お金とコミュニケーション、経済に"エモーション"が復活する--木村新司(AnyPay)× 佐藤航陽(メタップス)

2017.06.16 12:00

落合陽一×齋藤精一が『SENSORS』新MCとなってから初のサロン、テーマは「FinTechと日本の未来」。ゲストに迎えるのは木村新司氏(AnyPay)と佐藤航陽氏(メタップス)だ。個人間の支払いができるわりかんアプリ「paymo」とスマホで簡単にモノの売り買いができる決済サービスを提供するAnyPay、ビッグデータとAIの活用により新しい経済やお金のあり方の実現を目指しメタップス。日本のFinTechを牽引する両社代表に「FinTechと日本の未来」について語っていただいた。4週にわたってお届けする第4弾記事。


前回記事「FinTechの未来『経済は選べるようになる』」

■東洋・インドが中心になる21世紀に経済的価値観はどう変わる?

落合:
お二人に聞いてみたいことがあります。今の資本主義って西洋哲学の時代だと思うんです。ただ、今後インドと中国を足し合わせた人口が世界の半分になると思います。人口統計的には今後21世紀は明らかに、東洋とインドの世紀になりますよね。そうなったとき、僕らの金銭的な価値観や経済的な価値観はどう変わるのか。
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木村:
中国もインドも一旦は成長する必要があるため、資本主義的には成らざるを得ないでしょう。ただ、同時に人工知能やロボットが出てくるので、資本主義的な労働観からは解放されるかもしれません。そうなると、幸せに対するお金の意味を考えるようになると思います。つまり、家族との時間を犠牲にしてでもお金を手に入れたいのかどうか。この辺りの考え方は再考されるでしょうね。
落合:
インドは国土の広さや宗教の多様性によって、そもそも地域によって言語が異なります。そうすると、彼らにとってお金は統一言語に近い。彼らはそこを一段飛ばしでFinTechを入れているので、逆に安定しているというか、我々とは違った価値観が出てきそうな予感がします。
佐藤:
落合さんのおっしゃる通りで、私たち日本人の持っている価値観はアメリカから来たものじゃないですか。私たちはまだアメリカ経済圏のなかにいるので、西洋の思想がグローバルスタンダードだと勘違いしていますが、情勢も変わりつつあります。最近は中国がすごい力をつけていて、資本主義の中でも資本主義じゃない国が一番強いというよく分からない状況になりつつあります。ここからさらにインドが成長してきたら、人々の価値観、スタンダードの部分がひっくり返る可能性は大いにあるでしょうね。
落合:
僕、中国語辞典を読むのが趣味なんです。「この言葉は日本の輸入だな」とか「明治に福沢諭吉が作った言葉はここまで波及したか」とかを考えながら読みます。アジア圏で共同の近代認識として漢字に当てて作った言葉があるのですが、それはだいたい西洋からの輸入なんです。それを僕らがアップデートし、もう一度西洋に輸出してあげないといけないんですよね。
佐藤:
「夢」という単語もたしか、明治時代くらいに日本に入ってきました。「人がやりたいことを夢見る」という言葉自体が概念的になかったんですね。なぜかといえば、生まれた瞬間から武士は武士で農民は農民だったから。なので概念はすぐ作れるし、今の「お金」という概念や「金融」という概念もおそらく幻想、思い込みなのでしょう。

■"エモーション"が経済のなかで復活していく

佐藤:
社会システムにはお金、感情、テクノロジーという3本の軸があると思っています。ここが絡み合いながら未来の方向性を決めているという話をよくしますが、今回のFinTechはお金の部分で、VRはおそらく感情の部分。オートメーション技術と分散化でいえば、中央に誰かがいたところから個人がバラバラでできるようになってきたという二つの軸で動いています。今後5年はそのテーマで経済が動くのではないかと思っています。
落合:
それはポイントですね。自動化技術にとって人口減少社会は正義しかないんです。人が増える社会と人が減る社会ではロジックがまるで逆転するはずなので。意識改革さえできれば、ドラスティックな変化を遂げられるはずなんです。
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(右から)落合陽一氏(筑波大学学長補佐・助教/メディアアーティスト)、齋藤精一氏(ライゾマティクス代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

斎藤:
佐藤さんがいう感情の面でも経済に変化をもたらしそうです。昔まではコンビニのマニュアル化された挨拶ではなく、もう少しフランクな会話があったと思います。同じように、paymoで割り勘をするときにメッセージも一緒にを送るようなエモーションが経済のなかに復活するような気がするんです。
佐藤:
たしかに。コミュニケーションとお金のやり取りは本来、切っても切り離せないものだったんでしょうね。
木村:
もともとお金やモノを渡すときは必ず喋ってやっていますし、それがコミュニケーションだったはず。今のコミュニケーションはネットやLINEの上に乗っているのですが、お金だけがなぜかそこに乗っていない。コミュニケーションはチャットでしながら、お金は現金で渡すというのはバランスが悪いですよね。

--ありがとうございます。ここまで「FinTechと日本の未来」について語っていただきましたが、最後にビジネスを始めようとしている起業家にアドバイスをいただけますか?

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(左から)木村新司氏(AnyPay代表取締役)、佐藤航陽氏(metaps代表取締役社長)

木村:
今では国がやっていたもの大企業がやるようになり、大企業がやっていたものを個人がやるようになってきています。なのであれば、個人にエンパワメントするようなツールをスマホで作ればいいと思うんです。AirbnbやUberがいい例ですが、個人を解放するようなツールを提供することがビジネスの秘訣になるのではないでしょうか。
佐藤:
個人的には、「日本人の感覚でやりすぎてしまう」くらいがちょうど良いのではないかと思っています。というのも、中国やアフリカはもうすごい先まで行ってしまっているからです。周回遅れを認識しながら、「そこまでやっちゃっていいんですか?」という感覚でスポットを狙い、サービスを作っていくのが良いのではないかと思っています。

社会のいたるところにテクノロジーが介入し、産業がディスラプトされていくさまを私たちは目撃している。なかでも個人の生活における身近さ、国家経済における核心という二重の意味で"お金"の概念を根底から変えようとしているFinTechのインパクトは計り知れない。佐藤氏が「"資本主義のバグ"を解消するシステムを作りたかった」というように、FinTechは利便性や効率を上げるだけではなく、社会経済システムの在りよう、私たちの思考様式さえも変えるパラダイムシフトに他ならないのである。

とはいえ、今回の座談冒頭でも議論されたように日本ではまだまだ"現金主義"が根強い。ゲストの両氏は「FinTech普及には5年ほどかかる」と口を揃えるが、物質から情報へお金の変質は着実に進行していくだろう。各々が意識的に"経済を選びとっていく感覚"を涵養していくことが求められる。 

【FinTechと日本の未来】
FinTechは日本の"現金主義"をいかに打ち崩すか(5/26 公開)
"資本主義のバグ"をFinTech技術で解消する(6/2 公開)
FinTechの未来「経済は選べるようになる」(6/9 公開)
お金とコミュニケーション、経済に"エモーション"が復活する(6/16 公開)

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体で編集・ライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。『WHITE MEDIA』企画顧問。『木曜解放区』レギュラー出演中。夢は馬主になることです。

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