「"エラー"はイノベーションの最善の友」東京が"未来の実験場"になり得るかを問う「FIS TOKYO」レポート

2018.06.21 08:00

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"Tokyo as a laboratory for our future(東京は未来の実験場である)"

そう聞いて思い浮かぶのは、どんな東京の姿だろうか。高齢化や人口過密、格差の拡大など課題が山積みの都市だろうか、あるいはテクノロジーによって高度に発展した最先端の都市だろうか。

5月の晴れた日、東京ミッドタウンコートヤードで「Future Innovators Summit TOKYO(以下、FIS TOKYO)」のオープニングイベントが開催され、イベントのテーマである「東京は未来の実験場である」が読み上げられた。居合わせた誰もが少し先の東京の未来に想いを馳せただろう。

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FIS TOKYOは、株式会社博報堂とクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」が共同で開催する3日間のイベント。アーティストやクリエイターなど幅広い領域の"イノベーター"たちが集い、これからの社会をよりよくしていくための議論を通して、未来に投げかける問い"クリエイティブクエスチョン"を提案する。

博報堂はアルスエレクトロニカと共同で、イノベーション創出コミュニティ『Ars Electronica Tokyo Initiative』を運営している。同コミュニティでは「これからの東京、ひいては日本社会を良くする為に、我々は一体何ができるのか」をテーマに、アートが生み出す新たなアイディアを、社会に実装するためのプロジェクトを行ってきた。

「Future Innovators Summit」は、アルスエレクトロニカが毎年開く「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」のいちプログラムとして実施されてきたが、アルスエレクトロニカフェスティバルが開催されるオーストリアのリンツ以外で行われるのは、東京が初めてだ。

"東京"というローカルをテーマに据える意義

オープニングイベントでは2つのトークセッションが開催された。最初のセッションでは、アルスエレクトロニカのゲルフリート・ストッカー氏、博報堂の北風勝氏、アーツカウンシル東京の石渡祐子氏が、FISを東京で開催する意義について、アート、企業、行政という三者の視点から議論を行う。

まずストッカー氏が東京という都市が「なぜ未来を問う場として最適であるか」を次のように語った。

ストッカー氏「東京には未来の都市を考える上で必要な要素が揃っています。世界有数の人口過密都市であり、技術的なインフラが整い、それらが常に変化している。実験場とは答えが存在している場ではなく、答えを探す場所であるべきです。その意味でも東京は最適な場所だと考えました。」

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北風氏は、ストッカー氏を含む世界各地のイノベーターの視点から、慣れ親しんだ東京を見つめ直す意義を強調する。

北風氏「日常的に住んでいると、『ここが実験場』と言われてもピンとこないかもしれない。けれど海外の人の話を聞くと、伝統的な日本ではなく、今の日本のあり方を面白がってくれる人もいる。普段は意識しづらい東京の別の側面を見つめられるのではと期待しています。」

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2人の意見を受け、石綿祐子氏は行政の目に映るリアルな東京について指摘する。

石綿氏「2020年に向けて変革への意識が高まっているとはいえ、行政とともに働いていると、まだ保守的であったり、外から見て何をしてるかわからなところも多い。FISから生まれたアイディアをしっかり実現させていけるよう、イノベーターたちの声に耳を傾けたいと思います。」

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なぜアートとインダストリーの融合が求められているのか

東京の社会課題を考える上で鍵となるのが"アート"的な思考だ。アルスエレクトロニカの捉えるアートは、額縁のなかのものではなく、既存の価値観に問いを投げ、新たなアイディアを創発する活動だという。

イノベーションのきっかけを生み出すという点から、最近ではインダストリー側からもアートへの関心が高まっている。ストッカー氏と北風氏が、それぞれの目線からアートとインダストリーの融合の大切さを語る。

ストッカー氏「私たちはテクノロジーが社会の至る所に息づいて、人間と共存している社会を生きています。既存のものより性能が優れたテクノロジーではなく、人間がよりよく生きるためのテクノロジーを追求しなければいけない。それがどのようなものかを考えるには、"人間"と真摯に向き合ってきたアートの力が欠かせません。」

北風氏「アートが発する問いは時に曖昧なので、インダストリー的な思考だと『答えになっていないんじゃないか』となってしまう。けれど問いと答えの間を丁寧に見つめたときに、多様な視点が生まれる種のようなものが見つかり、答えに一気にたどり着けることもある。」

「種」という北風氏の言葉に対し、文化政策に携わってきた石綿氏も大きく頷いた。

石綿氏「行政がアートに関する事業を行うとき、アートの『人と人を繋ぐ』という側面が強調されがちです。しかしアートを支援する価値は、コミュニケーションだけではない。今すぐ役に立つかはわからないけれど、そこから生まれた問いが、普遍的な課題に対する答えを示す可能性があるかもしれない。そこに支援をできるという点ではないでしょうか。」

アートは"問い"によって課題解決へ導く

ストッカー氏は、そうした"今すぐ役に立つかわからない"という点こそが、アートの可能性そのものだと語る。

ストッカー氏「社会に必要なのはアート作品そのものではなく、アートの存在によって開かれた"場"です。アーティストは巧みな課題解決者にはなれないかもしれない。けれどアーティストの発する問いや思想がウイルスのように伝播し、対話のきっかけをつくることは十分考えられる。アーティストの生み出すアートは、今すぐ役に立たないという大変重要な"役割"を担っている。」

アートやアーティストの役割という点について、北風氏は「問いを立てる」だけでなく、「モノをつくる」実践者としてのアーティストの役割を強調した。

北風氏「アーティストは、社会や人間に対する問いを考えるだけでなく、手を使って形にして、その問いやアイディアを共有できる人のことです。FIS TOKYOではこの思考と実践の両方が行われることに期待したいです。」

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今、東京から問うべき3つのテーマ

続いて、今回のFIS TOKYOで議論されるテーマについて、トークセッションが行われた。取り上げられたテーマは以下の3つだ。

・DEATH-LIFE(世界一高齢化が進んだ都市で考える未来の生と死とは)
・TECH - SKIN(先端テクノロジー都市が発信するファッションと身体の未来とは)
・PUBLIC - PRIVATE(広場のない大都市で考える未来の個人と公共とは)

登壇したのは、アルスエレクトロニカのゲルフリート・ストッカー氏、東京大学生産技術研究所の山中俊治氏、クライン・ダイサム・アーキテクツのアストリッド・クライン氏/マーク・ダイサム氏だ。メンタリングを担当する各テーマを題材にトークを行った。

「DEATH-LIFE」のメンタリングを務めるストッカー氏は、現代の社会で生と死について考える難しさ、そして東京という場所の特殊性に言及する。

ストッカー氏「先日、自動運転車が死亡事故を起こしました。もはや生と死は人間と自然だけでなく、機械が判断するものにもなりつつある。

また、東京という都市には若い人が大勢押し寄せている一方、たった一人でお年寄りがこの世を去ってしまう。異なる世代をどう共存させていくのかという視点も重要だと考えます」

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「TECH - SKIN」のメンタリングを担当する山中氏は、『Additive Prototyping』という手法を紹介しながら、プロトタイピングの役割について説明する。

山中氏「『Additive Prototyping』、いわゆる3Dプリンティングによって、柔らかさや強さ、柔軟性を細部まで作り出せるようになりました。こうした技術を用いて、従来の義肢とは異なる"美しさ"のある義肢や、1つの素材と1つの部品からなる"一体造形"のロボットなど、多様なプロトタイプを制作しています。

イノベーターたちに伝えたいことは1つ、とにかくプロトタイプをつくってください。プロトタイピングはただの実験機ではなく、テクノロジーの重要性を伝えるコミュニケーションツールでもあり、テクノロジーと社会を直接につながる役割を果たすものだからです。」

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次は30年以上前から東京で暮らす、建築家のアストリッド・クライン氏、マーク・ダイサム氏が、東京の公共とプライベートについて語った。

ダイサム氏「公共とプライベートは国や都市によって異なります。例えばプライベートの"広さ"。イギリスの地下鉄では、互いにプライベートを超えて腕を広げて新聞を読んでいても問題ない、けれど東京ではプライベートの範囲を超えないように気遣いし合っていますよね。この違いは驚きました。

また、外で本を読む場合に必ずカバーをかけるのも興味深い習慣だと思います。誰が何を読んでいるのかわからないようにするのはなぜなのか。ここにも公共とプライベートを考えるヒントがある」

またクライン氏はオンラインでデータのプライバシーについて議論されている現状を踏まえ、日本人も含め、多くの人が"プライバシー"を求めているのではと問う。

クライン氏「日本では『本音と建前』があり、公共の自分とプライベートの自分が異なる人も少なくない。オンラインでも誰かに見られている、ジャッジされていると感じる時代、自然のなかで何の通知も受け取らず過ごす"プライバシー"を、多くの人が求めていると感じます。特に日本においてはその傾向が顕著なのではないでしょうか。」

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意図的に"エラー"を起こしていく重要性

各トーク後は今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルのテーマに関連して、"エラー"について4人が意見を交わした。

テーマを設定したアルスエレクトロニカのストッカー氏は、エラーが生み出し得るクリエイティビティについて、どのように考えているのだろうか。

ストッカー氏「私たちはエラーに対する寛容性を取り戻さなければいけない。なぜならエラーは"期待していたが起きなかった事象"と定義でき、なぜ起きなかったのかを考える限り、イノベーションの最善の友だからです。私たち人類がこの地球でどれだけエラーを重ね、これまで生きてきたのかを忘れずにいてほしいと思っています。」

エラーがイノベーションの友であるというストッカー氏に山中氏やクライン氏も大きく頷く。

山中氏「正しいものを思い出すのは記憶、思いがけないものと繋ぐ場合はエラーになると考えています。本来は繋がらない何かが頭の中で繋がった時にアイディアが生まれる。つまりエラーがないとアイディアが生まれない。日本ではエラーを徹底的に避けようとしがちですが、あえて良いエラーを起こす努力も必要だと感じます。」

ダイサム氏とクライン氏は、"エラー"と建築、公共の関係性について語る。

ダイサム氏「私たちは建築家なので設計の際のエラーはご法度なわけですが(笑)、でも『どのように建物が再利用されるか』という点では常にエラーが起きます。例えばヴィクトリア朝時代に建てられた倉庫が、今では美しい住宅になっている。きっと誰もこんな使い方は想像しなかったし、本来の使われ方をしていないという点では"エラー"です。」

クライン氏「個人に起きるエラーももっと表に出てくるといいですよね。ひょっとするとそういうエラーを共有できる場こそが公共なのかもしれません。

山中さんのおっしゃった通り、日本の方は完璧主義者的な人が多い。今は多くのエラーが、鍵のかかった扉の向こうで起きているんですよんね。それが公共の場に出てきたとき、これまでになく面白いアイディアが発露するのだと思います。FIS TOKYOという場も、そんな公共のひとつのあり方かもしれないですよね。」

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ロボットから衣服、多様な展示が発する"問い"

FIS TOKYOの開催期間中には、ミッドタウン内にて「DEATH-LIFE」「TECH - SKIN」「PUBLIC - PRIVATE」に参加したイノベーターたちの作品が展示され、ミッドタウンを訪れた人々を出迎えた。

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ラスベガス在住のアーティストSarah Petkus氏の『NoodleFeet』は、3Dプリントしたパーツと金属でつくられたロボットだ。4本の足はそれぞれ異なる機能を持ち、『NoodleFeet』はそれらを用いて環境を探求する。実用的な役割や目的を人から与えられることなく、自ら環境について探求し、進化し続ける姿は、私たちに機械との関係の結び方について考えさせてくれる。

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三原 聡一郎氏の「<鈴>」はガラスで覆われたドームのなかで小さな鈴が音を鳴らす作品だ。鈴の音が鳴るのは、ガイガー=ミュラー計数管を使って、環境放射線をリアルタイムで感知したときだ。古来は「邪気を払う」意味を持っていた鈴を放射能の感知に用い、「人間が知覚できないエネルギーを体験」させている。

他にもテクノロジーや人間、社会のあり方を問い、未来への想像を掻き立てる作品が揃った。

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カイル・マクドナルド氏の『Exhausting a Crowd』、固定カメラで撮影された広場の映像に、観客がコメントをつけて参加できる作品だ

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エイミー・カールの「Regenerative Reliquary(再生可能な聖遺物)」は、3Dプリンタの骨組みの上に人間の幹細胞を培養して作られた人の手の骨だ

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「THE FIS MAP」は展示を訪れた人たちが"東京をよりよくしていくための意見"を書き、旗を立てた

「ThinkTankではなくDoTankが必要」

前半のオープニングセッションでは、社会に対する問いをモノで表現し、対話を生み出すアーティスト、あるいはその営みが行われる場が"DoTank"と表現されていた。

複雑化する社会、そして東京を捉えるには、"エラー"を積極的に起こし、アートによってアイディアや対話を創発する必要があるだろう。今後ますますDo Tankの存在が求められるはずだ。

インダストリーによって繁栄を遂げてきた東京を、3つの問いから見つめ直すFIS TOKYOそのものも、六本木に登場したDo Tankといえるだろう。そこからイノベーターたちが生み出す問いは、東京の未来をいつもと異なる視点から見つめるきっかけを与えてくれるに違いない。

取材・執筆:Haruka Mukai

編集者・ライター。在学中にソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、複数のウェブメディアにライターとして携わる。卒業後は教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後独立。関心領域はメディア全般と海外コメディー、歴史、テクノロジー。

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