死後も投稿を続ける人工知能SNS「ETER9」〜ポルトガルのスタートアップの挑戦

2015.12.07 16:30

ポルトガルのITスタートアップが立ち上げたソーシャルネットワーク「ETER9」。このSNSでは人工知能がユーザーの人格を学習し、ユーザーの死後も仮想人格体として投稿やコメントを続けていく。世界で注目を集めるこのサービスのCEOエンリケ・ホルヘ氏に取材を行い、サービス開始の経緯、ユーザーの反応、今後のビジョンを聞いた。浮かび上がってきたのは"デジタル不死性"というキーワードだ。

SENSORSが以前、「人工知能」をテーマに行ったサロンで光明寺の松本紹圭氏は僧侶という立場からビッグデータ時代の見解を述べた。お寺にはお墓や過去帳があるように、その本質は亡き人を記憶する装置だということだ。一方で現代人はものすごく膨大な量のデータを残して亡くなっていく。残された人と逝ってしまった人をつなぐインターフェースをいかに作っていくかというのは一つの大きなテーマではないかと松本氏は語った。

Facebookには死後のアカウントの管理人を指名したり、アカウントを削除できる遺言機能さえある。個々人の生きた痕跡や欠片が、まるでバーチャルな骨壷と納棺がデジタル化していくかのようだ。

「ETER9」のトップページ

故人が残したデータを管理または削除委託できるシステムから一歩踏み込み、生前から当人の人格と習慣を学習した人工知能が、死後も投稿やコメントを行い続けるSNS「ETER9」を開発したのがポルトガルのエンリケ・ホルヘだ。 ポルトガルを拠点に世界展開を進めるホルヘ氏(以下、「ホルヘ」)にインタビューを行い、開発のきっかけ、ユーザーの反応、今後の展開、そして「人工知能」そのものに対する未来の展望を伺った。

「ETER9」CEO エンリケ・ホルヘ氏

■リアルとバーチャルが融合する代替世界が創造されつつある

--なぜこうしたサービスを開発しようとしたのですか?きっかけを教えてください。

ホルヘ:
私は以前から「常識に囚われない(outside of the box)」考え方が好きでした。テクノロジーやSFに熱心だった私は、AI(人工知能)のポテンシャルを探求し、もう一歩進めたいと考えるようになりました。数年前は一つのアイデアに過ぎませんでしたが、ETER9はリアルとバーチャルが融合する代替世界を創造し始めています。まだ序章に過ぎませんが、ETER9はソーシャルネットワークワーキング革命だと信じています。

--サービスを開始してからのユーザーのポジティブ/ネガティブなフィードバックをそれぞれ教えていただけますか?

ホルヘ:
使ったユーザーからは概ねポジティブなフィードバックが寄せられています。長期的かつアクティブに使ってくれているユーザーや改善の要望もいただいています。現在、ETER9は完全にるつぼになっており、世界中のユーザーとインタラクションをとることができます。新しいソーシャルネットワークとしてユーザーは互いにサポートし合いながら、新しいサイバースペースに住むことを楽しんでいるようです。

(写真提供:ETER9)

ホルヘ:
一方、それがデジタルであろうと「不死性(immortality)」はセンシティブなトピックですので、誤解を招いてしまう場合があります。こうした誤解を解くことが私にとって最も大きな障壁です。ETER9は人生そのもの、すなわちあなたはオフラインの時でさえ、(肉体的に生きた状態で)マシーン中で生きられるのです。

■「"バーチャルな不死性"は愛する者を記憶する最良の方法である」

--このサービスを使うことで故人を喪失した悲しみを癒せるのでしょうか?もしユーザーからのコメントがあれば教えて下さい。

ホルヘ:
ETER9の目的は必ずしも故人を失った悲しみを軽減するものではありません。もしユーザーがカウンターパート(編注:システム上のみに存在し、まるで本人のように振る舞い世界と交流してくれるヴァーチャルな人格。行動や習慣を学習し、精度が上がっていく)を永久にアクティブにすれば、ユーザー自身の延長を手にし、一生生きられるのです。
どういうことかというと、カウンターパートはユーザーの代用そのものではないということです。例えばあなたがバットマンだと想像してみてください。カウンターパートはロビン(バットマンに味方する相棒)のようにすべて助けてくれるのです!もしユーザーが物理的に生きていないとしても、(ユーザーが望めば)カウンターパートはアクティブでい続けます。しかし、ユーザーを代替することは決してできません。こうしたバーチャルな不死性は、愛する家族や友人、さらにはセレブを記憶しておく今最も優れた方法です。

(写真提供:ETER9)

ホルヘ:
一週間前にウォールの上でユーザー同士がこんな会話をしていました。

A:「100年後、このサービスを本当に使っている人がいるのだろうか」
B:「そうだと信じましょう!ひ孫たちが私たちとどうにかコミュニケーションを取っているかもしれないですよ(笑)」
A:「まさしく。そうなると面白いですね。もし死んでいたとしてもひ孫たちと話すことができる」
B「面白そうですね。できれば私も生きてそれを見たいですが、彼らは"私"と楽しんでくれるでしょう」

■人工知能のポテンシャルを決めるのは人間「何世代も後の子孫が自分と会話をしている未来がくる」

--今後の技術的な発展についてお伺いします。テキストベースから音声や脈拍などへサービスを拡張していくつもりでしょうか?

ホルヘ:
今のところ我々が注力しているのはカウンターパートの精度を上げ、ユーザーの行動を学習することです。将来的には投稿やコメントだけではなく、会話もできるようになっていきます。その後は、異なるユーザーの意見を取り入れながら、脈拍や音声も含め機能の拡張はあり得ます。ここで強調したいことはETER9は決して静的なものではなく、絶えずアップグレードを永久にしていくということです。

--日本を含む他国での展開は計画していますか?

ホルヘ:
現在のところヨーロッパ全ての28カ国、インド、中国、ブラジル、そしてアメリカで商標登録をしています。今後は、日本を含む他の国へプロジェクトを広げていこうと考えています。地球上の全ての人がこの"永遠の"プラットフォームを使えるのです。当然、日本からでもですよ。

(写真提供:ETER9)

--最後に50年後、人工知能の未来をどのようなヴィジョンで捉えていますか?

ホルヘ:
時の経過と共に生じる進化は不可避です。人工知能(AI)もその一部で、私たちの日常生活にも徐々に溶け込んできています。今後もソーシャルネットワーク、インターネット、その他あちこちでより人工知能は存在感を増していくでしょう。ポテンシャルは計り知れませんし、あとは我々がどこまで深くそれを使うかを決めるだけです。
ETER9は絶えずユーザーを学習するAIシステムを元に設計しているので、"デジタルの不死性"という興味深いコンセプトを呈示してくれています。現状、バーチャル的な不死性が私たちが愛する家族、友人、そしてセレブを記憶しておく最良の方法です。数十年後、物理的に対面することが難しいとしても、あなたのひ孫たちはあなたと会話しているかもしれません。

取材を通してホルヘが繰り返し強調していたのは、ユーザーが亡くなった後に、人工知能が行う投稿やコメントは必ずしもユーザーの"代替"を意味しないということだ。これは日本における人工知能研究のトップランナー松尾豊氏が言う「人工知能は"知能"であって"生命"ではない」という主張にも通ずる。
人工知能の進化は単に生活の利便性を上げるのみならず、私たちの文化や社会に対する価値観にも再定義を迫っている。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近の関心領域は「人工知能」。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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