい領域への挑戦にも積極的だ。

中川:自分たちの価値を見出すためにも、IT領域や新しいサービスとの取り組みを積極的に進めていこうと思っています。

当初から派生ビジネスを意識して設計された「TGC」は、主に2つの切り口でビジネスを展開している。ひとつは「TGC」のブランドを利用したビジネス。地方創生や「クールジャパンプロジェクト」、国連での文化発信や通販事業など、様々な領域と手を組んで「TGC」の横展開を広げている。

村上:「TGC×100のビジネス」を実現しようとしています。多くの女の子にリーチできるガールズマーケットであることを売りにして、地方創生やクールジャパン、クレジットカード事業なども行っているところです。

もうひとつ、今もっとも注力しているのが、ITプラットフォームとの掛け合わせによる事業展開。実は「TGC」の売り上げの半分以上はIT事業での売り上げだという。

村上:今、深くお付き合いしているパートナーのひとつに『SHOWROOM』があります。『SHOWROOM』はもともと秋元康さんが手がけるAKBのコンテンツがメインで、ファッション関係の女の子が入りづらいプラットフォームだったんです。そこに目をつけて「TGC」で関係性を構築していた女性誌のオーディションを『SHOWROOM』内でコンテンツ化して、マネタイズを実現しています。

トークイベント終了後、「次世代プロデューサー」を目指す参加者たちからは、多くの質問が飛び交った。海外展開にも積極的な姿勢をとる両者は、"ビジネスの場"としての欧米圏とアジア圏の違いについて次のように語った。

中川:北米・ヨーロッパに関してはストレートに、僕たちの抱えているアーティストの活動場所として捉えています。たとえば中田ヤスタカがKaty Perry(ケイティーペリー)に曲を提供したり、Madonna(マドンナ)のPVを増田セバスチャンが作ったりできたらいいなと思っています。音楽は言葉の壁を越えることができると信じているので「ファンビジネス」を軸にチャレンジしていきたいです。アジアに関しては、北米・ヨーロッパでウケたものを持っていきたいと考えています。ただ、中国だけは特殊なので、裏方に回ってプロデュース業に専念していますね。 村上:欧米圏──特にアメリカは文化的なことや政治的なことなどを発信したときに、一番波紋が広がる場所だと思っています。以前ニューヨークにある国連本部でファッションショーを開催したのですが、これはTGCのブランド発信として行いました。

アジア圏に関しては、マーケットとして捉えています。たとえば中国では、既存の通販会社の中に「TGC」のブランドのアウトレットモールをつくって日本にある在庫を送る仕組みなどを考えています。


カルチャーをプロデュースし、エンターテインメントに乗せて伝播させてきた2人のプロデューサー。時代の変化を敏感に察知し、一般論にとらわわれず、新しい提案を続けてきた両者の姿勢は、「次世代プロデューサー」を目指して集まった来場者にとって大きな刺激となった。

構成:井下田梓

ライター・編集者。アパレル販売、WEBマーケターを経て、現職。関心領域はファッションテック、映画、文化人類学。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512

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