結論のない3つの問いが映し出す私たち人間の未来 #FIS TOKYOファイナルプレゼンテーション

2018.07.19 18:00

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「ここでは未来をよくする"ソリューション"ではなく"問い"を提案してもらいます」

買い物客が慌ただしく通り過ぎる東京ミッドタウンで、FIS TOKYOの最後を飾るファイナルプレゼンテーションが行われた。FIS TOKYOは、株式会社博報堂とクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」によって5月末に開催された3日間のイベント。

アーティストやクリエイターなど幅広い領域の"イノベーター"たちが集い、東京ミッドタウン内で3日間に渡り徹底的に議論を重ね、東京の明日を問うクリエイティブクエスチョンを練り上げた。

世界中から集ったイノベーターが取り組んだテーマは次の3つだ。

・DEATH-LIFE(世界一高齢化が進んだ都市で考える未来の生と死とは)
・TECH - SKIN(先端テクノロジー都市が発信するファッションと身体の未来とは)
・PUBLIC - PRIVATE(広場のない大都市で考える未来の個人と公共とは)


彼らが紡ぎ上げた、よりよい社会をつくるための問い、"クリエイティブクエスチョン"から、どのような未来の可能性が見えてくるのだろうか。

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人間と"命あるもの"との関係を再定義する

最初に発表を行ったのは「TECH-SKIN」のイノベーターたち。彼らが掲げたのは次の問いだ。

人間の価値観が変化したとき、TECH-SKIN、ファッションと体は、どのように命あるものと一体感を生み出していけるのか?
(How can tech skin foster kinship with all living things in a future where human value have shifted?)


彼らが着目したのは人間以外の"命あるもの"との関係性だ。今日のテクノロジーによって、人間は機械と接続できるようになった一方、生命体からは隔離されてしまっている。

バクテリアから魚、マンモスなど、地球上の"命あるもの"のなかで、ごく最近生まれた人間は、どのように他の生物と関係性を紡ぎ直せるのか。そのためにテクノロジーや衣服が果たす役割とは何であるかを問いかけた。

プレゼンテーションの冒頭では観客に対してヨーグルトを配布。コンピューターを抱えたイノベーターたちが並び、順にキーを押し、自動音声でプレゼンテーションを行った。人類の親戚であり、血の繋がりを持つ微生物の存在を実感させると同時に、機械と私たちの距離を問うた。

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プレゼン後は「なぜ自分たちの声で行わなかったのか」という点について観客から質問が挙がった。イタリアのアーティストであるマルコ・ドナルーマ氏、アーティスト/リサーチャーの川崎和也氏が意図を説明する。

ドナルーマ氏「コンピューターというインターフェースから意見を出したとしても、本来の核には人間の思考がある。そうしたアイディアを暗示したいという意図がありました。」

川崎氏「将来的には、コンピューターと人類、そしてヨーグルトを含む生命は、フラットな関係性を紡ぐようになると考えています。だからこそ、コンピューターの音声を利用し、プレゼンテーションを行いました。」

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猫が生み出すような"空白"を生み出す公共とは

次は「PUBLIC - PRIVATE」のイノベーターたちが、東京におけるプライベートと公共について問いを投げかける。

公共空間にいる人々が、互いを受け入れ合うきっかけとなる猫のような「空白」をいかにレイアウトすることができるだろうか。
(How can we lay out the "blank" that inspires the public to accept each other like a cat?)


彼らの定義する「Public(公共)」とは完全にコントロールされた場所ではなく、少し面倒で、手間のかかる場や時間だ。誰かとコミュニケーションが発生する、あるいは何か行動をしなければいけない。そうした場のなかに、彼らは公共のあり方を見出した。

その例として挙げた「猫」について、コミュニティアクティビストの西部沙緒里氏が説明する。

西部氏「街を歩いているときに猫が登場すると、写真を撮る人や近寄って触る人が出てきます。たった一匹で場の空気が変わり、その空間を共有し、人々と猫が共存する。私たちはそのポジティブな余白を『blank(空白)』と呼び、そこに公共が生まれるのだと考えました。」

サウンドアーティストのハカン・リドボ氏は「自分がどこから来たのかを指差してください」と観客に呼びかけた。人々が同じ場所から来た人がいるかを意識する瞬間、会場に「blank(空白)」が生まれ、ミッドタウンに小さな"公共"を出現させてみせた。

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プレゼン後は本テーマのメンターであり、クライン・ダイサム・アーキテクツのアストリッド・クライン氏が「soft obstacle(ソフトな障害)」が生み出す可能性について共有した。

クライン氏「『soft obstacle』の存在によって、パブリックかつ、プライベートな場が生まれる。私自身、アナログな生活を送っているため、テクノロジーに関して、誰かに頼みごとをする機会がある。お願いするという一見面倒なプロセスを介すことで、パブリックとプライベートの境界が曖昧になっていく実感があります。」

アルスエレクトロニカのゲルフリート・ストッカー氏は、場を共有するというアイディアに、TECH-SKINの発表と近い要素を見出した。

ストッカー氏「2つのテーマにおいて、互いを受け入れ、共存するというアイディアが挙がったのは、大変興味深く感じます。現在は、公共から個への動きが加速していますが、どのように『共存』するかが問われているのだと実感させられます。」

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"生"と"死"という大きな概念を共に想像する

最後はDEATH-LIFEを議論したイノベーターたちだ。発表の直前までプレゼンテーションを磨き上げていた彼らは次のような問いを発する。

生と死をどのように人間らしく共に創造していくことができるのか? 
(How can we care-fully co-craft death-life?)


彼らは議論にあたって「死」という大きな概念と向き合う必要があった。「死」についての問いを互いに挙げていくと、「100年以上生きたいか」「葬式で何と言われたいか」「死後にどのように記憶されたいか」など疑問がとめどなく生まれたという。

イノベーターたちは「生と死」という余りにも大きなテーマを扱うために、議論の場を設けようとした。アーティストのエイミー・カール氏が次のように説明する。

カール氏「『生と死』を考えると、それに対する答えよりも、多くの質問が生まれました。人間は誰しもが生と死のミステリーに対峙する必要があります。そこで、こうした問いを人間らしく、思いやりをもって、オープンに共有する場を設けたいと考えました。」

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彼らが立ち上げたウェブサイトには、「生と死」に対してイノベーターやFISの参加者が回答するビデオが公開されるという。

プレゼンテーションの最後、イノベーターたちは会場にいる人同士で手を繋ぎ、"care-fully"という概念について考えるよう促した。15秒間に渡り、会場の誰もが未来の「生と死」に想いを巡らせた。数秒間だけだったが、そこには生と死を「care-fully(思いやりを持って)」「co-craft(共創する)」場が生まれた。

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プレゼンテーションの後、クライン氏が「死」だけでなく「生」を共創していけるのではとイノベーター達に提案をする。

クライン氏「死だけではなく生も含めて共に考えていけるといいですよね。『care-fully』の『full』の部分は、生を精一杯味わうための議論を深めるといった方向にも広がり得るのではないでしょうか。」

また「TECH-SKIN」のメンターを務めた東京大学生産技術研究所の山中俊治氏は、インターネット上で起きている「死」にまつわる対話のあり方を指摘する。

山中氏「ネットでは訃報を含めて死に関するデータがすぐ手に入るようになったし、死に向き合っている人の声も聞こえやすく、「死ね」といったひどい言葉も溢れている。けれど「死」そのものについて考える場はなかった。だからこそ、このオープンエンドな問いに対し、真摯に考え続ける場をつくるのは素敵な提案だと感じました。」

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最後にストッカー氏が、「結論の出ない問い」の大切さを語り、3日間のFIS TOKYOを締め括った。

ストッカー氏「結論のない問いを起点に対話を重ね、新しい方向を示すような場を、私たちは必要としています。今日挙がったのは、答えのないオープンエンドな問い。ここから創発されたアイディアは決して『死』を迎えることはありません。引き続きこの問いについてみなさんと思考を続けていきたい。」

3つのクリエイティブクエスチョンは、9月にリンツで開催されるアルス・エレクトロニカフェスティバルや、来年のFIS TOKYOにも引き継がれるという。

未来のイノベーターたちは、東京という"実験場"から生み出された3つのクエスチョンををどのように受け取り、新たな問いを創り出してくれるだろうか。きっとその問いの創発を繰り返すなかで、よりよい社会へのソリューションの輪郭がみえてくるはずだ。

取材・執筆:Haruka Mukai

編集者・ライター。在学中にソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、複数のウェブメディアにライターとして携わる。卒業後は教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後独立。関心領域はメディア全般と海外コメディー、歴史、テクノロジー。
Twitter:@m___hal

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