海外拠点ともコラボ 「FabCafe」相樂園香 クリエイターが集う理想の場作り

2016.05.23 11:45

先月、日本では2拠点目となる「FabCafe HIDA」がオープン。FabCafeはフランス、スペイン、台湾など世界にもネットワークを広げ、クリエイターのコミュニティハブとなっている。今回お話を伺った相樂園香さんは自身がデザイナーでありながら「FabCafe Tokyo」のディレクターを務め、コミュニティ作りに日夜励む。クリエイターが集う場づくりを通じて、相樂さんが実現したいのは「デジタルファブリケーションの民主化」だという。

■年間約300本のイベントを実施、"ファブリケーション・ディレクター"のお仕事とは?

相樂園香さん:ファブリケーション・ディレクター/デザイナー

--肩書きが「ファブリケーション・ディレクター」ということですが、具体的にどういったことをされているのでしょうか?

相樂:
FabCafeの運営は5人しかいないため、あらゆることをやっています。ワークショップの企画、サービス開発、そしてアルバイトのトレーニングまで。イベントは大きく店内で行うものと、お店の外で企業様と組んで行うものがあります。最近だとPCメーカーと一緒に家電量販店でプロモーションを行ったり、一昨年は文房具メーカーさんと伊勢丹さんでポップアップをやりました。

--年間で約300本のイベントを行ったそうですが、昨年最も印象的だったイベントは何ですか?

「Make it Yourself(MiY)」ワークショップの様子。(写真提供:FabCafe Tokyo)

相樂:
昨年から始めたloftwork.comとFabCafeのものづくり実験企画「Make it Youself(MiY)」というプロジェクトです。ロフトワークが運営している「ロフトワークドットコム」というポータルサイトには、2万5千人のクリエイターがいるんです。「MiYプロジェクト」はこのクリエイター×FabCafe×企業という三角形で、コラボレーションのきっかけを創出する試みです。昨年はUVプリンターという新しいマシーンが入ったタイミングで、革のスリッパを作る公募、そして受賞作品の展示、ワークショップを行いました。

「MiY」公募で選ばれた10作品の革スリッパの展示。レーザーカッターで革を切り、UVプリンターでプリント、多様なスリッパが制作された。(写真提供:FabCafe Tokyo)

■仏・トゥルーズにもFabCafeがオープン。世界の拠点とのコラボ

--「FabCafe」は昨年、フランス・トゥルーズにもオープンするなど、グローバルでも展開が進んでいますよね。他拠点との連携は具体的にどのように行われているのでしょうか?

相樂:
毎週火曜日にSkypeで全拠点をつなぎ、グローバルコールを行っています。ニューヨークは時差が大きいので毎回いるわけではないですが、「どういうイベントをやってるの?」、「じゃあ台北でもやりたい」といったやりとりが行われて、実際にデータやイベントを共有することもあります。

--世界で行われたユニークなイベントはありましたか?

相樂:
一昨年と昨年、オーナメントをWebで募集して世界中のクリスマスツリーをみんなで作って飾る試みを行いました。東京がデータを作って、台北がそれをダウンロードして和柄の靴下を付けお互いのツリーを飾り合うようなものです。

「Fab Christmas Ornament project 2013」(写真提供:株式会社ロフトワーク)

--各国が自主的にイベントを行っているわけですが、世界共通で最近浮かび上がってるテーマのようなものはあるのでしょうか?

相樂:
FabCafeは拠点ごとに得意分野が異なるんですよ。空間作りそのものも場所によって違っていて、例えば東京はFabとCafeのバランスが半々くらいですが、トゥルーズは飛行機が入るくらい大きいFabLabの中にあり、ほぼFabメイン。一方で台湾は「華山1914文創園区」という、日本統治時代の工場跡地を使ったアート・イベントが集まる場所にあり、、カフェ利用が多いです。

「FabCafe Barcelona(バルセロナ)」の様子。(写真提供:株式会社ロフトワーク)

--NYはいかがですか?

相樂:
NYはチームがあってイベントを行っていますが、実店舗はまだないです。「FabCafe」という概念やノウハウは共有しながらやっていますが、基本的にはそれぞれが独立して運営しています。それでも東京でやったワークショップを台北に持って行ったり、香港のポップアップに日本のアーティストを連れていくというようなコラボは行っていますね。

■自らがデザイナーでありながら、クリエイターのコミュニティを育んでいくこと

--ここから相樂さん個人のお話も伺っていきたいのですが、ご自身がデザイナーでありながらクリエイターが集うコミュニティを作っていく側もであるわけですよね?

相樂:
私が通っていた大阪芸術大学にはたくさん学科があるんです。学科内で何でもできる人がいるのに、それぞれがそれぞれの校舎にこもって、交流の機会がほとんどなかった。「一緒に作ればいいのに」と思って、友達と一緒に他学科と交流するサークルを作ったんです。そこからは学内も学外も、休みがないくらい色んな人にとにかく会いました。
また学生の頃はスターバックスでもアルバイトをしていて、「モノを作る場所とカフェ的な場所が一緒にあったらいいな」とずっと思っていました。当時デザイン会社に就職が決まっていたのですが、ちょうど「FabCafe」が日本にできることを知ったんです。それで結局「FabCafe」に来たのですが、いざワークショップとかをやってみると、自分が作りたい欲求が出てきます(笑)

--自分ではどういったモノを作られるんですか?

モデリングソフトFusion360を使った、3Dモデリングのワークショップで相樂さんは講師を務める。(写真提供:FabCafe Tokyo)

相樂:
FabCafeのメニューやポスターを作ったりすることもありますが、本当に様々です。先週は3Dモデリングの講師をやったり、レーザーカッターを使うワークショップをやったりと、平面だけではなくなりつつありますね。「3Dモデリング」と聞くと、ギークな印象を持たれるかもしれませんが、ワークショップには6歳くらいの子供と親御さんが参加されていました。初めてモノが立体になる瞬間、「すごい」と子供達が喜ぶ姿をみるとやりがいを感じます。

■"デジタルファブリケーション"の民主化を目指して

--相樂さんが思うコミュニティの理想の形はどういったものですか?

「FabCafe Tokyo」の運営メンバーと相樂さん。(写真提供:FabCafe Tokyo)

相樂:
いい意味でスタッフとお客さんがフラットな関係性を築ける場が良いなと思います。カフェで知らない人に話しかけることはあまりないですよね。FabCafeではあちこちで作業もしているので、「何作ってるんですか?」みたいな会話が自然に生まれるんです。お客さん同士やスタッフとの出会いからワークショップが生まれることもあります。クリエイター同士をつなげ、日本と世界をつなげる、プラットフォームになってほしいと思いますね。

--相樂さんが考える「デジタルファブリケーションの現在と未来」を教えいただけますか?

相樂:
個人的には"デジタルファブリケーション"というものが、特別ではなくなっていくのではないかと思っています。

--民主化されていくというか?

相樂:
そうです。家にあるプリンターも気づいたら一家に一台になっていましたよね。レーザーカッターや3Dプリンターも何かを作りたいと思ったときの、手段の一つになっていくのではないでしょうか。今後は生活に必要なものを自分たちで作っていくとか、"買う"という選択肢に"作る"という選択肢も増える。冒頭でお伝えした「Make it Youself」プロジェクトも、自分で作れるわけがないというものを作ってみることで、仕組みを理解することができるんです。仕組みが分かれば直すこともできるし、長く使えます。

--最後に、今後の「FabCafe」の展望を教えてください。

相樂:
今年で5年目になるのですが、これまではとにかくイベントを頻繁に開催することでクリエイターの間に新しい出会いをもたらすことに努めてきました。そういう意味ではゼロから1への種は蒔いてきたので、今度はそこで生まれた出会いをいかにコミュニティにつなげていくかが重要になると思います。一つ一つのイベントにしても今度は計画の実行、振り返り、アーカイブを徹底していきたいですね。

「Fab」という言葉には二つの意味がある。一つは「Fabrication(モノづくり)」、もう一つは「Fabulous(愉快な、素晴らしい)」。相樂さんが「FabCafe」というコミュニティの形成を通じて行うデジタルファブリケーションの民主化においても、当然この二つの視点が重要となるだろう。近日、SENSORSではオープンしたばかりの「FabCafe HIDA」も取材予定だ。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。『PLANETS』では構成を行う。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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