きゅんくん、中里周子、ドミニク・チェンが考える「ファッション」と「アイデンティティ」の関係性とは

2016.09.21 12:00

8月15日、渋谷のFabCafe Tokyoで行われた「SENSORS SHIBUYA FASHIONCODE WEEK」。土曜日には 『ファッションアイデンティティ』をテーマにロボティクスファッションクリエイターのきゅんくん、ファッションデザイナーの中里周子氏、モデレーターとして情報学研究者のドミニク・チェン氏が登壇。「ファッション」と切り離すことのできないものづくりとの関係性と、「ファッション観」が生まれる所以についてトークを繰り広げた。このレポートではセッション内で語られた様子をお届けする。

ゲストとして登壇した中里周子(写真左)ときゅんくん(写真右)

小学生からロボット開発者を志し、現在は大学の機械工学科に通いながら、ロボティクスファッションクリエイターとして活動するきゅんくん。
実際にまとうことのできる、ファッションとしてのウェアラブルデバイス『METCALF』シリーズは、役に立つ機能を持っていないが、それを「身に付けたい」と思わせるような、身体のアクセサリーとしての役割をロボットによって実現している。

きゅんくん 『METCALF clione & METCALF』 PV

元々、大学では哲学とサブカルチャーを専攻していたが、ファッションデザイナーになることを目指し、現在は東京藝大の博士課程で研究をしている中里周子氏。
2014年に欧州最大のファッションコンテスト「ITS」でジュエリー部門のグランプリを受賞したことをきっかけに『NORIKONAKAZATO』を立ち上げ、服のデザインはもちろん、人とモノが出会う瞬間のデザインを提案し続けている。昨年には伊勢丹「TOKYO解放区」にて、VRを用いた"ようこそ、ISETAN宇宙支店へー私たちの未来の百貨店ー"と題した企画にて"未来でのショッピング体験"を提案し、テクノロジーによってショッピングの体験を塗り替えるという企画を行うなど、その活動は多岐にわたる。

ようこそ、ISETAN宇宙支店へー私たちの未来の百貨店ー" PV

そんな既存の「ファッション」に一石を投じる2人は、どのようにしてその着想を得、実践しているのだろうか。情報学研究者であるドミニク・チェン氏が「ファッションとアイデンティティ」という観点から解き明かしていく。

◼︎「ファッション」という言葉の持つ意味とそれぞれのアプローチとは

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ドミニク:
ファッションとアイデンティティという観点から考えるときに、そもそもファッションってどんな意味だったかなと語源から調べてみました。英語の"fashion"は"流行"という意味だけど、これはフランス語だと"façon"(ファソン)で、"方法・流儀"という意味がある。さらに語源をさかのぼってみると元はラテン語で"作る"という意味の動詞でした。つまり、自らのスタンスや流儀が自らの手で作り出したモノにも表れる。その意味でファッションとアイデンティティは切っても切れない関係にあるのだと思います。
その意味で、ファッションという領域において、現在のお二人のかなりぶっ飛んでいる活動をするに至った考え方や、その方法についてお伺いしたいです。
中里さんが哲学科からファッションデザイナー志望に転向したのは、どういった経緯だったのでしょうか。
中里:
父親がファッション好きだったので、いわゆるモードと呼ばれるものに触れている時間、機会は多かったんです。なのでもともとの興味は強かったと思います。その興味の対象をもう少し別の方向から捉えられないか、と思い大学ではファッションを身体論的な視点から見ていくことを選びました。
でも言葉を使って評論をしているうちに、やはり作ってみないとわからないという気持ちが強くなっていきました。
ドミニク:
評論するという行為が極まって、作る方向に向かったと。
中里:
哲学という学問のフィールドで、いろんな本を読んで、人間の体とファッションということについて考えても、誰かの受け売りの言葉にしかならない、ということに気づいたんです。
使う言葉が自分の思っているものとはズレていく気がして、まずは一回自分で作って表現してみようと思ったところから、ファッションデザイナーとしての道に進みました。
ドミニク:
表現の手段として、昔から身近だったファッションを選び取ったということですね。
それにしても、("ISETAN宇宙支店でのショッピング体験"で)「VRで宇宙のデパートにお客さんを連れていく」ということを思いつき、それを本当にショッピングができるデパートで実現してしまうというのはすごいですよね。
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中里:
近年、VRという技術が比較的手軽に製作できるようになったということは大きかったです。実現するにあたって、別セッションにも登壇したPsychic VR Labさんにお願いして作ってもらいました。
普通に考えたら体験できないことを、VRというワンステップを挟むことで、お客さんにまったく違うものの見せ方ができるようになるという狙いがありました。コミュニケーションの手段としてのファッションとそれを買うという行為に新しい体験を与える。それによって製品そのものや、ブランド全体をより魅力的に見せることができれば、それはファッションにとって喜ばしいことなんだと考えています。
ドミニク:
中里さんの場合は従来のファッションの業界の常識に軸を置きながら、VRで宇宙にいくというぶっ飛んだ提案をするという、ユーザーがすでにいるところに新たな提案を持ち込むスタイルだと感じました。
そしてファッションという切り口から考えると、きゅんくんはさらに未来型の価値提案をしていますよね。 ロボットをファッションに取り入れようと思った背景はなんだったのでしょうか。
きゅんくん:
もともとロボット製作に興味があって、中学生の時に半田ごてを買って電子工作を始めました。高校生になってファッションに興味を持ち始め、被服部という洋服を作る部活に入ったときに、電視回路を使って光る服を作るということを思いついて、自然と電子工作とファッションの融合ということを志向していきました。
ドミニク:
『METCALF』はその延長線にあるということですね。以前「鉄腕アトムを作ることよりも、天馬博士のようなマッドサイエンティストになることに憧れた。」というお話をされていて、自分の好きなことをマッドサイエンティスト的に素直に実現していくということへかける熱量が素敵だなぁと思います。
『METCALF』においても、こだわりが随所に見受けられるのですが、例えばこの作品がいずれファッションとして受け入れられていき、PVにもあるように街角でも普通の女子高生が身に付けているというビジョンがあったりするのでしょうか。
きゅんくん:
ロボットがファッションとして受け入れられるために考えているいろいろな視点があって、例えばデザイン一つにしても、現行のロボットデザインにおいて主流な、「白くて丸い」デザインは確かにプロダクトデザインとしてはロボットを受け入れられやすくするという意味で理にかなっています。でも、自分としてはもっと「ロボコン」で高専生たちが作るような、メカメカしいものこそロボット然としていて萌える。そういうものを決して役に立たないけど「身に付けたい!」と思ってファッションに取り入れるようになることが一つの達成すべきゴールだと考えています。『METCALF』はそのコンセプトを体現したものとして発表しています。その「身に付けたい!」という純粋な気持ちこそ、大切にすべき点であると思っていて、ロボットが役に立つかどうかは第一義ではないんです。
中里:
作っているものやアウトプットの方法は見ている方たちはまったく別に感じると思うのですが、聞いていて、きゅんくんにも「ファッションをやっているな」という感覚を受けました。
「身に付けたい!」という魅力をロボットに持たせるというアプローチが自分とも親和性が高いし、それが最初に来ることがファッションの根源的な魅力や意味そのものなんですよね。触りたい、横に置いておきたい!という気持ちは絶対的にポジティブなところから生まれてくる。そのポジティブな心の動きがあるという状態が重要なんです。

◼︎自らのファッションアイデンティティをいかに社会に伝えていくか

モデレータとして登壇したドミニク・チェン。

ドミニク:
お二人がファッションという切り口から、自らのアイデンティティを確立していらっしゃるということがよくわかりました。その中で、中里さんはファッションデザイナーという職業にこだわりたいというお話をされていましたが、それは社会の中での役割としての職業ということでしょうか。
中里:
「人間に関わるすべての接触の形をデザインする」という意味でのデザイナーという役割にこだわりたいと考えています。社会と言うのはコミュニケーションの上に成り立っていて、その中でファッションの果たす役割は実は非常に大きい。その中で、役には立たないけど自分が「好きだ!!!」といえるものを手に入れ身につける行為は100%ポジティブな気持ちの下に成り立っています。それを私のブランドの服となんらかの形で接触したときに思い起こさせてあげられるかどうか、それができる環境をいかにデザインするかにはこだわっていきたい。
着やすさや持ち運びやすさというものももちろん洋服という物質的なものの中では重要とされるポイントだと思うのですが、それらがなくても、もしくはそれ以上に持ちたい!着たい!と思わせるようなものを提示してあげると、それはお客さんの価値観がいい意味で更新された瞬間だと思うんです。

そうやって考えていくと、100人が全員いい!とならなければいけないということは絶対にない。世界中のどこかには必ずいるはずと信じて提案していく中でフォロワーが生まれて行って、フォロワーが次の世界を作って行く、という連鎖が生まれればいいんです。
ドミニク:
きゅんくんの『METCALF』は先日AKB48のステージ衣装として多くの人に知られることとなりました。「ロボティクスファッション」という未来の提案を、より多くの人に知ってもらい、実際に着てもらうということに関してどのように考えているのでしょうか。
きゅんくん:
これまでは、何も考えずにただ自分が「身に付けたい!」と思うようなロボットを製作していて、最近になってそれを見た友達や周りの人がコメントをくれたり、メディアの方々からインタビューを受けたりする中で、自分の中でコアとなるものがわかってきたな、という感覚があります。
その意味では根拠のない自信というか、自分にとってロボットのここがいいから、みんなもそうだろう、という部分は少なからずあって、でも実際に世の中に自分の作品として出してみたら、実は同じフェチを持っていたけど自分でそれに気づいていなかった人に喜んでもらえたので間違ってはいなかったと思えました。 世の中に対して何かを出していくべきなのかということに関しては、これから考える必要がある。
ドミニク:
お二人のお話に共通することとして作品や商品を受け取るユーザー側のことを信じる姿勢が感じられました。
新しいものを単発で作って、それを世の中に広めていきたい!とステージのように考えるのではなく、時間的なスパンを伴って、自身のアイデンティティに依拠した作品を作り続けることでそれを受け取ってくれる誰かが世の中にいる、という気持ちを持っていることが素晴らしいですね。
発達心理学の分野で「ジェネラティビティ」という概念を提唱したエリクソンという学者がいます。それは、次の世代に投資をして、価値の最大化を図ることだとされています。会社に投資する、若者に投資する、子供にいい教育を与えるというのもジェネラティビティ。
その概念は突き詰めていけば、対象は別に自分より年下の人間でなくともよくて、コミュニケーションにおいて、いま面と向かっている相手やネットでつながっている不特定多数の人たちとの関係にもあてはめられます。そうやって、この世のありとあらゆる関わりを信頼して、何かしらの痕跡を残すという姿勢をお二人が持っているということが自分にとってはとても嬉しいことだし、勇気を与えられると感じました。
中里:
姿勢やスタンスを貫くことも一種のファッションアイデンティティだと思っていて、私はそれを「エレガンス」と形容しています。
セクシャリティの中のエレガンスとは違って、より精神的な、「私はこれに対して美意識を感じる」ということを言い切るスタンスそれ自体が素敵だし、もっとその姿勢を持つこと自体を提案していきたい。
「エレガンス」は誰が見ても美しいものと言うよりは、一種の「開き直り」に近くて、「他の人がなんと言おうと私はこれが好き!」と言い切って、かつそれが時間的スパンを伴っている様子だと思います。
きゅんくん:
私もどちらかというと、テクノロジーに関しては古い人間なんじゃないかなと思うことがあって、例えばインターネット一つにしても、実は今のインターネットの雰囲気よりも、一回り上の人たちが憧れていたような黎明期のインターネットに憧れるという気持ちがあります。でもだからと言って懐古趣味になるわけでもなくて、むしろそういった懐古趣味に私の生きてきた時代なりの時代感を与えてあげることができているからこそ、私のやっていることが「未来の提案」と言われるのかもしれない。たぶんそれが私の「エレガンス」なんです。
ドミニク:
「これは絶対にいいものだ」というふうに信じて突き進む一種の真摯さであり、狂気であり、迫力なんですね。
お二人のお話からジェネラティビティをなぜ感じるのかわかった気がします。人間社会のなかに「エレガンス」があるという前提に立つと、より大局的に世界を見て、その中で自分がどんなことをやって価値を生んでいるのかということを見つめる視点を持つことができる。だからこそ自分の「エレガンス」についてリラックスして考えることができている。
きゅんくん:
大局観に基づいた、後世に対する信頼とか世の中に対する信頼があるから、ちょっとでも軽い足跡を残したいと思えます。もしかしたらそれが地球の裏側でバタフライ現象を起こすかもしれない。そんな気持ちでファッション、ひいてはものづくりに向き合うことができているのは幸せなことなのかもしれません。

今回のセッションで話題に上った「ジェネラティビティ」や「エレガンス」といったキーワードはおそらくファッションの分野に限らず、これからのものづくりが多くの人の手に渡っていく状況の中で非常に重要になっていく概念だと言える。ものづくりにおいて、その生み出されたもの自体がいかに価値を持つか?ということがお金では計れなくなると仮定したときに、その基準は各々が「持ちたい!」と思う気持ちや、モノに宿る 「エレガンス」=製作者の一貫した姿勢に共感できるかどうかというより繊細なものへと移行していくのかもしれない。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

写真:延原優樹

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