東京をファッション×テクノロジーのハブに「Fashion Tech Summit」開催の意義

2016.05.12 08:45

2016年3月4日~6日の三日間、デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス(東京・御茶ノ水)にて開催された、「Fashion Tech Summit」。 ファッション×テクノロジー領域のイノベーターたちが一堂に会した。このイベントを中心となって手がけたのが、これまで記事「Amazon出身の起業家が解決するファッションEコマースの課題〜「STYLER」と会話型コマースの未来〜」などでも取り上げてきた、株式会社スタイラーCEO 小関翼氏と、東京コレクションなどのライブ配信を手がけた合資会社モード・ファクトリー・ドット・コム 代表 平田元吉氏だ。

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スタイラーCEO 小関氏(左)、モード・ファクトリー・ドット・コム 代表 平田氏(右)。


小関翼氏は金融機関勤務後、大手EC事業会社で事業開発を担当。そこでインターネット上で取引をされるアイテムの種類に偏りがあることをECの現場にて実感する。そういった「情報の非対称性」を解決し、EC比率の低いライフスタイル領域で日本発のイノベーションを起こすことを目指す、スタイラー株式会社を設立。近年は経済産業省ファッション評議会員を務め、ファッション産業をテクノロジーの観点からどう活性化させるか、日々奔走している。

平田元吉氏は紳士服のテーラーを営む家庭で育ち、新卒でアパレル企業に入社。インターネットに出会い衝撃を受け、システム会社に転職。その後ファッションとテクノロジーで変革を起こすことに主眼を置く「合資会社モード・ファクトリー・ドット・コム」を創設。近年はライブメディア事業に注力し、「メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京(東京コレクション)」のライヴストリーミングディレクションを担当した。

今回が初開催となった「Fashion Tech Summit」では6つのセッションや「FashionTech ハッカソン」などが開催された。 「ファッション×テクノロジー界の横の繋がりを作りたい」と考え、実現された当イベント。両氏はフィンランドにおける、若手起業家による若手起業家のためのイベント、「SLUSH」の立ち上げの経緯が参考になったと語る。

■フィンランドにおける「SLUSH」立ち上げ期と今の日本の類似点

小関:
はじめ、フィンランドで200人規模からスタートした「SLUSH」は、今や参加者が1万以上に拡大し、メンバーの所属もスタートアップに限らず大企業、国際機関、アーティストなど多様です。東京がファッションテックのスタートアップハブになるにはこう言った多様性が重要になってくるのだと確信しています。
また、「SLUSH」が創設された当時のフィンランドと今の日本の状況が非常に似通っている点も意識しました。当時のフィンランドでは国も代表する企業であるノキアが傾きつつあり、GDP成長率もマイナスをさまよっている。そう言った背景で、大企業をリストラされた人や学生が主体となって始まったのが「SLUSH」なのです。
平田:
フィンランドの「SLUSH」の事例を今の日本に落とし込む際、やるなら本気でやりたいなと強く感じました。様々な企業がIT化、テクノロジー化を標榜していますが、進展されていない場合が多いと感じます。それどころか、担当の方がITツールを使っていないことが多くありますよね。その人のマインド自体が硬直化していて、なかなか前進しないんです。そのマインドを是正するのがファッションであり、テクノロジーだと思います。
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左:「SLUSH」のアジア版、「SLUSH ASIA」代表のアンティ・ソンニネン氏 右:styler CEOの小関氏

当イベントでは、「SLUSH ASIA」代表のアンティ・ソンニネン氏も登壇し、小関氏との対談も行われた。

小関:
今やアングリーバードを開発した「ロビオ」や、クラッシュオブクランを運営する「Supercell」などグローバルに事業を拡大するスタートアップを多く輩出するフィンランドですが、転機は2008年ごろだったそうですね。
アンティ:
2008年にはリーマン・ショックがありましたし、前年にAppleがiPhoneを発売しています。この年を契機にGDP成長率も0%前後やマイナスで低迷しますし、フィンランドを代表する企業だったNokiaも携帯電話端末メーカーとして世界でもトップの企業でしたが、徐々にシェアを失っていきます。2013年にはマイクロソフトに携帯部門が買収されてしました。これはまるで日本を代表する企業だったシャープが台湾のホンハイに買収された感覚に似ています。フィンランドは国としても、スウェーデンと、ロシアに挟まれた小国なので、領土委譲や侵略の負の歴史を背負っているんです。そんな独立から100年も経たないフィンランドにとって、ノキアは国民のアイデンティティとなる特別な企業なんです。でも、そんな元ノキアの人たちも学生とともに今の「SLUSH」の原型を作ったという経緯もあります。つまり、経済的に暗い雰囲気をなんとかしようとして始められたイベントが「SLUSH」なんです。
小関:
今回、アンティさんに登壇いただいたのも今の日本の状況を比較すると面白いと思ったからです。というのも、日本のファッション業界から、ビジネス的な側面で、いいニュースがあまり聞かれなくなっています。老舗アパレル企業や百貨店におろしていた伝統的な繊維企業が人員整理をしているというニュースばかり聞こえてきています。でも、再チャレンジできるようなセーフティネットが欠けているんですね。ハブの不在を痛感します。それぞれが専門性を高め、分業体制の効率を上げていくだけでなく、行き詰まりが見えてきた状況においては別の領域からの知見を入れることが重要だと感じています。そういった意味でスタートアップのハブとなるものが必要で、「Fashion Tech Summit」も日本での「SLUSH」のようになればと思っています。
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■東京がファッション×テクノロジーのハブになるために必要なこと

当イベントの最後に、小関氏、平田氏はこのように語った。

小関:
今回の「Fashion Tech Summit」は大目標として、東京がファッションテックのハブになるということを掲げています。なので、ファッションテックやスタートアップという言葉は解釈を広げていて、ファッションに関することであれば生産から販売まで、更には公共的な政策提言からカルチャー批評までできるような場にしたいです。今後も広い意味での "スタートアップ" を応援したいと思います。
平田:
世の中がIT化によって社会の動きがスピーディーになりつつある中で、今や複数の要素を組み合わせれば世界初が簡単に起こる状況ではないかと思います。そういった新しいマッチングが起こるような "場づくり" を推し進めていき、新しい価値観やプラットフォームを作りたいと思います。
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またイベント終了後、改めて実施後の成果についても伺ってみた。

--今回のイベントを実施して感じた「東京がハブになる為に必要なこと」は何でしょうか?

小関:
人材の流動性が重要だと考えています。Fintechで有名なロンドン、メディアで有名なニューヨークも大企業とスタートアップの交流や転職が盛んです。日本はアパレル業界に限らず、人の流動性が乏しいです。一度、その業界に就職をすると他の業界と関わらなくなることも多いですし、業界内でもコミュニティは分断されがちです。当イベントが人と人とを繋ぐ場になればいいと考えています。
平田:
まずは旗を振り、志を持ったメンバーが容易に連携できる"場"を創る事です。 持ち寄った知見を共有し、世界に類を見ない日本発のFashionTechサービスを生み出す研究や実証を推し進め、スタートアップをサポートしていく事。 フォーラムや研究に留まらずスポンサーから活動予算を募り世界に向けて活動や発信をしていく事。そして継続していく事です。

--振り返ってみて、達成できた点はどのようなものでしょうか?

小関:
業界横断的なイベントを開催できた点です。シリコンバレーでさえ、スタートアップの出口は9割近くが大企業や他のメガベンチャーによるM&Aです。本来、スタートアップハブを目指す場合は、スタートアップのみ集まっていても不健全で、あくまで業界や会社の規模を超えて人が集まる場を作るのが肝心です。今回は大企業から、弊社のようなスタートアップ、更にはアパレル業界以外の方も多く参加いただいたので、その点を嬉しく思います。
平田:
短い準備期間ながらも、様々なバックグラウンドを持ち、未来志向で、実際に各方面で活躍しているメンバーが集まり繋がる事が出来ました。具体的にイベント開催後いくつかの実験的なFashionTechプロジェクトが動き始めています。今回、デジタルハリウッドの杉山学長に後押し頂き、テクノロジーアートを都市へ実装する実験的なカルチャーイベント "MEDIA AMBITION TOKYO 2016" の一環としても開催したのですが、既存の枠にとらわれず、業界を横断しての開催が出来たことも重要で、インターネットやテクノジーの登場でファッションの定義やユーザーマインドが変わってしまっている現代への提言としても意義があったと思います。

--今後の展開で考えていることを教えてください。

小関:
反響は大きく、イベント後もさまざまな団体や企業からお問い合わせを頂いております。今後は年に2回開催する予定で、海外への情報発信も強化していく予定です。様々なバックグラウンドのユーザーや企業が楽しんで参加できるイベントにしていきたいですね。
平田:
東京をハブとし、日本発の FashionTechを基軸とした世界への発信・提案のための "場" を創りたい。具体的には「Digital Fashion Week TOKYO」を実現させたいです。ハードルは高いですが、古きを温めるだけでなく、新しいフォーマットを創っていかないと業界の閉塞感は打破できないし、明るい未来は切り開かれないので。

早くも次回開催に向けて動き出しているという「Fashion Tech Summit」。今後の展開については公式サイトや、デジタルハリウッド大学をはじめとした実行委員会の各参加企業からの情報発信が随時行われるようだ。

取材・文:岡本孔佑

フリーライター。慶應義塾大学文学部4年在籍。編集者を志し、複数の媒体で執筆、編集を経験。「ファッション」、「テクノロジー」にアンテナを張っています。

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