「車のデザインにもオープンイノベーションを」孫泰蔵や坂井直樹が応援する新しいデザインプロジェクト

2016.06.18 14:00

電気自動車(EV)は地球環境に優しい、走りが静かであるという特徴はご存知の読者も多いだろう。では、EVだと車のデザインに自由度を持たせることができるという特徴はご存知だろうか? 当記事ではEVスタートアップFOMMと、そのFOMMをベースとして、EVならではの自由なデザイン性を活かした『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』(カーデザイナーに限らず多くの方が車のデザインに参加できる取組)について紹介する。
『FOMMは車業界のAndroidのような存在である』と語る起業家 孫泰蔵氏と「Be-1」や「PAO」など車のデザインを刷新してきたコンセプター坂井直樹氏が応援する 『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』のキックオフ会議に参加した。

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開発途中のFOMMを特別に取材させていただいた。

■電気自動車(EV)はクルマの固定観念を変更できる

FOMMが製造するEVは"水に浮くカプセル"がコンセプトのコンパクトEVで、バッテリーは交換式、文字通り水に浮くのみならず水の上を進むことが出来る夢のような車だ。 水災害の多い地域でも使い勝手の良い車を提供したいという想いのもとで開発。実際に、水災害の多いタイのプラユット首相も試乗し、その出来栄えに感動したということだ。さらには、タイのガソリンスタンド200カ所にFOMM EVバッテリー交換施設を設置する覚書を交わしたニュースも話題になっている。
一人乗り電気自動車「コムス」「アイユニット」開発に関わるなど、自動車メーカーにエンジニアとして31年間勤めた経歴を持つ FOMMの鶴巻日出夫社長は『車のデザインの固定概念を変えたい』と語り、いままでの車の常識を変える取り組みをしている。

--FOMMの特徴を教えてください。

鶴巻:
FOMMの一番の特徴は小型サイズであること。 軽自動車の3分の2位の大きさで大人4人が乗れます。あとはバッテリー交換式で、水に浮きます。
安全性も高いです。アクセルは手動操作、ブレーキはペダル制御なので、アクセルとブレーキを踏み間違えるという事故を回避することが出来ます。

あとは、製造工程がシンプルである点も特徴的で、ファブレス(工場を所有せずに製造業としての活動を行う企業を指すビジネスモデル)モデルで車を提供します。

--なぜ水に浮く車を作ったのでしょうか?

鶴巻:
3.11の津波の凄さが印象にずっと残っていて。あの時に車で逃げたら良いのか悪いのかという議論があったと記憶しています。 渋滞中に津波が来て亡くなった方もいますよね。だから走って逃げた方が良いという意見がありましたが、そうなると脚が悪い人は逃げられない。
実は、私の母親の脚があまり良くないのです。静岡県の磐田市に住んでいて、海岸から1.2kmしかないので津波が来ると飲まれてしまいます。 「もし地震や津波が来たら、私は逃げられないから先に逃げてね」と母親に言われたのが悲しくて。 それを車のチカラで何とか出来るんじゃないかと考えFOMMの開発に着手しました。 本格的な津波が来たらダメだと思うんですけど、10%でも20%でも助かる確率が上がるんだったら良い、という発想で作っています。
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地球環境のためのEV、水害に強い、そしてEVならではのデザインの自由度が魅力のFOMM鶴巻日出夫氏

鶴巻:
あと、地球環境のためにEVを普及させることが大事だと考え、どうしたらより多くの方にEVに乗ってもらえるのかと起業前に色々とアイデアを書き出しました。 そのアイデアのひとつに「モーターは酸素がなくても動く」というのがありました。 いままでの「酸素を吸って爆発させて排ガスを出して動く車」とEVの差別化要因はここだと考えました。これらのアイデアが組み合わさり、水に浮き進む車、FOMMの開発に至ります。

■自動車にも"オープン"ムーブメントを

水に浮き、巨大な工場が無くても車を作れる製造プロセス、手動アクセル操作など、車の固定概念を変えるFOMMは、新しい車のデザインやドライビングエクスペリエンスも柔軟に取り入れていく。
起業家のMistletoe孫泰蔵氏は『FOMMは車業界のAndroidのような存在である』と語る。

--車のデザインについてどのようにお考えでしょうか?

鶴巻:
EVの可能性をもっと広げたいと思っていて、その一つの領域が「デザイン」。
どうしても車のデザインは四輪で四角くしなくてはいけないという固定概念があるのをなんとか払拭した電気自動車を出したいというのを孫泰蔵さんに話したら、 「それおもしろい、やろう!」という話になりました。
EVを、多くの人、様々なシチュエーションで乗って頂かないと地球環境は良くならないと考えています。 そのための1つのやり方が「一部のカーデザイナーだけではなく、世界中の多くの方々に参加してもらえる車づくりを実現すること」だと考えています。
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車のデザインもオープンにしよう!と語る起業家 孫泰蔵氏

--孫泰蔵さんにお聞きします。『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』について教えてください。

孫:
これまで自動車は巨大な産業で、垂直統合されており、非常に大きな資本といろんなノウハウ・技術を必要とする産業でした。 これが電気自動車(EV)の台頭により、いろんな人達がカジュアルに関わり作っていける可能性が開けてきております。 自分の欲しいものは自分で作るというメイカーズムーブメントの流れにも近いかもしれませんが、自分たちが使うモノは自分たちで考えよう、 作ろうというムーブメントを自動車産業でもやっていきたいというところで『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』を企画スタートさせています。

--今後どのように進めて行きたいとお考えでしょうか?

孫:
自分達で乗り物をデザインしたり、作ったりすることが出来る時代であることを一人でも多くの人に知ってもらいたいと思っています。 参加者が増えてみんながどんどん巻き込まれていくと、今までにない全く新しいものが生まれてくる、それに興奮してさらにまたみんながもっと新しいことを考える。 それが日本だけじゃなくて世界中に「車のデザインにも参加できる」ということを伝えるムーブメントが広がっていくということを夢見ています。

そう、これはムーブメントです。
まだ、車を自分たちで作れるなんていうことは誰も思っていませんが、 車に限らずありとあらゆることが、自分たちで作っていけるという時代を"取り戻せる"と考えています。
昔、例えば中世の時代だと服を縫ったりだとか、道具や自分の身の回りのモノは自分たちで作ったりするのが当たり前でしたが、 20世紀には工業化が進み、私たちは消費者として、買ってきて使うだけという風に思ってしまっていたんです。 実は自分が欲しいものは自分たちで工夫をしてデザインして作るということが出来る時代が何百年ぶりに帰ってきている。 それくらいの大きな変化がいま起きています。「車なんか自分たちで作れる訳がない」と、一番の筆頭に思われていますが、 車だって作ることが出来るんだよということを伝えることを先駆けとして、他の分野にもこの動きが広がっていくことを願っています。
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常に固定概念を破るデザインを打ち出すコンセプター坂井直樹氏

■人間の移動欲を21世紀版にバージョンアップするには

この『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』には日産「Be-1」や「PAO」など車のデザインを刷新してきたコンセプター坂井直樹氏も参画予定だ。

--『オープン・カーデザイン・イニシアチブ』への参加の理由を教えてください。

坂井:
現在世界には車のデザインに参加できるデザイナーは8,000人しかいません。 その8,000人以外の中で、車のデザインに携わりたいと思っている人にチャンスを開くというのは重要だと考えます。 工業の民主化が進んでおりますが、デザインも民主化したら良いと考えております。
また、新しい車のビジネスモデルやドライビングエクスペリエンスも民主化して考えていくのが大事だと考えております。
車自体は自動運転になっていくでしょうし、車内で出来ればお酒を飲みたい、寝て行きたい、レストランみたいに食事しながら移動したいという風になり、近未来はハンドルも無い車が登場すると思います。
そのような未来を見据えながらデザインを考え、そのデザインを実際の車に適用できるチャンスが多くのデザイナーに開かれると良いと思っています。
人間の「移動欲」は今後も無くならないので、如何に快適に移動させるか?を考えるのも大事だと考えております。

『水に浮くのでカエルのような形にする?』『自動運転中一人で運転していると寂しいのでホログラムを車内投影する?』などキックオフの会議内でも自由な発想が飛び交った。 数多あるアイデアで本当に良いと思うものはFOMMが取り入れ、協業する体制を作っていくという。『オープン・デザイン・イニシアチブ』の参加方法など続報を今後もSENSORSから発信していく。

ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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